表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3.薔薇

 次の日も赤い薔薇が一本届いた。

 昨日とは種類の違う赤い薔薇の花。


 やはり手紙はなかった。

 

 剥き出しのままの薔薇。

 

 次の日も赤い薔薇が贈られてくる。

 これも前日とは違う種類だった。


 送られてくる薔薇の花。

 手紙はない。


 手紙もなく薔薇だけが贈られてくることに不安になる。

 そのままの意味でいいんだよね。

 信じていいよな?

 

 

 だが、それは信じる気持ちを裏切るものだった。


 5日目も赤い薔薇が届いた。

 それと一緒に小さな箱が届いたのだ。


 嬉しくて中を開けると、ネックレスが入っていた。翡翠を使ったネックレスを見て驚いた。

 それは僕がレティシアに贈ったものだ。間違いない。

 

 どうして、送られてくる?

 なぜ、このネックレスを送ってきたのだ?  

 これは、レティシアに贈ったものなのに。

 

 ()()()君を思って、特注で作ってもらった、君だけの誕生日プレゼントにあげたものだよ。





 二年前・・・?

 ふと、思考が止まる。


 僕は今年の彼女の誕生日を祝ったか?

 して、いない?

 昨年は?


 イヤリングを彼女に・・・。


 いや、違う。イヤリングは()()()()にあげたんだ。


 レティシアには・・・・・・、していない?


 何故だ?

 何故していない?

 

 どうしてだ?


 レティシアに何も贈っていない。

 いつからだ?

 愕然とした。背筋に冷たいものが流れる。不安にかられた。


 自分の机に向かい、引き出しを開ける。つけていた、日記を急いで見た。


 いつからだ?

 いつからおかしい・・・?


 ペラペラとページを捲っていく。

 どこだ!

 レティシアのことを書いているページは?

 

 


 手を止める。

 このページ・・・。


 ミランダの教育が始まってから、自分の記述がおかしかった。

 それまで、レティシアのことだけが書かれていたものが、いつの間にかミランダにとって変わっている。

 実の妹のように気にかけている文面。下手をすれば恋人のことを書いているようにもみえる。


 心配の言葉や、甘い言葉がかきしるしていた。

 

 なんだ・・・。


 自分の書いたはずの言葉が気持ち悪く感じた。


 レティシアの話はどこにある。


 ページをまた捲る。

 捲る、捲る、捲る、捲るー。


 いつから、レティシアと直接会っていない?話を交わしていない?


 ない。

 ない!

 ない、ない、ない!

 どこにもない。


 お茶会をしたことさえ書いていない。

 書いていないとなると、・・・していないのだ。

 いつからしていない?


 僕は、レティシアを蔑ろにしていたのか?


 ミランダとのことばかりが書かれた日記。


 最後に見た、レティシアの悲しそうな顔。


 僕は・・・。






 父から、呼び出しを受け会いに行く。


「お前とレティシア嬢の婚約解消が決まった」


 静かに言われる。


 理解できなかった。

 

 レティシアとの婚約解消?


 どうして・・・。


「聖女ミランダとただならぬ仲らしいな」

「彼女とは、そんな関係ではありません。立派な淑女になる為に協力しているだけです」

「だが、周りはそうは見ていない」

「わたしにはレティしかいません。彼女と話をさせてください。先程、自分の日記を見て、わかりました。自分の愚かさを。彼女にきちんと謝り、同じ轍を踏まぬよう戒めますので」


 父は、首を振った。

 僕をただ静かに見ている。


「もう、遅い。レティシア嬢は、()()()()で後遺症が残り、王太子妃を辞退してきた」

「後遺症?」


 後遺症が出るほどの怪我だったのか?



 流れる血を思い出した。


 赤い血の海で倒れている彼女をー。



「レティシア嬢の父、ヴィランデー公爵も宰相の座を返上してきた。レティシア嬢の今後の生活を見守る為に領地に帰るとな。医師の診断書も携えてきた。嘘ではあるまい・・・」



 レティシアの姿が脳裏に映った。

 悲しそうに笑う姿。


「レティシア嬢は忘れ、聖女ミランダと婚約せよ。聖女と結ばれるなら、世も繁栄する」


 レティシアを忘れろと・・・。


 繁栄の為に聖女と・・・。


 そんな・・・。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ