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    4-6 ダメ男は婚約者に提案をする

「……フィオナ。よければ俺と一緒に伯爵家の領地に来ないか?」

 俺の放ったその言葉の意味を、フィオナは理解できなかったのか、呆けたような顔をしていた。……そりゃそうだよな。だって俺もそうだから。

 思わず口走ってしまった言葉だけど、冗談ではないつもりだ。できるなら、そうしたいって思った。それは、あまりにも彼女が、寂し気な表情をしていたから。多分だけど、フィオナは寂しがり屋なのだと思う。そして、愛情に飢えてる。

両親にかわいがられている弟の話をするときや、俺が家族の話をするとき、彼女は羨ましいというような表情をしていた。……無理もない。俺なんかは前世を足せば50歳のようなものだけど、彼女はまだ14歳。普通なら親からの愛情を受けて育っていてもいい年齢なんだから。たとえ友人たちに愛されていたとしても、実の親から愛されたいと願ったって不思議ではない。

 屁理屈だとは思うが、このままいけば、彼女は伯爵家の家族になるわけだ。そうしたら、彼女の母は、もうひとり増える。帰省についてきてもらって、母上と一緒にいれば寂しさも紛れるのではないかと考えたのだ。それに、こういう時にこそ、正しい縁を紡ぐために努力すべきだと思った。

「俺たちの家族も明後日から領地に帰る。その……君は将来伯爵家の領地で暮らすかもしれないのだし、実際に領地を見たり、母上たちと言葉を交わしたりするのは決して無駄にならないと思うんだ」

 どうかなと聞いてみると、フィオナはどうしようといった感じで、目をさまよわせた。

「で、でも……そんな、ご迷惑じゃ」

「迷惑なら最初から言ったりしない」

 実際の所、完全に思いつきだが、俺は両親に頭を下げてでも、押し通すつもりだった。なんとなく、これが正しい道なんだという確信があった。だからもう進むだけだ。

 フィオナは、オロオロした様子で、言葉を探している。でも、中々出てこない。

 少したたみかけることにした。

「もしかして、俺の方こそ迷惑だったかな? それなら謝罪するが?」

 すると今度はアワアワし始めた。……かわいい。

「あのその……迷惑なんてことは……」

「ふむ……では俺とじゃ嫌かな?」

「いえ。でも……」

「俺はむしろ、君ともっと同じ時を過ごしたいと願ってるんだが、それも迷惑かな?」

「あ……あう……」

 フィオナはもうキャパオーバー寸前みたいな顔をしている。これはあと一息かな?

 そして口を開こうとしたとき、別の声が俺にかかった。

「もうダメよレオンったら。そんなふうに攻め立てちゃ可哀そうよ。もっと女の子には優しくしないと」

 そう言って現れたのは、母上だった。どうやら話を聞いていたらしい。

「母上、いつからそこに?」

「そうねえ。……あなたがダンジョンについて話してたあたりからかしら」

「半分以上聞いてたんですね」

「そうね」

 母上はふふっといたずらっぽく笑うと、手に持っていた皿からクッキーをひとつ取って、母上が急に現れたことによってさらに混乱しているフィオナの口にそれを突っ込んだ。何してんだこの人。

「食べて食べて~」

「は、はい……」

もぐもぐ。もぐもぐ。

 しばしフィオナがクッキーを食べる姿を観察することになった。母上はニコニコしている。

 やがて食べ終わったころ、母は俺を見た。

「……ねえ、レオン? あなたフィオナちゃんに、我が領地に来ないか誘ってたわね?」

「は、はい……」

 もしかして怒られる? いや、なら食い下がってやる。

「レオン、中々いいこと言ったわね。私大賛成よ‼」

 反対されるかと思って身を固くしていたのだが、逆に賛成された。なんか拍子抜け。母上はフィオナに向き直ると、怒涛の進撃を開始した。

「私もそこであなたの話は聞いてたの。将来私の娘になる子を、ひとりで置いていくことなんてできないわ‼ だから、私たちの領地にいらっしゃい」

「で……でも」

「大丈夫! 御両親は説得するし、着替えなんかは全部こっちが用意するわ。安心していらっしゃい。もしそこのバカ息子が嫌でも大丈夫よ。魔物狩りに行かせますからね」

「……」

「それに、私ね、前から娘が欲しかったのよ。我が家は男ばかりだから、フィオナちゃんがいてくれたらとても嬉しいわ」

 母上の猛攻にフィオナはタジタジだ。でも、表情はさっきよりも柔らかくなっている。これならいけそうだな。

 ほどなくして、フィオナの了承が得られた。彼女の『お世話になります』という言葉を聞いたとき、感極まったのか母上がフィオナをぎゅっと抱きしめ、彼女がフリーズするという一幕もあったが。

「それじゃあさっそく私は侯爵家にお手紙を書くから、失礼するわ。あの子には貸しがあるからね。絶対に頷かせるから大丈夫よ。レオン。フィオナちゃんを泣かせちゃだめよ」

 そう言い残して、母上は去って行った。改めて思うけど、母上も結構強烈、というか力に溢れているよな。でも父上がやや寡黙で厳格な分、明るくて奔放な母上でバランスが取れているのかも……。

 フィオナは今まであったことが信じられないのかやや呆けたような顔をしていた。

「……急に決めてしまってすまないな。自分でも勧めておいてなんだが、どうしても嫌ならそれでもかまわないが……」

「い、いえ! その……びっくりはしましたけど……嬉しいです。ただ……ご迷惑にならないかどうか……それが心配で」

「気にしなくていい。むしろ、母上は君を構い倒すだろうから、それを覚悟した方がいいだろうな」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。親戚にも令嬢がいないからな。昔から女の子が欲しいとも言ってたし」

 服なども全部用意すると言っていたから確実だろう。

「……もう無理だと思ったら、直接やめてほしいと言うか、言いにくかったら俺に言ってくれ。何とかして止めてみせる」

 どれくらいの間止められるかは分からないが……。

「あと、母上は魔法が使えるかなんてのは気にしないから、心配しなくてもいいぞ」

「え?」

「もともとそこまで魔力が多くないのもあって、あまり魔法も使わないしな」

 そもそも俺たちと同じくらいの頃は、貴族でありながら剣の腕でハンターをしてたというしな。

「だから……大丈夫だ」

 安心させるように、優しくそう告げる。彼女から答えは返ってこなかったけど、ほっとしたような、穏やかな表情をしていた。


 レオンのお母さんは久しぶりの出番です。実はフィオナちゃんLOVEなお母さんです。見た目が天使なご令嬢とは気が合いそうですね。

 次は土曜日に更新予定です。

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