4-18 ダメ男は防衛戦を行う③
戦いは町の中へ……!
領主館は町の真ん中にある。まずは城壁から降りる必要があるな。魔法があるとはいえ、3メートルの高さから飛び降りるのは少し怖かったので、素直に階段で下りた。下りながらポーションとMPポーションを飲む。外に出たら、俺はまっすぐに領主館を目指した。町の中に人気はほとんどない。今家に残っているのは戦わない男性陣くらいだろうけど、皆家に閉じこもっているのだ。このあたりは魔物に襲われてはいないようで、家が壊れたりはしていなかった。
俺は魔力で身体能力を強化し、さらに風を足にまとわせる。こうすればかなり早く走れるのだ。
走り続けて少し経ったころ、町の風景が変わった。明らかに荒らされた感じの家や店が現れたのだ。そして、店を荒らす魔物の姿もある。だが、町の中で警戒をしていたらしい騎士の人たちが魔物と戦っている光景も映っていた。俺は彼らの横を走り抜け、領主館に向かう。
途中、苦戦している騎士と戦っている魔物に一撃加えたり、通り道を塞ぐ魔物に魔法を叩き込んだりしながら進み、ついに領主館まであと少しの所まで来た。だが、一旦俺は脚を止めることになった。そこには、道いっぱいにゴブリンやオークがいたのである。さすがにこいつらの中を突っ切っていくのは骨が折れる。……それなら。
俺はすぐに隠れて周囲をうかがうと、近くの横道に入った。そして背の低い建物を探す。
しかし、見つけたのは背の低い建物ではなかった。
「へっへっへ……。たんまりいただいたぜ」
横道に面した家から出てきた、明らかに盗賊な男だった。やっぱり居やがったのか‼
“ウィンドボム”
オーガにも使った圧縮空気を解き放つ風の球を飛ばす。それは男の足元で暴風を巻き起こし、男を数メートル以上も吹き飛ばす。地面にしたたかに体を打ち付けた男は、苦しそうにうめいていた。そして、吹き飛ばされた男の少し先に、探していた建物があるのを見た俺は、あることを思いつき、すぐさま実行に移した。
まず俺は収納から取り出した氷球を男に投げつける。それは男の足のあたりにあたって、両足を封じ込め、高さ20センチくらいの氷の塊になった。俺はその塊の部分を踏みつけると、再び身体強化を使うことによって高く跳躍する。そして同時に直径15センチ程の氷の杭を作り出し、地面へと突き立て、その上に乗ってさらに跳躍した。これを、杭を長くしながら繰り返して、俺は2階建ての建物の屋上に着地した。
この町には、三角屋根よりも、平面な屋根が多い。だから、屋根を伝って行けば魔物を避けられると考えたのだ。身体強化の跳躍力や、風魔法による補助があれば多分行ける!
目指す領主館は200メートルくらい先だ。慎重に、でも一気に駆け抜けてやる‼
MPポーションを飲んだ後、俺は屋上を走り出した。端にある柵を踏み台に、隣の建物の屋上に飛び移る。正直言って、どこのアクション映画の主人公かっていう具合だが、四の五は言っていられなかった。
次の屋根への高さが足りなければ氷で足場を作り、屋根の間の隙間が広ければ、氷の杭で足場を作った。
集中して屋根から屋根へと飛び移る。体を覆う魔力を制御しながらの動きだ。必要に応じて風魔法なども使っているため、かなりの集中力が必要となる。少しでも魔力が乱れれば、魔法の発動や身体強化が途切れてバランスを崩し、屋根から落ちかねない。今の俺は、気配察知と身体強化を同時に使っているのだからなおさらだ。身体能力以上のことをむりやりさせているからか、体が悲鳴をあげている。でも、止まるわけにはいかないんだ!
揺らめき、乱れそうになる魔力を押さえつける。集中だ集中。体の中を流れる魔力は、流れのままに身体中を循環させろ。そして体を覆う魔力は、あたかも服を着ているかのように纏うんだ。それが自然であるかのように……。魔力も、風も氷も、全てを纏え……‼
俺の想いに呼応するかのように、体が一瞬熱をもった。何かが変化したのかもしれないが、考えるのは後だ‼
そして俺が降り立ったのは、領主館近くにある建物の屋上だった。建物の先には、領主館が見える。だけど、領主館の前には広場があって、一度下に降りなければならない。そして、その広場においては、騎士たちと魔物の戦いが行われていた。領主館の前には、数人の騎士が固まっていて、それ以外は魔物と入り乱れての混戦状態だった。それでいて、その広場には魔物が押し寄せてきているのだから、このまま続けば彼らが負けるのは時間の問題だった。
俺としてはすぐに領主館に行きたいけど、魔物を放置していて囲まれたら厄介だ。せめて広場に入ってくる魔物を止められれば……。
俺は、腰に佩いているフィオナからもらった剣を見る。……迷っている暇はない‼
俺は覚悟を決めると、屋上を伝って、広場の入り口を目指した。広場の入り口に面した建物の屋上から見てみると、そこには道を埋め尽くすほどの魔物に溢れていた。……どれだけ町の中に入ったんだろうか……。いや、考えるのは後でいい!
俺は剣を抜くと、魔力を集中させる。すると見る見るうちに剣は氷に覆われていき、氷の剣が出来上がる。魔鉄製の剣だからできることだ。俺はさらに魔力を流し込んでいく。それに応じて剣が纏う氷は大きくなっていった。俺は魔力を注ぎ込みながら助走をつけて走り、屋上から飛び出した‼ 飛び出した先は広場へと続く道。高さは10メートルほど。俺は道の中ほどまで行ったところで、重力に従って落ち始める。俺は空中で、剣を下に突き出す形で構えた。魔力を流し続けた剣は、すでに長さ2メートルほどの大きさになっていた。でも、まだ足りない‼
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
落ちながらも剣に魔力を流し込み続ける。持ち手より先は氷に覆われ、氷でできた巨大な剣か、あるいは槍のように見えたかもしれない。
どんどんと地面が、いや魔物の姿が近くなっていく。そして、氷の先端が、1体の魔物に突き刺さった‼ そのまま串刺しにして、氷の先端は道路の石畳に突き刺さる。でも、ここからだ!
氷の先端は、石畳にあたった所からどんどんと砕けていき、急激に刺さった周りを凍らせ始める‼ ひしめき合っている魔物たちはどんどんと巻き込まれ、体を凍らせていった。
「いけええええぇぇぇぇぇ‼」
ピキピキッ! ピシ。パキパキ‼
長さ3メートル以上になっていたであろう氷の剣。それを押し込んで、元の剣が最初に刺さった魔物にあたるころには、辺りは一面氷に覆われていた。耳を澄ますと、まだ何かが凍る音がするので、現在進行形で凍っている奴がいるのだろう。ともかく、これでしばらくは魔物も来れないはずだ。
俺がやったこと。それは“巨大な氷球を使った“ ——簡単に言えば、そんな感じだ。
今回大活躍の氷球だが、これは冷気を当てて対象を凍らせるというかなり初歩的な技だ。これの一番簡単な使い方は、地面や相手に氷の魔力を流すこと。なお、魔力自体は無属性だが、属性魔法を発動する際には、その属性の魔力に変換される仕組みだ。
俺の氷球は、その“対象を凍らせる“という魔法を氷の球の形に変化させたものだ。なぜこんなことができるのか、詳しいことは俺にも分からないが、”魔力制御“を獲得したあたりからできるようになったので、スキルの恩恵なんだと思っている。
話を戻すが、俺は今回、剣にその、氷球と同じ魔法をかけていた。周囲を凍らせる魔法でできた剣は、突き刺さった周囲を凍らせた。そう、込められた魔力の分だけ。剣の周囲を、波紋のごとく凍らせていき、この光景となったわけだ。だいたいここから半径50メートルくらいは凍りついているだろうが、両側の壁に挟まれている分、広場やわき道など、実際の所、結構な範囲が凍っているのだろう。
まあ、とにかく、これで邪魔者はいなくなった。行きますかあ‼
主人公はかなりの無茶をしてますね。次回、領主館での戦い!




