3-9 ダメ男は試験を受ける①
ついに試験開始! 主人公の活躍(?)はいかに!?
あっという間に試験の日がやってきた。図書室でエレオノーラ嬢と言葉を交わした日からは、寮の部屋で勉強に励んだ。ここでなら、ひとりで集中できる。寮は男女で別れているし、さすがにアメリアも来られないと考えたのだ。予想は的中で、放課後はしっかりと勉強できた。とは言っても、やはり日中学園に居るとき鉢合わせることはもちろんあった。そのたびに甘ったるい声で挨拶されたので、適当に返してやり過ごした。カルロスたちもたまに話しかけてきた。話題はテストのことだったり、アメリアのことだったり。エレオノーラ嬢は、俺を見るとやや目つきが鋭くなる。見た目が美少女だからか、迫力がある。しかも周りに気づかれないように俺だけをにらむという離れ業をやってのけるのだ。……かなり居心地が悪い。
そうそう、2回だけだが、フィオナと勉強会をした。やっぱり彼女の教え方は上手だった。問題の解き方を分かりやすくまとめて、さらに分かりやすく伝えてくれる。とても助かった。それと、その際に、俺はフィオナをなるべく褒めることを心掛けた。まだ会って話した回数は少ないが、その中で思ったのは、フィオナは自己肯定感が低いということだった。“私なんて”という言葉も何度か聞いたし、すぐに謝る。顔もうつむきがちだし、魔法も無属性魔法しか使えないことを悔やんでいるみたいだった。でも、彼女にだって、いいところはたくさんあるはずだ。まだ心を開いてもらえてない俺には、とても頑張り屋なこととか、結構表情がくるくる変わることくらいしか分からないけど。……エレオノーラ嬢に聞いたら、いっぱい出てきそうだな。
話を戻すが、試験は2日かけて行われ、今日は国語や数学といった学科の試験がある。そして明日は魔法や剣術と言った実技の試験だ。学科の勉強はしっかりとやってきたし、剣術や魔法に関しても修練を積んできた。あとはそれをぶつけるだけだ。
1日目の学科の試験は、まずまずの出来だった。大きなミスはないだろう。社会の試験には、フィオナに教えてもらった部分も出ていた。後でお礼を言わないとだな。
試験の後、カルロスたちがアメリアと一緒にやってきた。応援の言葉やらなんやらを受け取った。このあと一緒にご飯でもとアメリアに甘ったるい声で言われたが、やんわりと断った。
寮に帰ってからは軽く木剣を振ったりするだけにして、早めにベッドに入る。……明日も頑張ろう。
試験2日目になった。午前中に魔術の理論と魔法の実技があり、午後は体育の実技か。魔術理論はレオン自身あまり分かっていなかったようだが、俺にとっても未知の学問だ。だが、同時にとても興味の引かれる内容でもあったので、意欲的に勉強できた。テスト範囲全てを網羅できるほどには至らなかったが、基本的な辺りは抑えられたと思う。その後に控える実技教科達も要注意だな。
魔術理論の試験は何とか終わった……。やっぱり全部は無理だった。でも、前回の試験よりも点数はきっといいはず……‼ 前回の試験の点数知らないけど。
休憩をはさんで今俺がいるのは、伯爵家の敷地内にある修練場のようなスペースだ。周りには俺以外にも、同じ騎士科の生徒がいる。全部で100人もいないだろう。やがて魔法実技担当の先生がやってきた。
「今回の試験は、あちらにある的に各自魔法を当ててもらう。制限時間は”始め“の合図から”終わり”の合図までだ。それが終わった後に、今度は動く的にも魔法を当てる。このふたつの結果で採点させてもらうので、心しておくように」
示す先にあるのは、見慣れた丸い的。それが3つ並んでいる。これも中心に当てると高得点なんだろう。魔法は自分が使えるものなら何でもいいようだ。
さっそく数人の生徒が呼ばれて、的から離れたところに立つ。そして“始め”の合図でそれぞれ魔法を放ち始めた。ある生徒は詠唱をして炎の球を出し、ある生徒は風を矢のようにしていた。……なるほど。あんな感じでやればいいのか。
その後放たれた魔法は、的に当たるものもあれば外れるものもあった。最初の生徒たちが打ち終わり、次の生徒たちが出て来る。見ていると、的をひとつずつ当てている生徒もいれば、ふたつ同時に当てる生徒もいる。全部同時に当てる生徒は今のところいないな。俺も的をひとつずつ狙うことにしよう。
そして俺の番がやってきた。俺を含めた5人ほどが並ぶ。やがて“始め”と声がする。よし、やるか‼
この試験で俺は、氷魔法と風魔法、どちらも使うことにした。動かない的は氷魔法を、動く的には風魔法を。練習の成果を見てみたいという気持ちが勝った結果だ。周りが詠唱をしたり、魔法の名前を呟いている。俺もまた魔力を意識して、魔法を放った。
“アイス・エッジ”
すぐにやや大きめの氷柱が3本現れ、的に飛んだ。そして的のひとつに3つすべてが突き刺さり、……的の3分の2くらいをふっ飛ばした。……やっべえ。イメージが強すぎたかも。
辺りはシーンと一瞬にして静まり返った。……完全にやらかした空気じゃんこれ。……どうしよ。
この魔法は、前世で有名だったゲームの氷タイプの技を意識した魔法だ。あのゲームのシリーズはよくやっていたから、すぐにイメージができたので使ってみたんだが、やり過ぎたな。威力が強すぎる。もっと威力を絞らないと……。
的を破壊した氷柱は、後ろの土の山に突き刺さって、その周囲を凍らせていた。oh……。ちらっと見てみると、一緒にやっていた生徒も、後ろの方で待機していた生徒たちも驚いているようだった。
どうしようかと思ったが、先生の“続けなさい”という言葉で、ピンと張りつめていた空気が弛緩した。俺も気を取り直して今度は氷柱を一本だけ出して、一つずつ的を狙う。一本は的の端にあたり、もう一本は的の中心からやや外れたところにあたった。……命中率はまだまだか? まあ当たってるからいいかな。
幸いにして怒られたりすることなく、次の動く的の所に移動する。こちらは魔法で動かしているのか、三つの的がふわふわと一定の範囲を漂っていた。また待機して試験に取り組んでいる生徒たちを見る。こちらも命中率はまちまちだった。的に魔法を当てている生徒は結構いるが、的の中心部分に当てている生徒はあまり多くない。多分俺も似たようなことになるのだろうな。
再び順番がやってきて、また“始め”の声がする。よし、今度は風魔法だ。風魔法は氷魔法に比べると威力が低い。多分さっきみたいなことにはならないだろう。
“ウィンドボール”
何度も練習した小さな風の球。大きさはバレーボールほどだ。それを放つ。一発目は外れてしまった。……もっとよく的を見ないと。2発目。中心からやや外れたあたりに命中。的は大きく揺れたけど、宙に残っていた。
次の的を狙う。よく狙って……今だ‼
“ウィンドアロー”
威力が少し弱く感じたので、今度は風を矢の形にする。飛んでいった風の矢は、宙を漂う的の中心付近に吸い込まれ……的の中心を突き破った。真ん中に穴が開いた的は、ぽとりと地面に落ちる。
またやらかしたかと思ったが、今度はシーンとなることもなかった。……そういえば、他にも的を撃ち落としてた人がいたっけ。さすがに穴は開いてなかったけど。
その後、”終わり“の合図があるまで続けて、最初に外した的にも中心ではないが当てることができた。これで魔術と魔法実技の試験は終了。次は体育の実技か。
もう少し試験は続きます。




