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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
最終章

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最終章 最終話 まだ知らない明日



 邪神ヴォイドとの戦いから、六年が過ぎた。


 世界は、以前よりずっと騒がしくなった。


 アルテシア王国の王都を歩けば、見覚えのない看板が次々と目に入る。


『新作盤上遊戯大会 本日開催』


『王都初演 完全新作冒険劇』


『参加自由 即興演奏祭』


「……また増えてる」


 俺が立ち止まると、隣のエリシアが本から顔を上げた。


「昨日はありませんでしたね」


「昨日も見に来たのか?」


「新刊確認のついでです」


「相変わらずだな……」


「興味深いものが多すぎる世界が悪いです」


 昔なら、この世界の人々がまったく新しい娯楽を生み出すことはできなかった。


 今は違う。


 俺の知らない遊び。


 読んだことのない物語。


 見たことのない演劇。


 それが毎日のように生まれている。


「ユウトお兄ちゃん!」


 聞き慣れた声に振り向く。


 人混みの向こうで、白い尻尾が揺れていた。


「こっち、こっち!」


 フィーナ。


 二十一歳。


 もう、俺が街道で助けた十五歳の少女ではない。


 今では単独で高難度の探索依頼を受け、若い冒険者へ索敵や罠解除を教えることさえある。


「また何か見つけた?」


「新しい遊び! フィーナも知らないやつ!」


「俺も?」


「たぶん!」


 それなら見ない理由はなかった。


     ◇


 広場では、子どもたちが地面へ大きな円を描いていた。


 木片、石、小枝がいくつも並んでいる。


「何をする遊びなんだ?」


 俺がしゃがむと、男の子が得意そうに答えた。


「みんなで道を作るの!」


「道?」


「うん。でも自分だけ先に着いても駄目!」


 話を聞いてみる。


 全員が別々の場所から駒を進める。


 途中では邪魔もできる。


 けれど誰か一人でも取り残されれば全員負け。


 協力するか、遠回りして自分だけ有利な位置を取るか。


 その場で何度も判断が変わるらしい。


 俺が知るどの遊びとも違った。


「誰に教えてもらった?」


「誰にも!」


「三人で考えた!」


「最初はすっごくつまんなかったけどね!」


「お前が変なルール入れたからだろ!」


「でも直したじゃん!」


 言い争いながら笑っている。


「ユウトお兄ちゃんもやろうよ!」


「いいぞ」


「【鑑定】禁止ね!」


「なんで!?」


「ずるいから!」


 周囲の子どもまで笑い始めた。


「……分かった。普通にやるよ」


 俺も笑った。


 こういう負けなら、悪くない。


     ◇


 世界中で、新しいものが生まれ続けた。


 精霊王国エルフィナでは、精霊の光と音楽を合わせた幻想劇。


 鍛冶王国グランバルドでは、歯車で盤面そのものが動く立体遊戯。


 獣王国ガルディアでは、複数の球を使う団体競技。


 竜王国ドラグニアでは、剣舞、太鼓、笛を組み合わせた新しい演目。


 魔法王国ルーンベルクでは、魔法術式を組み込んだ盤上遊戯まで生まれた。


「盤上遊戯で魔法を使うのは反則じゃないのか?」


「規則に書かれていません」


 エリシアは真顔だった。


「学生たちが自分で作った規則です」


「……自由になりすぎじゃない?」


「素晴らしいことです」


 否定できなかった。


 読み書きできる人も増えた。


 自分で依頼書を読む冒険者。


 家族へ手紙を書く農民。


 契約内容を確認する職人。


 子どもへ本を読み聞かせる親。


 俺が渡した知識は、もう俺の手を離れていた。


 人から人へ渡り。


 そこから新しい知識まで生まれている。


 それが嬉しかった。


     ◇


 俺自身にも、大きな変化があった。


 アイリス。


 エリシア。


 セレス。


 レティシア。


 四人とは、あの戦いの後も何度も話した。


 一緒に旅をした。


 喧嘩もした。


 生活もした。


 将来についても、何度も話し合った。


 そして。


 誰か一人が我慢する形ではなく。


 全員が納得して。


 俺たちは家族になった。


「ユウト殿、お茶が入ったでござる」


「ありがとう、アイリス」


「砂糖は二つですよ」


 セレスが先回りして入れる。


「いや、自分で――」


「昨日三つ入れました」


「……二つでお願いします」


「ふふ」


 向こうではレティシアが壊れた椅子を直しながら怒鳴っていた。


「誰だい! また背もたれに体重かけたのは!」


 エリシアが静かに本を閉じる。


「フィーナですね」


「なんで分かるの!?」


 庭から声が飛んできた。


 こんな日々を。


 俺は自分で選んだ。


     ◇


 その日の夕暮れ。


 フィーナが俺を、昔よく泊まった宿の庭へ呼び出した。


「ユウトお兄ちゃん」


「どうした?」


「フィーナ、もう子どもじゃないよ」


「知ってる」


「一人で依頼できる」


「うん」


「お金も稼げる」


「知ってる」


「一人でも生きていける」


 その言葉だけは。


 胸の奥へ深く届いた。


 食事さえ自分で選べなかった少女。


 恩返しだからと俺についてこようとした少女。


 俺が「選んでいい」と言っても、何を選べばいいのか分からなかった少女。


 そのフィーナが。


 今は、自分の足で立っている。


「だからね」


 フィーナがまっすぐ俺を見る。


「ユウトお兄ちゃんがいなくても、生きていける」


「……うん」


「でも、一緒に生きたい」


 白い耳が少し震えた。


「フィーナは、自分でユウトお兄ちゃんを選びたい」


 そして。


「好きです」


 俺はすぐには答えなかった。


 昔のフィーナを思い出したからだ。


 けれど。


 目の前にいるのは、もうあの頃の少女じゃない。


 自分で仕事を選び。


 仲間を助け。


 失敗して。


 立ち直り。


 自分の人生を歩いてきた一人の女性だ。


「……俺も」


 フィーナの目を見る。


「今のフィーナが好きだ」


 目が見開かれる。


 次の瞬間。


 尻尾がものすごい勢いで振られた。


「ほんと!?」


「本当」


「えへへ……!」


 笑って。


 それから泣いた。


「やっと言えたぁ……」


 俺は手を伸ばしかけて、一瞬止める。


 するとフィーナが自分から俺の手を取って、頭へ乗せた。


「これは昔みたいだからじゃないよ」


「え?」


「今のフィーナが、してほしいの!」


「……そっか」


「えへへ!」


 そこだけは、少し昔のままだった。


 その後。


 アイリスたちとも改めて話した。


 フィーナ自身の気持ち。


 俺の気持ち。


 これからの暮らし。


 誰かが遠慮していないか。


 何度も確認した。


 そして全員が自分の意思で同意した上で。


 フィーナも、俺たちの家族になった。


     ◇


 それから、さらに長い年月を旅した。


 フィーナは誰も見つけられなかった遺跡を発見した。


 アイリスは多くの剣士を育てた。


 エリシアは新しい魔法理論を何冊もの本へ残した。


 セレスの医療技術は各国の治療院へ広がった。


 レティシアの鍛造法は、多くの職人に改良されながら受け継がれた。


 俺自身も、解析した知識を独占せず残し続けた。


 やがて。


 俺たちが知らなくても世界は学び。


 俺たちがいなくても人々は助け合い。


 俺たちが作らなくても、新しいものが生まれるようになった。


 地上へ未練がなくなったわけじゃない。


 ただ。


 俺たちが手を離しても。


 この世界なら、自分で歩いていける。


 そう信じられるようになった。


 その頃。


 ソフィエルが、再び俺たちの前へ現れた。


『ユウト』


「はい」


『以前の問いを、もう一度』


 俺は五人を見る。


『あなたは、中級神《解析神》となりますか?』


「はい」


 今度は迷わない。


「自分の意思で、なります」


 けれど。


 ソフィエルは、すぐには光を降らせなかった。


『皆さんは?』


 最初にフィーナが笑う。


「フィーナも行くよ。ユウトお兄ちゃんが行くからだけじゃない。もっと色んな場所を探したいって、フィーナが決めたの!」


 アイリスが胸へ手を当てる。


「拙者も、自ら選んだ道でござる。これからも武の先を見届けたい」


 エリシアは微笑んだ。


「神界には、まだ解析できていない魔法が大量にありますから」


「やっぱりそこなんだ」


「重要です」


 セレスも頷く。


「地上を離れても、人々の医療がより良くなるよう見守りたいです。それに……ユウトさんの無茶も、まだ心配です」


「後半はいらなくない?」


「必要です」


 最後にレティシアが笑った。


「あたしは神の武具を打ってみたい。それだけで十分だろ?」


「十分」


 六人。


 誰かに命じられたわけじゃない。


 全員が、自分で選んだ。


 光が降りる。


【神格昇華】


【ユウト → 中級神《解析神》】


 俺の役目は、世界へ正解を押しつけることじゃない。


 生まれた知識を読み解き。


 必要とする者が理解するための道を支えること。


 その下で。


【フィーナ → 下級神《探索神》】


 白い風がフィーナを包む。


【アイリス → 下級神《武技解析神》】


 刀身へ澄んだ神気が宿る。


【エリシア → 下級神《魔法解析神》】


 無数の魔法文字が周囲を巡る。


【セレス → 下級神《治療解析神》】


 柔らかな光が両手へ集まる。


【レティシア → 下級神《武具解析神》】


 槌が低く、澄んだ音を響かせた。


「結局、六人一緒だな」


「《アカシックレコード》だからね!」


 フィーナが笑う。


 人だった頃につけた名前を。


 俺たちは、神になっても捨てなかった。


     ◇


 それから。


 俺は時々、ソフィエルと地上を眺めるようになった。


『随分と変わりましたね』


「俺が知らないことばっかりです」


『寂しいですか?』


「全然」


 むしろ嬉しい。


 俺がいなくても。


 人々は考える。


 選ぶ。


 失敗する。


 直す。


 そして、また新しいものを作る。


 ヴォイドが望んだのは。


 神がすべてを決める世界だった。


 今のアルテシアは。


 神が決めなくても、人が自分で歩いていける。


「あ」


 地上の小さな村で。


 何人かの子どもが集まっていた。


 木の枝。


 石。


 落ち葉。


 それだけを並べている。


「ここから行けたら勝ち!」


「でも石を三つ取ったら川を渡れる!」


「葉っぱは船な!」


「それ強すぎ!」


「じゃあ二枚必要!」


 言い争い。


 試して。


 失敗して。


 またルールを変える。


『今度は【鑑定】しないのですか?』


 ソフィエルが尋ねる。


 俺は笑って首を振った。


「しません」


『珍しいですね』


「答えを知らない方が、面白いこともありますから」


 一度見れば。


 魔法も。


 スキルも。


 たいていのことは【鑑定】できる。


 でも。


 まだ誰も考えていないこと。


 まだ生まれていない物語。


 明日、誰かが選ぶこと。


 そんなものだけは。


 神になった今でも分からない。


 子どもたちが笑う。


 その遊びの名前を。


 俺は――まだ知らない。


 だからきっと。


 この世界はこれからも。


 もっと面白くなっていく。

『一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました』を最後までお読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。


そして明日より、12時から1日5話ずつ


『『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~』


がスタートします。

ゲーム世界に転生してギャングになっていく成り上がり物語です。

こちらもよろしくお願いします。

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