盾
退役兵士風のおっちゃんは、ごそごそと荷物の中から小さめな円盾を取り出した。
「持ってみろ」
直径は40センチ程度。鉄の骨組みに木と革が張ってあり、重さは3~4キロ。
裏面にはセンターグリップが付いている。左手でグリップを握る。
「できるだけ自分の体からは離して敵に近付ける。それによって防御範囲が増し、視界はより広く取れる。ただし、手首と肘には遊びを持たせておくように。真っ直ぐにすると衝撃を吸収できないからな」
なるほど。こんな感じかな。
敵に近付けるほど防御範囲が増すというのは、光源に近付けるほど影が大きくなるのと同じ理屈だ。
反対に自分の目の位置から遠ざかるほど視界が遮られる範囲は狭まる。
「敵の攻撃を盾でまともに受けないこと。両手剣の攻撃なんかをまともに受けてたらすぐに盾が壊れるからな。盾は消耗品だからダメージの蓄積による耐久力低下には注意しろ」
「まともに受けないってことは、受け流すってこと?」
「そうだ。剣の力の方向を意識して、できるだけ斜めに当てて逸らす。そうしておいて同時に右手の剣で攻撃する」
「なるほど。盾防御があれば、相手の技中に盾で受け流しつつこちらから攻撃が簡単にできるし、技前でも割合と安心して踏込めますね」
「飲み込みが早いな。それと盾自体での攻撃も出来るぞ。受け流しつつ更に力を加え押し込んで武器ごと敵のバランスを崩したり、盾を敵の体にぶつけて打撃ダメージを入れたりできる」
おお!まさに合気の当て身の発想だ。
ソーシンにゆっくり剣を振ってもらう。縦の振り下ろし振り上げ、水平方向の横薙ぎ、斜めの袈裟斬り逆袈裟。剣の方向を見極めて盾を斜めに当てて受け流す。バランスを崩す。更に踏み込んで体にそっと触れて当て身の感触をつかむ。
なるほど!!
隙を待つ必要がない。どのタイミングでもこちらから仕掛けて、容易に安全に相手のバランスを崩せる。
次に、少しだけ早く振ってもらって、実速に近い状態で盾と片手剣スタイルを試す。
うーん、自分の体から盾が遠くなるほど、支えるのが困難になる。
まともに受けるつもりなら近い方がいいんだ。
剣のヒットポイントを外して受けると衝撃は全然違う。
踏込んで、ヒットポイントよりも根元で迎撃して、かつ、受け流す。
そして受け流しつつ、同時に攻撃する。こうするのが理想形だな。
一通り試して、両手剣スタイルとの長短を考える。
デメリットその1は、盾で自分の剣の動きと視界が制限されること。
剣の動きについては、盾も動かせるし盾自体による攻撃が可能だし、突き技を多目にするなど、慣れれば不便感は薄れそうだ。
視界制限は…1対1ならさほどではないが、複数敵相手の場合は要注意だ。
死角が固定されないように、動きに気を付けることが対策となろうか。
デメリットその2は、剣の扱いが片手になるので、撃ち込みの威力と速度が落ちることだ。
しかし、木刀ならともかくミスリルソードの場合は、切れ味が凄いので片手でも刀身を走らせれば、ほとんど防具に関係なくすっぱり斬れる。
それに、ミスリルはとても軽いから、片手になることよって、より自由にリストを利かせて素早く取り廻せるメリットもあるので、さほど速度は落ちない。
切り返しを、停止からの逆始動ではなく回転運動にすることによって、スムーズな連続動作も可能である。
うん、総合的に判断して、盾と片手剣は、俺がこのミスリルソードで戦う分にはとてもメリットが大きい戦闘スタイルだと言える。
「これはいいですね。さっそく盾を手に入れてみようと思います。それと体の動かし方とか色々試してみます。ありがとうございました。また来ます」
おっちゃんとソーシンに礼を述べて、訓練場を後にする。
*****
その足で防具屋へ向かい、盾を物色した。
手ごろなバックラーでも10gから50gぐらいする。
「うーん、盾は結構高いな。消耗品だって言うし…」
地{そういえば、土魔法で石盾というのを出せるぞ}
火{火魔法にも炎盾があるよ}
「そういうの、もっと早く言ってくれよ」
地{いやー、まず使わんからな。自分でも忘れておった}
火{うん。盾なんか出すより、敵をやっつけた方が早いもん}
街から出て、林の中に入る。ここで魔法の盾を試そう。ここなら人目も気にしなくていい。
うーん、結論から言うと地竜と火竜の盾は、普段遣いには向かなかった。
というのも、地竜と火竜が消えると同時に盾も消えてしまうので、安心して使えないのだ。
あると思ってあてにしていた盾が急に消えたりしたら、危なくって仕方ない。
俺の危機を救うための非常用として自発的に使ってくれるならそれはありがたいが、俺が自分の盾として常用するには適さない。
それよりも、魔法で盾を出すやり方が分かったので、自分で出してみることにした。
「石盾!」
うん、出たよ。ちゃんとグリップも付いている。
持ってみると、軽い!重さをまるで感じない。でもこれ、盾として使い物になるのかな?
試しに石盾で自分の頭を叩いてみる。痛ってー!まさに石で殴られた感触。
手持ちの短剣で石盾に当ててみると、まともに当てると、盾は打撃3回で砕けて消滅する。
盾で敵を攻撃する場合も3回の打撃まで。防御と同様にカウントされる。
斜めに受け流す感じにすると6~10回は持つ。
消費魔力は3。耐久が減少した分を補充して行けば、かなり安全に使用することができる。
あれこれやっているうちに、ひょんなことから石盾が左手から離れた。
「あれ?浮いてる!」
地{当然だ。魔力の盾は、意思の力で支えたり動かしたりできる}
「もっと早く教えてくれー」
地{我が石盾を出したとき、浮いてるのを見なかったのか?}
うーん、そう言えばそうなんだけど。なまじグリップが付いてたからなぁ。
火{透明にもできるけど、ヌシさん、分かってる?}
「え。分かってないよ」
追加魔力1で、盾を透明にできる!
これなら視界が制限されることもない!
意思の力で魔法の盾を自由自在に動かすことが出来る。
しかし手で持った時と同じレベルでの操作するにはもっと練習が必要だ。
それと…手で持たなくてもいいのなら、もしかして?
出た!!2枚同時展開。
3枚でも4枚でも展開可能。
むろん魔力は出した枚数分きっちり消費されるし、複数盾を操作するのは単独盾以上に難易度が高い。
「でもこれで背後を守れる。後ろに目がないから受け流しとかは無理だけど」
地{それなら我が後ろに回って、ほい。視力同調}
「うわっ!!」
こんなことも出来たんだ!地竜の視界が俺の視界に追加された。
結果、視界が360度に広がった。
火{じゃあ、あちしの視力も同調。それ!}
あ、火竜が上方の視界を提供した。
空と雲が見える。これなら上空から攻撃されても対応できるな。
火{こんなんもできるよ}
火竜が少し離れた位置から俺を見る。
自分の周囲360度の視界の他に、別画面のように客観視点の視界が開けた。
なんだこれ!!
あまり欲張るのは良くないな。視界が多過ぎて持て余す。
それに双竜を常時顕現させるには霊力も足りしで、知覚同調による追加視点は1つだけにする。
それでも情報量が多くて、この状態で動き回ると頭がクラクラする。
何と言うか、視界酔い?
地{ははは、慣れだ慣れ。はよ慣れろ}
ちなみに、炎盾は風魔法耐性に優れ、敵に触れれば熱ダメージが入る。
石盾は物理耐性が炎盾より高く、敵への物理ダメージもより高く入る。
炎盾と石盾を重ねて、一枚の石炎盾にすることもできた。
これだと2枚分の丈夫さとそれぞれの特性に応じた防御と攻撃ダメージを兼ね備える。
魔力燃費的には2枚バラと重ねるのとでは差が無い。魔力3×2=6、透明なら8。
バラした方が防御範囲は広い。ただ2枚よりは1枚の方が扱いは簡単だ。
「うーんまあでも、まだ魔力に余力がないし、よっぽどの相手じゃない限り炎盾はいらないかな」
地{ふふふ、そうだろ、そうだろ}
火{ちぇっ。炎盾、カッコイイのに}
「敵が前方だけならいいけど、囲まれた時とか、どこから来るか判らない時は、地竜か火竜の視界を同調させて後方や上方を監視したいね」
火{いいね、普段からそうする?}
「どうしようか?それと接近戦で乱戦の時は、盾は前に1枚、後方に2枚出せるといいかな」
地{うむ、しかし、複数盾の扱いを普段から訓練して熟達しておく必要があるな。贅沢を言えば、空中の敵がいるときは上方用にもう1枚出して、盾4枚体制がよいのではあるが}
取り敢えず、盾4枚、視点ひとつ追加の体勢で、構えてみた。
うひゃー、情報量が多くて大変だ。扱い切れるのかね、これ。
うん?待てよ。この左手……。
もう一本剣が持てるぞ。
短剣を火竜の鍛冶で打ち直して高品質のものに変え、俺の金属加工で、ミスリルソードと同じ長さに変形させてみる。
うーん、射程が同じなので扱い易いけれど、細身の刀身でいかにも折れ易そうだなぁ。
ここは耐久性重視で、射程は短くなるが、もとの短剣に戻しておく。品質は高品位になってる。
ついでに短剣もミスリルソードも「補修」で手入れしておいた。
新品同様の完璧な状態。研ぎたて切れきれだ。
さて、もう一度構えてみる。
二刀流。右手にミスリルの長剣。左手に鉄の短剣。前方に透明の小型石盾。
後方に2枚の石盾。これで背後と頭上をカバーする。後ろに視点を追加。
うん!凄くいい構えが出来た!
しかし、問題は格段に増加した情報量と、盾3枚及び双剣を扱いこなせるかだ。
これはさすがに超取得の素養があっても、一朝一夕で身に付くようなものではなさそうだ。
取り敢えず、立って、歩いて、前後左右に動いて、回転して。
仮想的を脳裡に描いて、少し立ち回りのようなものをして見る。
おっとっと、くらくらして倒れそうになってしまった。
うーん。でも、全く無理だとは思えない。
むしろ慣れれば行けそうな。結構良さげな。
いや、凄くいいはずなんだが?
もう少しイメージトレーニングをしたら、ちょいと森の中に入って、弱めの魔物相手に実戦訓練と行ってみようか。




