お嬢さまとお引越し
レインパージ王国城下町。
国に暮らす人々の生活は一変していた。
古代魔導技師の技術の流入。
タコワの町のそれを上回る魔導技術により、食品や生活用品の加工である二次産業はもちろん自動化が始まり、酒場や販売店の接客なども魔導人形が務め始めていた。
街のいたる場所でパイプが蒸気をあげ、歯車の軋む音がし、魔法仕掛けの灯りが煌々とあたりを照らしている。
効率化はさらなる効率化を呼び、人々の生活の密度を上げていく。
国王と王妃が国民の前に姿を現さなくなってから半年。
初めのうちは定例の挨拶の廃止や、急な謁見禁止などのお触れを民たちは訝しがったが、国主導の機械化によってもたらされた豊かな生活が、それらを忘れさせていた。
「王城敷地内に侵入者あり。下手人は逃亡中。街の保全のために一時的に警備人形を増員します。戦闘が予想されるため、不要な外出は避けてください!」
城の兵士が街の広場で叫ぶ。
兵士の通達にどよめく国民。だがそれも一瞬の事で、彼らは特に避難することもなく、元の生活に戻って行く。
この半年、城へ侵入を試みる輩が出現していた。
犯人は姿を見せないか、見えても顔を隠していて正体不明。
だがその身のこなしや雰囲気から、常に同一人物であると推測されていた。
始めのうちは国民も国へ害をなそうと企む賊に対して敵意を持ち、兵士や魔導人形と一緒になって侵入者を追い回していたが、捕まりもしなければ、騒がしい他に特に害をなさない賊に対してすっかり飽きてしまい、おにごっこを傍目に世間話や商売に勤しむようになっていた。
兵士も同様で形式ばった警報を出すだけ出したら、詰め所に戻る始末だ。
レインパージ王国の主、レインパージ七世。ソレフガルドでは“疾風のスミス”の偽名で通っていた男。
彼は奪われたものを取り戻すために、城への侵入を何度も試みていた。
王城の近辺には多くのセンサーが仕掛けられており、消音や透明化、身体強化などの補助魔法を無効化。
同時に警備人形が出撃。ことごとく彼を放逐。
トライの度に変容していく街。
この世界としては栄えていても、どこか牧歌的だったはずのかつての様相は身を潜め、鼻の痛くなる蒸気や、眩暈のする魔力の流れが街を支配。
次第に不愉快な町長の有する街に酷似していく。
国民たちも自ら進んで生活の効率化に身を捧げ、治安の安定と無関心が喧騒をどこかとへ追い払っている。
スミスは繰り返しの失敗と、街が名実ともに自身の記憶から離れていくことに焦りを覚えていた。
ただでさえ両親の殺害と近親者の拉致によって、頭とはらわたの沸騰を繰り返していたことも重なり、元の軟派な性格はなりを潜めてしまう。
事情を聞いた友人らもサクラコ救出のためにサポートを行っていたが、作戦の難航により荒れるスミスと頻繁に口論になる始末。
ソレフガルド国王は王冠窃盗の罪を特赦し、愛娘と友好国の奪還のために手を尽くそうと考えたが、平穏に生活するレインパージ国民に対して兵を大挙して攻め込むわけにもいかず、そもそも王冠の喪失により自国の結界が弱まり、国土内に魔物が跋扈。
敵からの防衛で手一杯となり、結局は隠密行動の得意なスミスひとりに任せる他に、打てる手はなかった。
作戦の失敗はともかく、逃走には細心の注意を払わねばならない。
彼が警備の魔導人形を破壊すると、ソレフガルド王国で下手人不明の殺人事件が発生。
警備装置の破壊を行おうものなら、建物がひとつ吹き飛ばされた。
古代魔導技師ヤークの決めたルール。ペナルティ。
これにより強引な手段は一切封じられており、もはや八方ふさがりの状態。
此度もスミスは魔導人形の群れを引き連れて街を駆けずり回っていた。
レインパージ城下のカフェ。ケーキと紅茶を前に座る娘が一人。
カフェに向かって騒がしい一団が接近する。先導するは町の風物詩であるマヌケな侵入者。
「あいつ、話が違うじゃない!」
娘は咥えたスプーンをかちりと鳴らした。
「はやくこっちに来なさい! 飛んで逃げるわよ!」
杖を振り振り大声をあげる。
「あなた、あのドロボウの知り合い? 逃げるって、食い逃げする気じゃないでしょうね?」
人間のウェートレスが娘の腕をつかむ。
「放しなさいよ!」
暴れる娘。牡丹色の髪が跳ねる。
「食い逃げは、だめぇ!」
ウェートレスは娘を羽交い絞めにする。
「どうした?」「なんだなんだ?」「またあのドロボウ?」
いつもと少し違った騒ぎに街の人々が興味を示す。
魔導人形を先導する男もそれに気づき、走る速度を上げる。
「よぉーし! 今日こそアイツをふんじばってしまおうぜ!」
体格の良い男がドロボウに向かって走り出す。それに続く男ども。
「捕まえたぞ!」
あっという間に取り押さえられるドロボウ。
「こっちも逃がさないわよ!」
食い逃げ犯も封じ込められる。
「ええい! めんどくさい!」
娘の身体が赤く光った。
カフェの周囲に電気が走った。感電する住民と人形たち。
魔法使いの娘は周囲に砂煙を巻き上げると、その辺にあったホウキを盗み取り、男の群れからドロボウを引きずり出して、空へと飛び上がった。
「ちょっと! 今日は下見だけって言ったじゃない! 私が手伝えそうなところを探すって話だったでしょ? なんで追いかけられてるのよ!」
ホウキにまたがり、ぶら下がる男を怒鳴りつける娘。
「……」
男は返事をしない。
「スミス! あんたひとりじゃ無理よ。この半年間、一回も城内に辿り着いてないらしいじゃない。いい加減、意地を張るのはやめなさい!」
今回から救出作戦にユクシア・ユーイステアが参加していた。
これまで彼女は勇者アレスの治療に専念しなければならなかった。
半年経てようやく継続ダメージの効力が弱まり始め、他の治療師に任せることができるようになったのだ。
「とにかく、帰るわよ……」
* * * *
* * * *
ソレフガルド王国、鍛冶場の隣、ベティの工房。
「あらら。ユッカが行ってもダメだったの?」
マスクとゴーグルをした娘が言う。彼女は何やら機械人形を弄っている。
「だめもなにも! 私は何もしてない。今日は下調べの予定だったのに、こいつが勝手なことをしたのよ!」
ユクシアがスミスを指さす。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。カッカしてると上手く行くもんも行かなくなるわよ」
他人事のように機械いじりを続ける娘。
「ベティ。隠密行動が得意なのはこいつだけなのよ。それなのにわざわざ見つかりに行って。こいつが勝手なことを繰り返したら、私たちが何しようと全部、水の泡なのよ!」
「落ち着きなさいって。王子クンが焦る気持ちも理解してやりなよ。仲間のあんたが分かってやらなくて誰が分かってやるのよ?」
ベティは工具を置きユクシアを宥める。
「分かるわよ! 私だってサクラコを助けたいし、家族を殺されたらつらい事くらい! だけど、考えも無しに突っ込んでもだめだってこと程度は、いい加減、理解するべきでしょ! 何回失敗してるのよ!」
ユクシアの頭は湯を沸かし続けている。
そこに駆けてくるひとりの兵士。彼もサクラコと縁深い人物のひとりだ。
「皆さん、大変です!」
「大変はずっと大変よ!」
いきなり兵士に噛みつくユクシア。
「お、落ち着いて聞いてください……」
兵士は犬を宥める。
「いまさら何があったって驚かないわよ!」
「魔導技師から手紙が届きました」
紫の封蝋のされた封筒を取り出す兵士。
「はやく寄越しなさいよ!」
封筒を奪い取ると封蝋を叩き、床に放るユクシア。
魔法銀の封蝋から浮かび上がる映像。白衣片眼鏡の男。
『いえーい。みんな元気してる? 私は、元気元気! マヌケなスミスくんの姿が見れて毎日ごきげんだよう!』
舌打ちするスミス。
『ところで、今回も救出作戦は大失敗に終わっちゃったねえ。今まで一度もお城の中まで来れてないんじゃない? 中にもちょっと仕掛けを用意してるのに、出番がないのは寂しいねえ』
白衣の男は両手をあげ首を振る。
『お城に侵入するというのは、きみ達には少々難易度が高かったかな? 自分の家だったはずなのに、おかしいよね』
笑うヤーク。
『そんなきみ達に朗報! 異界の娘と王女を別の場所に移します! いい加減飽きて来ちゃったからね。
彼女たちも最近、退屈してるみたいだから私の知り合いの研究所でお手伝いでもしてもらいます。
知り合いの専門は魔導技術と生体研究なんだけど……ようは、動物実験とか人体実験が得意らしいね。
私はあんまりそっちには詳しくないんだけど、彼女が作るものも中々、面白いんだよねえ』
顎を撫でる科学者。
「人体実験……」
ベティが立ち上がった。
『おっと。安心してね。うちの娘たちには悪さをしないでねって言ってあるから。ただ、彼女は……知り合いの研究者ね。彼女は私の部下ではないから、言うことを聞いてくれるかは分かんないけど……』
研究者は口に手を当て笑いを抑え込む。
「メアリー……」
スミスが壁を叩く。壁に掛けてある道具やら部品が床に落ちてやかましく音を立てた。
「ちょっと、王子クン!?」
苦情を出すベティ。
「あんたも怒ってんじゃん」
ユクシアが皮肉な笑みを浮かべ、鼻で嗤う。
『そうそう。今回のこちら側の損害だけど……。警備人形の故障に、国民に怪我人が少々、それにカフェの損壊』
一同は真顔に戻り、映像を注視する。
『ペナルティとして、こじゃれたカフェをドッカーーン!』
ユクシアの額に汗がにじむ。
『……と行きたいところだけど、魔法使いのお嬢ちゃんが主犯だったみたいだから、彼女にペナルティを与えました! 私はきみのことをずっと良い子だと思ってたのに、残念だねえ』
汗の玉が大粒になり頬を伝い、床に落ちる。
「ユクシアさん……報告があります」
兵士の伝言。
ユクシアは兵士のほうを見る。彼女は震えていた。
「先刻、ユーイステア邸が爆破されました」
「さ、先に言いなさいよ。……パパは? ママは?」
訊ねる娘の顔には張り付いた笑み。
「おふたりは怪我をなさいましたが、すぐにご自分たちで治療して、命に別状はないようです。ただお屋敷のほうは……」
「……そ、ならいいわ」
床にへたり込む娘。友人の肩に手をやるベティ。
『次からは知り合いの研究所のほうにアタックするようにね。
そっちにはフツーの国民は居ないから、ケガ人については多分、気にしなくていいよ。
物を壊しても私のじゃないから、ペナルティもナッシン! ただ、場所は自分たちで探すこと! それじゃ、バイビー!』
手を振るヤーク。映像が消える。
工房に流れる沈黙。
「やっぱり、俺ひとりでやる」
スミスが工房を出て行く。兵士も彼を追いかけて出て行った。
「ユッカ、止めないの?」
「はあ? なんでよ。勝手にさせたらいいじゃない。私は今日からどこで寝ればいいのよ」
ユクシアは額の汗を拭った。
「あんたの家が壊されたのは彼のせいじゃないわよ。魔導技師のせいよ。あいつがおかしい」
「それはそうよ。分かってるわよ。あいつは初めから筋なんか通しちゃいないわよ! でもね! あいつには絶対勝てないのよ! 私の魔法だって通用しないし、アレスだって……」
肩を抱くユクシア。
「諦めるの? らしくない。……ま、どうしても勝てないっていうんなら? 勇者クンと逃げたらいいよ。……愛の逃避行! ロマンチックねえ!」
ベティの発破、対してユクシアの平手打ち。乾いた音が工房に響いた。
「あんたは何もわかってないわ」
腕を振りぬいたまま瞳を潤ませる。
「今度は家だけで済んだけど、次はパパとママが殺されちゃうかもしれないのよ!?
パパやママだけじゃない、もしかしたらおじさんかもしれないし、あんたかもしれない!
自分はここに引っ込んで、機械弄って遊んでるだけだからそんなことが言えるのよ!
私の失敗が誰かを死なせるのよ!?
いくらサクラコが友達だからって、彼女ひとりの為にそんなリスク負えないわよ!」
「……サクラコひとりじゃないでしょ。王女さまやレインパージ王国の人たちも実質、人質じゃない。彼らは助けなくてもいいって言うの?」
「それはこっちの国の人たちだって同じよ! 私は家族か友達かと聞かれれば家族を取るし、他所の国の人よりも自分の国の人のほうが大事!」
再び乾いた音。
「見損なったよ!」
ベティは友人に一撃をお見舞いすると背を向け、工房を出て行った。
とり残されるユクシア。
「……」
奥歯を噛み締め立ち尽くす。
「何もグーで殴らなくてもいいじゃない……」
娘は熱を帯びた頬に手をやり、呟いた。
* * * *
* * * *
突然の通達。サクラコとメアリーは、ヤークに城を出るように命令された。
彼女たちは驚いたが、別れの手向けにと、世話になった城の者にケーキを作って振舞うことにした。
王女の権限で貸し切りにされた厨房。異界の料理本と、様々な道具や材料が調理台に広げられている。
ふたりはお召し物の袖を粉で白く汚しながら、大きなケーキをいくつもこしらえた。
「痛っ!」
ケーキの切り分けの最中。メアリーが誤って指に傷をつけてしまう。
「まあ! 大変ですわ。早く手当てをしないと……」
慌てるサクラコ。これまで目にしてきたケガに比べたら大したものではない。だが、王女さまのおみ指である。
メアリーの指の傷は、現世ではちょっと大事にされるかもしれない位のもので、赤い血を絶え間なく流していた。すぐには塞がらないだろう。
だが大丈夫。こちらの世界には魔法がある。一般人でもこの程度の傷を治せるものは多い。
しかし、メアリーは指の傷を治療しようともせず、誰か人を呼ぶこともしない。
ただ、血の流れる指をくわえるだけであった。
「ごめんなさい。メアリーさん。わたくし、魔力がまったく無くって、魔法が使えませんの。どなたか治療のできるかたを呼んで参りますわ!」
サクラコは袖の粉を払うと厨房を出ようとした。
「大丈夫です」
メアリーが止める。
「でも、治療なさらないと」
「私、魔法がダメなんです。その……掛けられるほうもダメで……」
ふやけた指を眺め、呟くメアリー。
「どういうことですの?」
「身体の中の魔力の巡りがめちゃめちゃで、種類に関わらず、魔力を受けたり、魔法を使用したりすると、身体に大きな負担が掛かってしまう病気なんです」
「まあ。もしかして、ヤークさんが何かなさったの?」
「いいえ。彼は何も。むしろ、この病気に興味を持って色々調べたり、治す方法を考えてくれてるくらいで。レイお兄さまが国を飛び出したのも、私の身体を治す方法を探すためで……」
兄に思いを馳せる王女。
「そうなんですの……」
「生まれつきの病気じゃないんです。もともとは魔法は得意でして。小さい頃は魔法でよく悪さをして、みんなに叱られてました」
メアリーは懐かしそうに笑う。
「お兄さまが治療の法をお持ち帰りになられるといいですわね。得意だったものが無くなるのは、おつらいことと存じますわ」
「そうですね……。でも最近は、身体が治らなくてもお兄さまが帰って来てくれさえすれば、それだけでいいかなって……」
「メアリーさん……」
サクラコは両親を失った娘を見つめた。
「さあ。ケーキを切ってしまいましょ! 早くしないと夕食に差し支えてしまいますわ」
王女は大げさに腕を振り上げ、袖を捲った。何かに腕が当たり、床に落ちる。
「あら、何か落ちましたわ」
サクラコは袋を拾い上げると、それに書かれた文字を読み上げた。
「……砂糖」
その袋は封切られていなかった。大量のケーキを眺めるふたり。
「ジャ、ジャムを作って塗るなり挟むなりしましょう!」
「良いお考えだと存じますわ!」
その晩、王女たちに別れを告げられた城の者たちは、ふたつの意味で胸をいっぱいにした。
* * * *
* * * *
箱入り王女はしばらく他所で生活をするからと、あれやこれやと荷物をまとめている。
「できればベッドも持っていきたいわ。私、ベッドが変わると眠れなくって……」
自室のベッドを引っ張ろうとする王女。
「それは、さすがに先方さまもお困りになられるかと存じますわ……」
「ですよね……」
肩を落とす。
「まくらだけお持ちになったら?」
「そうしましょう。サクラコさんは何もお持ちにならないのですか?」
大きなカバンをはちきれんばかりにするメアリー。大してサクラコは手ぶらである。
「わたくしは、自分の品を何も持ってませんもの。あるものと言えば、この身に付けている袴くらいのものですわ」
そう言いながら、ヤークに取り上げられてしまったアクセサリーを思い出した。
それらを作り、魔法を込めてくれた友人たちはどうしているだろうか?
もうずいぶんと彼女たちの顔を見ていない。彼女たちは自分の事をどう思っているだろうか? 探してくれているだろうか?
サクラコはふと重大なことに気付く。
「メアリーさん、わたくし、思ったのですが……」
「どうしましたの? サクラコさん」
メアリーは呑気にカバンに荷物を押し込もうと体重を掛けている。カバンがやめてくれと叫ぶ。
「わたくしたち、場所を移されてしまうと、見つけていただけなくなるのではないのでしょうか?」
「まあ! おっしゃる通りです! どうしましょう?」
慌てふためくメアリー。サクラコは兄を使った否定を期待して問いかけたのだが、互いに不安を煽るだけとなった。
――コンコン。
ノックされる部屋の扉。
「ど、どうぞ」
返事をするメアリー。
「失礼しますよ。ヤークだよ。そろそろ準備はできた? ……ってなにそのカバン。きみの荷物?
あっちには生活用品も何もかも揃えてあるから、そんな大荷物は要らないよ!」
ヤークは眉をあげる。呆れ顔を見たメアリーはカバンに体重を掛けるのを止めた。
「三食風呂付き! ティータイムも補償するし、退屈しのぎにお仕事もあげる。外出だけは禁止。その上、研究施設で色々あるから、今みたいにうろつく事もできなくなっちゃうけどね」
「まあ。至れり尽くせり、ありがとう存じますわ」
お辞儀をするサクラコ。メアリーも続いて頭を下げる。
「うん……。丁寧なのは結構だけど、私はきみたちの敵なんだよ。調子狂うなあ」
こめかみを掻く魔導技師。
「おっしゃる通りですが……。それはそれ、これはこれです。サクラコさんに至っては閉じ込められただけですし……」
仇を見るメアリーの瞳には黒いものが宿ってはいたが、それは思考までは支配していなかった。
「わかったわかった。じゃ、行くよ。サクラコくんは転移魔法でひとっ飛びだ。きみは私が送ろう」
言うが早いか、サクラコの居たところには黒い渦が残されるだけとなっている。
渦を見返りながらヤークに手を引かれていく王女。
こうして彼女たちは、王城から研究者の施設へとお引越しをすることとなった。
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