vol.12...The Grim Reaper in the autumn
『もう終わりにしよう?』
『嫌だ、まだ付き合いたい!』
『どうして、死神が手を振っているのに』
『死神だって時にはキスを見過ごすもんよ』
「ねえ、冬って愛しいよね」
「そう……かな、あたしだってよく分からないけど。どうしてなんだろうね、鍋島君」
「今日の君は哲学的だ」そう言って、私の方からキスをした。だって、私の志向と彼女の思考が重なったのだから。
「高校生って、自由だと思う?束縛だと思う?」彼女は聞く。
「高校生なんてまだ可愛らしいものだよ。これから段々自由になる」
「自由って何?」
「……」私は言葉に詰まった。「雨が降るのと一緒かもしれない。雨粒って振っている間は実に自由だ」
「そんな事知りたいわけじゃないよ。今のアンタってずっと合わせている。あたしのレベル、落とそうか」
「いや、上げてくれ。もっと深く、君のことが知りたくなった」そう言って私はキスをした。
「どうしてキスしたの?」
「好きだったらキスをするわけじゃないだろう?単なる挨拶だよ」
「挨拶だったらしていいよ。わたしもどこでも挨拶はしたくない」
「そうだね。私もそう思う。挨拶は私的であるべきだ」
「そうだね。弁当冷めるよ」
「冷めた弁当要る?私が作ったんだけど。三色そぼろ弁当」そう言って出したのが、そぼろ弁当。あんかけにしたので、冷めても美味しい仕様にしている。
「へえ、じゃあ貰おうかな?」
「どうしたの?お腹の様子は大丈夫?」
「お腹ってキスしたら減るものなの。あたしのサンドイッチあげる。あたしもサンドイッチ作った。バゲットでね」
「へえ、じゃあ硬そうかな?」
「柔らかいのを選んだつもり」
「今度からバゲットにキスしたら?」私がそう言うと、エリザがウインクして、長いキスをした。私は弁当を食べる暇がない。
「彼氏になるんだね私が」
「そう。代用じゃないから」
「本当に?」
「絶対」
「何故多分って言わないの?」
「多分って言葉、嫌いだから」
「ふうん、変わっているね」
「そうかな?多分って随分感覚で使う言葉っぽい」
「だったら辞めようか?」
「いやあんたは使っていい。本当の事あんた自分で分かっていないから」
そう言われると、そうなのかもしれない。だから鵲にフラれたのか。ようやく彼女の思考に気がついた。彼女の父親は既に亡くなっている。彼女の言い訳だろう。ラインで言っていたし。彼女は離れたかったのだろう。どう見たって、鵲さんよりもエリザの方が私には向いている。それを教えていたのだろうか。
「そうか」
「じゃあね」サンドイッチを食べた彼女は立ち上がった。彼女はそぼろ弁当は食べなかった。
「ねえ」
「うん……何?」
「俺、鵲さんと別れた原因なんだと思う?」
「過去って降り積もるものだから、降り積もった過去って覗けないものなの。ちょうどステンドグラスの裏側のように」
「そうだろうね」
私は、彼女に断罪してほしかったのだろう。本当の事分かっていないからよ、って。そう言えば溜飲が下がったのかも知れない。下らないプライドだ。
「また、会いに来て」
「どうしてそんな事言うの?」
「会いたくなったから」
「あたしの心は遠くにいるかも知れないから、いつ鼓動が会うかわからないわ」
私の事を分かってくれるのは彼女だけだ。私は彼女と結婚しよう、とすら思えたが、まだ早すぎる思考であるが、恐らく。
「結婚しない?」
「いえ、私はそんな事をするくらい近くにいるのかなあ、って最近思うの」
「さっきのキスがあっても?」
そう言うと彼女は帰っていった。最後のプライドを何故壊したのだろうか。何故だろう。気をつけないといけない。
そういう子羊のような穏やかで優しい思考にはなれなかった。
寒くなってきた。
弁当は既に食べ終わっている。
しかし、彼女の思考を辿ることは終わっていない。
壊れた彼女の心を直せる自信は私には無かった。
しかし、確実に彼女との距離は縮まっているのが分かる。
私の鼓動と彼女の鼓動の振動数や波長が揃っている。
宝石のように奇麗なコサインカーブを描いている。
美しく、妖しいサインカーブを描いた挙動を私の空に描く。
彼女は笑っているかな?空が湿ったように泣いているのかもしれない。
しかし、私は悪いことはしていないと思っている。
彼女とのリンクしたいという願いが叶って良かった。
『 』
エリザは言った。
今、切に願うのは彼女が秋空の中に放った言葉は何だろうか、と思案する事次第である。




