3-1 魔法少女異世界転生す
第3章はじめました。
転生したアナスタシアちゃんのお話になります。
「アーニャに言っておかなければならない事があります」
「なんでしょうか、お嬢様」
「実は私は魔法使いだったのです」
「そうでしたか、実は私は黒猫なのです」
「え?」
少女の名前はアナスタシア=フォン=バーンシュタイン。6歳になったばかりだ。
バーンシュタイン家は公爵、つまり上級貴族である。
6歳になったある日、前世の記憶が蘇った。
ただし、死んだ訳ではないので正確には前世とは違うのかもしれない。
異世界を渡り歩いていた彼女はその世界で初めからを経験したいと考え、この世界に生まれ直した。だいたいの世界は15歳で成人、女の子は成人と同時に結婚させられてしまうため学校などは12歳からの3年制が普通だ。アナスタシアの他の世界での年齢14歳だと入り込むのも難しいし、何より途中からと言うか、終わり寸前になってしまうのだ。
ファーストネームが同じなのは分かりやすくて良いのだが、外観の特徴である銀髪とライトグレーの瞳まで前世から引き継いでいるせいで少々面倒な事になっている。
この大陸の征服を目論んで逆に滅ぼされた帝国の皇帝一族の特徴が銀髪に翠色の瞳なのだ。
中傷を畏れた両親が、アナスタシアをこの建物に隠して人目につかないようにしている。
両親とそれぞれの祖父母は金髪に碧眼、この国の貴族の間では普通の組み合わせだった。
そしてこの、猫耳カチューシャに黒髪のショートボブ、黒いワンピースに白いエプロンのメイド服、腰に太くて長い尻尾を付けているのが専属メイドのアーニャ。15歳だ。
アナスタシアが3歳、アーニャが12歳の頃からの付き合いらしい。
身の回りの世話から基本的なマナーの指導や勉強もひとりで見ている。何気にスーパーメイドだ。
「それで、その猫耳はどうしたのかしら」
「私はお嬢様の使い魔ですので」
呆れ気味のアナスタシアにすまし顔と言うか大真面目にアーニャが答えた。
アナスタシアの中身は普通に人間の寿命を超えているので落ち着いてきているが、6歳の子供であれば喜ぶところなのかもしれない。
「一応確認なのですが、お嬢様はどう言った魔法を使われるのでしょうか」
テーブルにお茶とお菓子を置きながらアーニャが尋ねる。
おやつの時間でもあるが、マナーなどの勉強の時間でもある。
基本的な所作の確認程度なので、そこまで厳しくはしていないが。
「何も用意していないから、まだ使えないわ。逆に、この世界の魔法事情が分からないのだけれども…」
この世界の貴族の令嬢が子供のうちは家から出ないことはそれほど珍しいことではないが、トラブルに会うのを畏れた両親によって、敷地内にある林の中に建つこの建物の中に隠されているので、情報といえば少しの本とアーニャとの会話だけなのだ。
「この世界で魔法は一般的ではありませんね。少なくとも私は魔法が使えると言う人の存在を耳にした事がございません」
一応、お茶会の相手役ではあるが、同席はせず立ったまま答える。
「そっか」
その後、アーニャには包み隠さず本当のことを話した。
「一般的にそう言った記憶を思い出したりするのは13歳くらいだと聞いていますが…」
みたいな事を言ってきたので、信じているかは分からないが。
ただ、一つ変わったのは使い魔の黒猫になった事で(?)彼女の休憩時間とやらに頭を擦り付けたりしてくるようになった。自分の胸のあたりに頭を押し付けてくるので撫でてやると、これが思いの外手触りが良くて気持ちがいい。顔や首の辺りを触ると目を細めて嬉しそうにするのもなかなか良い。しっとりとした手触りがなんともいえない。
ただ、休憩時間とやらが終わると、すっと離れてまた素っ気ないアーニャに戻ってしまうのだが。
そんなところも猫っぽいのだろうか。猫もよく知らないアナスタシアだった。
「そう言えば前世も通して、こんな風に人と触れ合うのは初めてかもしれない」
「? 何かおっしゃいましたか?」
お昼寝の時間にベットに寝かしつけられながら思わず呟いてしまったらしい。
「あのね、こんなわがままを言ってはいけないのは分かっているのだけれども…」
「珍しいですね。なんでしょう。私に叶えられる事なら良いのですが」
アーニャはベッドの脇に膝をついて顔を近づけてくれる。
「アーニャの『休憩時間』を私のお昼寝の時間に合わせて、一緒に寝ることは出来ないかしら」
「?!」
アーニャは顔をそらして歯を食いしばっている。
「アーニャ?」
「も、申し訳ありません。お嬢様が眠っている間に済ませたい仕事がありますし…」
「そう、よね…」
「もし本当にしてしまったら、起きられる自信がありません」
両手で顔を隠して悶えている。
「あれ?」
「はーーーーーーっ」
アーニャが長く息を吐く。
「ちゃんと寝付けるまでお側に居ますので、寝てください」
「うん」
「…」
「眠るまで手を握っていてもらっても良いかしら」
アナスタシアがそう言って手を出すとプルプル震えながらその手を握った。
手のサイズがかなり違うのですっぽりと納まってしまう。
「くっ」
アーニャが見たこともない顔をしている気がするが見なかった事にした。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「うん…」
メイドのアーニャと言う名前はどうしようかなと思っていたんですが、そう言うネタは絡めないことになりそげ。
そもそもアナスタシアのニックネームがアーニャなのは某アイドルマスターの世界であって、本来はサーシャとかターシャとかなのでは無いかと思うわけだけれども、実際のところは良く知らないです。はい




