↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/13

第三章①【銀の真白】

 昨日の一件から一夜が明けた。

 初めて惑星エリシアへ降り立ち、本来の目的であったルミナリスの採取そのものは問題なく達成したものの、その帰路で待っていたのは安全圏にいるはずのない大型原生生物——バルクレッサーとの遭遇。それも一頭ではなく、まさかの二頭。救難信号を受けて駆けつけた先での戦闘はカナタ・アキトが事前に思い描いていた初任務とは大きく掛け離れたものになってしまった。

 それでも大きな負傷者を出すことなく生還し、依頼も達成した。

 そして何より、マスターライセンス保持者であるシャーロット・アッシュフォードから今後も行動を共にする意思らしきものを引き出すことが出来た。

 ——らしきもの、というのが問題なのだが。


「……多分、認めてもらえたんだよな?」


 中央居住区へ続く通路を歩きながら青年は誰に聞かせるでもなく呟いた。

 今日は惑星への降下予定はない。

 昨日の実戦を経た身体と精神を休ませることを優先しつつ、活動記録の整理や今後の方針について話し合う。シャーロット曰く、互いに何が出来て何が出来ないのかを把握し、今後の連携を考えるための一日にするらしい。

 少なくとも次がある前提で話していた以上、自分の実力はある程度認められた——はずだ。

 巨獣を倒した後にも「よくやった」と言われ、及第点という言葉まで貰い、その後も明日の予定を指定された。

 客観的に考えればこれ以上なく分かりやすい。

 なのに。


『調子に乗らないことね』

『常に最悪を想定して慎重に行動する』

『発言にも慎みを持ちなさい』


 最後に浴びせられた言葉だけを思い返すと、途端に自信がなくなる。


「……歯応えがないんだよなぁ」


 褒められているのか、釘を刺されているのか、はたまた期待されているのか、単に使えないほどではないと判断されただけなのか。

 シャーロット・アッシュフォードという人間の評価基準がカナタには未だに掴み切れない。

 考えようでは昨日のバルクレッサー戦ですら及第点なのだ。ならば彼女にとっての満点とは一体何なのか? 考え始めると朝から気が重くなるため、彼はそれ以上の思考をやめた。

 もっとも彼女が慎重になること自体は正しい。昨日発生した異常事態は既に二人だけの問題ではなくなっていた。

 バルクレッサーとの遭遇から数時間後にはAEGIS所属隊員全体へ注意喚起が回っている。本来ならフロンティアセクターA・B・Cより外側に生息しているはずの大型原生生物が安全圏内部で確認されたこと。しかも二頭同時に行動していたことを受け、既存の危険度情報を過信せず、降下時には周辺警戒を徹底するよう通達されていた。

 その影響なのだろう。今日のアステリア艦内は昨日までとはどこか雰囲気が違って見えた。

 カナタが今歩いている中央居住区へ続く区画は単なる艦内通路と呼ぶにはあまりにも広い。長期航行を前提として造られたアステリア内部には人々が生活するための空間が一つの小さな都市のように組み込まれている。幅の広いメインストリートを中心に複数の通路が枝分かれし、両側には飲食店や生活用品を扱う店舗、休憩スペース、各種サービス施設が並んでいた。その上層にも通路が走り、吹き抜けを挟んだ二階、三階部分を人々が行き交っている。

 頭上は遥か高い。無機質な金属板だけで覆うのではなく、天井部には広範囲に照明設備が組み込まれ、時間帯に合わせた光量によって昼夜の感覚が再現されている。今は日中を模した柔らかな白い光が降り注ぎ、場所によっては植栽まで配置されていた。

 当然ながら本物の都市ほど広大ではない。少し視線を上げれば構造材や配管の一部が見え、区画の境界には隔壁も存在する。遠くには各ブロックを示す案内表示が浮かび、一定間隔で設置された情報端末には艦内施設や運航情報が流れていた。

 それでもここで生活する人間にとっては立派な街だった。

 AEGISや艦の運用に関わる人間だけではない。

 技術者や研究者。医療関係者に物資管理を担う者。そして惑星エリシアの開拓が本格化した先に自分たちもそこへ移り住むことを見据えてアステリアへ乗船している民間人たち。

 様々な立場の人間が同じ空間を行き交っている。

 だからこそ——変化は分かりやすかった。


「昨日の話、本当なのか?」

「安全圏で出たって……」

「調査区域の見直しが入るんじゃないか?」


 すれ違う人々の会話が時折耳へ入ってくる。

 AEGIS内部の詳しい報告内容まで共有されているはずはない。だがどこからか話が漏れたのか、それとも昨日の救助騒ぎから噂が広がったのか。少なくとも「エリシアで何かが起きた」という程度の情報は既に民間人の間にも伝わり始めているらしい。

 足を止めて話し込む者。通路に設置された情報表示へ何度も目を向ける者。何事もなかったように日常を送る者も当然多いが、その表情の端々には昨日までより僅かな不安が混ざっているように見えた。

 無理もない、と彼は思う。惑星エリシアに関して人類が受け取った知らせは決して明るいものばかりではなかった。新たな開拓地として期待され、FOUによる先遣調査が進められた。観測基地と生活区画を兼ね備えた開拓拠点が築かれ、居住実験、農業試験、資源採掘、環境分析——様々な計画が進行していた。

 それが三年前でFOUは消息を絶った。そして今回、新たに派遣されたAEGISが調査を開始した矢先、安全圏で本来なら存在しないはずの危険な原生生物まで確認された。

 これでは不安になるなという方が難しい。

 エリシアは美しい。カ青年自身昨日初めて降り立った時にそう感じた。

 どこまでも広がる森林。澄んだ空気。豊かな水。多種多様な生命。人間が呼吸器具なしで活動できる環境。新たな移住地という言葉に相応しい条件を確かにあの惑星は備えている。

 しかし——人間が生きられることと、人間が安心して暮らせることは同じではない。

 昨日身をもって思い知らされた。

 自然は人類の都合に合わせて安全になどなってくれない。美しい森林の中には毒を持つ植物があり、水辺には人間へ害を与える生物が潜み、そのさらに奥にはバルクレッサーのような大型捕食者まで生息している。

 それらを一つずつ調べ、危険を把握し、安全な場所を増やしていく。そうして初めてエリシアは人類にとって本当の意味での新天地となる。

 星暦九十二年。人類が本格的に宇宙へ生活圏を広げ始めてから考えれば決して長い年月ではない。今ここにいる人間たちがその完成形を見ることが出来るのかさえ分からない。

 エリシアへ大勢の人間が移り住み、そこで生まれた子供たちが何の不安もなく空の下を歩き、それを当たり前の日常として受け入れる。そんな未来へ辿り着くまでにはおそらく途方もない時間が必要になる。

 何十年か、或いはそれ以上か。

 少なくとも今日明日で成し遂げられる話ではない。

 だからこそその時間を少しでも縮めるために自分たちがいる。

 安全な場所を探す。危険なものを見つける。地図を作る。生態系を調べる。異常があれば持ち帰る。そして次に降りる者へ情報を残す。

 一つひとつは地味かもしれない。だがその積み重ねの先にしか人が安心して暮らせる場所は生まれない。その進み方がどれほど速く、そしてどれほど確かなものになるか。

 少なくとも現段階では——AEGISの働きに掛かっている部分は大きい。


「…………」


 漆黒のルーキーは行き交う人々を眺めながら歩き続ける。昨日までは自分がエリシアへ降りることばかり考えていた。

 未知の惑星を自分の目で見てそこで調査をする。そして任務を達成する。それだけで頭がいっぱいだった。

 しかし一度降りて帰ってくると、少しだけ見え方が変わった。

 自分たちが持ち帰る情報一つで、ここにいる人間たちの未来まで変わる可能性がある。

 昨日のバルクレッサーの件などまさにそうだ。

 もし誰も遭遇せず、もし遭遇した者が帰還できず、安全圏だから大丈夫という認識だけが残っていたなら、次に降下した誰かが同じ場所で命を落としていたかもしれない。


「……責任、結構重いんだな」


 今さらながら実感する。

 そんなことを考えながら歩いているとふと一人の女性の姿が頭へ浮かんだ。

 紫紺の長髪と切れ長の紺色の瞳が特徴的で冷静で、手厳しい。何かにつけて安全を優先するマスターライセンス保持者。


「そこんところ……彼女はどう考えているのかな?」


 彼は小さく呟いた。

 シャーロット・アッシュフォード。昨日一日だけでも彼女が目先の成果だけを求める人間ではないことは分かった。

 時間に余裕があっても無理に調査を続けない。成果より生還を優先する。想定外が発生すれば即座に計画を切り替える。そして帰還した直後から次の活動を見据えて所要時間まで計算していた。

 ならば、彼女はもっと先をどう見ているのだろう。

 エリシアの調査。FOUの捜索。その先にある開拓。

 そして——人類がこの惑星へ根付いていく未来。

 ただ父親を探し出すことだけを考えているのか? それともそのさらに先まで何かを思い描いているのか?

 昨日までは彼女についていくだけで精一杯だった。

 だが今日は違う。

 戦うために会うわけではない。依頼を達成するためでもない。互いの考えを知るための時間がある。


「……ちょっと楽しみになってきたな」


 不安が消えたわけではない。

 何を言えばまた辛辣な言葉が返ってくるのか分からないという別方向の緊張も相変わらず残っている。

 それでもカナタは昨日より僅かに軽くなった足取りで中央居住区を進んでいく。

 吹き抜けの向こうには幾層にも重なる艦内の街並みが広がり、その中を無数の人々が行き交っていた。

 その景色を横目に、カナタ・アキトはこれから会う紫紺の女性がどれほど先の未来を見据えているのか——少しずつ興味を募らせていた。

 そうして中央居住区の待ち合わせ場所へ向かいながら、青年が彼女との話し合いに思考を巡らせている——その時だった。


「あっ——」


 前方から、小さな声が聞こえた。

 ほとんど同時に。


「ひゃっ……!?」


 何かが床へぶつかる鈍い音。


「……ん?」


 カナタは足を止めた。

 少し先。中央居住区を行き交う人々の間で一人の女性が盛大に転んでいた。

 白銀の長い髪が床へ広がっている。腰までどころか、そのさらに下まで届きそうな長髪は光を受けるたび淡い銀色の濃淡を作り、毛先には僅かに青白い光が反射していた。

 身長はかなり低い。小柄な身体を包んでいるのは白と黒を基調としたAEGISの装備だった。

 身体に密着する黒いインナースーツ。その上から白を主体とした軽量装備を纏い、各部にはエリシアでの活動を想定した小型端末や装備品が取り付けられている。ところどころを走る青白い発光ラインが白銀の髪と相まってどこか儚げな印象を強めていた。

 そして転んだ拍子に手放したのだろう。彼女の傍らには一本の長大な装備が転がっている。

 杖——。最初に見た印象だけならそう表現するのが一番近い。

 ただもちろん単なる杖ではない。人の背丈ほどある細身のシャフトは白銀色の複合素材で構成され、内部には細かな青色の発光ラインが走っている。その先端には複数の金属環が重なるように配置され、中央には淡い光を宿した結晶状の機関部が浮かぶように保持されていた。

 機械式の長杖——強いて分類するなら、《スタッフ型デバイス》とでも呼ぶべき装備だろう。

 少なくとも歩行補助のために持っている代物には見えない。明らかにAEGISの活動用装備だ。


「……AEGIS?」


 カナタは思わず呟いた。

 装備を見る限りまず間違いない。

 だが——だからこそ少し驚いた。


「いたた……」


 転んだ本人はというと、床に座り込んだまま打ちつけた膝を両手で押さえていた。

 潤んだ水色の瞳。僅かに下がった眉。痛みを堪えているのか、唇をきゅっと結んでいる。長い白銀の髪には黒いリボンが添えられ、その容姿も相まって、随分と幼く見えた。


「(……若いな)」


 カナタは少し面食らう。

 もちろんAEGISに所属している以上、外見だけで判断するべきではない。実際昨日一日だけでも人の能力は見た目やライセンスだけでは判断できないと散々思い知らされた。

 それでも——。


「うぅ……」


 涙目になりながら膝をさすり、どうしたものかと困ったように周囲を見回している姿を目の当たりにすると、どうしても年下の少女を見ているような印象を受けてしまう。

 しかもどうやら転んだ恥ずかしさまで後から追いついてきたらしい。通行人が何人か振り返ったことに気付くと、女性はますます身体を縮こまらせた。


「…………」


 青年は一度、進行方向を見る。

 待ち合わせがある。紫紺の女性からは昨日はっきりと言われている。


『遅れないことね』


 その言葉を思い出すと、このまま何も見なかったことにして歩き去るという選択肢も——。


「……いや、無理だな」


 ない。転んで膝を打ち、涙目で困っている人間の横を素通りするほど、彼は割り切れなかった。

 それに数分程度なら問題ない。

 青年は進路を変えると彼女のもとへ小走りで駆け寄った。


「大丈夫か?」

「……え?」


 不意に声を掛けられ、女性が顔を上げる。

 間近で見るとやはり幼く見える。白銀の髪の隙間から覗く淡い水色の瞳が不安そうにカナタを見上げていた。

 彼はそんな彼女の前で少し屈むと——。


「立てそう?」


 ごく自然に片手を差し出した。


「……あ、ありがとう、ございます……」


 差し出された手を見つめながら、白銀の少女——に見える女性は消え入りそうな声で礼を口にした。

 一瞬だけ躊躇してから恐る恐るカナタの手を取る。


「よっと」

「わっ……」


 東小国の彼が軽く腕を引くと、小柄な身体は思いのほか簡単に持ち上がった。

 立ち上がった彼女は一度ふらついたものの、すぐに体勢を整える。だが膝を強く打ちつけたせいか、最初の一歩を踏み出したところで僅かに顔をしかめた。


「……痛む?」

「す、少しだけ……です」

「なら、一応確認した方がいいな」

「だ、大丈夫だと思いますけど……」

「そう言って後から腫れてきても困るだろ」

「は、はい……」


 素直というべきか、押しに弱いというべきか。

 カナタが近くを指差すと彼女は小さく頷いた。

 中央居住区の大通り沿いには通行人が自由に利用できる簡易的な休憩スペースがいくつも設けられている。背の低い植栽で通路と緩く仕切られた一角に、テーブルと椅子が数脚。すぐ近くには飲料用の自動販売端末や艦内案内を表示する情報パネルもあり、待ち合わせやちょっとした休憩に使われている場所だった。

 漆黒のルーキーは転がっていたスタッフ型デバイス——ロングスタッフを拾い上げる。


「これも持っていくぞ」

「あっ……す、すみません」

「いや、これくらいは」


 見た目以上にしっかりした重量がある。

 やはり単なる杖ではないらしい。先端部に配置された複数の金属環。その中心に保持された結晶状の機関部。細身ながら内部には何らかの機構が詰め込まれているようで、手に取ると独特の重心を感じる。

 それを本人へ返してから二人は休憩スペースへ移動した。


「とりあえず座って」

「はい……」


 女性は椅子へ腰掛ける。

 カナタも向かい側へ立ち、彼女の様子を確認した。


「足首は?」

「大丈夫です」

「他にどこかぶつけたりは?」

「いえ……たぶん、膝だけです」

「歩けてたし、捻ってもなさそうだな」


 幸い大した怪我ではなさそうだった。

 転倒した時に膝を強く打ちつけただけで出血もない。

 念のため本人も確認しようとしたのだろう。


「えっと……」


 彼女は何の躊躇もなく、自分の脚へ手を伸ばした。

 白を基調とした長い脚部装備の上端へ指を掛けると、固定しているベルトを緩め、膝周りが見えるところまでずらそうとする。


「——っ」


 青年は反射的に顔を逸らした。


「(いやいやいや……!)」


 怪我の確認なのは分かる。分かるのだが、丈の短い戦闘装備に太腿まで覆う長い脚部ウェア。それを留めるベルトまで平然と緩め始められると、こちらとしてはどこを見ていればいいのか分からない。

 当の本人にはそんな意識がまるでないらしい。


「……赤くなってますけど、腫れてはいないみたいです」

「そ、そうか」

「はい」

「……なら良かった」


 彼は明後日の方向を向いたまま答える。

 しばらくして衣擦れの音が止んだため、恐る恐る視線を戻した。

 彼女は既に装備を元へ戻している。


「…………?」


 そして何故か首を傾げていた。


「どうかしましたか?」

「いや……何でもない」

「そうですか?」

「ああ」


 どうやら本当に分かっていない。


「(羞恥心の基準が分からないな……)」


 転んだところを見られただけであれほど恥ずかしそうに縮こまっていたのに、怪我の確認となれば人前でも平然と脚部装備を緩める。

 恥ずかしがり屋なのか無頓着なのか、数分前に出会ったばかりのカナタにはまるで判断がつかなかった。

 とはいえ、怪我がないならそれでいいと気を取り直す。


「そういえば、まだ名前も聞いてなかったな」

「……あ」


 向こうも気付いたらしい。

 カナタは軽く自分の胸元を指差した。


「俺はカナタ・アキト。AEGISのルーキーだ」


 それから彼女の服装と傍らへ立て掛けられたスタッフ型デバイスを見る。


「君もAEGISのメンバーだろ?」

「あ、はい」


 女性は慌てたように背筋を伸ばした。


「私は、リーゼロッテ・ノルドです。同じくルーキーライセンス所持者です」

「リーゼロッテ・ノルド……」

「はい」


 青年は名前を頭の中で繰り返す。

 やはり——覚えがない。もっともそれ自体は何も不思議なことではなかった。アステリアを活動拠点としている以上、AEGIS同士が中央居住区で偶然顔を合わせることなど珍しくもない。だからといって所属している人間全員と面識があるわけではない。

 カナタ自身、訓練期間中に関わった人間は限られている。訓練内容によっては男女で使用する区画や時間帯が分けられることもあり、直接顔を合わせる機会が少ない相手もいる。同じルーキー同士であってもよほど交友関係が広い人間でもなければ全員の顔と名前を一致させるのは難しい。ましてやリーゼロッテは——見るからに目立つことを好む性格には思えなかった。

 シャーロットほどの実力者なら話は別だ。

 マスターライセンス保持者。仮想シミュレーションでも高い成績を残す人間となれば直接交流がなくとも名前くらいは自然と耳へ入ってくる。しかし目立った噂を聞かないルーキーとなればそうはいかない。


「(ノルド……か。やっぱり聞いた覚えないな)」


 そしてそれは向こうも同じだったらしい。


「カナタ……アキトさん」


 彼女は確認するように彼の名前を口にする。


「うん」

「……すみません。私、あまり他の方のお名前を知らなくて……」

「いやいや、謝ることじゃないって。俺だって君のこと知らなかったし」

「そ、そうですか……」


 ほっとしたように肩から力が抜ける。

 同じAEGIS。同じルーキーライセンス。それでも今日まで互いの存在をほとんど知らなかった二人。カナタにとってリーゼロッテ・ノルドとの出会いは——中央居住区の片隅で、彼女が盛大に転んだところから始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。