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第14話:愛の終焉、不渡りの恋。――捨てたのはわたくしではなく、あなたたち自身ですわ。

「……エララを、検体として……売る……?」


 ジュリアン王子の口から、ひきつった声が漏れた。

 国際法廷の沈黙の中で、その言葉だけが、まるで腐った果実が落ちるような音を立てて響く。


「ジュリアン様……? 何を、何を仰っているのですか……? 私たちは、愛し合っていたはずでしょう……?」


 エララが、震える手で王子の腕を掴もうとする。

 だが、王子はその手を、まるで汚らわしい虫を払うかのように振り払った。


「黙れ! 元はと言えば、貴様の『奇跡』が嘘だったせいだろう! 貴様がヴィクトリアに代わって国を支えると言ったから、私は……私は信じたのだ!」


「そんな……! 私を選んだのは、あなたですわ!」


「うるさい、うるさい! ……ヴィクトリア。今、言ったな? この女を差し出せば、残りの借金をすべてチャラにする(・・・・・・)と!」


 ジュリアンは、這いずるようにわたくしの足元へと歩み寄ってきた。

 かつては王族としての高貴な香を纏っていた男が、今は恐怖による冷や汗と、脂ぎった欲望の臭いしかさせていない。


「ええ。わたくし、嘘は吐きませんわ。……彼女の体質、および神々との『負債の契約』は、帝国の研究所にとって一千億ゴルド以上の価値がございます。――彼女一人を差し押さえれば、王家あなたの残債はゼロになりますわよ?」


「……やる。やるぞ! エララを連れて行け! この女はもう、聖女でも何でもない! ただの詐欺師だ! 私の人生を壊した悪女だ!」


 ジュリアンの叫びに、法廷中から「なんてことだ……」「最低なのは王子のほうだったのか」という、冷ややかな、蔑みの混じった囁きが溢れ出した。


 エララは、絶望のあまり声も出せないようだった。

 彼女が信じていた「真実の愛」の鑑定価格は、どうやら自分の命よりも安かったようですわね。


「……決定ですわね。クロエ」


「はい。譲渡契約、締結いたしました」


 わたくしは『錆びた鉄のペン』を手に取り、虚空にエララの名前を記した。

 その瞬間、エララの首筋に、漆黒の「債務の鎖」が出現し、彼女の自由を奪う。


「嫌ぁぁあぁ! 嫌よ、助けてジュリアン様! ごめんなさい、愛しているわ、だから捨てないでぇ!」


 魔導兵たちに引きずられていくエララ。

 彼女が最後に見たのは、自分を救った喜びで顔を歪める、かつての恋人の醜悪な笑みだった。


 ……ふふ。お聞きになりまして?

 これが、あなたたちがわたくしの心を踏みにじってまで守ろうとした『愛』の末路ですわ。


「……ああ、助かった。……ヴィクトリア、感謝するぞ。これで私は、また王子として――」


「あら。何か勘違いをなさっているかしら?」


 わたくしは、安堵の息を吐くジュリアンを、凍てつくような眼差しで見下ろした。


「残債がゼロになったのは、あくまで『王家』という法人格・・・の話ですわ。……陛下、先ほどの競売の結果、王国の全土および王都の管理権は、ノワール帝国へ譲渡されましたわね?」


「ああ。たった今、王国の『廃業届』を国際連盟に受理させたところだ」


 カエルス陛下が、愉悦に満ちた声を響かせる。


「つまり、ジュリアン。……この瞬間に『王国』は消滅した。お前は王子ではない。――ただの、職も家もない『無価値な男』だ。……さらに、貴公がエララを売却した際、手数料としてお前の戸籍も抹消・・させていただいた。……現在の貴公の存在は、帳簿上の『端数』と同じ。……切り捨て、が妥当だな」


「な……っ、なあああああああ!?」


 ジュリアンが絶叫し、法廷の床に崩れ落ちた。

 借金はなくなった。だが、彼にはもう、名前も、地位も、帰るべき国も、彼を愛する者も、何一つ残っていない。

 彼は死ぬまで、「かつて王子だった空っぽの男」として、誰にも知られず泥水を啜るのです。


 精算、完了ですわ。


 わたくしは、床に這いつくばる「無の塊」を一瞥もせず、カエルス陛下に向き直った。


「陛下。……これで、この地の掃除は終わりましたわね」


「……ああ。……見事な手際だった。ヴィクトリア。貴公のペンが描く軌跡は、どの名剣よりも鋭く、そして残酷に美しい」


 カエルス陛下が、わたくしの手を取り、その甲に優雅に接吻を落とした。

 それは契約の証ではなく……もっと不確かな、けれど「数字」よりも確実な何かが、二人の間に芽生えた音のように聞こえた。


「さあ、戻りましょう。……帝国の帳簿には、まだ貴公にしか解けない『世界の歪み』が山ほど残っている。……今夜は、ゆっくりと眠れそうだ」


「あら。……わたくしの残業代、相当高くつきますわよ?」


「ああ。……一生をかけて、利息を付けて払わせてもらおう」


 夜明けの光が、法廷の扉から差し込んでくる。

 わたくしたちは、暗闇に沈んだ王国を背に、新たな大陸の地図を描くべく歩み出した。


 ……ふふ。さて。

 次の一頁には、どのような絶望と勝利を書き記しましょうかしら?

「一生をかけて、利息を付けて払わせてもらおう」


第1部「王国差押編」、これにて完全清算です!

愛の仮面を剥がされ、互いを売り飛ばした王子と聖女。そして、すべてを手に入れ帝国へと凱旋するヴィクトリア様とカエルス陛下。

最高のハッピーエンド(※敵には地獄)を、お届けできましたでしょうか。


ですが、精算はまだ終わりません。

神々を破産させ、王国を解体したヴィクトリア様の前に、次は「世界規模の経済同盟」や「失われた古代の負債」が立ちはだかります。


「王子の末路が惨めで最高!」

「陛下との関係が甘くなってきた……?」

と少しでも感じていただけたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで、第2部への「先行投資」をお願いいたしますわ。


第2部でも、皆様の期待を裏切らない「圧倒的なザマァ」という名の配当をお約束します。

それでは、次の帳簿でお会いしましょう。

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