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日本の変化に想う  作者: 逢場学
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9/20

第9回|憲法より先に水が来た

【連載】

あの時、日本はどう動き、どう変わったのか?

― 自衛隊の軍隊化と国家転換への歩み ―

2027年冬頃になると、日本社会では既に奇妙な逆転が起き始めていた。

かつて国家論争の中心だったものが、優先順位を失い始めたのである。


違憲か、合憲か

軍隊か、自衛か


そうした議論は消えていない。

だが少なくとも、現場では別の問いが先に存在していた。


「今日、水は出せるか」


である。


ここで重要なのは、水道ポンプ自体は動いていた、という事実である。


発電所も生きていた。

配管も無事だった。

浄水設備も稼働していた。


つまり、水を送り出すための仕組みは、ほぼ揃っていた。


では何が止まっていたのか。


「どの地区に、いつ、どれだけ配水するか」


を決める制御システムだった。


その制御システムは、中央との通信を前提に設計されていた。

中央との接続が切れた瞬間、制御システムは「待機モード」に入った。

動けるのに、動いてよいと言える者が誰もいなかった。


無断で配水すれば、後に二次被害を発生させる可能性があった。

現場の担当者は、動けるのに動かせなかった。

動かしてよいのか分からなかったからである。


水を出す事自体は技術的に可能だった。

しかし


「誰に出していいか」

「どれだけ出していいか」


を確認する手段が消えた。


当時、ある水道技術者がこう語っていた。


「ポンプは回せた。でも誰も蛇口を開けろと言えなかった」


この構造は、水道に限らなかった。


電力の配分も同様だった。機器は動いていた。

しかし「この地区へ優先供給してよいか」の決定権が宙に浮いていた。

物流も同様だった。

トラックも燃料もある。

しかし「この荷物を動かしてよいか」の確認先がなかった。


本紙地方版記録を確認すると、2027年秋以後、記事内容が急速に変質している。


政治論争より、こうした「機器は動くのに使えない」という実務問題の記事が増えていく。

特に地方都市では、「判断できる人間」を求める声が紙面を占め始めていた。


この頃から、自衛隊への世論感情が静かに変化していく。

重要なのは、それが愛国宣伝から始まっていない事だ。

人々は、もっと具体的に見ていた。


自衛隊員は「やります」と言える

「本社に確認します」と言わない

目の前の問題に対して、判断を引き受けてくれる


その事実を見ていた。


後年、一部論者は『皐月事変』以後の日本を「軍事国家化」と批判した。

その視点は理解できる。

実際、国家構造は大きく変化した。

だが少なくとも、現場で起きていたのは単純な軍拡ではない。


「判断する主体の不在」


という問題を、誰かが埋めなければならなかった。

そしてその時、最も判断する準備が整っていたのが、自衛隊だったのである。


2040年の現在、若い世代の一部は「なぜあそこまで軍隊化を受け入れたのか」と問う。


その疑問は正しい。

だが同時に、2027年を経験した世代は知っている。


憲法論よりも先に、「今日の水を出す決定」が必要だった時代を。


そして人々は、その決定を引き受ける存在を観てしまったのである。


本稿執筆にあたり、本紙旧地方投書欄保存資料、神戸港給水支援記録群、東湾地域自治体資料の提供を受けた。

ここに感謝を記したい。


【次回掲載予定】

第10回「時限立法という名の恒久化」

「社会を動かす権限」を誰かに与える法律が成立した。

「とにかく動いていい根拠をくれ」

それは暫定措置のはずだった。


HG首都新聞にて先行公開中

https://holygrace.jp/hgcn/

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