第12話:国際訴状と、執行官の微笑。――わたくしを「被告」として呼ぶなら、相応の裁判費用をご用意ください。
「――ヴィクトリア・フォン・アストレアを、国家財産横領および、国家反逆の罪で国際法廷に告訴する!」
凍えるような暗闇に包まれた王宮で、ジュリアン王子の叫びが空虚に響いた。
彼の前には、隣国ノワール帝国へ向かう準備を整えた、王国最高位の法務官たちが並んでいる。
「殿下、名案でございます。彼女が帝国の庇護下にある以上、武力での連れ戻しは不可能。なれば、国際連盟の法を盾に、彼女を『犯罪者』として引きずり出すのです。そうなれば、帝国とて国際的な信用を失うわけにはいかず、彼女を引き渡さざるを得ません」
「そうだ……! あいつが勝手に止めた魔力も、持ち逃げした公爵家の資産も、すべては王国のもの。それを返せと法が命じれば、あいつはただの罪人だ!」
ジュリアンは、手元の蝋燭の灯りに、狂気じみた希望を燃やした。
自分が捨てた女が、実は自分たちを生かしていた心臓だった――その事実を認める代わりに、彼は「彼女が盗んだのだ」という嘘に縋ることを選んだのだ。
一週間後。
大陸中立地帯に位置する『国際法廷』。
そこには、各国の外交官や記者たちが詰めかけていた。
「没落したはずの令嬢が、帝国と結託して王国を闇に落とした」というセンセーショナルな噂を聞きつけ、野次馬たちは新たな「悪女の断罪」を期待して鼻を鳴らしている。
「王国側、入廷!」
豪奢な法服を纏った王国の法務官たちが、被害者としての矜持を胸に、胸を張って歩を進める。
その後ろには、やつれた顔を厚化粧で隠したエララを伴い、ジュリアン王子が「正義の体現者」のような顔をして座った。
対する被告席。
そこには、漆黒のドレスを纏った一人の女性が、優雅に脚を組んで座っていた。
「……あら。随分とお早い到着ですわね。待ちくたびれて、帳簿を三冊ほど精査してしまいましたわ」
ヴィクトリアは、扇をゆっくりと閉じ、退屈そうにジュリアンを見つめた。
その隣には、帝国の軍服を纏ったカエルス陛下が、まるで彼女の騎士のように不敵な笑みを浮かべて控えている。
「ヴィクトリア! その不遜な態度もここまでだ! お前が王国から盗み出した魔導技術と資産、そして勝手に停止させた供給ラインを、法の名において即刻返還することを要求する!」
ジュリアンが立ち上がり、指を差して吠える。
法廷内がざわめき、「やはりあの女が黒幕か」という冷ややかな視線がヴィクトリアに集中する。
だが、裁判長が木槌を鳴らす直前。
ヴィクトリアは、スッと右手を挙げた。
「異議がございますわ。……裁判長、その訴状を受理する前に、わたくしの『身分』と『資格』について、改めて照会をお願いできますかしら?」
「身分だと? 貴様は国外追放された元貴族だろう!」
「いいえ。……クロエ、提示を」
影のように控えていたクロエが、法廷の全モニター(魔導投影機)に、一つの紋章を映し出した。
それは、国際連盟の最高監査機関――『世界債務管理局(W.D.A)』の金色の紋章。
「……本日付で、わたくしヴィクトリア・フォン・アストレアは、W.D.Aの『最高執行官』に就任いたしました。……同時に、現在暗闇に沈んでいる貴国は、国際法上『支払不能』状態にあると認定されましたの」
法廷内が、一瞬で凍りついた。
法務官たちの顔から、サーッと血の気が引いていく。
「な……最高執行官!? あの、国家の破産を宣告できる権限を持つ……!?」
「ええ。つまり、わたくしは今、被告としてここに座っているのではありません。……貴国の『清算人』として、この法廷を買い取った(・・・・・・・)のですわ」
ヴィクトリアは立ち上がり、懐から『錆びた鉄のペン』を取り出した。
それを木槌の代わりに、法卓へとコツンと当てる。
「ジュリアン殿下。……わたくしを訴えるということは、国際法に則り、貴国の帳簿をすべてわたくしに開示するということですわ。……もちろん、あなたが隠し持っている裏帳簿も、聖女様の『寿命のキャッシング』の明細も、すべてね」
「ひっ……!?」
「さあ、始めましょうか。……これは断罪の場ではありません。……あなたたちの人生すべてを換金し、わたくしへの未払い利息に充当するための――『強制オークション』ですわ」
ヴィクトリアの瞳に、冷徹な勝利の光が宿る。
ジュリアンが「泥棒」だと叫んだ矢先、彼は自分たちの国そのものを、彼女の処刑台へと献上してしまったのだ。
精算の時間は、ここからが本番。
王国の誇り、騎士の剣、そして王子の命。
すべてに値札を付け、競売にかけて差し上げましょう。
「この法廷、わたくしが買い取りましたわ」
……ふふ、被告として呼び出されたと思ったら、いつの間にか自分が「裁判長(支配者)」の席に座っていた。これこそがヴィクトリア様の真骨頂ですわね。
ジュリアン王子、ご愁傷様。あなたは今、自分で自分の処刑台の釘を打ったのです。
次話、ついに始まる「王国オークション」!
王族の地位や領土が、隣国の商人に次々と買い叩かれていく屈辱の光景、どうぞお楽しみに。
「国際機関のトップになって現れるの、最高にスカッとする!」
「王子の顔が絶望で染まる瞬間をもっと!」
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投資していただいた分の「ザマァ」は、次話の競売劇でたっぷり配当させていただきます。




