↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新感覚!?ウェブ小説だから出来る、コメント参加型小説!】『今日から魔王軍広報部!魔王軍の評判を上げるだけの簡単なお仕事……のはずでした』  作者: 佐武ろく
プロローグ【魔王様はお怒りです】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/9

『魔王様はお怒りです』2

「待て。貴様、今の話を本当に理解しておるのか?」

「もちろんです。魔王様の崇高な理想を世界中に伝える、大変重要な部署ですね」

「そうだ。決して、ただ耳触りのよい言葉を並べるだけの部署ではないぞ」


 魔王様の声が低くなった。

 怒鳴られていた時より、かえって室温が下がったような気がした。


「余の考えを伝え、魔王軍が何をしているのかを知ってもらう。嘘をついてまで好かれようとする必要はない。だが、事実を知られぬまま敵と決めつけられることも、あってはならぬ」

「はいはい」

「返事は一度!」

「はい」


 セシルは新聞を脇に抱え、あっさりと言った。


「では、広報部を作ります。人員は適当に選んで、細かいことは担当者に任せましょう。予算が必要なら申請してもらって、活動方針も現場で考えてもらう。まぁ、何とかなるでしょう」


 魔王様の表情が固まった。


「……貴様」

「はい?」

「余を舐めておるのか?」

「まさか。尊敬してますよ、魔王様」


 セシルは頭を下げた。

 ただし首を少し傾けただけだった。頭を下げたと言い張れる、ぎりぎり最低限の角度である。


「その態度でか!」

「いやぁ、魔王様のお考えは立派です。世界平和。素晴らしいですねぇ」

「ならば、もう少し真面目に聞かぬか!」

「聞いてますよ。広報部を作ればいいんでしょう?」

「それだけではない!」

「えー……」


 心底面倒そうな声が漏れた。

 その瞬間だった。魔王様の背後で、魔力が膨れ上がった。

 謁見の間の空気が一気に重くなる。窓枠が軋み、床の石材に細かな亀裂が走った。玉座の周囲から黒い靄が立ち上り、光を食らって広がっていく。

 壁際の魔族たちが次々と膝をつき、顔を伏せた。冷たい石の床が膝頭に食い込む。呼吸ひとつするのにも、全身の力を振り絞らなければならない。魔王軍を統べる王の威圧は、冗談で受け流せるようなものではなかった。

 それでもセシルは、のんびりと立っていた。

 圧を纏ったまま、魔王様の声が頭上から降ってくる。


「よいか、セシル。これは魔王軍の将来に関わる重要な仕事だ。余の理想を伝えるだけでなく、魔王軍の実態を正しく伝えねばならぬ。もし魔王軍に非があるなら、それを隠すのではなく、改めることも必要になる」

「はいはい、分かりました」

「本当に分かっておるのか!」

「大丈夫ですって。人選はこっちでやりますから」


 セシルは新聞を投げ捨て、踵を返した。


「では、失礼しまーす」

「待て! 予算はどうする! 活動方針は! 報告の手順は! 概要だけでも決めねばならんだろ!」

「その辺は適当に申請しまーす。通るかどうかは知りませんけど」

「貴様ぁぁぁ!」


 怒声が謁見の間を揺らした。

 しかしセシルは、振り返らなかった。

 扉が閉まる。

 残された謁見の間には、魔王様の荒い呼吸だけが響いていた。黒い靄が、少しずつ玉座の影へ引いていく。


「……あやつ、次に会ったら覚えておれ」


 低い呟きが落ちてくる。それを合図にしたように、列の魔族たちが恐る恐る顔を上げはじめた。

 魔王様は、さきほどまで新聞が落ちていた床の一点を見つめていた。そこにはもう何もないのに、まだ紙面を睨んでいるような目だった。歪んだ似顔絵。誇張された見出し。勇者を讃える記事。

 そのどこにも、魔王様の語る世界の姿は載っていなかった。


「必ず、余の真意を伝えてみせる……!」


 その声に、偽りの響きはなかった。疑う余地もないほど、真剣な声だった。

 やがて魔王様が片手を振った。下がれ、という合図だ。魔族たちは音もなく立ち上がり、ひとり、またひとりと、扉の向こうへ消えていく。


     *


「――さて、この面倒事、誰に押しつけようかな」


 一方、魔王城の廊下を歩きながらセシルは、いたって真剣にそれを考えていた。

 自分でやる気は、最初からない。

 広報の経験もなければ、やりたい気持ちもない。ただでさえ机の上に積み上がった仕事の山にこれ以上、面倒を載せるのは御免だった。

 とはいえ、魔王様から直接命じられた以上、広報部を作らないわけにもいかない。形だけでも整えておかなければ、また玉座の前に呼びつけられるのは目に見えている。

 ならば、答えはひとつ。

 仕事を任せられる人間を探す。

 いや、正確には。


 **仕事を任せたあと、自分が口を出さずに済みそうな人間を探す。**


 セシルは頭の中で、人事資料の頁をぱらぱらとめくった。

 名前と所属の羅列が、流れるように過ぎていく。優秀でも野心があるのは駄目。扱いにくい者は、手間が増えるから駄目だ。

 すると、ある名前のところで、指が止まった。


「……ああ、レムちゃんでいいか」


 理由らしい理由は、なかった。几帳面そうで、書類も扱えそうで、何より頼めば断らずに何とかしてくれそうな気がした。それだけだ。

 セシルは、答えの出た問題集を閉じるような気軽さで頷いた。


「よし。決まり」


 こうして、魔王軍広報部の設立が決まった。

 魔王様の威信を懸けた一大事業。世界の未来を左右するかもしれない、重要な部署。

 そして、その設立を命じられセシルにとっては――面倒な仕事がまたひとつ増えた、それだけのことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。