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    4-17 ダメ男は防衛戦を行う②

 投稿が1日遅れました。すいません。

 それは体長が少なくとも3メートルはありそうな人型の魔物だった。簡素な服を着ているが、その下にある身体は筋肉で盛り上がっており、腕や足は人間の胴体ぐらいありそうだった。体は全体的に赤く、額からは2本の角。そして口からは牙がのぞいている。……そんな魔物が、2体、こちらに向かってやってくるのが見えた。

「……あれは“オーガ”じゃないか! なんでこんなところに⁉」

 マルスの隊の騎士が、動揺した声で言った。あれもこの辺では出ないやつってことか……。

 2体のオーガは、足音を響かせながら、こちらに向かってくる。オークなどの魔物たちが、オーガを恐れたのか、道を開けていく。そのうち1体は下にいる騎士たちから攻撃を受けたようで足を止めた。だがもう1体は、城壁へと向かってきていた。……俺たちの方に来るじゃないか⁉

「マルス‼ あれに弱点とかはないか?」

 やや焦った声で、マルスに問いかける。あれに延々と殴り続けられたら城壁に穴が開きかねない‼

「剣はあまり通りません‼ 魔法の方が効きます!」

 マルスの声を聞いた俺はすぐに指示を出す。

「あいつを近づけるな‼ 魔法をバンバン撃て! 顔や手足をなるべく狙うんだ‼」

「……っ⁉ おう‼」

 呆けた感じになっていた騎士たちは、俺の声にハッとなるとすぐに詠唱をして、魔法を撃ち始めた。

それは50メートルほど離れた場所にいるオーガに降り注ぐ。体のあちこちにそれらが当たった。……だが、オーガはあまり痛痒を感じていないのか、気にするそぶりもない。むしろ、そんなものか、と言わんばかりだ。……なら‼

 俺は収納からやや大きめの瓶を取り出す。それには赤みがかった薄黄色の液体が詰めてあった。……頼むから効いてくれよ。

「……てええええいいっ‼」

 俺は思いっきり振りかぶると、魔力を瓶へと流しながら、それをオーガに向かって投げつける‼

 投げられた瓶は、放物線を描きながら、それでいて勢いよく、魔法に交じって飛んで行き、オーガの眉間に命中した。もちろん、ガラスのような瓶なので、衝撃が与えられたことで割れてしまう。だけど、それが狙いだ‼

 そして瓶の中身が飛び散り、それがオーガの目や鼻についたとき、俺が考えていた通りの現象が起きた。

「グガアアアアァァァァァァア⁉」

 オーガが足を止めて、悲鳴のような声をあげる。手を顔に当てて、口を大きく開いている。苦しんでいる様子だ。

 今投げた瓶の中身は、薬草の根っこをすりおろしたやつに、唐辛子みたいな香草のしぼり汁を混ぜたものだ。根っこの匂いが嫌いなのなら、もっと匂いが強くなるすりおろしを使えば、効果が上がると考えたのだ。ついでに偶然見つけた唐辛子みたいな香草のしぼり汁も加えて、魔物の目にかければ目つぶしもできるかも、と。

 モルンの森でも、実験的に何度か使っていたのだが、目つぶしは魔物にも有効だったし、根のしぼり汁やすりおろしも、有効なのは兄とダンジョンに潜った時に確認済みだった。

「よし。今だ‼ なるべく貫通力のある魔法で足を重点的に狙え‼」

 俺は指示を出しながら、大きめの氷柱を一本だけ出して、オーガの顔を覆っている腕を狙う。うまくいけば両手を凍らせられる‼

 放たれた氷柱はまっすぐにオーガへと向かって行ったが、オーガの身じろぎにより狙いがそれ、氷柱はオーガの右肩に直撃した。見る見るうちに、肩の周辺が凍り付いていく。

 同時に、風の刃や炎の槍などがオーガの足に集中する。それらは脚を切りさいたり貫いたりすることはなかったが、オーガの足にいくつもの傷を作ることに成功した。

「ガアアアアァァァァ⁉」

それらの傷の反応したのか、オーガの意識が足の方に向いたのを見た俺は、再びさっきと同じ瓶を投げつけた。さすがに相手もこれは当たってはいけないと考えたようで避けるそぶりを見せたが、瓶は狙いを外したものの、鼻にあたって中身を飛び散らせる。それがまた目に入ったのかオーガは悲鳴をあげる。足は完全に止まっていて、動きも鈍くなっている。

 その間にも、足の方には攻撃が集中していて、新たな傷が少しずつだが増えていた。俺はMPポーションをなるべく素早く飲むと、魔力を意識して、バレーボールほどの風の球を作り出すと、それをまださっきの影響が残っているオーガに向けて放った。

 今まで放ってきたものよりも早い速度で飛んで切った風の球は、オーガの胸に吸い込まれていき、胸に当たった瞬間、急激に膨らんでその大きさ以上の衝撃をオーガに叩き込んだ!

「ガッ⁉ ……」

 さすがに足が傷ついた状態では上半身に受けた衝撃をこらえることができなかったようで、後ろに倒れ込み、尻餅をつく。……それを待っていた!

 俺は、長さ1メートルはあろうかという氷の杭を作り出し、オーガに狙いを定める。オーガは立ち上がろうとするが、カイルやシャーロットが魔法で妨害するので、うまくいかない。俺は杭に魔力を込め、放った。杭はまっすぐに、早く飛んでいく。オーガは片腕でガードしようとしたが、その手のひらを食い破り、杭はオーガの胸に突き刺さった‼

 しかし、手を貫通したことで深くは刺さらずに止まる。だが‼

「まだだあっ!」

 俺はすぐさま風の球を作り出し、それに魔力を込めてから、放つ。それはオーガに刺さった杭に当たって小さな爆発のようなものを起こし、それによってさらに杭を押し込む‼

「ガアッ……。ゥゥ……」

 オーガは、地面に氷の杭で縫い付けられる形で沈黙した。ピクリとも動かない。……どうやら倒せたみたいだ。

 でも、それを喜ぶ暇すら与えられなかった。

「アアアアァァァァァァ‼」

「なんだ‼」

 再びの雄たけびのような声に、俺は声のする方を向く。そこに居たのは、もう城壁間近まで迫っているもう1体のオーガの姿だった。俺たちのいる場所からは少し離れていたが、俺はとっさに収納から氷球を取り出してけん制しようとした。だが、次の瞬間、”ドン“という音と共に、城壁に振動が走った! オーガが体当たりをしたのだ。その振動で俺はいくつか持っていた氷球を取り落としてしまい、それらはころころと転がっていく。見るとオーガは顔のあたりが城壁の上に出ている格好になっている。つまり体長は3.5メートルってとこか。

「これ以上やらせるな‼ 顔を攻撃しろ!」

 そのオーガに近いあたりから、そんな声が聞こえる。あっちの方の指揮官の声だ。それに応えるように、周辺にいた騎士たちがオーガに魔法を浴びせたり、槍などで突こうとしている。

 城壁前の様子を確認すると、1体のオーガは串刺しで沈黙しており、その周囲のいくらかの部分が凍り付いていて、それなりに魔物が巻き添えになっていた。弓を使う魔物は全て倒されたのか、矢は飛んでこない。それから全体を見ていて気が付いた。

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 俺から見て右側で戦っているのは1つの集団のみ。左側は3つの集団が見える。そして魔物の数は、左側に比べて右側の方が、明らかに少ない。……まさか‼

 そう思った瞬間、爆発音が聞こえた。()()()()()()

 ハッとなって振り向く。そこに映っているのは、アスラの街並み。だけど、所々から煙が出ているのが見える。そして、また煙が上がった。……あのオーガは目くらましかよ‼

 マルス達も町の様子に気が付いたようで、動揺を隠せていない。だけど、敵は待ってくれない。

 新たな梯子がかけられ、それを上ってきたゴブリンが城壁に飛び移ってくる。……くそっ‼

「目の前の敵に集中するんだ‼ まだ終わってないぞ!」

 俺の声に皆ハッとなり、すぐに登ってきたゴブリンたちと戦い始める。俺もすぐに登ってきたコボルトを今まで出番のなかった剣で斬り伏せ、梯子を上ってきたやつを氷球で凍らせて、梯子ごと落とした。向こうの方では、騎士や衛兵たちとオーガの戦いが続いていた。時々振動が襲ってくる。

 魔物と闘いながらも、俺の意識の片隅には、町のことがあった。そして、フィオナの姿が。町の人たちは町にある集会場という建物に、フィオナは母上と共に領主館にいる。護衛だっている。きっと大丈夫だ。……そう思っているのに、不安は晴れない。でも、ここを放り出すこともできない……‼

 やってきたゴブリンを切り伏せて、次の戦いに挑もうとしたその時、ポンと肩を叩かれた。振り向くと、そこにはカイルの姿が……。

「どうした?」

「レオン様。行ってください」

 そう言うと、目で町の方を示す。

「婚約者の方が心配なんでしょう? 町の中でも何か起きているみたいですし……。昨日の様子からして、何か知っているんですよね?」

「それは……」

 すると今度はマルスがゴブリンを切り伏せながら言う。

「ここは私たちが受け持ちます! だから大丈夫です‼」

 それに呼応するように、他の騎士からも、

「伯爵家騎士団の力を見せてやりますよ‼」

「俺たちのことは心配しないでください!」

という声が届けられる。シャーロットは小さく頷き、ラシンは気にするなとでも言うように、にっと笑った。

「……すまん。恩に着る‼」

 俺は身をひるがえして、走り出す。……何だか胸騒ぎがする。急ごう。向かうのは領主館だ‼

 俺の胸騒ぎを証だてるかのように、町の中で破壊音が続いていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 粘膜に刺激物は酷いことに。遠距離から釘打ちの要領で攻撃出来るって強力ですね 相手はその地域にいない大型魔物を時間稼ぎ目的で用意出来るって恐ろしく、しかも2体で戦力分散させて決定打を減らし、…
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