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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第175話 五か国を巡った先で

 ドラグニアを発つ朝、城下町にはまだ薄い霧が残っていた。


 黒い屋根の向こうから朝日が差し込み、通りの魔法灯が一つずつ消えていく。宿を出た俺たちの荷物は、この国へ入った時より少し増えていた。


 古文書の写し。封印戦争に関する記録の要約。各地で集めた異常の報告。そして、ドラグニア風の絵柄や装飾を取り入れたカルタやコマの試作品。


 けれど、持ち帰るものはそれだけじゃない。


 城門の前では、アイリスの家族と道場の師が待っていた。


「本当に行くのでござるな」


 アイリスが、白い城壁の向こうに広がる王都を振り返る。


「寂しい?」


 俺が聞くと、彼女は少しだけ考えた。


「……寂しくないと言えば、嘘になるでござる」


 それでも、表情は穏やかだった。


「されど、もう分かっております。ここは、戻ってきてもよい場所なのでござる」


 その言葉を聞いて、俺は何も言わずに頷いた。


 父親が一歩前へ出る。


「行ってこい」


「はい、父上」


「死ぬな。それと便りを出せ」


「承知いたした」


 母親もすぐに続いた。


「承知しただけでは駄目ですからね」


「……努力いたす」


「出しなさい」


「はい」


 フィーナが口元を押さえて笑う。


「フィーナがちゃんと見張るね!」


「なぜフィーナ殿が見張るのでござる!」


「だって忘れそうだから!」


「否定しづらいでござる……」


 最後まで賑やかだ。


 師はアイリスの腰の刀へ目を向けた。


「次に戻った時、また剣を見せろ」


「承知いたした。その時まで、さらに磨いておくでござる」


「技だけではないぞ」


 アイリスは一瞬だけ目を見開き、それから笑った。


「心得ております」


 そして一礼する。


 別れの言葉を終えると、アイリスは王都を一度だけ振り返った。


 長く見つめる。


 それから、今度は俺たちを見た。


 フィーナ。エリシア。セレス。レティシア。そして俺。


 彼女は迷わずこちらへ歩いてくる。


「参りましょう」


「うん」


 帰る場所を失ったわけじゃない。


 帰る場所を持ったまま、今歩きたい道を選んだ。


 そんなふうに見えた。


     ◇


 ドラグニアを離れる前に、俺たちは王都の冒険者ギルドへ立ち寄った。


 冒険者カードを提示すると、そのまま奥の応接室へ通される。


 中にいたのは支部の責任者と、王家から派遣された役人だった。


「何かありましたか?」


「君たちに伝えておくことがある」


 責任者が机へ書類を置く。


「《アカシックレコード》の昇格審査が完了した」


「昇格?」


 フィーナの耳がぴんと立った。


「所属するアルテシア王国のギルド本部と、今回関わった各国のギルドによる照会が終わった。古代施設の安定化、災害救助、異常調査、国家機関との共同活動――いずれもBランクの範囲を大きく超えている」


 書類には、五か国を巡る中で俺たちが関わった出来事が記録されていた。


 全部、自分たちでは目の前の問題を解決してきただけだ。


 けれど、それが一つずつ積み重なっていたらしい。


「本来なら昇格試験を行うところだが、今回は実績による特例審査となった」


 責任者が俺たち六人を見渡した。


「本日付で、冒険者パーティー《アカシックレコード》をAランクへ認定する」


「……Aランク」


 俺が呟くより先に、フィーナが俺の袖を掴んだ。


「ユウトお兄ちゃん! Aランクだよ!」


「聞こえてるよ」


「えへへ! すごいね!」


 自分のことなのに、フィーナの方がずっと嬉しそうだった。


 隣ではアイリスが新しく書き換えられた冒険者カードを見つめている。


「ここまで来たのでござるな」


「実感ある?」


「少しだけ」


 アイリスはカードをしまい、こちらを見る。


「されど、これは六人で得たものにござる」


「俺もそう思う」


 カードに表示されたAの文字を眺める。


 冒険者になったばかりの頃には、こんな場所へ来るなんて想像もしていなかった。


 気づけば、一人では持ちきれないほどの経験と縁が、たった一文字の中へ積み重なっていた。


「ありがとうございます」


 俺は責任者へ頭を下げる。


「この評価に恥じないようにします」


「期待している」


 その言葉を聞いた直後だった。


 廊下の向こうから、いくつもの足音が近づいてくる。


 扉が勢いよく開いた。


「失礼します! 緊急報告です!」


 責任者の表情が一変した。


「何があった」


 職員は荒い息を整える間もなく、紙束を差し出した。


「複数国から、魔物の異常行動に関する報告が入っています」


 俺たちも自然と黙る。


「異常行動?」


「通常なら別々に活動する群れが、一体の上位個体を中心に集まり始めています。しかも――」


 職員は別の報告書を開いた。


「確認された上位個体の中には、記録上では長い年月をかけて到達するはずのものが含まれています」


 エリシアの目が細くなる。


「出現までの経緯は?」


「まだ調査中です。ただし、一部の討伐個体から――」


 職員が机の上へ小さな布包みを置いた。


 開かれた中には、欠片ほどの魔石が入っている。


 その中心が、黒く濁っていた。


 誰もすぐには口を開かなかった。


 王国内で見た異常。


 グランバルドの黒変。


 ガルディアで続いた不自然な移動。


 エルフィナの森を乱した異質な魔力。


 これまでなら、同じ原因だと決めつけることはできなかった。


 今も、まだ断定はできない。


 けれど。


「ユウトお兄ちゃん」


 フィーナが俺を見る。


「うん」


 俺は立ち上がった。


 エリシアも、セレスも、レティシアも動く。


 アイリスは何も言わず、腰の刀を確かめた。


 五つの国を巡って得たものは、Aランクという肩書きだけじゃない。


 各国との信頼。


 仲間それぞれの成長。


 異変を比べられるだけの知識。


 そして、何かが起きた時に助け合える繋がり。


「行こう」


 俺の言葉に、五人が頷いた。


 Aランクへ昇格したその日。


 世界各地から、本来ならありえない速さで上位魔物が現れ始めたという報告が届いた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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