イチとパート11
地下の人たちは宇宙人の子供であるムーンを受け入れた。反対する意見もあったが、ムーンが話した宇宙人内の事情と、郷間の「責任は俺が持つ」という力強い言葉に、ひとまず納得した様子だ。
メンチを切っていたオッサンも意外と話が分かる人間で、人前でムーンに頭を下げた。
その時は、大人な対応ができるんだな、と失礼ながら驚いた。
自衛隊基地の生き残りの兵士たちも協力する姿勢を見せている。
良かった。
坂倉は、この事件の発端は自分にあると自覚していたため、周囲の反応に気を配らせていた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
だから坂倉は、ミミさんの様子が少し気にかかっていた。
ミミさんは宇宙人に対して表立って強く非難しているわけではない。
しかし、ムーンを見る目がどうも・・・・
他の人たちとは違うような気がした。
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一夜明けて翌日、
髪飾りの女性、
ミミさん、
郷間
幸子、
尾張、
ムーン、
それに坂倉も加えて、7人は食卓を囲んで朝食をとっていた。
ムーンがおどおどした様子で、包帯まみれのムスッとしている郷間に話しかけた。
「郷間さん…大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるのか?宇宙人の目ん玉はどこについてんだ」
「う~、ごめんなさい」
郷間はムーンに悪態をつけているが、どことなく和やかな雰囲気が醸し出していた。
しかし・・・
「郷間、客人に失礼だぞ」
ミミさんのこの言葉に、空気はピリッとなった。
「その客人を殺しそうになったジジイに言われたくねえよ」
郷間の声色はさっきまでと違って低くなっている。
「ジジイという年齢ではない。44だ」
「ミミさん、その年なら十分孫がいる年じゃねえか・・・ジジイ!」
郷間とミミさんは昨日の続きでもしてるかのように、いがみ合っている。
ミミさんがムーンの首を絞めつけていた時と同じくらいだ。
「な、なあ、44で孫って、普通なのか?」
坂倉は少し疑問に思ったことを向かい側に座っている髪飾りの女性に聞いてみた。
髪飾りの女性はミミさんよりも強い。何とか牽制になればいいと思った。
「・・・・・」
髪飾りの女性は無言だった。
早く喋ってくれよ!
今、空気が悪いの分かるだろ!
坂倉が焦る中、髪飾りの女性はワンテンポ遅れて口を開いた。
「あー、私たち力を受け継いでいる人はね、19になると子供を作るよう決まり事があったのよ」
「げ、19!?…何でそんな決まり事が・・・」
坂倉は急いで会話を繋げた。
「今は力を受け継いでるのが5人に絞られたけど、昔は大勢いたみたいだからね。力を濃くするために力を持っている者同士で、どんどん子供を作っていったのよ。数よりも質を優先してね」
「へー」
坂倉は相槌を打ちつつ、郷間とミミさんの様子を確認した。
二人とも目を下に向け、無言で食事をとっている。
ほ、どうやら落ち着いたみたいだ。・・・多分。
少々の不安は残るが、何だかんだで一緒の食卓を囲んでいるんだ。今はまだ、割り切れない気持ちがあるだけだ。きっと・・・
坂倉はミミさんの心情を勝手に予想して落ち着いた。
そんな中、
「まあ、今はそんなことする必要がないから、私も22になっても子供いないんだけどね」
「あー、そっか」
坂倉はどうでもいいかのように髪飾りの女性の話を、左から右へと流していた。
坂倉の隣にいる幸子がコソっという。
「その態度はー、駄目だよー。宇宙人から君を助けるために、トッシーを先頭に宇宙船に乗り込んだんだからー」
トッシー?ああ敏子だからトッシーか・・・
「こら、そこ聞こえてるよ」
「あははー、ごめーん」
髪飾りの女性が箸でさしてコソコソ話を中断させる。
すると新しく長になった五歳児の尾割は髪飾りの女性に「箸で人を指さない」と注意して威厳を出そうと頑張っていた。
呑気な空気が戻ってきた。よしよし。
・・・・
・・・・
そう思った坂倉だったが、おかしなことに気づき、自分からこの和んだ空気に釘を打ち込む。
「・・・ん?俺を助けるため??宇宙人に攫われたのは【弟】だろ?」
「弟って誰?」
髪飾りの女性が言った。
・・・・
あまりにもあっさりと尋ね返してきたので、坂倉は面食らった。
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「いや誰って・・・お前の弟だろ。宇宙人に【弟】が連れ去られた時、あんなにも取り乱していたじゃねえか」
「いや、連れ去られたのはお前だろ。お前が胸から血を流して倒れた後、宇宙人たちと一緒に消えたのを俺たちも見てるんだぞ」
答えたのは郷間
「ま・・・待ってくれ。待ってくれ。俺は宇宙人たちと一緒に消えてないだろ・・・俺は宇宙人の仲間じゃないかと疑われて、お前らに連れていかれたじゃないか」
「はあぁ?んなわけ・・・」
「待って、兄ちゃん。その記憶・・・確かにある」
「・・・言われてみれば・・・そうだよな。・・・そうだった。その後、なんやかんやあって坂倉と一緒に宇宙船に乗り込んで・・・・でも、じゃあ・・・・
・・・俺らが助けようとしてたのは誰だ?」
郷間が言った言葉にみなが静まり返り、場が凍り付く。
宇宙人のことを怖いと思っていた郷間だったが、まるで頭の中を操作されているかのようなこの感覚は、その比ではなかった。
妙な不気味さに冷や汗をかいた頃、ムーンがある話を持ち出した。
「もしかして・・・地球の神様が関わってませんか?」
「神様???」
宇宙人であるムーン以外の全員がハモった。その反応を見てムーンは少し引く。
「え、地球人ってまだ神様の存在を知らないんですか?」
ムーンはバカにする気は全くなかったが、12歳の子供に、こんな事を言われて皆の中に若干殺意が湧いた。
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数時間後・・・ムーンの話を進めていった結果、
「じゃあ、私はこの子を連れて地上に行ってくるから」
髪飾りの女性はムーンを背に担ぎ、地上に出る準備をしていた。
「郷間さ~ん」
ムーンは一番接触が多かった郷間と一緒に行きたそうにしていた。
「お前は鬼か。包帯だらけのこの俺をこき使いたいのか」
「うう~そうじゃないのに・・」
ムーンと鈍感な兄を見て幸子はニヤニヤする。
「まあまあ、しょうがないよムーンちゃん。これから何が起こるのかわからないんだからー。一番動けるトッシーが行くのはしょうがないよー」
「む~」
ムーンはまだ納得できてない様子だ。そんなムーンに幸子はトンっと一歩近づき、意味のない耳打ちをする。わざわざコソコソ話っぽくするのは幸子の癖である。
「これが終わったらー、約束通りあなたが言う長老が持っている赤い宝石…転移石をあなたに譲るよー。それがあれば故郷に帰れるんでしょー?」
ムーンはコクコクと頭を振り、餌付けされた子犬のように大人しくなった。
耳打ちし終わった後、幸子はこの言葉も付け加えた。
「それから、私がナイフで刺した宇宙人・・・火を使う人に会ったら謝罪を言ってほしいかな。・・・大怪我をさせてごめんなさい」
幸子はいつもののんびり口調じゃない。そして深々と頭を下げている。
「エンカ大尉なら大丈夫だよ。ピンピンしてる。それに実はその時、透明になって影からコソっと見てたんだけど、あれは油断してたエンカが悪い。ホント残念大尉」
そう言われ幸子はホッと胸をなでおろした。
その会話を聞いて坂倉は胸がチクリと痛くなる
「そういうこと言ったら俺も謝らないといけないよな」
「は?なんでアンタが?」
「いやトッシー、お前が一番重罪だからな」
「トッシー言うな」
「ほら、‥‥お前と最初に会った時、お前宇宙人を二人殺しただろ。それで・・・」
髪飾りの女性はそう言われると目を見開き、平手で坂倉の頬をぶった。
「・・ッテェ、チッ…テメエ何すんだ!?」
理不尽な暴力に坂倉は噛みつこうとしたが髪飾りの女性の顔を見てそれ以上何も言えなくなる。
「やっぱしアンタじゃない。あの子は・・・」
坂倉には髪飾りの女性が何を言ってるのかわからない。・・・なぜそんな失望したような顔をしているのかもわからない。
髪飾りの女性は後ろを向いて「じゃ、行ってくるよ」と気落ちした声で言った後、地上に向かうための台座に乗った
「い、行ってきます」
ムーンも慌てて別れの挨拶をした。
髪飾りの女性が立っている青白く光る台座が、300年前宇宙人が作った技術で、地上へと昇って行く
「なんなんだよ」
坂倉はじんじんと熱い痛みが残る頬を抑えながらその様子を…髪飾りの女性が遠くに行く姿を見上げていた。
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ムーンと髪飾りの女性は二人になった。
「ごめんね。私はあなたの仲間を殺した」
「あ、いえ・・・はい」
ムーンはさっきの件もあり、どこか億劫になっている。
「でも、アレはあなたたちにも責任はあると思うの。私が殺した宇宙人、あなたや宇宙船で会った人たちと違って人の姿をしていなかった。あんな暗い時間に見たこともない生物が近づいていたらそれは危険だと誰でも思うよ」
髪飾りの女性は幸子と違って全面的に加害者になる気はないようだ。でも、以外とムーンは髪飾りの女性の言い分を受け入れる。
「はい」
少し弱気に返事する。
殺されたペペ中尉とトト中尉は小型艇を使い無断で地球に降り立った。宇宙船の中で二人は裏切り者ではないかという話をムーンは聞いていた。
小型艇という単語が出てきてムーンはあることを思い出した。
「そういえば、三年前に地球に降り立った時の小型艇はどこに行ったんだろう?」
「小型艇?」
「うん。地球に転移するため、まず最初に小型艇で地球に降り立ったんだ。でもその時に誰かに襲われて転移で帰ったから、地球に小型艇があるはず・・・。私その時、疲れて寝てたから誰に襲われたのか知らないんだけど、ユミ大尉は大怪我したみたい」
「さ、さあ」
髪飾りの女性は苦笑いして相槌を打つ。
三年前?だったらあれだね。あれに関しては全面的に多分私が悪い。問答無用で切りかかったのは理由はあるけども・・・
「そ、そんなことよりもこれからの事だよ。あなたが話してくれた話・・・アレ、あなたが考えてくれた事なの?」
髪飾りの女性は話題を変えた。
「ううん。ルイ様。ルイ様閉じ込められてるけど、会いに行ってあの話を教えてくれたんだ。・・・色々と‥聞いた」
「ルイ・・・どっかで聞いたような・・・・」
ルイはフルネームで名乗っていたが、髪飾りの女性は中々思い出せないでいる。
・・・あと少しで思い出せそう!と思ったときには二人は寺の中、地上に出ていた。
髪飾りの女性はムーンを片手で担ぎ、その場から這い出る。そのまま寺から出ようとしたとき二人の自衛隊の兵士に出会った。
「あ、」
ムーンが間抜けな声をあげる。
ここに入るときはムーンは透明化して兵士の目を欺いていた。でも今は透明化していない。
どうしよう。
ムーンは髪飾りの女性に担がれたまま物のように固まる。しかし、ムーンの心配は杞憂に終わった。
「お疲れ様です」
兵士二人は頭を下げて髪飾りの女性に挨拶した。
「はは。あんだけ私たちの事バカにしてきたのに、ずいぶんとしおらしくなったね」
髪飾りの女性は性格悪く言う。ムーンはちょっと引いた。
髪飾りの女性はムーンに説明した
「大丈夫。コイツらにもあんたの事情というか、宇宙人の事情は通ってあるから。郷間に感謝しないとね」
「郷間さん?」
「郷間が、こいつらにあんたの事を話して敵じゃないって説明してあげてたのよ」
「そ、そっか・・・郷間さん」
ムーンは嬉しそうだ。
そんな傍ら、髪飾りの女性は影を落としていた。
そう。郷間はこの子の為に行動している。
でも、ミミさんは、そんな郷間に夜襲を密かにかけていた。
私が気付いて助けに行ってなかったら今頃、郷間は・・・・
朝の様子を見る限り、ミミさんはあの件はシラをきる気みたいだし、郷間も口に出さなかった。
・・・・・・髪飾りの女性はボソリと言った。
「宇宙人は敵じゃなかった。敵は別にいる」
髪飾りの女性は遠くを見据えている。
その先には暗雲が立ち込めり、今にも雨が降り出しそうだった。




