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悪役令嬢・令息の日常  作者: もろふくまる
4/4

4 嵐の始まり


入学式では、皆おそろいのシックな制服を着て、講堂で殿下の歓迎の挨拶を聞きましたの。


生徒会長が挨拶をするのが通例となっているようですわ。目ざとく私たちを見つけてにこりと微笑む殿下に、正直余計なことをと思いましたわ。


周りの女子生徒が私を見つけて、分かりやすく不機嫌な表情をしているのですもの。人気者は大変ね。


ですが、その視線にこちらを嘲る意図が含まれていなかったので、私は溜飲を下げましたの。その視線に含まれるのは、こちらを見た後に自分を振り返って、悔しそうな顔をするものばかり。


ふふふ、居心地が良いですわ。私の素晴らしさに気圧されて、誰も彼もが諦めていきますことよ。

一方、そうして諦めた女子生徒の視線がスカーレットに集まることも感じられましたの。スカーレットもそれは自覚があるようですが、興味のなさそうな顔をしておりましたわ。


まあ、妙齢の貴族女性が(まあそう言うにはやや幼すぎますけれど)スカーレットを狙うのは当然の摂理と言えますの。


私が殿下の婚約者であることから、今後の地位も安定。親族を王家の血筋に入れることも視野に入れられ、なおかつ公爵家の庇護も得られる、といういい事づくしだわ。また、スカーレットは忌避される黒い髪色であることさえ除けば、私に似て眉目秀麗であるばかりか、頭脳明晰、文武両道、完全無欠ですのよ!


思わず高笑いをしたくなるほどだわ。私の分身がもてはやされているのは気分が良いものね。

スカーレットは私が上機嫌になっている理由に気がついて、げんなりした顔をしていたけれど。ふふん、良いじゃないスカーレット。あなたも私も貴ばれるべき者なのよ。



そんな風に上機嫌に過ごしていたら、あっという間に入学式が終わりましたわ。式が終わって自由時間になると、すぐに私たちのまわりに人だかりができましたの。皆自己紹介をしていたり、今後お近づきになりたいみたいなことを言っていましたわ。


もちろん私はにこやかに接してあげましたのよ。完璧な令嬢、これこそが私を嘲笑から守ってくれますの。

意外に思ったのは、ご令嬢だけでなくご令息もなかなかの人数集まったことかしら。殿下の婚約者である私に言い寄ったところで、リスクのほうが大きいはずだから…。スカーレットのお友達枠、という安牌を狙っているのかしらね。スカーレットと友人になれば殿下と仲良くなれるはずだものね。


スカーレットと2人で、表面上穏やかにかつ適当にあしらっていると、殿下がやってきましたの。


この講堂でこんなに人だかりがあれば、さすがに舞台袖からも察せられたみたいだわ。出口のない自己紹介の連鎖に私たちが疲れ始めたところに来るのは、さすが殿下ということかしら。


意味の分からないことも言うけれど、こうした仕事の迅速さは素直に賞賛できますわ。


「やあ、僕の婚約者と将来の義弟はここかな?」

きらきらと眩しい殿下の登場に、きゃーっと小声で令嬢たちが騒ぐのが聴こえますわ。

令息たちもなんだか顔を赤らめていて、同性でさえも魅了してしまうものなのね、とげんなりしましたわ。


「初日からこう囲まれてしまうとは、二人の魅力に皆が気がついてしまったかな。だけど今日はここまでにしてくれないか、この後用事があるんだ」


こうした殿下の言葉に、貴族たちはすぐに承諾し、散っていきましたわ。


「殿下、ご機嫌麗しゅう」

「殿下、お会いできて光栄です。用事は本当のことですか?」


いつもと全く変わらぬ、形式ばかりの私たちの様子に、殿下は少しやれやれと言った顔をした後、

「本当のことだよ。生徒会室に来てくれないか」と私たちを誘いましたの。



生徒会室に着くと、そこには副会長と紹介されたジェーン・サブリースという眼鏡の男子生徒がいましたわ。いかにも生真面目そうで神経質そうな様子に、私達はあまり好印象は抱きませんでしたわ。


…あまり歓迎されている様子もありませんでしたし。


サブリース副会長は、殿下に頼まれて私たちに紅茶を淹れてくれましたわ。無言のままずっと置かれた紅茶に、形ばかりの感謝を伝えておきましたの。


「疲れているところだとは思うが、実は君たちにお願いがあるんだ」


…お願い、つまりそれは王命ということですわ。殿下はしっかりと教育を受けてこられた方。些細なことでは謝らないし、些細なことではお願いという言葉も使いませんの。場が真剣な空気になりますわ。サブリース副会長はどうやら知っていた様子。


「…内容によりますわ」


私のその答えに、サブリース副会長はあからさまに怒りの表情を示し、「殿下に背くというのか」と飛躍した意見を言ってきましたわ。


スカーレットがはぁ、とため息を付いて「内容による、と言っただけですよ。サブリース侯爵子息殿」と、暗に黙らせる。


サブリースはそれこそ悪魔を見たような顔をしていましたけれども、私たちとしては本題のほうが大切でしたわ。うかつに王命を請け負うわけにはいきませんの。安請け合いは家を壊しますし、私たちの未来を崩しますわ。


殿下はそのことを心得ているのか、頷いて話し始めましたわ。

「君たちは光魔法を知っているかな」

「存じてますわ。闇魔法への唯一の有効手段であり、光魔法への唯一有効手段も闇魔法ですのよね」

「非常に珍しい魔法で、闇魔法が100年に一度貴族の中に出現することに比べて、光魔法は1000年に一度平民の中に出現するとされていますね」


私たちが明確に答えると、殿下は満足そうに微笑みますわ。このくらいの知識は当然ですの。


「そう。その光魔法の使い手が現れた」


そして、続けられた言葉に、私達は思わず息を呑む。殿下は続けられますわ。


「実に稀有なことだ。光魔法の使い手と、闇魔法の使い手が同時に現れるのは実に2000年振りだとも言われるとされる」


「…神話の話かと思っていましたわ」

「光魔法の使い手は当然保護されたんですよね?」


私たちの闇魔法が珍しいことも、光魔法がさらに珍しいことも等に知っていたのでその事実には驚かないものの、それが実際に現れたとなれば驚きが隠せないませんわ。スカーレットの問いに、殿下は神妙に頷いてからこう続けられますの。


「もちろん保護した。だが表立って平民の者を高位貴族に迎え入れることはできない。また、貴族としての立ち居振る舞いを身に着けていない彼女を高位の貴族の中に放り込めば、気位の高いものからは無作法者、悪意を持つものからは利用価値の高いものとして扱われるのが関の山だろう」


「…まあ、そうでしょうね」

「下位貴族の養子にしましたの?」


「さすがはルージュ。そういうことだ。それでここからが本題だが、彼女は君たちよりも一つ年上、そして私の一つ年下の女子生徒としてこの学園に通っている。学園内では光魔法の訓練を積むとともに、礼儀作法を身に着け、将来高位貴族としてこの国に尽力することを期待されている。


…国としてはありがたいことに、彼女は魔法の力を高めることや、礼儀作法を身につけることには非常に積極的でね。聖女だなんだと祀り上げるものまで現れるくらいだ」


「光魔法の使い手であることは隠さなくてよかったんですの?」

「そのうち明らかになることを隠すよりは、最大限機会を活用して強くなってもらったほうが良いだろう」


「…強く、ですか?」

何やら含みのある言い方に、スカーレットが質問を投げかけましたわ。私も疑問ですの。確かに力が強くなることは国にとって有益であるかもしれませんわ。しかし、それ以上に、能力を明かすことは狙われるリスクがそれだけ高まるということですの。


どうしてそこまで強くさせることに焦っているのかしら。


「これはまだ国の中枢しか知らない機密情報だが、魔族が最近活発になってきているとの情報がある。地方の村では既に魔族による襲撃を受けたり、魔物を増やされたりしているらしい」


「まあ、なんてことですの」

「魔族とはもう何百年も棲み分けができているのではないのですか?」


「残念ながらそれは表向きの情報だ。私たち人族と魔族はもうずっと冷戦状態だっただけだ。定期的に和平の会議が行われては、意見が相容れずに冷戦が長引いているらしい。魔族達もこの話し合いをそろそろ見限ってきているのだろうな」


「…まあ、よくも魔族が何百年も会議に応じてくれたものですわね。圧倒的にあちらが有利なのだから、とっくに攻め込まれてもおかしくないのではなくって?」


「そうですね。もし僕たちが魔族の側なら、そんな交渉になど応じずさっさと王都を落として統治してしまいますね」


私たちの言葉を聞いて、それまでずっと黙っていたサブリース副会長がこちらを睨みつけますわ。

「悪魔が…」と呟いたのは聞こえておりましてよ。


私がサブリース副会長の方を向いて、「状況的には当たり前のことでしょう?」と笑いかけると押し黙りましたわ。


こんな感情的な人間が侯爵家にいるとは、非常に残念ですわね。…いえ、だからこの家系はずっと侯爵家どまりなのかしらね。


私たちのように優秀な人間だからこそ、権威と安定のある公爵家にふさわしいのですわ。…ふさわしくない人たちも、いまは在籍しておりますけれど。スカーレットが爵位を奪い取るまで、後数年のことですわね。


そんなことを考えている私は、殿下が曖昧に、なんだか寂しそうに笑っていることに気が付きませんでしたわ。


「…まあそういうことだから、彼女には強くなって貰っている。魔族の魔法に光魔法は有効だからね。それで、コレルリ公爵家の君たちには、彼女の世話係になってもらいたい」


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