3.薔薇
次の日も赤い薔薇が一本届いた。
昨日とは種類の違う赤い薔薇の花。
やはり手紙はなかった。
剥き出しのままの薔薇。
次の日も赤い薔薇が贈られてくる。
これも前日とは違う種類だった。
送られてくる薔薇の花。
手紙はない。
手紙もなく薔薇だけが贈られてくることに不安になる。
そのままの意味でいいんだよね。
信じていいよな?
だが、それは信じる気持ちを裏切るものだった。
5日目も赤い薔薇が届いた。
それと一緒に小さな箱が届いたのだ。
嬉しくて中を開けると、ネックレスが入っていた。翡翠を使ったネックレスを見て驚いた。
それは僕がレティシアに贈ったものだ。間違いない。
どうして、送られてくる?
なぜ、このネックレスを送ってきたのだ?
これは、レティシアに贈ったものなのに。
二年前君を思って、特注で作ってもらった、君だけの誕生日プレゼントにあげたものだよ。
二年前・・・?
ふと、思考が止まる。
僕は今年の彼女の誕生日を祝ったか?
して、いない?
昨年は?
イヤリングを彼女に・・・。
いや、違う。イヤリングはミランダにあげたんだ。
レティシアには・・・・・・、していない?
何故だ?
何故していない?
どうしてだ?
レティシアに何も贈っていない。
いつからだ?
愕然とした。背筋に冷たいものが流れる。不安にかられた。
自分の机に向かい、引き出しを開ける。つけていた、日記を急いで見た。
いつからだ?
いつからおかしい・・・?
ペラペラとページを捲っていく。
どこだ!
レティシアのことを書いているページは?
手を止める。
このページ・・・。
ミランダの教育が始まってから、自分の記述がおかしかった。
それまで、レティシアのことだけが書かれていたものが、いつの間にかミランダにとって変わっている。
実の妹のように気にかけている文面。下手をすれば恋人のことを書いているようにもみえる。
心配の言葉や、甘い言葉がかきしるしていた。
なんだ・・・。
自分の書いたはずの言葉が気持ち悪く感じた。
レティシアの話はどこにある。
ページをまた捲る。
捲る、捲る、捲る、捲るー。
いつから、レティシアと直接会っていない?話を交わしていない?
ない。
ない!
ない、ない、ない!
どこにもない。
お茶会をしたことさえ書いていない。
書いていないとなると、・・・していないのだ。
いつからしていない?
僕は、レティシアを蔑ろにしていたのか?
ミランダとのことばかりが書かれた日記。
最後に見た、レティシアの悲しそうな顔。
僕は・・・。
父から、呼び出しを受け会いに行く。
「お前とレティシア嬢の婚約解消が決まった」
静かに言われる。
理解できなかった。
レティシアとの婚約解消?
どうして・・・。
「聖女ミランダとただならぬ仲らしいな」
「彼女とは、そんな関係ではありません。立派な淑女になる為に協力しているだけです」
「だが、周りはそうは見ていない」
「わたしにはレティしかいません。彼女と話をさせてください。先程、自分の日記を見て、わかりました。自分の愚かさを。彼女にきちんと謝り、同じ轍を踏まぬよう戒めますので」
父は、首を振った。
僕をただ静かに見ている。
「もう、遅い。レティシア嬢は、あの事故で後遺症が残り、王太子妃を辞退してきた」
「後遺症?」
後遺症が出るほどの怪我だったのか?
流れる血を思い出した。
赤い血の海で倒れている彼女をー。
「レティシア嬢の父、ヴィランデー公爵も宰相の座を返上してきた。レティシア嬢の今後の生活を見守る為に領地に帰るとな。医師の診断書も携えてきた。嘘ではあるまい・・・」
レティシアの姿が脳裏に映った。
悲しそうに笑う姿。
「レティシア嬢は忘れ、聖女ミランダと婚約せよ。聖女と結ばれるなら、世も繁栄する」
レティシアを忘れろと・・・。
繁栄の為に聖女と・・・。
そんな・・・。