3-11 ダメ男は浮気相手をお呼びではない
期末試験が終わってから1週間が経ち、学園は夏休みに入った。その前に試験の結果が張り出されていたのだが、俺は筆記試験において、何と学年10位という結果だった。ちなみに学年1位はエレオノーラ嬢で、フィオナは3位だった。
俺の結果を見たカルロスたちがアメリアと一緒に来てアメリアがやたらときらきらした目で俺を見てきて、お祝いをしようと言って来たり、(なんとか断った)そのあとフィオナを見つけたので行ってみると、アメリアたちとの話を聞いていたのかエレオノーラ嬢にめちゃくちゃにらまれて嫌みを言われたりした。なぜこうなる。
その後断ったはずなのになぜかアメリアに連れていかれ、お祝いという名のお茶会のようなものに参加させられた。しかし、その場には婚約者ということでエレオノーラ嬢もおり、アメリアたちとバチバチするわ、事あるごとににらまれるわ……正直針のむしろに座っている気分だった。え? お茶の味? わかるわけないでしょ?
「私たちは~みんなでレオン様のお祝いをしてるだけなんですよう。エレオノーラ様もお、楽しんでくださいよお~」
「あら、でもわたくしこのようなことをやるなんて聞いておりませんでしたわよ? たくさんの殿方をはべらせて楽しむつもりだったのではなくて?」
「それは~私たちもレオン様の結果を見てから思いついたからで~そんなつもりはなかったんですよう。それに~、レオン様は、楽しんでくれてますよねえ?」
そう言うと、アメリアは俺を見つめてきた。おいコラ。こっちに話を振るな。ウルウルした目で見るな。なんかゾワゾワすんだよ。エレオノーラ嬢も睨まないでくれよ。そりゃあフィオナの前でアメリアたちに連れてかれる姿を晒したことは悪かったと思ってるけど、別に俺はこの状況を望んでいたわけじゃないんだぞ。そもそも、一度断ったはずなのに、なんで俺はここにいるんだ? うまく伝わってなかったのか? 体感的には気が付いたらここにいたっていう感じだ。謎過ぎる。
心の中で悪態をつきながらも、俺は精一杯の笑顔で答える。
「あの結果は俺も予想外だったんだが……祝いたいと思ってくれたのはありがたいと思ってるよ」
カルロスやマーカスの面子を考えるとこのあたりが精一杯かな。……そういえば前世の社会人生活で培ったはずのこういう時に使えそうな接待的なスキルはどこに行ったんだろ? 覚えてたらよかったのに。前世に置いて来たのか?
「ほら見ろ。レオンだってこう言ってるじゃないか。全部お前の浅ましい勘違いだ。分かったのなら出て行ってくれないか。レオンもお前がいたら楽しめないだろうからな」
俺の言葉を受けて、カルロスが鬼の首を取ったかのようにエレオノーラ嬢を糾弾する。……やめてくれよ。俺は別に“お祝いされて嬉しい“とは言ってないぞ。あとエレオノーラ嬢を煽るのやめてくれよ。ただでさえ嫌われてんのに、さらに溝が深くなったらどうしてくれるんだよ!
「……そうですわね。では、わたくしはそろそろお暇いたしますわ。友人との約束もありますしね。最後に……」
そこで俺を見た。
「試験での好成績、おめでとうございますわ」
そう言うと、エレオノーラ嬢はくるりと身をひるがえして、最後まで優雅な感じで去って行った。……俺も帰りたい。
「ふふん。これで邪魔者はいなくなったな。改めて楽しもうぜ」
「レオン様~。改めておめでとうございます~」
「次は私も追い抜かれないように頑張らないとですね」
カルロス、アメリア、マーカスの順番で次々と話しかけて来る。その気持ちはありがたい。ありがたいんだが……素直に喜べない。
うう……。こんなことになるなら、前に考えてた姿を消す魔法みたいなの、本気で練習しとくんだった。今日から真剣に考えることにしよう。現実的に考えて、こういった時に使えるかはともかく、できたら役には立つはず……‼
俺が使えるようになったら忍者か暗殺者にでもなれそうな魔法について思いをはせていると、アメリアがいきなりしだれかかってきた。今度は何だよ……。
「レオン様はあ、次の闘技会、どうされるんですかあ?」
「……闘技会?」なんだそれ?
するとマーカスが答えてくれた。
「闘技会は、夏休みの後にある学園祭の2日目に行われているものです。生徒が魔法と剣の腕を競う催しですね」
「確か去年は出てなかったよな。今年は出るのか?」
「ううむ。……どうだろうな」
正直見世物にされるのはあまり気が進まないが、剣と魔法を同時に使う戦闘の実践にはうってつけかもしれない。
「……今年は考えておくよ」
するとアメリアは嬉しいといった感じの笑顔になると、「もし出ることになったら応援します~」と言って手を握ってきた。……今少しビクッてなったけど気づかれてないよな。
だがアメリアはそれを俺が照れたものだと勘違いしたようだった。そして今度はマーカスたちの方に行った。……俺が心の中で安堵の息を吐いたことは言うまでもない。
この騒ぎはさらに1時間ほど続き、俺に肉体的・精神的に多大な心労をあたえたことは言うまでもない。
次の日、俺はフィオナの所に行って、テスト勉強のお礼とか、フィオナの成績について話したりした。フィオナはお礼を言われるのに慣れていないのか恐縮しっぱなしだったが。あと“おめでとうございます”の言葉ももらった。……昨日のアメリアとの差が激しい。フィオナのはなんかこう、相手を思いやる気持ちっていうの? 俺が試験で高得点が取れて良かったっていうのが言葉や態度ですごく伝わってくるんだよなあ。まあ、昨日のにもそんな気持ちは伝わってきたけど……なんだかあのお茶会のだしに使われた感があったんだよなあ。……俺がひねくれてんのかな?
とにかくフィオナの素直に伝わってくる気持ちに、俺は感激したのだ。……多分まだ昨日の疲れが残っていたんだ。それで思わずフィオナの手を取って、「こちらこそありがとう」と言ってしまった。
それからすぐに次の授業のために移動したのだけれど、別れる瞬間に見た彼女は、またかわいそうなくらい真っ赤になって震えていた。――反省したばっかなのに……。次からは気をつけよう。




