↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/230

第2章 第59話 六人目の仲間



 鉱山の入口は、完全に混乱していた。


「第三坑道だ!」


「まだ四人戻ってない!」


「支柱が持たねえぞ! 近づくな!」


 土煙の中を鉱夫たちが走り回っている。


 入口脇には、すでに何人もの負傷者が寝かされていた。


「セレス!」


「分かっています!」


 俺が声を掛けるより早く、セレスは負傷者のもとへ駆けた。


「歩ける方は向こうへ。頭を打った方は動かさないでください! 出血が多い方から診ます!」


 穏やかな普段の声とは違う。


 迷いのない指示に、周囲の鉱夫たちまで動き始める。


「フィーナ、中は?」


「聞いてみる!」


 フィーナが目を閉じた。


 白い耳が忙しく動く。


「奥から声がする。何人かいるよ。でも……石の音もいっぱい」


「また崩れるかもしれないってことか」


「ああ」


 答えたのはレティシアだった。


 壁に掛けられた坑道図を引き剥がすようにして広げる。


「第三坑道はここだ。途中で二手に分かれて、その先に採掘場がある」


 俺も図へ【鑑定】を使う。


【坑道図】


【状態:情報不足】


【第三坑道:増設後の記載なし】


【現行構造との差異あり】


「これ、古い」


「分かってる」


 レティシアが舌打ちした。


「増やした道は現場の連中しか知らねえ」


 完全な地図はない。


 でも、中には人がいる。


「行こう」


 俺は言った。


 レティシアがすぐ頷く。


「当然だ」


「アイリスは落石への対応。エリシアは必要な場所だけ補強して。フィーナは人の位置と崩れる音を探して」


「承知いたした」


「分かりました」


「フィーナに任せて!」


「俺とレティシアで岩盤を見る」


「ああ」


 俺たちは坑道へ飛び込んだ。


     ◇


 中へ入ってすぐ、落盤のひどさが分かった。


 石と木材が散乱し、天井から細かな砂が落ち続けている。


「止まって!」


 フィーナの声。


 俺たちは足を止める。


「右上、変な音!」


 見上げる。


【岩盤】


【状態:亀裂進行】


【崩落危険:高】


「下がって!」


 直後。


 天井から大岩が落ちた。


「はあっ!」


 アイリスの刀が走る。


 落石が二つに割れ、俺たちの両側へ落ちた。


「まだ危ないですね」


 エリシアが杖を上げる。


 壁から土がせり出し、亀裂の下だけを支える。


 俺はもう一度【鑑定】した。


【局所負荷:低下】


【一時安定】


「今なら通れる!」


 走る。


 少し進んだところで、道が岩に埋まっていた。


 その向こうから。


 かん。


 かん。


 微かな音がする。


「いる!」


 フィーナが耳を立てる。


「向こうに三人!」


「どけるぞ!」


 レティシアが岩へ手を掛ける。


「待って!」


 俺はすぐ止めた。


 岩の山を【鑑定】する。


【崩落堆積】


【中央部除去:危険】


【上部再崩落の可能性:高】


【推奨除去位置:左下部】


「真ん中を抜いたら上が落ちる」


 レティシアは俺の指した場所を見た。


「左下からか?」


「うん。小さい石から順番に」


「分かった」


 一度も反論しなかった。


 俺とアイリスが小石を除ける。


 レティシアが大きな岩を持ち上げる。


 エリシアは荷重が変わるたびに支えを調整する。


「もう少しだからね!」


 フィーナは向こうにいる鉱夫へ声を掛け続けていた。


『分かった!』


『こっちは大丈夫だ!』


 返事がある。


 一つ。


 また一つ。


 岩を外していく。


 やがて、人が通れるほどの隙間が開いた。


「助かった……!」


 三人の鉱夫がいた。


 一人は自力で歩ける。


 一人は肩を痛めている。


 残る一人は、脚から血を流していた。


「先に外へ!」


 俺たちは三人を連れて戻った。


     ◇


「すぐに寝かせてください!」


 坑道から出るなり、セレスが駆け寄ってくる。


 負傷者の脚を確認し。


「骨は折れていません。止血します」


 すぐ治療を始めた。


「あと一人だ!」


 鉱山責任者が叫ぶ。


「戻ってきてないのは班長だけだ!」


「場所は?」


「第三坑道の一番奥だ!」


 レティシアの顔が険しくなる。


「さっきの崩落より先じゃねえか」


 フィーナが坑道へ耳を向ける。


 長い沈黙。


「……いる」


「本当か!?」


「うん。でも声じゃない」


 目を閉じたまま答える。


「石を叩いてる。すごく小さいけど、聞こえる」


「行くぞ!」


 レティシアが走り出しかける。


「待って」


 俺はその腕を掴んだ。


「あ?」


「今度はセレスも連れていく。見つけても、その場で治療が必要かもしれない」


 レティシアは一瞬だけ黙る。


「……そうだな」


 一人なら。


 たぶん、迷わず飛び込んでいた。


 でも今は違った。


     ◇


 奥へ進むにつれて、坑道は狭くなった。


 フィーナの耳。


 俺の【鑑定】。


 レティシアの坑道知識。


 それだけを頼りに進む。


「ここ!」


 フィーナが立ち止まった。


 完全に岩で塞がれた脇道だ。


「この向こう!」


 岩盤を調べる。


【空洞:あり】


【生命反応:あり】


【状態:衰弱】


【右脚:圧迫】


「生きてる」


 その一言で。


 全員の動きが変わった。


「どこから外す?」


 レティシアが聞く。


「右下から。上の二つは触らないで」


「承知!」


「そこは拙者が運ぶ!」


 アイリスが外した岩を後ろへ渡す。


「上を支えます」


 エリシアの土魔法。


「まだ音してるよ! もうちょっと!」


 フィーナが声を掛ける。


 穴が開いた。


「セレス!」


「入ります!」


 狭い隙間へ身体を滑り込ませる。


「意識があります!」


 すぐ声が返った。


「右脚が挟まれています。先にこの岩を動かしてください!」


「どれだ!」


「これ!」


 レティシアが手を掛ける。


「待って、少しだけ上へ」


「分かった!」


 俺が構造を見る。


 レティシアが力を加える。


「今!」


「おおおっ!」


 岩が持ち上がる。


 セレスが負傷者の脚を引き抜いた。


「取れました!」


 そのまま治療。


 俺たちは周囲を支えながら待った。


「運べます」


 セレスが頷く。


 レティシアがしゃがみ込んだ。


「背中へ乗せろ」


「俺が――」


「お前さんは帰り道の天井を見ろ」


 言われて。


 少し笑った。


「分かった」


     ◇


 最後の一人を外へ運び出した時。


 鉱山に歓声が上がった。


 取り残された四人。


 全員生存。


「ありがとう……本当にありがとう!」


 鉱山責任者が何度も頭を下げる。


 俺たちは少し離れた場所へ座り込んだ。


「つっかれたぁ……」


 フィーナが地面へ寝転がる。


「お疲れさまでした」


 セレスが人数分の水を持ってくる。


「レティシアも」


「ああ、ありがとよ」


 水を受け取ったレティシアは。


 しばらく何も言わなかった。


 救助された鉱夫。


 治療するセレス。


 危険箇所を坑道図へ書き加えるエリシア。


 フィーナと一緒に負傷者の荷物を運ぶアイリス。


 順番に見ている。


「……どうした?」


 俺が聞いた。


「昨日さ」


「うん」


「知らねえ素材を探して歩くのも悪くねえって言っただろ」


「言ってたね」


「今日、分かった」


 レティシアは自分の手を見る。


「外に出りゃ、鉄だけ見てりゃいいわけじゃねえ」


 少し笑う。


「アタシ一人なら、最初の岩を力任せにどかしてた」


「たぶん崩れてた」


「だろうな」


 あっさり認める。


「お前さんには壊れる場所が見える」


 俺。


「フィーナには、人のいる場所が聞こえる」


 フィーナ。


「エリシアは坑道を支えられる」


 エリシア。


「アイリスは落石から皆を守れる」


 アイリス。


「セレスは助けた奴を、その場で治せる」


 セレス。


 そして。


「アタシには、岩をどかせる」


 レティシア自身。


「……六人なら、アタシ一人じゃできねえことができる」


 立ち上がる。


 表情には。


 もう迷いがなかった。


「決めた」


「何を?」


「工房には、しばらく戻らねえ」


 俺を見る。


「お前らと行く」


「俺たちと?」


「ああ」


「知らねえ素材を探す。知らねえ武器を作る。お前さんの【鑑定】も使わせてもらう」


「使わせるって……」


「それと」


 五人を見る。


「こいつらの装備を作ってみたい」


 フィーナが跳ね起きた。


「一緒に来るの!?」


「ああ」


「やったー!」


「うおっ!?」


 フィーナが抱きつく。


「急に飛びつくな!」


「えへへ!」


 アイリスが微笑む。


「歓迎いたす、レティシア殿」


「興味深いですね。装備研究も進みそうです」


「無茶をするための装備ではありませんからね?」


「まだ何も作ってねえのに釘刺すなよ!」


 皆が笑う。


 その瞬間。


 レティシアの身体を。


 淡い光が包んだ。


「……!」


 ほんの一瞬。


 本人は気付いていない。


 でも。


 俺には見えた。


 【鑑定】。


【加護:知識神の小加護】


【付与能力:【武具制作上達】】


 やっぱり。


 フィーナも。


 アイリスも。


 エリシアも。


 セレスも。


 そうだった。


 俺と一緒に歩くことを。


 自分の意思で選んだ時。


 小さな加護が与えられた。


 レティシアも同じだ。


「ユウトお兄ちゃん?」


「いや」


 俺は笑った。


「これからよろしく、レティシア」


 手を差し出す。


 レティシアは少しだけ目を丸くして。


 すぐ。


 力強く握り返した。


「ああ。よろしく頼むぜ」


 これで。


 六人。


 全員そろった。


 翌日。


 俺たちは六人で、初めて同じ依頼を受けることになる。


 この時の俺は。


 人数が増えれば、その分だけ何でも簡単になる。


 どこかで、そんなふうに考えていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
58話が2回投稿されて59話が抜けています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。