↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/203

第6章 第185話 王を討つ者、村を守る者

 オークキングが動いた。


 一歩踏み出すたび、村の中央を通る土の道が鈍く震える。通常のオークより二回り以上大きな巨体。肩には獣皮を重ねた防具をまとい、右手には人族なら両手でも持て余しそうな大斧が握られていた。


 距離が縮まったところで、俺は改めて【鑑定】を使う。


【種族:オークキング】


【危険度:A】


【状態:良好】


【推定生存年数:数年】


【進化要因:大規模群体の支配・多数の戦闘経験・高密度魔力の継続吸収】


【魔力蓄積量:進化段階に対して不均衡】


【魔力循環:一部不安定】


【未解析の魔力混濁:あり】


 表示された進化要因に対して、生存期間と魔力蓄積の釣り合いが悪い。


 やはり、普通の成長過程とは思えない。


 しかも体内を巡る魔力には、ゴブリンロードで見たものに似た濁りが絡んでいる。


 同じものとは断定できない。


 けれど、無関係とも言い切れなかった。


「ユウト殿!」


 アイリスの声で意識を戻す。


 オークキングの大斧が振り下ろされた。


 アイリスは受けない。


 一歩だけ右へずれ、刃の軌道を外す。


 直後、大斧が地面へ叩きつけられた。


 轟音とともに土が爆ぜる。


「なんという膂力……!」


 それでもアイリスは退かない。


 斧が地面へ食い込んだ一瞬に懐へ入り、脇腹へ斬撃を走らせた。


 浅い。


 分厚い筋肉に止められている。


 だが、十分だった。


「そのまま広場の外へ!」


「承知いたした!」


 アイリスが後退する。


 逃げているわけじゃない。


 わざと斧を振らせ、キングの向きを住民のいない側へ変えている。


 動きなら俺にも再現できる。


 でも、相手をどこへ誘い、次に何を振らせるかという判断は、積み重ねた実戦経験の領域だ。


 だから任せられる。


「ユウトお兄ちゃん!」


 右手からフィーナの声が飛ぶ。


 二軒先の家から、親子らしい三人が出てきた。


 その後ろへ四体のオークが迫る。


「エリシア!」


「見えています」


 杖が上がる。


「ウィンドバインド」


 風が帯のように絡みつき、四体の足を取った。


 吹き飛ばさない。


 転ばせるだけだ。


 その隙に俺が駆け込む。


 一体目の顎へ柄打ち。


 二体目の膝を崩す。


 三体目の棍棒を潜り、腹部へ掌底。


 最後の一体が親子へ向かおうとする。


 その足元から、低い土壁がせり上がった。


「そちらは通させません」


 エリシアだ。


「フィーナ!」


「こっち!」


 親子が西側へ走る。


 俺は残ったオークへ向き直った。


 村の中では、大きな魔法ほど危険になる。


 必要なのは威力じゃない。


 精度だ。


「ブルーフレア」


 青炎を拳ほどの大きさまで圧縮する。


 射線上に人も家もない。


 放つ。


 青い火球はオークの胸へ吸い込まれ、その体内だけで収束した。


 背後へ抜けない。


 周囲へ燃え広がらない。


 一体だけが倒れる。


「西は通すよ!」


 レティシアの声が響いた。


 外した柵の前で大盾を構え、三体のオークを押し返している。


「おらぁ!」


 盾が一体を弾き飛ばす。


 それでも追撃はしない。


 すぐ出口へ戻った。


「逃げる奴は森へ行け! ここはアタシが止める!」


 背後を住民たちが駆け抜けていく。


 さらに森では、セレスが負傷者を診ていた。


「この方は先に運んでください。そちらは止血できています。歩けます」


 傷を見て、優先順位を決めている。


 全員へ同じ回復魔法を使うわけじゃない。


 その時、セレスの表情が変わった。


「ユウトさん!」


「どうした?」


「この方の傷、少しおかしいです」


 倒れている男の腕には深い裂傷がある。


 セレスはすでに洗浄と止血を済ませていた。


「傷の深さに対して熱が出るのが早すぎます。それに、この周囲だけ魔力の流れが乱れています」


 俺はそこで初めて【鑑定】を使った。


【状態:裂傷・軽度出血・局所的魔力循環異常】


【局所魔力:微量の混濁あり】


【性質:判定不能】


「傷から何か入った可能性は?」


「あります。でも、まだ断定できません」


 セレスは迷わない。


「洗浄を続けます。他の負傷者にも同じ異常がないか確認します」


「分かった。任せる」


 原因が分からないなら、分からないまま記録する。


 今はそれでいい。


 村の中央から、再び衝撃音が響いた。


 アイリスが地面を滑るように下がる。


「アイリス!」


「問題ござらぬ!」


 すぐに姿勢を戻した。


 キングの斧が再び振られる。


 だが今度は軌道が違った。


 さっきまでの大振りではない。


 アイリスが懐へ入る動きに合わせるように、左腕まで使って間合いを潰してくる。


「動きを変えた……」


「拙者の入り方を見て、次の手を変えてきたようでござる!」


 アイリスの目が鋭くなる。


「ならば、こちらも変えるのみ!」


 キングが踏み込む。


 斧が横薙ぎに走った。


 アイリスは跳ばない。


 身体を沈めて刃の下を抜ける。


 そこへキングの左拳が振り下ろされた。


 読まれている。


 それでもアイリスは止まらない。


 半歩だけ外へずれる。


 拳が肩をかすめる。


「見切ったでござる!」


 銀閃。


 キングの左腕へ深い傷が走った。


「グオオオオッ!」


 巨体が初めて大きく下がる。


 アイリスは追わず、俺を見る。


「ユウト殿、住民は?」


 西側からフィーナの声。


「あと二軒! 七人いるよ!」


 まだ残っている。


「アイリス、もう少し頼める?」


「無論!」


 刀を構え直す。


「ここは拙者が引き受けまする。ユウト殿は住民を!」


「分かった!」


 俺はそのまま背を向けて走った。


 次の家へ。


 フィーナが先に窓から中を確認している。


「二人! 歩けるよ!」


「西へ!」


「うん!」


 その時。


 フィーナの耳がぴんと立った。


「待って」


 森の北側へ顔を向ける。


「また来る」


「数は?」


 フィーナの表情が引き締まった。


「多い。さっき運び込んできた群れよりずっと多いよ」


 遠くから、地面を叩く無数の足音が響いてくる。


 まだ村の中には住民が残っている。


 目の前にはオークキング。


 そして外から、さらに大きな群れが近づいていた。


 救出も、戦いも。


 まだ終わっていなかった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。