プロローグ
人類は文明を進化させ続けた。
大地を越え、海を越え、空を越え——ついに宇宙へ辿り着く。
やがて新たな時代は星暦と呼ばれ、人類は数え切れないほどの技術革新を積み重ねていった。
しかし、その繁栄は永遠ではなかった。
母なる星を支えてきた資源は長い年月の果てに限界を迎える。
人類は存続を懸け、新たな故郷を探す壮大な計画——エリシア移民計画を始動した。
星暦89年。
人類はついに一つの未開拓惑星を発見する。
後に『エリシア』と名付けられる、その星を。
それから三年。第一開拓観測団FOUによる調査は人類の想定を大きく上回る成果を残していた。
エリシアは母なる星と極めて近い重力と大気組成を有し、豊かな水資源と広大な植生域を持つ惑星だった。生態系は未知に満ちていたものの、人類の活動を阻害するほどの脅威は確認されておらず、移住候補地としての評価は極めて高い水準に達していた。
地表には観測基地と生活区画を兼ね備えた開拓拠点が建設され、居住実験や農業試験、資源採掘、環境分析など、あらゆる調査が順調に進められていた。
発見された新鉱物や植物資源は、母なる星の資源問題を解決し得る可能性を秘めており、エリシア移民計画は正式な実施へ向けて着実に歩みを進めていた。
人類は確信していた。この星こそが、新たな故郷になるのだと。
だからこそ、その報告は誰の予想もしていなかった。
エリシア地下深部に存在する広大な空洞構造。惑星規模の探査でも確認されていなかったその空間は、地下数千メートルに広がる巨大な空白領域として観測される。その規模は一つの都市が収まるという表現では足りない。あたかも惑星の内部に、もう一つの世界が存在しているかのようだった。
第一開拓観測団FOUはその未知の領域に対する本格調査を開始する。
探査は順調に進み、地下空洞は想定を遥かに超える広大な空間であることが判明した。
地下には独自の生態系が形成されている痕跡が確認され、未知の鉱物資源や人工物を思わせる異質な構造物も各地で観測される。その発見は人類史に残る大偉業になると誰もが信じて疑わなかった。
しかし、その調査記録はある瞬間を境に途絶える。
地下空洞最深部において、それまで観測されたことのない超高密度エネルギー反応が突如発生したのである。その反応は一瞬にして地下全域へ広がり、地上観測基地の計測機器は未曾有の数値を記録した。
直後、地下へ進行していた探索隊との通信はすべて同時に途絶する。
応答はなかった。
映像も、生命反応も、位置情報も。
地下に展開していた全部隊との連絡が、 完全に失われたのである。
さらにその異変は地下だけに留まらなかった。
それまで安定していた地表の生態系にも異常が確認される。温厚であった原生生物は突如として凶暴化し、各地で原因不明の集団行動を開始。観測基地周辺でもこれまで確認されていなかった異常な活動が相次いで報告された。
第一開拓観測団FOUは事態を単独で収束させることは不可能と判断する。
そして人類史上初となる惑星規模災害として緊急事態を宣言。
母なる星への詳細な調査報告と救援要請は、エリシア移民計画の中核を担う超大型移民艦——アステリアへ送信された。
その報を受けたアステリア司令部は本格的な移民計画を一時保留とする決定を下す。
惑星で発生した異常現象の原因究明。そして消息を絶った第一開拓観測団FOUの救援を最優先事項としたのである。
超大型移民艦アステリアは直ちに進路を変更。
未開拓惑星エリシアへと向かい、その上空への到達と同時に未知の惑星での調査・戦闘・救助活動を専門とするライセンス保有者——AEGISの降下を決定した。
地下深部で観測された超高密度エネルギー反応の正体とは何だったのか。
消息を絶った第一開拓観測団FOUに一体何が起きたのか。
そして、人類が新たな故郷と信じた惑星エリシアには何が眠っているのか。
人類の未来を懸けた未知なる惑星への調査が今始まろうとしていた。




