タグの街
武装隊商を無事にやり過ごした後、しばらく街道沿いの草原を進む。
2~3時間に1隊程度の頻度で同様の武装隊商が通過する他は、通行人はいない。
この状態だと、俺が一人でとぼとぼ歩いているのはかなり異様な雰囲気であることは否定できない。
その夜は街道から少し離れた森の中で樹上ベッドを作って快適に眠った。
翌朝、今日中には到着するはずとの思いで行進開始。
少し歩くと、前方に街が小さく見えて来た。
周囲の様子にも変化がある。
草原に草を摘みに来ている人や、森で狩りをする人がいる。
畑があり、小屋があり、農夫が作物を育てている。
街道を歩く人の姿もちらほら見られるようになった。
そろそろ大丈夫だろう。俺も街道を歩くことにする。
人々がすれ違う際には何やら挨拶したり世間話をしたりする。
他方で俺とすれ違う際には、警戒と好奇の眼差しを向け、距離を取る。
やはり小さな顔見知り社会であり、見知らぬ他所者に対してはこういう態度なのだろう。
外壁と門が近付いて来た。
門番はおらず、人々はノーチェックで出入りしている。
俺も何事もなく無事通過した。
「あれ?こういうもの?」
地{非常時には封鎖されるが、平時はこんなものだろう}
火{宮殿や貴族街の城壁の警備は厳しいよ}
街中は中世ヨーロッパ風と言おうか、道路も建物も全体に石造りで、細部は煉瓦、土壁、木製だ。
人影はまばらだが、日本の田舎町でも平日の午前中はこんな感じだったかな。
看板が出ているのでその建物が店なのだと分かる。
「薬屋」があったので入って見た。
回復薬、傷薬、魔力回復薬、魔力充填薬、毒消し、防眠薬、目覚まし薬、万能薬、エリクサー、それぞれ上中下のランクがある。竹筒入りで木の栓がしてある。筒に擦りつけた塗料の色で識別するようだ。
店番の老婆に聞いてみる。
「薬のことは良く分らないので教えて下さい」
「ああいいともさ。不思議な恰好をした兄さんだね。異国の貴族かい?」
「ええ、かなりの遠国の出です」
貴族ではないけどね。
「回復薬と傷薬はどういうものですか?」
「回復薬は疲労回復の薬。値段は上中下それぞれ10c、5c、2c。傷薬は怪我を直す薬。上中下が10g、5g、1gじゃ。使用後の容器を持参すれば1本あたり1cで引き取るよ」
「魔力回復薬と魔力充填薬は?」
「回復の方は、魔力回復を早める効果がある。下で10%、中で50%、上で100%。普通は一晩ぐっすり寝れば魔力は全回復するが、魔力回復上を服用すれば寝れば4時間程度、起きていても12時間で全回復するのさ。値段は上中下が100g、50g、10gだ。魔力関係は貴族御用達だから値段は高めじゃな」
「cは銅貨、gは金貨ですよね」
「ああ。銅貨1枚で1c、銀貨1枚は10c、金貨が100cすなわち1g、大金貨が10g、白金貨が100g、光金貨が1000g、聖金貨が1万gだ。光金貨はめったに見んし、聖金貨なんぞ見たことも無いがの」
「話の腰を折って済みませんでした。さっきの続きで魔力充填薬とは?」
「兄さんは育ちが良いのう。充填薬は、即効で魔力を補う。魔力単位で上中下それぞれ10、5、1、値段は100g、50g、10gじゃ」
魔力充填薬、やけに高い。
「毒消しの上中下はどう違うのですか?」
「上が猛毒、中が強毒、下が弱毒に効く。値段は10g、5g、1gじゃ」
「万能薬は?」
「全ての状態異常に効く。上中下で100g、50g、10gじゃ」
「エリクサーは?」
「疲労、怪我、魔力関係、霊力関係、病気、欠損の全てに効く。下で100gじゃ。中と上はここには無い」
「魔石や素材の買い取りはしていますか?」
「薬の素材は買い取るよ。魔石は道具屋に行っとくれ」
ポーチからビッグボアの牙2本、オーガの牙12本、オーガの角6本を取り出して見てもらった。
「これ全部兄さんが仕留めたのかい?凄いね、しかもこの切り口!ミスリルかね?」
「ははは、ええまあ」
「ビッグボアの牙は各1g、オーガの牙は各2g、オーガの角は各5g。全部で56gだね。これでいいかい?」
「はいそれで結構です。あと、回復薬上、傷薬下、毒消し下、防眠薬下、万能薬下を各1本下さい」
「薬の方は全部で13gと10cになるけど、10cはおまけしておくよ。じゃあ差し引きで43gだね」
素材が思いがけず良い値段がついたので、薬も奮発した。
それでも差し引き43gの収入!とうとう金貨持ちになった。
薬屋のおばあさんに場所を聞いて、次に道具屋に行った。
色々な雑貨を取り扱っている。食品、服と武器・防具・薬以外は大体ある感じかな。
目についたのは魔収納。腕輪タイプで4000g。高い!
「それは掘り出し物ですよ。所有者認識機能付き、所有者の魔力1に付き1キロの荷物を収納できて、最大で100キロまで収納します」
ということは今の俺だと31キロしか収納できない。…背嚢以下じゃん。
「魔石の買い取りをお願いできますか」
「もちろんです。こちらへどうぞ」
奥のカウンターでビッグボア、ブラックベア、ブラックマジックベア、オーガ5の魔石を見てもらう。
「おお、これは状態の良い魔石です。ビッグボアが5g、ブラックベア8g、、ブラックマジックベア20g、オーガの小さい方が各10g、大きい方は各20g、合計で103gになります」
背嚢がボロいので、新品の綺麗な背嚢を3gで購入した。
差し引きで100gを、大金貨5枚、金貨50枚で受け取った。
現在の所持金は143g。それとゴブリンや山賊から奪った銀貨と銅貨数枚だ。
道々、服屋、食べ物屋、露天商などをのぞいたところでは、1cが100円、1gが1万円程度という感触だ。
ただし、武器、防具、薬、魔道具類は、出鱈目に高い。
魔物を狩って資金を稼ぐ元手になるものだったり、命を守るためのものだからだろう。
これらの物特に高品質の物は、ちょっと別次元として考慮の外に出しておいた方がよさそうだ。
ともかく、これまでの数回の狩りで、差引獲得額143万円。
悪くない。というか良いぞ!
特に最後のオーク戦がデカかった。
地{我のおかげだな}火{あちしの手柄ね}
「うん、感謝してる」
屋台の鉄板焼きの店で、よく分からない焼肉と、ナンとチャパティの中間くらいのパリッと焼いたパンのようなものを5cで買って、食べながら歩く。
他の買物客も歩き食いをしてるから、別段無作法では無いのだろう。
交差点に案内板が立っていた。その中に「訓練場」の文字。
おや、これはどういうものかな。ちょっと見学してみたいぞ。
矢印の方向に10分ほど歩いただろうか、街外れの原っぱのような場所に来た。
ここが訓練場だな。
人の輪が2か所に出来ている。1か所が槍、もうひとつは剣の稽古をしているようだ。
剣の集まりの方を見てみる。
子供も大人もいる。防具を付けて木刀で乱取りをしている。
見たところ、初級者から中級者くらいまでかな。
山賊の棟梁や副棟梁クラスの腕の者は見当たらない。
「あんた見ない顔だな。訓練に来たのかい?」
「ええ。俺はこの街に来たばかりです。部外者でも訓練に参加していいんですか?」
「ああ当然だ。木刀はそこから借りろ。貸出料は1cだ。折ったら1gな。怪我して傷薬を使う場合の費用は折半。みんな金がないから木刀を折ったり怪我させたりするなよ。わざと大怪我させたりすれば罪に問われるから気を付けろ」
親切そうな若者が声を掛けてくれる。俺と同じくらいの歳だろうか。
「よかったら俺と稽古するか?」
「はい、よろしくお願いします」
折角のお誘いだもんね。
管理人らしきおじさんに銅貨を渡して木刀を借りる。あ、この人片手と片足が無い。退役兵士かな。
ミスリルソードと同じくらいの重さの木刀を選ぶ。刀身はやや短いな。
フードを被って、メッシュをマジックテープで止めて、手袋嵌めて、準備万端。
木刀を構えて、若者と向き合う。
「行くぜ!」「お願いします」
若者が軽く打ち込んで来る。明らかに様子見だ。
俺も様子見で、軽く剣を打ち合わせながら、足捌きと体捌きで一通り躱し、隙を見て軽く打ち込む。
若者の木刀は俺のよりも重くて長い。そのため取り回しが遅い。
数合打ち合う間に、俺は若者から小手と面と胴に軽く当てて各一本ずつ取った。
「やるねぇ。ほんじゃ本気出すぞー!」
若者の剣速が2段階くらい上がった。
うっ!速い。さっき見た誰よりもこの若者の腕が勝っている。
というか、長くて重い木刀をこうも振り回されたら、打ち合えばこっちの木刀が折れそうだ。
下手に当たると普通は怪我しそうだけど、ミスリル防具があるからそれは大丈夫かな。
若者は訓練場随一の使い手のようだが、それでもあの山賊トップ2には及ばない。
振りが大きいので隙を見つけやすい。
教えて上げようという親切心もあって、振り終わりの隙を見つけるたびに、こつんこつんと木刀を軽く若者の体に当てることにした。隙が次々に生じるので当てるのにも忙しい。
若者の動きが止まった。
「ひゃー強え。全然敵わねぇ」
わぁぁあー!周囲から歓声が上がる。
「あの人凄い!」「ソーシンが子供扱いだよ」「どこかの騎士かなぁ?」
「そこの人、ちょっとこちらに来なさい」
片手片足の退役軍人らしいおじさんから声が掛かる。
若者、ソーシンというのかな、にお礼を言ってからおじさんの話を聞く。
「お前さんに剣の助言があるがどうする?助言ひとつで銀貨1枚。とびっきりの助言は金貨1枚」
「えーっ!」「やめときなよ!」「おっちゃんひでぇー」主に子供たちから非難の声が上がる。
でも今、懐が温かいし、なんだか胸騒ぎがして、思わず金貨1枚を渡してしまう。
「あー、払っちゃた。しかも金貨!」「もったいねぇー」
少年たち、黙りなさい。これでいいのだ、俺のお金だし。
「よし、良い判断だ。まずな、お前は相手が剣を振り切った後の隙を突くのが上手い。だがこれでは形が完成して隙のない敵には通用しない。相手の隙は、技を出している最中と技を出す直前にもある。技前、技中、技後、この3つのポイントを押さえて、かつ、受け流しやフェイントも交えることにより、完成された相手にも隙を生み出させることができる」
「なるほど。技中は変化が無い限り動きが読めますものね」
「そうだ。技前は、相手が技を出そうと決めてから剣が動き出すまでの一瞬を捉えるものだが、これは理屈ではなくて感覚で掴め。技中の変化やフェイントについても、稽古を積んで感覚を掴め。下手に攻めの手順を覚え込むよりも、この感覚を掴む方が千倍役に立つ」
「…はい」
感覚ねー。でも合気に通じるものがあるから、言ってることは何となく判る。
「そしてもうひとつ。お前が選んだ木刀は片手剣だ。お前さんは右手に片手剣、左手に盾を持つスタイルの方が合っているはずだ」
えっ、盾!?その考えは無かった。
「よし、お前さんに盾装備片手剣スタイルの基本を教えてやる」




