『初めての年越し計画』
宮本と木崎が付き合い始めて最初の年末です
「迷うな」と木崎が言った。
あと数日で年末年始休暇に入るという晩。彼の家のソファーで寛いでいるところだけど、仕事のことかもしれない。よほど難しい案件らしく、木崎は眉を寄せて空中を睨んでいる。
「なにが?」
「年越し。二年参りと家でまったりテレビ」
「はい?」
思わず聞き返す。真剣な顔でなにを悩んでいるのかと思ったら。
「莉音と過ごす初めての年越しだろ? 思い出づくりを優先するか、煩悩に正直になるか」
「ちょっと待った! 後半、おかしくない? 家でテレビでしょ?」
「それで済むはずないじゃん」
ドヤ顔をする木崎。それから意地悪な顔になる。
「それとも無しで済ませたほうがいいか?」
「……それなら二年参りかな。最後に行ったの、学生のころだし」
「ふうん。ホント、素直じゃねえよなあ」
「いや、でも私、カレシと行ったことないから」
元カレ修斗は、寒い真夜中に行列なんてしたくないという人だった。
真顔になった木崎が距離を詰めてきて、腰に手を回した。
「よし、二年参りな。どこに行く?」
「いいの?」
「莉音の初めてになることが一番重要」
ちゅっとキスされる。
「私を好き過ぎない?」
「なにか問題あるか?」
「……ない」
木崎は空いた手でスマホの操作を始める。
「定番は明治神宮だが、増上寺も東京タワーとの組合せが見栄えがあっていいだろ。それともご利益や御朱印ベースで考えるか。寺か神社か」
「……じゃあ、木崎が行ったことのないところがいいかな」
木崎が手を止め私を見る。
カノジョをと切らせたことのない彼には、恋人とする『ハジメテ』はあまり残されていないだろう。私と違って。
正直、面白くない。
つまらない嫉妬だ。
木崎は気づいてしまっただろうか。
「なら、浅草寺なんかはどうだ」と木崎。「いや、今からホテル取れるか?」
「どこの?」
「京都とか? 神社仏閣がありそうなとこ」
「いや、新幹線が無理じゃない?」
「せっかくだから」
と、高速でスマホを操作する木崎。
「私は近場がいい。二年参りしてさ、ふたりでこの部屋に帰ってきて普通のお正月を過ごすの。特別なのではなくて」
恥ずかしさを飲み込んで、素直な気持ちを伝える。
「……そうだな」木崎がスマホを置く。「俺もそれがいい」
またちゅっとキスをしてくる木崎。
「雑煮とか作っちゃう?」
「ごめん、作ったことない」
「俺も。でもなんとなく分かるし」
「検索して一緒に作る?」
「いいな」
「楽しそう」
「ん」
考えるだけで心が浮き立つ。なにこれ。私、小娘なの? 立派なアラサーだよ?
でもわかってる。
私も木崎を好き過ぎるのだ。
参ったな。年越しなんて何度もやってきたことなのに、今年は楽しみで仕方ない。
《終わり》
※まだ一緒に住んでいません!