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裏合気

火竜の指示もあったので、将斗はオーガに対して覚えたての火魔法で対処しようとした。

剣は抜かずに、至近距離からの火球を…頭部限定でよいかななどと考えていたところ、オーガが団扇のような馬鹿でかい手で将斗の首根っこを掴みに来た。


その時、将斗の体は思わず合気の反応を起こした。この世界に来てから始めてのことであった。

もともと将斗が育った祖父母の家は合気道の道場である。

今でこそ合気道は一種のスポーツであるが、その源流は合戦のための体術であった。

合戦場で何らかの理由で武器を失ってしまった場合や、間合いが詰まり過ぎて武器が使用できない場合に用いる格闘術なのだ。


桐生家の合気道も、本来は桐流格闘術という総合格闘技であった。

刀槍を持ち鎧を着用した複数の敵を相手とすることを前提としている。

その極意を手短に言うならば、敵の武器の間合いと力の方向を見極めて安全な立ち位置を確保すること、敵に重心の乱れがあればその隙を突くこと、敵の重心を崩すための当て身、敵の戦闘力を奪うための関節技である。


合気は実は当て身を重視する。当て身7割という言葉がある位だ。

ただその当て身は拳法のように急所を破壊するためのものではなく、力点に力を加えて敵のバランスを崩すことに主眼がある。敵は急所を鎧で防御している一方、重い鎧のせいでバランスを崩しやすいからである。


そして関節技。現代合気道は関節を極めて相手を飛ばしたり、動きを制したりすることに主眼がある。

むしろ相手に怪我をさせないようにするための工夫をあれこれしたりする。

しかし、本来は素早く相手の関節を破壊することが尊ばれた。相手が拘束から逃れようと自ら飛んだ時は素早く逆方向に関節を極めて、その体重の慣性を利用して関節を破壊する。

合戦場では迅速に相手の反撃や他の敵からの攻撃に備えなければならないからだ。


スポーツ合気を表の顔とすれば、実戦的な破壊技は裏合気として桐生家に伝承されて来た

表には出せないが、道場の承継者には絶やすことなく技術が伝えられてきたのだ。

将斗も現道場主である祖父に裏合気を一通り叩き込まれた。

「決して人前では使ってはならない技じゃ」

「使ってはいけないのにどうして習得しなければならないの?」

「さて。先祖代々磨かれた技を絶やす訳にはいかないからじゃろうな」


前置きが長くなったが、オーガが掴みかかった時、突然、刷り込まれたひとつの合気の型に従って、将斗の体が動いた。

今回は剣を抜かないと決めていたこと、オーガが人型で合気に適していたこと、オーガが掴みかかるという状況が合気の想定する典型的場面に合致したことがその理由であろうか。

それは、相手が片手に短刀を持ち、もう一方の手で掴みかかる場面設定である。


掴みかかるオーガの片手。他方の手は必殺の威力を秘める。

オーガの体幹は肉の鎧で防御されているも同然である。

裏合気がピッタリ嵌る状況だったのだ。


オーガの右手は向かって左側から伸びて来た。

俺は左手を逆手にしてオーガの右手首を掴み、体全体をオーガの右手の外側に前進させながら、移動の力でオーガの重心を崩しつつ、掴んだ手を外旋方向に捻る。

そしてオーガの左手の動きに気を配りつつ、右正拳をボクシングのフックの形でオーガの喉に叩き込む。

これはオーガの両足を結んだ垂直二等分線方向、すなわち重心の弱点方向に力を掛けるための当て身だ。


オーガは後ろにバランスを崩し、かつ、掴まれた手首と肘関節の痛みのため、自ら宙を飛んで回転して逃れようとする。

むろんこれは想定済みの動きなので、俺は掴んだ手を肘を支点に裏返して逆方向に極める。

これぞ裏合気。空中軌道にあるオーガのウエイトがもたらす慣性の力が関節を破壊する。


オーガの腕がやけに頑丈そうなので、大事を取って両手で固定して極める。

ブチブチッ、ゴパッ。オーガの肘と手首の靭帯が切れ、関節が外れる感触が伝わる。

更に掴んだ腕を回してオーガが後頭部から地面に落下するように仕向け、素早く離脱する。

ここまでの流れはほとんど一瞬だ。


そしてオーガの落下とほぼ同時に、その頭部を包み込むように直径50センチ程の火球を発射した。

裏合気では本来は蹴りを出すところだが、火魔法を試さねばならない。

オーガはとっさに首を捻って肩で接地し、何ごとも無かったようにすぐさま立ち上がろうとする。

その右手は肘からぶらりと力なく垂れさがっているが、まだ左手がある。足も牙も角もある。

当然のように戦闘を継続しようとしたオーガであるが、その頭部は炎に包まれていた。


火球は命中した後、そのまま包み込むように接着し、オーガの頭部を燃やし続ける。

「グギャアァァア」

オーガは吠えて、自由な左手で顔面を叩いて炎を払おうとするが、果たせない。

オーガの目は束の間、眼前の炎を通して獲物であるはずの人間の姿を捉えていたが、すぐに視界は暗転した。眼球が熱で溶けたため視力が奪われたのだ。

チリチリゴオォと燃焼音を届けていた聴覚も失われる。

吠えて空気を吐き出した後、吸い込んだのは高温の炎であり、気道から肺に掛けて一気に焼かれた。

そして延髄の組織が内外からの熱で壊滅したため、バランスを失って地に倒れ伏すと共に、オーガの意識は永遠に失われた。


火{うんやったね。火球の温度がまだ低いから時間がかかってちょっと残虐だったけどさ}

「反省。もっと高温の火球にするのは今後の課題だな」

地{敵に情けは不要。安全に屠れればそれでよい。近くにあと4体いるぞ。我はこっちのをヤル}

火{じゃ、あちしはあっちね。撃ち漏らすと思うからヌシさん、あとは頼むよー}

「えっ、まじ?」


地竜の向かった方向からパンっと乾いた音。火竜方向からはドムッとくぐもった音。

石弾と爆でオーガ2匹を倒したようだ。そして双竜の気配が消えた。

おっと、撃ち漏らしのオーガ2匹がこっちに向かって来る。

オーガ2匹を俺一人で相手をしないとならないようだ。


2匹はほぼ同時に俺を見つけた。

1匹が突進してくる、もう1匹は様子見。獲物を譲ってやるよと言わんばかりの顔つきだ。

突進してくる奴の頭部に向けて火球を発射、命中。

オーガは苦し紛れに転げまわり両手で顔面を掻きむしっている。

その火はな、水を掛けるか魔力で散らすかしないと、なかなか消えないんだ。


呆然と仲間の顔面が燃えるのを見ているもう一匹のオーガの足元から、ドシュッと土槍を伸ばす。

土槍が足裏から甲を貫く。

オーガは「ギアッ」と悲鳴を上げながら両手で土槍をへし折ると、土槍を足から抜いて投げ捨て、負傷した足を引きずりつつ逃走を始める。ビッコを引いているくせに、俺が走るより早い。

火竜が復帰した。

火{手伝う?}

「ああ頼む。やっちゃってくれ」


火竜から魔力が発せられる。うん、これは「爆」だな。

逃げるオーガの上半身から飛沫のようなものが上がり、体が草の中に沈んで見えなくなる。

と同時に煙が上がり、一拍遅れて、くぐもった爆発音が届く。

凄いな、瞬時に決着が付く。撃ち損じも無いし、遠隔発動の爆は便利だなぁ。

近場で地面を転がって足掻いていたもう一匹のオーガも、ほどなく力尽きて、動きが止まった。


結局、戦果はオーガは5匹。

ランクCが3匹、ランクBが2匹。ランクBは地竜と火竜が遠方で各1匹ずつ仕留めたものだ。

オーガはこの程度の集団で役割分担をして狩りをすることが多いとのこと。

ライオンの群れみたいだな。

そして個体の強さによってランクも変化する。大抵はC、リーダー格がBとのこと。


ミスリルのナイフを使って、倒したオーガから魔石と角と牙を採取する。

オーガの魔石は銅色で、ランクBの魔石の方が若干大きい。

俺が頭部を燃やした2匹の角と牙は採取不能。

一方、地竜の石弾も火竜の爆も、オーガの首に着弾しているので、胴体からはちぎれているが頭部は無事であり、角と牙も採取できた。

そこまで考えていたとは、地竜も火竜もさすがだ。


一番大きなオーガを解体し、この部位が美味しいとの助言を受けつつ、肉を確保する。

人型なのでちょっと抵抗あったけれど、ランクBの美味しさを想像したら、もうどうでもよくなった。

解体において、ミスリルナイフは凄く役に立つ。

もうね、肉なんかバターとか豆腐を切ってるくらいの感触。

骨や牙だって、大根かゴボウかって程度の抵抗感だね。


採るものを採って、行軍を再開する。

おや?街道の先から土煙が上がり、音と振動が伝わって来る。通行する集団がいる。

草の中に身を潜めながらやり過ごすことにする。


隊商だ。先頭に馬が2頭と馬上の護衛。続いて馬車が5台。前後の2台が護衛の乗る馬車で、それに挟まれた3台が荷物と商人用の馬車のようだ。

1台に8人は乗れそうだから、護衛だけで18人か。なかなかの武装隊商だな。

こんなのに攻撃されたら厄介なことになる。

どうか見つかりませんように。


*****

クリュウ・マスタ 自由人

素養

 言語対応

   東方共通言語

 鑑定

   自己鑑定

 魔術

   練魔素

   生活魔法

     飲料水/パン/浄化/着火

土魔法E

     石礫D/土槍E←UP!

   火魔法F←UP!

     火球F←UP!

植物利用

     成長促進/植物素材

   金属加工

     変形/修復

 精霊術

   練霊素/精霊の声/双竜気

     

 超取得/超成長/超回復/探知


スペック

 FL23-41C(301)

 フィジカルレベル23 

 戦闘力41

 ランクC

 次のレベルまでの必要経験値301

 

 ML20-31/31D(269)←UP!

 マジカルレベル20←UP!

 魔力量31←UP!

 ランクD

 次のレベルまでの必要魔術経験値269


 SL22-44/37(+7)C(442)←UP!

 スピリチュアルレベル22←UP!

 霊力量37←UP!

 ランクC←UP!

 次のレベルまでの必要精霊術経験値442


スキル

 剣術C/槍術G/投石術F/格闘術B←NEW!


装備

 ミスリルソード150/ミスリルスーツ180/ミスリルフード100/

 ミスリル手袋50/ ミスリルブーツ50/ミスリルリング(+20%)



(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀

      B=トップクラス



格闘術スキルがいきなりランクBのトップクラスで登場です。

さすがに前世で、練りに練られた伝統の合気技を(表裏合わせて)、道場後継者候補として、叩き込まれて来ただけのことはありますw

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