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超高速振動刃と電磁加速砲の複合武装、初風。そのレールガンの威力は椿の正面装甲を軽々と貫き、残りHPを全て削りきるには少々強力過ぎた。
「……!」
上方からは巨大な拳が、下方からは合計四振りの刃が陽炎をいきなり襲う。だがしかし、それらをクルリと跳躍することで難なく回避した。
「椿を倒すとは……なかなかやるな」
「私達の攻撃パターンを完璧に予習してるですって? 勉強熱心なのはいいけど……!」
カミソリのように薄い刃が音も立てず舞う。チーム・阿修羅のリーダー、紅葉の武装は少々特異だ。背部ユニットから伸びた巨大な真っ赤な豪腕、炎のように揺らめく刃紋の大太刀。四本腕の怪物といった印象を相手に与える彼女はその二対の腕と四刀流を器用に、そして豪快に操り敵をバラバラに切り裂く。
「二対一でも文句を言うなよ?」
もう一人の牡丹はその巨大な拳を眼前で何度も打ち鳴らす。ドクロを連想させるそのナックルは非常に高い硬度を誇り、敵を粉々にするだけでなく防御にも有用だ。そして全身を覆う骨のような意匠の装甲はパワードスーツの役割も果たし、その身体能力を飛躍的に向上させる。
「……いいから、早く」
陽炎の少し面倒くさそうな言葉にカチンと来たのか、二人は同時に跳ぶ。まずは牡丹が左の連続ジャブで陽炎の行動を阻害、それに合わせ背後に回った紅葉が大太刀での連撃を浴びせていく。
だが陽炎はその行動も予測していたかのようにキッチリと対処していく。牡丹のジャブを初風の刀身で上手くいなし、紅葉の連続斬りを左腕の小型シールドで次々と受け止めてしまった。
「……ほう!」
「言うだけのことはある!」
さらに陽炎は左手に大剣を、右手に初風の二刀流のままその場で大回転する。まるで竜巻のような旋風を巻き起こし、さすがの紅葉と牡丹も一旦退かねばならなかった。
「……まずはそっちの……四本腕の人から」
何を思ったのか、陽炎は大剣を思い切り紅葉の方へと投げつける。もちろん紅葉は背中から伸びたパワーアームで大剣を薙ぎ払ってしまった。
しかし陽炎は既に次の手を打っていた。両肩にマウントしてある大小の対になっているブーメランを投擲、さらには素早い動きで一気に間合いを詰めたのだ。
「チッ!」
空いている大太刀で左右から挟撃を仕掛けるブーメランを防ぐ。が、それでは真正面から飛び込んでくる陽炎に対処できない。そう瞬間的に判断した紅葉は大胆な行動へと出た。
「牡丹!」
「ああ!」
その場で背部ユニットをパージした紅葉は被弾覚悟で陽炎へと突進する。パワーアームの分だけ身軽になった彼女はどうにか陽炎の攻撃を躱すことに成功した。そして、直線上で構えていた牡丹の下へ飛び込む。
「行くぞッ!」
牡丹は思い切りその拳を振りかぶり、紅葉へと殴りかかる。瞬間、紅葉は空中で反転し、牡丹のスカルナックルを足場……いやロケットの発射台のようにしてその軌道を強引に変えてしまった。全身のバネと牡丹の打撃力を推進力に変え、陽炎の背後を襲うつもりなのだ。
「……それも、見切って……ッ?!」
紅葉と牡丹の連携攻撃を予測どおり迎撃しようとした陽炎は、いつの間にか自身が拘束されている事に気付く。見れば、先程紅葉がパージしたパワーアームが陽炎の両腕をしっかりと掴んでいるではないか。このアームはパージしたとしても一定の範囲内であれば紅葉の自由自在に操作出来るのだった。
「椿の二の舞にはならん! 覚悟ッ!」
「……!」
拘束され身動きが出来ない陽炎。そして両手に持った大太刀で襲いかかる紅葉。
観客の誰もが、チーム・阿修羅のマスターもドールも勝負あったと確信した。
だが。
『陽炎、キャストオフ』
「了解、マスター」
陽炎のマスターである秋華の命令に従い、彼女のAIプログラムは規定通りに動きだす。そして陽炎の全身に装備された装甲群に幾何学模様の亀裂が走り、そこから光が漏れ出た。
「なっ……?!」
まばゆい光が走ったかと思うと、紅葉は目の前にいた筈の陽炎を見失っていた。そこには紅葉の武装であるパワーユニットと陽炎が身に纏っていた装甲パーツだけが残されており、彼女の姿はどこにも――――
「ぅあッ!」
背後にいる牡丹の短い悲鳴と、何かを切り裂く音。大太刀を地面に突き立て急制動を掛けた紅葉は咄嗟に後ろを振り向く。
「牡丹!」
そこには、牡丹を一撃の下に斬り伏せた陽炎がいた。装備していた装甲と武装を全てパージし、局部を最低限隠せるだけのあられもない姿だが、少しの隙も見せない戦闘態勢を保ち続けている。
紅葉はすぐさまパージした背部ユニットとパワーアームを接続しなおそうとするが、ユニットからの信号が来ない。よく見れば背部ユニットの接続部位がズタズタに斬り裂かれているではないか。
あの時、陽炎は全身の装甲をキャストオフし、パワーアームに掴まれていた腕を振りほどいた。そして手にしていた初風で背部ユニットを破壊、装甲を全て脱ぎ捨てて得た速度を以って牡丹を強襲したのだった。
「くっ……牡丹と椿の仇ッ!」
「……そういうの、いいから」
確かに陽炎の速度は驚異的に上昇している。だがそれは装甲を全て捨て去った故のもの。今の陽炎はちょっとした掠り傷でも大ダメージ必至の危険な状態なのだ。
これを好機と見るのはもちろん紅葉の側。仲間二人にパワーアームと大太刀二振りを失ったが、彼女はまだ少しのダメージも受けていない。対して陽炎の武装は遠近対応のブレード一本のみ、殆ど裸も同然だ。
「やああぁぁ!」
二刀流を振りかぶり真正面から斬り込む。陽炎の速度は確かに侮れないが、落ち着いて対処すればどうにか見切れない速度ではない。むしろこちらは切っ先を当てでもすれば勝てるという状況だ。
「……近接環境ユニット[嵐]、プットオン」
陽炎が落ち着き払った声で呟く。するとキャストオフした時と同じような光が装甲を包み、それらが一直線に陽炎へと飛翔しだした。
「なっ……キャア!」
紅葉が斬り掛かるよりも疾く装甲パーツと各種武装は紅葉へとぶつかりながら陽炎の下へ集まり、そして本来あるべき部位に装着されていく。
(そんな……一度パージした装甲が勝手に装着されるなんて……! まさか、最初からそのようなプログラムを仕込んでいた……?!
それも全ての装甲片一つ一つに?!)
通常、ドールの装甲は任意でパージした後は再装着出来ない。例えば紅葉の背部ユニットのように初めから着脱可能に設計すれば別なのだが、それも先程のように自動で装着する機能までは搭載しない。
というよりは出来ないのだ。
あくまで装甲は装甲。自律稼働するように作ったマスターはこれまでに確認されてはいない。いや、陽炎と秋華が最初なのかもしれない。一体、どのような機構を仕込んだのだろうか。それは彼女たち、チーム・黒風白雨しか知り得ないのだ。
「……これで決める」
無慈悲に、冷酷に、陽炎は死の宣告を紅葉に届ける。装甲片と共に飛来し、再びその手に握られた大剣と初風の二刀流。近接環境に対応したユニット[嵐]の性能をフルに発揮するべく全身のスラスターを限界まで吹かせた。
その名を想起させる突風を巻き起こして陽炎[嵐]は複雑な軌跡を描きながら紅葉へと肉薄する。
「こんな所で私達がッ!」
「…………」
大剣と大太刀が、超高速振動ブレードが、それぞれ激しい火花を散らす。二合、三合と打ち合い、次第にその激しさを増していく。
だが、仲間を倒され思考メモリが圧迫された紅葉の精彩さを欠いた斬撃は、もはや陽炎[嵐]の敵ではない。二振りの大太刀が切り払われ、宙を舞う。
「……うん、ちょっと手強かった。でも、シミュレーション通り」
大剣と初風を交差させた強力な斬撃をまともに喰らい、無防備となった紅葉は天高く吹き飛ばされてしまう。そこへ追撃とばかりにレールガンが二発、三発と撃ち込まれた。恐ろしく正確無比な射撃は残り僅かなHPすら徹底して狩り取ってしまった。
「……ふぅ」
「やほー! お疲れ陽炎!」
「……不知火」
「見てましたよ? あなたにしては少々手こずりましたね」
「黒潮、見てたなら助けてくれてもいい」
音もなく現れる不知火と黒潮と呼ばれた二人のドール。彼女らはチーム・黒風白雨のメンバーだ。
不知火は大きなウイングと大出力スラスターがメインとなった機動性重視の、黒潮は大口径砲と多数のミサイルコンテナをメインとした砲撃戦に特化した背部ユニットをそれぞれ装備している。そしてその基本ユニットは陽炎[嵐]の装備しているユニット[嵐]と酷似していた。
「まあでも、これでこの予選で一番手強そうなチームは倒したし〜?」
「油断は禁物ですよ、不知火」
まるで下校途中の女子高生が「今日の小テスト難しかったね」くらいの気軽さで会話しているが、彼女らの纏っている空気はどこまでも戦闘中のもの。一瞬たりとも気を抜いてはいない。
「さ〜て、残りの敵チームもサクッと倒しちゃいますか!」
「あんまり相手を見くびっていると足元すくわれますよ?」
「ニャハハ! そん時は空飛んで逃げるからいいもーん!」
「…………」
寡黙な陽炎、お調子者の不知火、礼儀正しい黒潮。てんでバラバラな三人だが、その実力はもはや疑うべくもないだろう。
この時点で既に8。
チーム・黒風白雨が撃破したチーム数。それも単独で、だ。
全くの無名、完全なダークホース。誰がこのチームの強さを見抜いていたか。否、黒風白雨のメンバーのみがその実力を信じていた。
そして残るはたったの5チーム。果たしてチーム・ブロッサムメイツは無事に予選通過出来るのだろうか?
「えっ?! 私の活躍は?!」
「叢雲が虚空に向かって話してる。とうとう壊れた?」
「ふ、二人共! 余所見しないで敵を探してくださーい!」




