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聖女を辞めましたが、私は静かに暮らすだけです 〜本物の乙女が現れたので聖印をお返ししたら、辺境でなぜか過剰に大切にされています〜  作者: リリア・ノワール


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第21話 ふたりの聖女

セシリアは、数日リントの町に留まった。


宿には神官ヨナスが控えていたけれど、セシリアは昼のほとんどを教会で過ごした。私の手伝いをしながら。



町の人たちは最初、セシリアを遠巻きに見ていた。王都から来た、新しい聖女さま。


けれど、セシリアが子どもの鼻水を拭いてやり、老人の話に辛抱強く耳を傾けるのを見て、だんだんと打ち解けていった。


「いい子じゃないか」


女将がこっそり私にささやいた。


「聖女さまってより、そこらの優しい娘っ子だね」


私は微笑んだ。


そう、セシリアは「聖女」である前に、ひとりの優しい少女だった。



ある午後、薬草をより分けながら、セシリアがふと尋ねた。


「エルナ様。加護って、何なのでしょう」


私は手を止めた。


「私、ずっと加護って特別な力だと思っていました。選ばれた人だけが持つ、きらきらした何か。でも」


セシリアは窓の外を見た。


そこでは、町の子どもたちが雪の中で笑いながら転げ回っていた。


「あなたを見ていると、分からなくなるんです。あなたは聖印も肩書きも、何も持っていない。なのに、この町はあなたを中心に回っている。皆があなたを慕っている。それは加護とは違うものなのでしょうか。それとも――」


私はしばらく考えた。


そして、マレンに教わった、あの古い記録の言葉を思い出した。


「セシリア様」


私は静かに言った。


「マレンが教えてくれたことがあります。この教会に代々伝わる古い記録に、こう書かれているそうです。――真の加護は、冠にあらず。印にあらず。人の在りように宿るものなり、と」


セシリアは息をのんだ。


「人の。在りように……」


「ええ」


私は頷いた。


「加護とは、きっと力の大きさではないのです。その人がどう在るか。奪わず、誇らず、ただ人を案じる。そういう在りように宿る。私は、そう思うようになりました」


セシリアの瞳が揺れた。


「じゃあ、私が加護をうまく使えないのは」


「力が足りないからではありません」


私ははっきりと言った。


「あなたが『完璧であらねば』と自分を追いつめているから。人を案じる前に、失敗を恐れているから。きっと加護も縮こまってしまうのです」


セシリアはうつむいた。


そして、しばらくして、ぽつりと言った。


「……肩の力を抜いて、いいんですね」


「ええ」


私は微笑んだ。


「あなたはもう、十分頑張っています」



その夕方、セシリアは教会の祭壇の前で、そっと祈りを捧げた。


それは儀式の祈りではなかった。ただ、この町の子どもたちの無事を願う、素朴な祈り。


彼女が目を閉じると、祭壇の小さな蝋燭の火が、ふわり、と、ひときわ明るく揺れた。


セシリアは驚いて、目を開けた。


「……今」


「ええ」


私は頷いた。


「見えました」


セシリアの頬に涙が伝った。


けれど、今度の涙は笑顔と一緒だった。


「私にもできた。肩の力を抜いたら、できた」


彼女の加護は欠けていたのではなかった。ただ、恐れに縛られていただけ。


それを解いてやれば、火はちゃんと灯った。


ふたりの聖女が、ひとつの蝋燭の火を見つめていた。


奪い合うことも、比べることもなく。ただ、その小さな灯を、分かち合うように。

本話をお読みいただき、ありがとうございました。


「加護は、人の在りように宿る」。

肩の力を抜いたセシリアの、灯った小さな火。


奪い合わず、分かち合う。

ふたりの聖女の、静かな心の交わりでした。


次話「レオンハルトの思惑」では、

優美な貴族の、本当の狙いが、

少しずつ、見えてきます。


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どうぞ、よろしくお願いいたします。


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