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第四話「廃校? なにそれ美味しいの?」

第四話


「ま……待ってヴェルグ! 修行で覚えたバトルドール・エネルギーの効果よ! 一か八か、あれをやってみるしか吹雪を救う方法は無いわ!」


「……?! まさか……いや、あれなら可能性はある」


「今よ、ヴェルグ! 負のバトルドール・エネルギーを心臓に!」


「了解。叢雲は正のバトルドール・エネルギーを」


「叢雲が吹雪の身体全体に流したのははじける正のバトルドール・エネルギー! 対してヴェルグが心臓に流したのはくっつく負のバトルドール・エネルギー! つまり吹雪の心臓はバトルドール・エネルギーがプラスマイナスゼロ!」


「たまらず逃げ出したわ!」


「叢雲、早く止めを……」







「オメー等、なに茶番を繰り広げてるデスか?」


「あ、先生! こんにちはー!」


 部室の床に寝転がっていた吹雪が勢いよく立ち上がり、今しがたやってきた先生へと元気よく挨拶をする。しかし、そのせいで彼女の身体にしがみついていた叢雲とフレイスヴェルグが空中へと放り投げだされてしまった。


「ちょっと! 危ないじゃないのよ!」


「シュタっと着地。ヴェルグちゃんは無傷」


「あ、ゴメンゴメン!」


「先生こんにちは。今のはアプリで読んだ昔の漫画にハマって、そのシーンを再現して遊んでました」


「あぁ〜、はいはい、あの漫画デスね。今は確か第15部やってるんデスかね。あの漫画家、いったい何歳なんデスか……」


「先生も知ってるんですね! 先生はどのキャラが好きですか? 私はドノヴァ……」


「みんな〜! ちょっと聞いた〜?!」


 ガラガラと勢いよく部室の扉を開けたのは真理だった。ここまで走ってきたのか、息が少しあがり柔らかい髪の毛が少し乱れている。普段の彼女らしくない、やけに焦った様子でどうしたのだろうか。


「真理センパイ! どうしたんですか? そんなに慌てて……」


「……その様子だと、一年生にあの噂は広まってないのね〜?」


「今の所、特段に気を引くような噂は聞いてませんが……」


 吹雪と真理はここ最近のクラスで聞いた話題や噂を頭の中で反芻するが、次の授業で小テストがあるだとか、駅前に出来たカフェがオシャレだとか、そういう類のものしか思いつかない。いくらなんでも真理がここまで大騒ぎするような話題ではないはずだ。


「あー、愛宕。その話は止めとくデス。下手に広がると全校生徒が不安になるデスよ」


「あら〜? 先生がそう言うってことは……かなり信憑性が高まってきたわね〜?」


 少し息も落ち着き、手ぐしで髪を整えていた真理は抜け目ない洞察力を発揮する。


「……ハイ、もうその話は終わりデス。お前ら学生は早く部活に勤しむデス」


「えー?! 先生、知ってるんですかー? おーしーえーてー!」


「真理先輩、一体どんな噂なんですか? これでは気になってしまいます」


「そうね、なんとなく関係なさそうな私も気になるわ!」


「マスター、ここはヴェルグちゃんが偵察に行って来たほうが良い?」


 真理と先生の意味深なやり取りのせいで、叢雲とフレイスヴェルグまで興味を持ってしまう。しかし、先生はそれでも言いたくないらしく、プイと顔を背けてしまった。


「先生〜どうせ明日くらいには皆の耳にも入っちゃうと思うわよ〜? それだったら別にここで喋っちゃっても構わないんじゃなーい?」


「うう……むデス。仕方ないデスね……私が説明するデス」


 よほど喋りたくないのか、先生の表情は浮かないままだ。そのあまりの雰囲気に思わず吹雪と美空は姿勢を正してしまう。


「愛宕の言う通りデスね、明日にはきっとこの学校の生徒や関係者にも知られる事デス」


 と、軽く前置きする先生。そして一度、スゥと息を吸い、そして吐く。






「この桜ヶ丘第一高等学校が来年度には()()になるかもしれないデス」





「は……?」


「廃校……?!」


「廃校? なにそれ美味しいの?」


「廃校とは何らかの理由により学校を閉鎖すること。その理由は多岐に渡るがここ最近の事例を分類すると、主に玲和(れいわ)の大合併と呼ばれる市町村合併による予算の削減、そして昨今のオンラインスクールの台頭による生徒数の減少などが挙げられる」


 驚く二人を他所に、フレイスヴェルグが冷静に解説するという少しシュールな状況。だが、その説明は叢雲しか聞いておらず、他の面々は改めて事の重大さを噛み締めている。


「そん……な、廃校だなんて聞いてないですよ?! え? 来年から私達、女子高生じゃなくなるの?!」


「吹雪さん、落ち着いて。おそらく私達は近隣の学校に振り分けられる……筈です」


「ほんと、急な話よね〜。来年、受験生の私達はいい迷惑よ〜!」


「ちょっ、ちょっとお前ら! 待つデス! よく聞くデス! あくまで廃校は()の段階デスよ! 他にも沢山の学校が候補に挙がってて、その中の一つにうちの学校が含まれてるって話デス!」


「ほっ、なんだ……それならそうと言ってくださいよ……心配して損しちゃった!」


「でも先生〜? それだと完全に廃校の可能性を免れてるってわけじゃ無いんでしょう?」


「真理先輩の言う通りです。その説明だとあまり楽観視はできない状況に思えます」


「うっ……そりゃ、そうなんデスけど……」


「えぇっ?! や、やっぱり廃校になっちゃうの?! どっちなの?!」


「あんた、ちょっとは落ち着きなさいよ。私の()マスターがそんなみっともない恰好を見せないで頂戴な」


「そ、そうは言っても……叢雲ちゃーん!」


 たまらず叢雲に飛び付く吹雪。だが軽くあしらわれてしまい、彼女はドール用の武装や工具を置いている机に突っ込んでしまった。


「でも実際の所、どうなるのかしらね〜?」


「話を聞くだけだと、イチ高(桜ヶ丘第一高校)は危ないかもしれませんね。私達が受験した時の倍率は1.05倍の定員ギリギリだったそうですから……廃校の基準が何かにもよりますが、生徒数が集められないのはピンチでしょう」 


「それに加え、全国偏差値もさして良いわけでもないデスし、何かしら部活の強豪でもなし……デス。ごく普通の公立高校はそこが辛いデス」


「先生、さっき廃校はまだ案の段階って言ったわよね〜? 先生はどこまで知ってるの〜?」


「……1教員である私らに降りてくる情報なんて、たかが知れてるデス。文科省と県の教育委員会が廃校についての計画を話し合ってるって事くらいデス」


「……本当は〜?」


「うっ……デス」


 ニコニコ顔の真理だが、一瞬だけその瞳が怪しく光る。傍目にはほわほわとした雰囲気を纏っている彼女だが、時折鋭い視線を放ってくる事を知っている先生はまたも大きなため息をついた後にポツポツと話し始めた。


「廃校候補に挙がってる学校のリスト、それに伴う学校の統廃合と概要、それからこの廃校案が浮上した理由デス。これで全部デスよ!」


「廃校の理由……それって、なんなんですか?」


 机に突っ込んでいた吹雪はいつの間にかそこから抜け出しており、床にペタリと座り込んだまま叢雲と共に静かに話を聞いていた。


「……さっき、ヴェルグちゃんが言ってた通り、デス。大都市圏への人口集中による地方の過疎化、もう何十年も問題になってる少子高齢化……あと、一番の理由はオンラインスクールが普及した事による就学人口の減少デスね」


「オンライン……スクール」


「ニュースでもやってたわね〜。オンラインスクールが高校や中学校と同じ扱いになって、学校そのものに通う生徒数が減ったって~」


「ええ、オンライン上で授業を受け、課題を提出することで単位を取得。そして学習指導要領に規定される教科の単位を全て取ればそれぞれ中学、高校卒業資格が得られる制度ですね」


「うん……。私は小学校の半分と、中学がオンラインスクールだったんだ。ほら、家庭の事情や病気なんかで他の人達みたいに通学出来ない人には便利な仕組みなんだよね」


 美空は入学式の日、吹雪が言っていた親の仕事による都合で彼女がオンラインスクールで勉強していた事を思い出す。確かに通信インフラが整っている昨今、家に居ながら一定レベルの授業を受けられるとあってはオンラインスクールを選択する生徒も多くなるのは道理だ。


 家庭や本人の都合の他、オンラインスクールで勉強しつつアルバイトや企業へのインターンシップで実社会へのスキルを身に付ける者もいるという話だ。それほどまでに現在の日本ではオンラインスクールというものは浸透していると言える。


「ふーん? 要するに、学校に通う必要が無いのね? それなら私でもその()()()()()()()()()とやらにするわよ」



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