13.ドールズ
魔眼使い、速水カイトとの戦闘から二日が経過していた。加藤ユウジの拳のラッシュを叩き込まれたことにより全治2ヵ月の怪我を負った速水カイトは今も昏睡状態のまま目覚めずにいた。
「先日は魔眼使いとの戦い、ご苦労であった。本来であれば速水カイトから事情聴取をしなければいけないわけだが...」
「意識不明の重体、全治1ヶ月だそうだ、これじゃカズハのことも聞き出せないじゃないか」
怪異対策機動本部のオペレータールームで西園寺司令と宝条さん、そして宝条さんに詰められるユウジさんと一緒に作戦会議をしているところだった。
「はい、面目次第もございません」
「まあ加藤を責めてやるな。全力でやらなければ加藤がやられていたんだ」
「それもそうだが...結局振り出しに戻ってしまったわけか...」
宝条さんは婚約者である天海カズハさんが行方不明になっていることに焦りを感じているのだ。だからいつもは装者同士で行っている作戦会議にもこうやって参加しているのだ。
「情報が得られなかったわけではないんですよね?ユウジさん?」
僕はユウジさんに助け舟を出す。
「ああ、カズハさんはパレイーズ結社の構成員、樋口コウスケに誘拐されたとジャンヌは言っていたな」
「樋口コウスケ。早乙女アキラに黒田トオルさんの殺害を指示した男か。それ以外は何もわからないと」
実際それ以外に情報はない。ただ僕にとっても因縁のある男だ。逃しはしない。
「問題は天海カズハの件だけではない、ここ連日、三鷹八満大神社で深夜ごろに不審な人物が現れるというとのことだ。監視カメラを確認したところ、加藤が遭遇したジャンヌとジルらしき人物が確認された」
「神社に赴いて何をするつもりなのでしょうか?」
司令の言葉にユウジさんが言葉を返す。
「現時点では不明だ。詳しい調査も必要だが念のため三鷹八満大神社だけじゃなく付近の神社にも警戒態勢を敷くことにした」
司令が言い終えたところで突如として警報がオペレータルームに鳴り響く。
「司令!首都圏外郭放水路にて天海カズハのスマホの反応を検知!同時に周辺にてコトリバコの反応も確認!」
これは罠だ。天海カズハを餌として僕たちをおびき寄せる。だが、それでも。
「トレーニングルームにいるアオイを呼んでくれ、装者三人で対処にあたってもらう」
「西園寺!俺も三人についていっていいか?足は引っ張らないようにはする」
司令は1秒ほど悩んだ後口を開く。
「わかった。だが、無茶はするなよ」
僕たち四人はカズハさんのスマホの反応がある場所へと向かった。
首都圏外郭放水路に到着した僕たちは放水路を歩きながら会話する。
「誰もいない?」
「いや、たしかにカズハのスマホの反応がそこにある」
アオイさんの言葉に 通信で答える司令。
「ようこそおいでくださいましたなぁ。怪異対策機動本部の皆様」
どこからか声が聞こえてきた。声の主が柱の影から姿を現す
「はじめまして、わてはパレイーズ結社構成員の樋口コウスケっちゅうモンです。以後お見知り置きを」
あいつが天海カズハさんを拉致した男。そして、僕の父さんの仇。
「おい、天海カズハをどこへやった?」
宝条さんが樋口に問いかける。
「おや?あなたは?」
「お前が誘拐したカズハの婚約者だ」
樋口は数秒沈黙した後ふと思い出したかのように話し出す。
「ああ、アレのね」
「んで?カズハをどこにやったんだ?答えないと痛い目みるぞ?」
樋口の軽薄な態度に宝条さんは苛立ちを覚える。
「そこは問題あらへんよ、答えはすぐにわかる。はいはい出てきてちょうだーい」
樋口がリズム良く手拍子を叩き柱の影へと呼びかける。柱の影から上半身裸で異様に髪の長い女が現れる。長い髪は上半身に纏わりついて衣類のようになっている。口元には顎が可動するタイプの人形の口が縫い付けられている。
「あれがカズハさん?」
アオイさんが困惑するのも仕方ない。以前とは完全に変わり果てた姿になっていたからだ。正直今でもカズハさん本人ではなく別人だと疑っている自分がいる。
しかし宝条さんは左手の指輪をみてカズハさんだと認識する。
「お前ッ!カズハに何をしたッ!」
宝条さんの叫び声には憤怒の感情が乗っていた。
「まあ色々。そのお陰でこんなことだってできる」
樋口がフィンガースナップで音を鳴らす。その合図により天海カズハさんの左腕に纏わりついていた髪の毛がほどけ布を歪に縫い付けられている左手が露わになる。左手に呪いが流れ込み赤黒く発光し始めたところでカズハさんは突如として消えた。
「消えた?」
否、消えたのではなく宝条の背後へと瞬時に移動していたのだ。カズハの左手が宝条の背中に触れる。赤黒とした呪いが宝条に流れ込み肉体は耐えきれず、目、耳、鼻、口から血を流し倒れ込む。
「宝条さんッ!」
アオイさんが尻尾による攻撃を行うもカズハさんは瞬間移動して攻撃を避ける。僕は宝条さんを回収し安全な場所へと避難させる。大丈夫だ、まだ息はある。
「あらら、死んでないのね。常人なら即死もんの呪いなんやけど」
カズハさんが樋口の隣りに現れる。
「手加減しちゃった?未亡人が前の夫を忘れられないみたいな感じで物語としては好きやね」
僕は救援要請を出し宝条さんの応急処置をしてからアオイさんとユウジさんがいる場所へと戻る。
「カズハさんは呪術師の家系生まれではないはず、呪具か?」
「どうせ勝てないと思うので開示して差し上げましょう」
樋口はカズハさんの周囲をうろつきながら話を続ける。
「「ドールズ」様々な逸話を持った人形を組み合わせた試作体や。例えば口に付けた人形の顎」
そう言いながら樋口は天海カズハ、もといドールズの口を指差す。
「これは「メリーさんの電話」に出てくる人形の顎。メリーさんは電話をかけてくるごとにこちらへと近づいてくるって都市伝説やけどわてはこれを移動手段として考えた。メリーさんは電話で自分の居場所を伝える。虚構共通認識の現実化によって都市伝説は現象へと昇華される。わてはこれに因果の逆転を見出した。移動したい場所を発することにより瞬時にその場所へ移動できるってワケよ」
続いて樋口はドールズの長い髪を指を差す。
「これは髪が伸びる日本人形から採取したものを植毛したんやけど中々しんどかったわ」
更に樋口は髪がほどかれ露わになった左腕を指差す。
「そんでこれはあのラガディアン人形に使われた布を使うてる。これで呪いを増幅させとるんや」
そして腹部の縫われた部分を指差す。
「最後に動力源としてお腹の中に藁人形仕込ませていただきましたわ」
悪魔だ。良心を持たず人の身体を弄ってみせる。外道だ。許せる許せないの問題ではない。こいつがのうのうと生きていればまた新たな犠牲者が出てくる。ここで殺さなければいけない。
「運命って残酷だよな。なんでこんな酷いことするんやろって」
「は?テメェがやったことだろうが」
アオイさんがドスの聞いた声で返す。アオイさんはカズハさんを慕っていた。憤るのは当然だ。
「おおこわ❤好きになりそうや」
「あ”?楽に死ねると思うなよ」
「ここで死ぬつもりはあらへんよ。わては物語が見たいねん」
僕たち3人は武器を構える
「じゃあここで千秋楽にしてやるよッ!」
アオイさんの宣言と共に僕たちは戦闘を開始した。
「ああなった以上もう元には戻れないッ!トドメは...私が決めるッ!」
アオイさんの言葉には揺るがない決意が表れていた。普段から仲良くしていた者として、ケジメを付けるための。
アオイさんは尻尾による熱線の攻撃、僕は空中に短剣を複数展開してからの掃射で同時に遠距離攻撃を行った。
しかしドールズは例の瞬間移動を多用し全ての攻撃を躱す。ドールズは瞬間移動をしつつも五寸釘を空中へ放り投げる。そして右手に持っていた金槌で五寸釘を打ち弾丸のごとくこちらへ飛ばしてくる。
そうか、人形の都市伝説の複合体であるならば藁人形に関連した金槌と五寸釘で攻撃してくるのも理解できる。そもそも藁人形をエネルギー源としているんだったな。
僕は短剣で弾きアオイさんは大蛇の金属の鎧でガード、ユウジさんは躱しながらドールズへと迫る。ユウジさんはリーチまで迫り拳を叩き込む。しかし直撃する寸前のところでユウジさんの拳が止まる。ユウジさんの右手に髪の毛が巻き付いていた。その髪は四方の柱へと伸び、そこからドールズの頭部へと集約している。
「チィ!」
ユウジは髪を振りほどこうとする。しかしそれより先にドールズが瞬間移動を行う。ユウジはドールズの瞬間移動により勢いよく引っ張られる。ドールズは何度も瞬間移動を繰り返す。それにより髪の毛によって引っ張られているユウジの身体は徐々に加速していく。
「クソッ!引き千切れねえッ!」
ユウジはなんとかして髪の毛を引き千切ろうとするも難航する。ドールズの髪の毛は頑丈になっており、ナオキの短剣やアオイの鎧の爪、尻尾の熱線でなければ切ることは敵わない。
ユウジの身体は音速まで加速させられ柱へと叩きつけられる。
「ガハッ!」
ユウジは背中から叩きつけられる。そこに五寸釘が飛来しユウジの頬を掠る。続いてドールズは左の腕に呪いを流し込みそのままユウジに触れようとする。リープロギアには対呪防御機構がシステムとして搭載されている。対国レベルの呪いでなければ防ぐことぐらい造作もない。しかしユウジは先程の五寸釘によってかすり傷を作っている。かすり傷から呪いが流れ込んでしまうのだ。ユウジはそれに気づきなんとか体勢を変えドールズの呪腕を躱す。そのまま腹部を目掛けて蹴りを繰り出すも瞬間移動によって躱される。
「ユウジさんッ!」
僕とアオイさんはユウジさんに駆け寄る。
「ユウくん大丈夫ッ!?」
「ええ!なんとか!」
僕たち3人はドールズの方へと目線を向ける。
「でも、だいぶ厄介っすよ」
瞬間移動に強固な髪の毛、左手の呪腕、右手の金槌と五寸釘。攻防に隙が無い。
「それでも、やるしかない」
アオイさんのいう通りだ。ここで倒さなきゃ僕らがやられる。僕たちは再びドールズへと迫る。
戦闘が開始して5分が経過した。体感では15分ほど戦っているように感じたがそうでもないらしい。ドールズは何度も回避を繰り返すため攻撃を当てることができず僕たちは徐々に疲弊していった。
「姐さん、どうします?キリが無いですよ」
ユウジさんが息を切らしながら呼びかける
「そうだね、キリがない。けど一つだけいい方法が思い浮かんだ」
「どんな方法ですか?」
正直僕もいい対処法が思いつかなかったのでアオイさんの案に賭けてみることにした。
「なんか俺だけめちゃくちゃ大変な役じゃないすか?」
「頑張れ」
「頑張ってください。ユウジさんにしかできないことです」
「...ナオキも出来ると思うんだけどな...」
ユウジさんはそう言いつつドールズを視界に捉える。
「まあやるしかねえわなッ!」
ユウジは地面を蹴り一気にドールズへの距離を詰める。自身の間合いに入ったところで拳を繰り出す。案の定、ユウジの腕はドールズの髪に巻き付かれる。
「掛かったッ!」
ユウジは右足を地面に突き刺しアンカーにする。そして拳のラッシュを応用して高速で髪を巻き始める。ドールズは勢いよく引っ張られるも瞬間移動を乱用しユウジから距離を取り続ける。
ユウジの元にアオイが駆け寄り尻尾を伸ばす。そして伸ばした尻尾で球場の囲いを作り出す。ユウジは構わず髪を高速で巻き取っている。ドールズは瞬間移動の連発と呪いによる髪伸ばしによりなんとか距離を取り続けている。このままでは呪いが尽きると判断したドールズはユージがいるとされる尻尾で作られたドームの中へと瞬間移動する。
「!?」
ドームの中へと瞬間移動したドールズには短剣が全身のいたるところに突き刺さっていた。ナオキはドールズがドームの中に瞬間移動してくると踏んでドームの中に短剣を何本も展開させていた。その場所にドールズが移動してきたため展開されていた短剣に串刺しにされたのだ。
「ごめん、カズハさん」
アオイは鎧化された腕で腹部貫き埋め込まれていた藁人形を引き抜いた。
「カズハさんは無力化した。楽に地獄に行けると思うなよドブカス野郎」
カズハさんを安全場所へ移動させたアオイさんは樋口を睨みつけそう話しかける。
「ああ?お前だぼか?んなわけあっかいや。わては理やぞ。土人かなんかと勘違いしとんか?ほんまごうわくわ。ごじゃキショいんやけど」
この期に及んでまだ自分が助かると思っているのか。そもそも関西弁なのが腹が立つ。そもそも本当に関西弁か?
「それにわへたん?まだ終わってへんのやけど?頭べっちょないか?」
何言ってるのかわからないけど煽られてることは分かる。ぶん殴ってやろうと思ったところで通信が入り司令の慌てる声が聞こえる。
「お前達!まだ対象は排除出来てないぞ!」
「対象?いや天海さんは無力化しましたよ?」
司令の通信に対しユウジさんはそう答えた。
「そうだ。まだ終わっていない。お前たちが倒したドールズの動力源は藁人形でありコトリバコではない」
突如として、柱の影から男の声がした。
声を聴いた瞬間に全身の細胞が思い出した。
背筋を悪寒が走りさる。
腕が鳥肌を立てる。
忘れるはずもない。
懐かしく変わることがない、記憶と同じ、あの男の声だ。
「誰だッ!」
ユウジの呼びかけにその男はゆっくりと姿を現わす。その男は黒いコートを着ており、ナオキと同じ顔をしていた。
「ナオ...くん?」
「ドッペルゲンガーかぁ?」
アオイとユウジは驚愕していた。
ナオキが一歩歩みその男を瞳に捉える。目を大きく見開き、まるでありえないようなものを見た顔をしていた。
「父...さん?」
そう呟いたナオキの顔は一筋の涙が線を引いていた。




