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ある魔法使いの旅路 〜儚げな公爵令嬢だと思っていたら、ただのチート主人公でした〜  作者: 大貞ハル
異世界から召喚されし勇者アナスタシアちゃん14歳さん
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2-17 夢

リョナ回と見せかけてアナスタシアがおいしいところをいただいていく話(

「ああ、そうか…。私は夢を見ていたんだな…」


使い慣れたはずのナイフがやけに重かった。

目の前には自分の2倍は身長がありそうなオーガが立ち塞がっている。

小柄なリョナに比べたらまるで壁の様だ。




「思いの外、敵の侵撃が早い」

メイド2人と騎士4人のチームはメイドのリョナが限界に近いと判断して一旦休憩を取っていた。

その間、周りを確認していた騎士が敵軍の動きを察知して戻ってきたのだ。


「私が殿を勤めるよ」

リョナが立ち上がった。

「な、何言ってるのよ。ほら、なんだったら私が担いで走るから…」

シリアナが止める。


「聞いて」

「え、あ、うん」


「私は元々暗殺などの訓練を受けてて、不意打ちならそれなりに自信があるの。だから、私が斥候を倒すから、その隙に先に進んで欲しい」

「斥候を倒せたとしても逃げ切れるのか?」

「もちろん絶対はないけど、私は持久力はない代わりに瞬発力には自信がある。みんなが先に進んでくれたら追いつくからあとは担いで運んでもらってもいいと思うんだ」

「諦めたわけじゃ、ないんだね?」

「ええ、もちろん」


「確かに軍隊は足が遅い。斥候を倒せれば少しは時間が稼げるかも知れん。俺たちも持久力とパワーには自信があるが、スピードと言われると微妙だ…」

「任せても良いのか」

「ええ。なるべく遠くまで行っていて欲しい」

「…」



森の中にどうにか荷馬車が走れるような道がある。

その道を2人の兵士が歩いている。森の中に左右に4人ずつが様子を伺いながら進んでいるのが見えた。

リョナはスカートの中に隠した投げナイフと見えにくく強靭な糸を取り出して罠を仕掛けて回った。

すぐに罠とは分かりにくく、かつ、動きを止められる様な嫌らしい罠をいくつも。


そして、道から離れている方から1人ずつ排除していった。


道の反対側に回る際に、道にも罠を仕掛けた。


森の中の兵を倒し終えた頃、道を歩いていた兵士が異常に気がつき道を戻った。

罠が仕掛けられた道を。



全てが片付き、味方の後を追おうと思った直後、背後に今まで感じた事がない気配を感じて飛び退いた。

何かが地面を抉る。


「なんで、オーガがこんなところに」


ここはまだ王都からそれほど離れていない比較的安全な場所のはずだった。

魔物がいると言っても、オーガほど危険なものはそれほど居ないはず。


「連れてきた? まさか、オーガを操れるのか?」


全身から嫌な汗が吹き出した。

少しでも動いたら最後、肉片になる未来が予想できた。

少々器用な程度のメイドのリョナにどうこうできる相手ではないのは明らかだった。


不思議と笑みが溢れる。


「ああ、あの人と一緒だったら、あの人やシリアナと一緒だったら、違う世界が見れるんじゃないかとか、変な夢を見てしまっていたんだなぁ…。私にも意外とそんな可愛いところがあったんだな」


くすくすと笑うリョナに巨大な腕が振り下ろされる。



「夢を見たなら叶えれば良いではないか」



聞き覚えがある様なない様な不思議な声。

誰も居なかったはずなのに、なんの気配もなく目の前に現れた白いマント。


小さな娘を一撃でぺっちゃんこにするつもりだったオーガは岩でも殴ったかの様に弾き返されて目を白黒している。


一瞬にして高まる魔力。

魔法の才能がないリョナにもハッキリわかる、馬鹿げたエネルギーが一点に凝縮し、爆炎となって放出された。



「いけね、間違えた」


「は?」


オーガが一瞬にして灰と化し、周りの木々も吹き飛んであちこちで炎上している。

生木が一瞬で燃え上がるほどの膨大な熱量を放つ魔法の何を間違えたと言うのか。


昨今、高速詠唱とか頭の中で詠唱する事で無詠唱とか、イメージするだけで魔法が、などあるが、アナスタシアの魔法は神との契約であり、契約を行使する事である。無尽蔵に契約を記す魔導書には選択するだけで発動できる魔法が無数に記載されており、火魔法だけでも覚えるのが大変なほどあるのだ。


自信満々で違う魔法を使ってしまう程度には。


アナスタシアの能力が全ての魔法を使用可能にしてしまうほど高いこともまた間違える原因だった。


 今度何か間違えない様に考えようかしら…


炎の向こう側には軍隊がいるので、これ以上炎上しない様にしつつ燃え続けさせるよう調整する。


「あの、貴方は一体…」


呆然としていたリョナが尋ねる。

魔法を使うところを目撃されると面倒なのでかけておいた認識疎外が働いているので、こちらの正体には気がついていない様だ。喋り方が普段と違うのも疎外の一部だ。

別にアナスタシアがノリノリで芝居をしているわけではない、はずである。


 誰に見られるか分からないから認識疎外をかけて出たけど、知り合いを騙すみたいでちょっと嫌ね…


そう思いつつも今更なので考えた。

「そうだな、あえて言うなら…」

ちょっと考える。

「言うなら?」


マントをバサっと翻しながら振り向く。


「そうだな『魔王』とでも名乗っておくか」


「魔王?」

思いもよらぬ返答に混乱しているリョナの腰に手を回すと

「今回は特別サービスだ。仲間の元まで送ってやろう」


2人の周りに竜巻が発生してふわりと浮き上がる。


「うわーーーーーーっ」


暗い森の空に叫び声が響き渡るのだった。

アナスタシアの立ち位置をうまく調整できなくて半端になってる気がしなくもない

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