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    4-9 ダメ男は魔物討伐をする

 あくる日。今日から約2週間、領地をあげて魔物討伐の期間となる。領都の広場には、魔物討伐の参加者が集まっていた。俺は伯爵家の一員として前の方にいたのだが、すごい熱気だった。

 ずらりと並んでいるのは、アルバート伯爵家の騎士たち。数は500人。それからギルドで募ったハンターが100人ほど。だが、おそらくさらに数は増えるだろう。

 これに増員の騎士たち500人が後ほど加わり、総勢1000人超でことにあたるわけだ。

 やがて父上が壇上に登り、声を発した。

「伯爵家の勇敢なる騎士たち‼ そして我らの願いに応え、集ってくれたハンターたちよ‼ 感謝する‼」

 それから父上は、魔物の数が多いこと、放っておけば田畑や街に被害が出ることなどを述べ、全てが終った暁には、参加者全員に食事を振る舞うことを告げた。その瞬間、「ウオオオオオォォォー‼」という雄たけびが広場にこだました。あまりの声量に、空気がびりびりと震えている。

 父上の演説が終わると、早速参加者はあらかじめ指示された場所へと移動を開始する。俺もカイルたちと合流し、モルンの森を目指した。

 モルンの森は、領都から馬で半日ほどの距離にある大きな森だ。ここを、俺を含めた60名ほどで担当する。昨日のうちに決めていた班割りに従って別れて整列する。整列したところでこの討伐班の隊長が進み出て、声を発した。

「諸君‼ 諸君らが磨いてきた腕を発揮する時が来た‼ 今までの辛く、苦しい訓練の成果を見せる時ぞ‼ 焦らずにやれば問題ない‼ 存分に腕を振るうがいい‼」

「おう!」

「なお、ジルベルト様もおっしゃっていたが、領内では最近魔物に村を襲われるという事態が発生している。我らの働きが、人々の安寧につながるのだ。心してかかれ‼」

「おう‼」

「よし、では散開‼」

 号令一下、俺たちは班ごとに森に分け入った。班員は俺を含めて6名だ。前衛3人、中衛1人、後衛2人という編成で、俺は剣も魔法も使えるので遊撃の中衛となっている。

 探索を始めてから10分ほど経ったころ、気配察知に反応があった。注意を促すと、全員が戦闘態勢に入る。このあたりは昨日のうちに決めておいたので、スムーズだ。やがて魔物が現れた。体長1メートルほどのイノシシ型の魔物——ビッグボアだ。ビッグボアは俺たちに気が付くと、ぴたりと止まる。そして……回れ右をして逃げ出した。うっそうとした茂みに入り、あっという間に見えなくなる。

 肩透かしを食らった形の俺たちは、しばしポカンとしていたが、やがて張りつめていた空気が抜けるように弛緩して、何だか気が抜けてしまった。

「ははっ。そういやすべての魔物が好戦的なわけではないんだもんな」

 とにかく襲ってくるダンジョンの魔物と戦ってばかりいたから、魔物が逃げていくっていうのは何だか新鮮だった。

 それから休憩を挿みつつ夕方まで森を探索して、戦った回数は……ちゃんと数えたわけではないが、10回は下らなかっただろうな。戦ったのは、ビッグボア、フォレストウルフ、ゴブリンといったところだ。全部で20体は倒しただろうか。

 今日は森の近くで野営をする事になり、他の班の騎士たちと共に野営の準備をした。食事中などに情報交換したところによると、例年より魔物の数が少なく感じるということだった。……あれで少なめなのか。それから何度か情報交換をしたが、その意見は変わらなかった。

 次の日も、その次の日も、俺たちは森に分け入って、魔物と戦った。出てくるのは、1日目に戦った魔物がほとんどで、後はたまにホブゴブリンが混ざる程度だった。

 聞いた話、ボアやウルフなどの動物系統の魔物は空腹だったり、興奮していなければ基本的に臆病な性格をしているという。1日目に肩透かしを食らったビッグボアはまさにその典型例だったわけだ。

 でも、おかしなことに日をまたぐほどにそう言った魔物との戦いが増えていった。普段から好戦的なゴブリンたちだけでなく、ウルフやボアもやたらと突っ込んで来たり、興奮していたりしたのだ。その姿は、なんだか切羽詰まっているように見えた。

 そして探索を始めてから5日目に、それは起こった。

 森の奥の方から、こちらに向かってくる反応を捉えた俺は、すぐに警告を飛ばした。

「なんか来るぞ! 数は……少なくとも4だ‼」

 それから間もなく、それが姿を現した。

 体長は2メートルくらい。手に大きめの剣を携えている。でっぷりとした体でその顔は……豚か猪のようだった。

「オークだ‼ でもこのあたりにはいないはずじゃ……」

 戸惑うような声が聞こえてくる。その時、さらに後ろからオークが3体現れる。でも、気配察知にある反応は5だ。俺は反応がある方向を指さしながら叫ぶ。

「あともう1体そこに隠れてる! 俺が行くから、そこの4体を頼む‼」

「⁉ おう‼」

 カイルたちはすぐに武器を構えなおし、オークたちに向き合った。俺はすぐさま反応がある方に向けて、魔法を放とうとしたその時、反応がある方の茂みが一瞬動き、何かが飛び出してきて、俺の横を通り抜ける。次の瞬間、「うおお⁉」という慌てたような声が響いた。

 俺はすぐに魔法を敵の反応がある場所に放った。

“アイスエッジ”

 生み出された複数の氷柱が、一斉に放たれる。それらは茂みの中に突っ込んでいき、直後「ギギャアッ⁉」という声が聞こえてきた。そのまま茂みを迂回する形で回り込むと、そこに居たのは体の半分以上を凍らせたホブゴブリンだった。壊れた弓があるところを見るに、隠れて矢を射たのだと分かる。周りに敵がいないのを確認すると、そいつに駆け寄って首を斬った。そしてすぐに戻る。カイルたちは大丈夫か……?

 戻ってみると、後衛のふたりが弓や魔法で牽制しつつ、前衛ふたりがオーク3体を相手にしていた。カイルはけがをしたのか少し下がっている。そして俺の目に、もう1匹のオークが後衛の方に攻撃を加えようと動き出しているのが見えた。

“ウィンドカッター”

 俺はすぐさま風の刃を生み出してそのオークに飛ばした。刃は狙い通りに片方の足にあたり、それを切り落とすことに成功する。片足を失ったオークはバランスを崩して倒れ、その隙に後ろから駆け寄って、再び首に剣を振り下ろす。首を切断するには至らなかったが、それが致命傷になったようでオークはそのまま倒れた。

 俺はすぐさまカイルたちに声を飛ばした。

「後衛のふたりはオークの顔を集中的に狙え‼ 前衛はその場に止まらないで攻撃を加えたらすぐに離脱して相手に攻撃の隙を与えるな‼ 少しずつでも確実に削るんだ‼」

「……⁉ おう‼」

 カイルたちはすぐに行動を起こした。俺はうずくまっているカイルに駆け寄る。

「大丈夫か⁉」

 カイルは、頭を打ったのか、少し血を流していた。

「ああ。あいつの攻撃をくらってしまいまして。へへ……。情けない限りです」

「今は休んだ方がいい。あいつらは何とかするから」

 そう告げると、俺は駆け出し、後衛の射線を邪魔しないように位置取り、前衛が少し引いたところを見計らってオークたちの足元めがけて氷の球を打ち込んだ。それらはオークの足やその近くの地面に着弾し、たちまちその周辺を凍りつかせた。足が凍ったことで、オークは動きが鈍くなる。それを見逃す騎士たちではなく、オークたちへの攻撃は激しさを増した。

 それから5分もたたないうちに、残りのオークも倒すことができた。協力して解体し、処理した後、周囲の安全に注意しながら、少し話すことにした。

「何とか切り抜けられてよかった。カイル以外は大きな怪我もなかったし」

 そう切り出すと、皆同じ気持ちだったようで、頷く。

「レオン様の指示が的確だったおかげですよ。ホブゴブリンアーチャーも、注意喚起してくれたおかげで、矢をまともに受けずに済みましたからね」

 俺の言葉にそう答えたのはカイルだった。彼は、オークと対峙した時に矢を受けたが、俺の言葉を聞いて注意していたことで、とっさに矢の直撃を避けることができたのだという。でも、矢を避けた拍子に隙ができてしまい、そこに迫ってきたオークの攻撃を避けきれず、けがを負ってしまったのだ。

 でも、矢を避けられなかったら、もっと大怪我をしていた可能性が高かったのもあって、とても感謝された。

「本当ですよ。あの指示がなかったら、もっとひどい状況になってたかもしれませんし。なあ?」

 別の騎士の言葉に、残りもうんうんとうなづいた。

「そうか……。ならダンジョンで鍛えた甲斐があったというものだな。……そう言えば、このあたりに普段オークは出ないのか?」

 戦闘になる直前にそんなことを言っていた気がしたので聞いてみる。

「そうですね。このあたりの魔物はそこまで強くないのが普通で……せいぜいホブゴブリンが少し出るくらいなんです。アーチャーが出たのは俺が来てからははじめてです。……まあとは言っても俺もまだ1ヶ月ちょいしかこのあたりで戦ったことないですけどね」

「そうなのか。ありがとう」

 それからさらに5分ほど休み、カイルの回復を待ってから今日は帰還することにした。予想以上の大物を相手に、疲弊したからである。無理せずに帰り、報告した方がいいというのもあった。

 森の外の野営地まで行ってみると、そこには前日よりもはるかに多い負傷者が並んでいた。隊長の所に報告に行くと、どうやら他の所でもやや強めの魔物が現れて、戦闘になったらしい。そしてそれは、ここ以外のいくつかの場所からも、似たような報告がされているとのことだった。ここではないが、魔物の大群が押し寄せた町もあったという。

 幸いにして、負傷者は増えたものの、現れた魔物はあらかた倒されたとのことだ。だけど、予想以上に負傷者が増えたため、一度領都まで戻り、俺たちは増援の騎士たちと一度交代することになったのだった。


 伯爵家の騎士団は総勢4千人ほどいますが、領内の町などで衛兵として働いていたり、領内の治安維持であったり、国境などに派遣されている人員もいるため、討伐はこの人数となっています。

 このままの更新頻度にしようかと思いましたが、応募しているコンテストに合わせて10月の終わりまで1日1回投稿に戻そうと思います。11月に入ったら、また週に3~4回に戻ると思います。

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