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【新感覚!?ウェブ小説だから出来る、コメント参加型小説!】『今日から魔王軍広報部!魔王軍の評判を上げるだけの簡単なお仕事……のはずでした』  作者: 佐武ろく
第一部【魔王軍広報部発足】

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『魔王軍広報部』5

「近くの町に飛んで、勇者のこと聞いてくればいいんですよね?」

「待って、ニナ」


 ミルがすぐに止める。


「まだ、何を聞くのかも決まってないでしょ」

「行ってから考えればいいじゃん!」

「それをやめてって言ってるの!」

「でも、現場に行かなきゃ何も分からないよ!」

「現場に行く前に、何を確認するのか決めるの!」

「ミルは慎重すぎるんだって!」

「ニナが考えなさすぎるの!」


 ユノアが、くすりと笑った。


「二人とも、いいところを突いていると思うよ。現場に行かなきゃ分からないことはある。でも何を調べたいのか決めずに動けば、聞きやすい話だけを拾って帰ってくるかもしれない」

「……それは、そうだけど」


 ニナの勢いが、少し弱まった。


「それに、勇者の噂は魔王軍に都合のいいものばかりじゃないと思う。不都合な話が出てきたとき、どうするかも決めておいた方がいいんじゃないかな」

「同じ基準で確認します」


 レムは迷わず答えた。


「私たちは、勇者を悪者にするために情報を集めるのではありません。まず、どのような情報が存在するのかを調べる。内容を確かめ、裏付けが取れたものを記事にする。取れなければ、未確認の情報として扱う。魔王軍にとって都合がよいかどうかは、その基準に含めません」

『賛成です、レム様』


 通信水晶から、ユリウスの声がした。


『公開する情報には、必ず責任が伴います。たとえ事実であっても、伝え方によっては読む方に誤った印象を与えることがございます。ですので、記事には出所を併記いたします。誰が、いつ、どこで述べたことなのか。それが記せないものは、記事にいたしません』

「はい。記事にするかどうかも、確認してから判断しましょう」

「じゃあ、あたしが現地で話を聞く。ユノアが必要なら潜入して調べる。ミルが記録して照合して、ユリウスが記事にする。そういうこと?」


 ニナが指を折りながら確認した。


「大筋では、そうなります。ただし何を聞くかは事前に決めること。集めた情報は、必ず共有すること」

「……はい」


 返事は、さっきよりもずっと落ち着いていた。


「ミルの言う通り先に聞くこと決めた方が、聞き漏らさなくて済むもんね」

「分かってくれた?」

「分かったってば。ミル、最初からそう言ってよ」

「最初から言ってた!」


 ミルは疲れたように溜息をついたが、その顔は少し緩んでいた。


「では、最初に調べる項目を整理しましょう。ニナさんが現地で何を聞くか、ミルさんと一緒に決めてください」

「はい。出所、日時、確認できる裏付け、聞き取りの可否。それから、確認済みか未確認かの区別。項目を先に作っておきます。後から情報が増えても、混ざらないように」


 ミルはすでに、新しい用紙を広げていた。


「さすがミル。仕事が早いねえ」

「まだ何も始まってないよ」

「もう始まってるじゃん!」

「……始まったばかりだからこそ、手順を決めてるんだけどね」


 ミルは用紙の一番上に、見出しを書き込んだ。

 勇者に関する情報収集・確認記録。

 その下の欄は、すべて空白だった。


     *


 会議が終わるころには、窓の外が夕焼けに染まっていた。

 ニナは、ミルに監督されながら、取材用の質問票と格闘していた。机に向かって三十分も座り続けている。じっと座っている仕事は無理だと言っていたが、質問票の作成なら続くらしい。それは、レムにとって新しい発見だった。

 ユノアは、潜入が必要になりそうな先の候補を挙げ、事前に調べるべき項目を書き出している。

 通信水晶の向こうでは、ユリウスが編集用の書式と公開前審査の手順を整えると約束し、それきり静かになっていた。

 レムは、会議の成果をまとめた報告書を書き上げた。部の目的の欄だけは、他の欄よりも時間をかけて、一行にまとめた。

 そして最後に、予算申請書を添えた。「読むかどうかは、そのとき考える」と言われた書類だが、出さないという選択肢は最初からなかった。


「皆さん、本日はありがとうございました」


 書類をまとめ、頭を下げる。


「明日から、具体的な調査内容を詰めていきましょう。焦らず、ひとつずつ進めます」

「はい、レム様」

「了解です!」

「はーい」


 ミルとニナとユノアの返事は、それぞれに違っていた。同じ方向を向いているのかどうかは、まだ分からない。それでも清書した配置表には、五つの名前とそれぞれの役割が確かに並んでいた。

 安堵はあった。問題が解決したからではない。ようやく、仕事を始められる状態になったからだ。

 一人になった会議室で、レムはミルの書いた記録用紙を手に取った。

 勇者に関する情報収集・確認記録。見出しの下は、出所も日時も、すべて空欄のままだった。

 魔王軍の兵士が見た勇者。人間の町で語られる勇者。旅の途中で出会った人々が知る勇者。同じ人物の話でも、立場が変われば、見えるものは変わるのだろう。

 魔王軍には、魔王軍の中から見た世界しかなかった。それを知るには、外の声を聞くしかない。人間たちが何を見て、何を聞き、何を信じているのか。そこに、魔王軍の知らない事実があるかもしれない。

 あるいは、人間たちの方が間違っているのかもしれない。それも、確かめてみなければ分からない。

 集めた情報が何を示すのか。公表したとき、世界がどう反応するのか。今のレムには、まだ見当もつかなかった。

 ただ、決めていることがひとつだけある。

 誰かの言葉を、確かめもせずに真実と決めつけないこと。

 それが勇者の言葉であっても、魔王軍の言葉であっても、魔王様自身の言葉であっても。

 レムは記録用紙を元の位置に戻し、灯りを落とした。

 空欄を埋めるのは、明日からだ。

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