2-29 悪魔
まったく盛り上がらないクライマックス
「なるほど、悪魔と言うだけ有って悪趣味ですね」
砦の前方を見渡せるバルコニーのようになっているところで状況を監視していたセフレが呟いた。砦は要塞を兼ねた城壁があり、その後ろの城のような部分との間には騎馬隊が待機できるほどの広場が存在しているため、敵集団までの距離もその分遠く離れていたが、ひと目でそれがなんなのか分かった。
敵が前面に押し出してきた部隊は前王や王子を含む王家の人間とその親衛隊を模した集団だった。
敵騎兵が作った壁のような陣形を抜けて、王を先頭に騎士や王子が続いて進んでくるのが見える。
目を伏せて長く息を吐き出したセフレが胸を張って鋸壁ギリギリまで前進すると息を吸い込みながら右手を振り上げ、そして力強く宣言した。
「王家を愚弄する愚か者どもに鉄槌を下しなさい。これは勅命である!!」
セフレの号令に騎士たちが一瞬オーラの様なものを放ち、その身に力が漲る。
目の前にいる王が偽物かアンデッドかは分からないが、本人ではない事を確信する。
騎士の称号、それは神の名において王と騎士との間で結ばれた契約であり、正当な君主のみその効果を発動する事が出来るのだ。主人やただ王家の人間だと言うだけでは機能しない。今ここにいるセフレが君主だと言うことを、その湧き上がる力が証明していた。
「抜刀!」
砦の前に整列していた騎馬隊が一斉に剣を抜き、前進する。
なんの躊躇も見せずに突貫してくる騎馬隊に対して、王の姿をした何かは諦めたのか正体を表した。
鎧の中身が黒いガスのような物を纏った骸骨に変わる。
怨霊だ。
本人ではないとは言ったが、どうやら本人ではあったようだ。
ただし、その身と心を失い敵意しか持たない霊魂だが。
怨霊の部隊を前面に押し出した敵と正面からの打ち合い。
怨霊は本来打撃によるダメージをほとんど受けないため、剣で戦いを挑んだ騎士たちを完全に舐めていた。
だが、騎士の称号によるブーストはあらゆる攻撃力を2割アップしており、その2割はまるまるダメージとして入ったのだった。敵が悪魔だと言う情報もあり、剣を聖水で清めている騎士もいた。
「善戦しているようですね」
セフレにアナスタシアが声をかけた。
「今のところは、と言うのが正直なところです。ポーションも無限にあるわけではありませんし…」
本来剣では倒せない敵も多い状況にしては有利に運んでいるように見えるが、いまだ敵の主力と思われる魔物も、悪魔本人も出てきてはいない現状では予断は許さなかった。
「でもまあ、アナスタシア様がまだここにいるって事は焦る必要もないんじゃない?」
命が呑気なことを言い出す。
「なんですかそれ」
素で分かっていないアナスタシア。
「砦が落ちるギリギリまでは居なさそうな気がしますね」
セフレも一緒になって気の抜けたことを言い出す。
「どう言うこと?」
アナスタシアがコテっと首を傾げる。
一応、アナスタシアたちが居る場所の後ろが一番安全な場所という事で、非戦闘員のメイド2人は他の者たちと一緒にその部屋に居る。床に座り込み一身に祈りを捧げているシリアナの背中にリョナが手を当てて摩りつつ周りを警戒している。
騎士たちの戦いは優勢でありつつも、じわじわと損耗が目につき始めた。
馬がやられて降りるものも出てきたその時、荒地に金色の光のドームがいくつも発生する。騎士だけでなく馬も味方判定になるのか、全てが開戦前の状態に戻っていく。
「あ、あれはいったい」
「アレは以前陛下にも渡した回復アイテムです。前もって設置しておきました」
今回設置した物は味方がある程度損耗すると自動で発動するように設定した物だった。
「………」
怪我が治るなどと言う物ではなくて装備まで元通りと言う、あまりの事に目を丸くして口を開けて驚いている。
あっという間に圧倒的な戦力差となった事で、今度は道の向かって右側の森から大きな犬の魔物がわらわらと飛び出してきた。
「魔物ならお任せっ」
命がそう言ってバルコニーから城壁の上へ飛び移り、そこからさらに戦場に躍り出たが、左側の森から現れた2人の男によって魔物たちが出る間に倒されていく。
「あれ? あんたたちどうしたの?」
王都に残ったはずの勇者2人だった。
彼らは両国と交渉してどちらにも加担しないと言う事になっていると聞いていた。
「状況が変わったから加勢しにきたよ」
「相手の国も悪魔に操られていたとかで、戦争は終わりみたいだ」
実は左側の森にはもっと厄介な魔物が潜伏していたのだが、2人が道すがら駆逐し尽くしていた。
「終わりではないよ、ここから始まるのだ」
突然聞き覚えのある声が聞こえ、誰もいなかったはずの場所に人影が現れる。
「お前は、確か、宰相のアオカン…」
その姿を見て斎藤が呟く。
「………」
命が白目をむいて嫌そうな顔をした。
「くっくっく、わざわざ人間の振りをして潜り込み何年もかかって準備したのに、肝心な王女がいつの間にか居なくなっていたのには驚きましたが、これで全て終わりです。終焉の始まりですよ」
「これもやっぱ、アナスタシア様のアレなのかしら」
命が残念そうに呟いた。
もっとこう、人が死にかけたり死んだり泣いたり喚いたりさせた方が良いのかもしれないけども、なんとなくあっさり風味にしてしまうのよ(




