お嬢さまと魔法使い
集落の中。ワラや木材、石など適当なものを組み合わせて作った家らしいものが立ち並ぶ。
その中を運ばれて行くふたり。ふたりは相変わらず、少々気の抜けた様相である。
イノシシ顔の男や、顔の区別はつかないものの服装からして女と推測される者、それに子供たちが居た。
見かけこそは異様だが、彼らの営みは人間のそれとそう大きな違いを感じさせなかった。
家の外にはたき火があり、何か獣の脂が焼ける香ばしい匂いが漂っている。
――わたくしも、あんなふうに焼かれてしまうのでしょうか。
匂いという直接的な情報が、サクラコの心にようやく陰を落とし始めた。
彼女は普段、自分たちも家畜や魚などを食べている。つまり、彼女たちのこれからの処遇もそれに類する、オークにとって当たり前の事なのだと理解した。
「へー。オークの村ってこんなんなってるんだ。ちゃんと見たことなかったのよねえ」
やはり、のんきに村を眺めるユクシア。
文化レベルは未開の部族程度だろうか。骨や自然物で作ったとみられる装飾や、楽器らしきものもある。
楽しげに楽器を叩く子供のオークが手を止め、彼女たちのほうを指をくわえて眺めた。
ふたりを担いだオークたちが、小屋の前に居るオークと何やら会話をしている。
「ブヒ。フゴブヒ。ブオ。ブヒ」
「ブヒ。ブヒブヒ。ブッヒッヒー!」
どうやら彼らが言うには「今晩はご馳走らしい」。小屋の前のオークが小躍りする。
「何、言ってるのかしらねえ?」
オークたちはふたりをワラ小屋の中に置くと、手足を縛ってどこかへ行ってしまった。
「あらら、どっかいっちゃったわ」
ユクシアはなぜか残念そうだった。
サクラコはというと叫び疲れたのか、すっかり黙り込んでしまっている。
互いに同じ向きに転がされ、互いの顔が見えなくなっている。
「ねー。お姉さま。さっきから黙ってるけど、大丈夫? 運ばれて酔った?」
「お気遣い痛み入りますわ。わたくしは大丈夫です。……ところで、お姉さまという呼びかた、そろそろ止していただけません?」
ユクシアのイヤミったらしい呼びかたが、ずっと神経に触れていたのだ。
「あら、まだ余裕あるのねえ。根性があるのは好きよ」
「ユッカさんこそ。恐ろしくはありませんの?」
「いやあ、別に? もう、どうでもいっかなって思ってたところだし。ちょうどいいわ」
「投げやりになってはいけませんわ。わたくしよりもお若いのに」
「うーん。私さー、つい最近フラれちゃったのよね」
ユクシアがぽつり。
「まあ。……それはおつらいですわね」
「正確にはフラれたわけじゃなくて、ケンカ別れしただけなんだケドね。付き合ってすらいなかったし」
少しばかり声の色が暗くなる。
「それでもおつらいのには、変わりませんわ」
「そうだね、ありがと。……まあ、そういうワケで私は結婚話にも勢いで乗っちゃったのよねえ。でもやっぱり、だめ。忘れられそうもない」
「待ちましょう。辛抱強く待っていれば、どなたか殿方が助けに参ってくれるかもしれません」
「間に合えばいいけどねえ」
「信じましょう」
サクラコは、この生意気な娘の性格に隠されたものを感じ取った。乙女同士のシンパシー。
先ほどまでお嬢さまの胸を支配していた暗い色は、淡いさくら色の信念に変わりつつある。
もしもオークの魔の手に掛かる時が訪れれば、自分が先を行き、ユクシアに一秒でも猶予ができるようにする覚悟を決めた。
作法の教育係としてではなく、年上のおんなとして。
「サクラコは頑固というか、意固地ね。暴れたり、あのブタ野郎をやっつけようとは思わないわけ?」
「わたくしは、皇木家のおんなですから。あいにく、他人を傷つける選択肢は持っておりませんわ」
「甘いわねえ。やっぱり、ただの意地っ張りかしら」
勢いをつけて、サクラコのほうへ寝返りを打つユクシア。ふたりの視線が重なる。
「これは意地ではありませんのよ。信念ですの」
お嬢さまは視線を外さずに言った。
「信念かあ。私も最初はそういうの、あったんだけどね。全部、置いて帰ってきちゃったんだ」
「置いていらしたのでしたら、またお取りに戻ればよろしいわ」
眉を上げるユクシア。彼女はニヤリと笑う。
「……オッケー。じゃあ、そうしますか」
「あら?」
サクラコの黒髪を風が撫ぜた。風はなぜか小屋の内側で巻き起こっている。
「ユッカさん、どこからか風が吹いてませんこと?」
……ユクシアは目を閉じ、黙りこくっている。
風は強くなる。強風は小屋の壁を引っぺがし、轟音と共にワラ小屋の骨組みをばらばらにした。
「なんですの!?」
「あっはっは! 全部ぶっとばしてやるわ!」
ユクシアが笑う。
彼女の身体から何やら赤い光が発せられている。どうやら、猫の時のも見間違いではなかったらしい。
光は猫の魔物を追い払ったときよりもはっきりとしており、強い。
「フゴ!? ブヒブヒブヒ!」
オークたちが駆け寄ってくる。
「ネエ、オンナ! ヤメテクダサイ!」
地団太を踏むオーク。
「焼き豚もいいわね」
ユクシアがオークを睨むと、オークの下半身が急に炎上し始めた。
「ブヒー! タベラレマセン!」
「アンタは尻を焼いてやる。私を運んだ時、お尻触ったでしょ。嫌なのよね。思い出すから」
「まあ! まあ! なんですの!?」
突然の事に慌てるサクラコ。
「私ね、魔法使いなの。それも、とびっきりのすご腕のね!」
寝転がったまま笑うユクシア。その間も風が巻き起こり、オークの村を駆け巡る。
「では、これは全部、ユッカさんがなさってるの?」
ひっくり返るオークたち。それに小屋がいくつも倒壊している。その上、オークの子供は泣いて母親にすがり付いている。
「そうよ! 私たちを食べようとしたお返しよ」
「あまり酷いことをなさらないでさしあげて」
「あっはっは! やっぱり言うと思った。オッケー、分かった。女子供は狙わない。それと、殺したりもしないわ」
「それでしたら、存分にお願いいたしますわ」
「お許しが出た! それ!」
ユクシアは縛られたまま身体を震わせ、身を縮めた。身体を覆う茜の光が激しくなる。
「フゴー!」
あたりに居るオークたちが炎と共に悲鳴をあげる。
「あっはっは! ケツを丸焼きにしてやるわ!」
「まあ! ユッカさん、はしたない」
「あら、ごめんあそばせ」
ユクシアは気ままに魔力を放出し、あたりのオークのおケツ……臀部を集中的に焼いた。
「オイ! シリバッカリヤメテクダサイ!」
「あっはっは! 焼き尻パーティ!」
オークの村は惨憺たる様相だ。……いや、まるでレストランのようだ。
豚の脂の焼ける、胃袋をくすぐる香りが辺り一面に広がる。
燃える家の材料に香草が混じっていたのか、芳しい薫りまで漂い始めた。オークの香草炒め ~片言の人語を添えて~。
「ブヒー! ダレカタスケテ!」
「アヒー! コウバシイ!」
臀部を押さえながら飛び跳ねたり、うずくまったりするオークたち。
「ユッカさん、そろそろやめて差し上げたらいかがでしょうか……」
サクラコはさすがにオークたちがかわいそうになり、魔法使いに提案する。
「やめてって言われると余計やりたくなっちゃうのよねえ! あっは……」
――!
コンセントがショートしたときのような音が響いた。同時に魔法使いの高笑いが止まる。
「……しまった!」
「ユッカさん、どうなさったの?」
彼女の身体からは光が消えていた。信号よろしく顔は青くなり、じっとりと汗が浮かび始める。
「お前たちは、調子に乗り過ぎた」
焼ける村の奥から、ひときわ大きなオークが現れた。カタコトではない人語を放ちながら。
オークは巨大な草食動物の頭蓋骨を被り、首には小動物の頭蓋骨と思われるものをたくさん集めてネックレスにしたものをぶら下げている。
手にはこれまた人間の頭蓋骨を飾った杖。
「まさか、シャーマンが居るほどの集落だったなんて……」
「人間の小娘が調子に乗りおって。貴様らは皮を剥いで腰巻にしてやろう」
オークの呪術師がゆっくりと近づいてくる。
「ユ、ユッカさん……」
「ごめん。サクラコ。私、魔力を封じられちゃった」
ユクシアが早口で言う。
「つまり、魔法がお使えになられないという事ですの?」
いかに魔法が得意とはいえ、魔力を封じられればユクシアはただの少女なのだろう。
「そゆこと。でも、対策はあるわ。私の耳に、イヤリングがあるの」
「イヤリング?」
「そ。これね、魔法銀でできてて、魔法が封じてあるの。イヤリングには魔力封じの解除魔法が封じてあるわ」
「用意周到ですのね」
「でね、サクラコに頼みがあるの。このイヤリング、魔法を発動させるためには弾くとか、握るとかして物理的に力を加えなきゃいけないの。私じゃどうしようもないから、何とかして、これに衝撃を加えて!」
ユクシアは顔を背けて、サクラコの方へ耳を突き出した。牡丹の髪から紫がかったシルバーのイヤリングが覗く。
「ど、どうすればいいのかしら」
身体をよじってユクシアのほうへ近づくサクラコ。まるで芋虫。まったくお嬢さまのする動作ではない。
「仲の良い事だな。ふたり一緒にあの世へ送ってやろう」
オークシャーマンは杖を掲げ、村の破壊者の断罪に取り掛かる。
魔王の瘴気と同質の魔力が、飾りの頭蓋骨に集まっていく。黒い魔力はやいばの形をとり、巨大な斧のようになった。
「サクラコ!」
――カチリ。
硬い物が合わさる音。ユッカが茶の席で、スプーンで奏でたような音。
「よし! 戻った!」
ユッカは手足を縛っていた縄を焼き切る。
「人間どもよ、死ねっ!」
瘴気の斧を振り下ろす呪術師。
やいばはユクシアに覆いかぶさっていたサクラコの身体を目掛けて落ちていく。
サクラコは強く目を閉じた。
はじける音。霧散する刃。ふたりを包む光のドーム。熟練の魔術師の防御障壁だ。
「フゴッ!?」
たじろぐ呪術師。
「光栄に思いなさい、ブタ! あんたは王国いちの魔術師の魔法に焼かれるのよ」
オークの前に立つ娘。体躯の差は三倍近くだったが、その魔術師の姿は相手よりも遥かに大きいように見えた。
「き、貴様。まさか勇者の……!」
ユクシアの指先がオークの腹に触れる。
群青の肌の触れられた先から、紅蓮の炎が舐めてゆく。
屠殺場の悲鳴。いくら人語を上手に操ろうと、所詮ブタであった。
ブタはウェルダンを越え、すっかり炭になった。
「ヒドイ、ニンゲンヒドイ」
「コワイ、オンナコワイ」
統領を殺され、口々に非難するオークたち。
「ツライ」
「サヨナラ」
オークたちは尻を押さえ、女子供の手を引きながら退散していった。
「終わったわよ、サクラコ」
ユクシアはサクラコに終わりを告げると、縄を解いてやった。
「まことにありがとう存じます。ユッカさんは命の恩人ですわ」
「やめてよ、堅苦しい! それに、私が巻き込んだようなものよ。捕まったのもワザとだし!」
「まあ!」
「……ちょっと、ストレスの発散をしたかったのよ」
照れくさそうに言う魔法使い。
「関心いたしませんわ」
「ほんと、巻き込んでごめん! ……それと、ありがとう」
ユクシアは手を差し出した。
「……どういたしまして」
お嬢さまはその手をしっかりと握る。
「私、結婚の話には断りを入れるわ。失礼にならない様に、ちゃんとお茶菓子も持ってね。それから、もう一度、あの人を追いかけてみる」
そういうと魔法使いの娘は鼻の下にこびりついた煤をぬぐった。
「ご健闘をお祈りしていますわ」
ほほえむサクラコ。
「大丈夫か!?」
焼け焦げた集落に男たちが駆けつけてきた。
兵士やら、暇を持て余していた戦士やらがぞろぞろと焼け跡に入ってくる。山菜取りの男が助けを求めてきたのだという。
「あら、遅かったわね」
「ユクシアさん、オークはどうなりました!?」
「みんな追っ払ったわよ。私とサクラコでね」
「まあ! わたくしは何もしておりませんわ」
慌てて否定するサクラコ。
「あっはっは!」
「なんだよー」「折角、俺の斧の腕前を見せてやろうと思ったのに」「オーク食ってみたかったなあ」「姉ちゃん、俺と手合わせしようや」
口々に活躍の機会が無かったことを惜しむ戦士たち。
「しかし、城下町の近くにこれほど大きいのオークの集落があったなんて」
最後に駆け付けた兵士があたりを見渡す。彼はサクラコを案内していた兵士だ。
「魔王の瘴気が強くなっているんだわ。魔王城から離れたここでも影響が出ているんだもの……」
答えるユクシア。彼女は自分の肩を抱いている。
「おや、あなた様は確か……」
「しーっ!」
兵士の口を塞ぐユクシア。
「と、とりあえず、集落の件は国王に報告しておきます。見回りも増やして、町の付近に異変が無いか調べさせますね」
「うんうん、頼んだわよ!」
慌てて立ち去る兵士。
「ユッカさん」
「な、なに?」
「お手をお怪我なさってますわ。よろしくないですわ。若い女性のお肌に火傷なんて。早くお手当てを」
ユクシアは自分の両手首を見た。……縄を焼いて、その時にやけどをしたんだ。
「サクラコ、見てて」
魔法使いはサクラコのほうに両手をつき出し、やけど痕を見せる。そして、静かに目を閉じた。彼女の身体から白く淡い光が発せられる。
すると、みるみるうちに手首の傷痕が消えた。
「まあ!」
「治癒魔法よ。サクラコもどこか怪我してない?」
「ありがとう。わたくしは大丈夫ですわ。それにしても、大変便利なお力ですわね」
異界の娘はうらめしそうにユクシアの綺麗になった手首を眺める。
「でしょ? この世界に居る人は、割と使えるんだけど。……サクラコはダメそうね」
「やはりですの。残念に思いますわ」
サクラコは言葉通り、残念そうな顔をした。
ユクシアほどの魔法使いがダメというのだから、やはり彼女には魔法の才は無いのだろう。
「あ、そうだ。これをあげるわ。友情の証ってやつね」
そういうとユクシアは一対のイヤリングを取り出してサクラコの手のひらに乗せた。彼女の耳を飾っているものと同じデザインのものだ。
「これは……」
「これには治癒魔法が封じてあるわ。片方それぞれ一回づつ。発動方法はこれと同じ」
髪をかき上げるユクシア。
「貴重なものではありませんの?」
「まーね。でも、だからこそよ。それに私は似たようなのいっぱい持ってるしね」
「では、ありがたく、ちょうだいいたしますわ」
ふたりは顔を見合い、ほほえんだ。
「さ、そろそろ帰らなきゃね。多分、このことはママにも伝わってるから、きっと帰ったら絞られるわ」
* * * *
* * * *
ユーイステア邸に戻ったふたり。
茶を用意し待ち構えていたセスティアは予想通り、娘をこってりと絞った!
ところが、話の内容については、「ユーイステア家の家督たる女がお客様を危険に晒すなどもっての外!」という事ばかりで、オークの村を焼いたことや、我が子の身の心配には特に及ぶことは無かった。
じつのところ、ユクシアがこういった荒事を起こすのは初めてではなかったのだ。
ユクシアは幼少の頃から魔導に長けており、よく魔性の動物の毛を焦がして遊んでいた。
ときおり魔力が勢い余ってよそ様に迷惑を掛けることもあり、そうなった時はセスティアが「それ以上の力」をもって娘を厳しく躾けたのだ。
その娘はまだ心身共に成長過程だというに、いつの間にか母の魔力を追い抜いていた。
セスティアは、もはや娘の身を心配するのは野暮だと考えていたのであった。
「ほんと、ごめんなさいね。うちの娘が」
「いえ、わたくし、ユッカさんにはお助けいただきましたから。彼女は恩人ですわ」
「そーそー。だから大目に見てよママ」
手のひらをひらひらさせる娘。
「ばかちん! やはりあなたは花嫁修業でもして、素行を正す必要があります!」
腰に手を当て娘を叱り飛ばすセスティア。
「あー……ママ。その話なんだけど。やっぱり断るわ」
「いまさら何を言って……」
セスティアは自分をまっすぐに見据える娘の瞳を見る。
「お願い、ママ」
にらみ合うふたり。
「……はあ。仕方がないわね。ちゃんと自分で挨拶に行くのよ」
折れる母。
「はい……」
しおれる娘。
「それで、そのあとはどうするの? あなた」
「元の仕事に戻るわ。やり残したままじゃ、気持ち悪いし」
「そう。それでこそユーイステア家の家督。一度決めたことはやり遂げなさい」
「えー。呼び戻したのはママじゃん」
文句を垂れる娘。
「いやあ、それについてはセスじゃなくて、ボクが悪いんだ」
部屋に現れたのは、眼鏡を掛けた細身の男性。
「パパ!」
父親に抱き着く娘。
「いやあ、ごめんね。ユッカが心配で。ちょっと早いけど、落ち着いて欲しかったんだよ。危ない仕事してるしねえ。あっはっは!」
「もうパパ! おせっかいよ! そういうのは自分で決めるから」
「まあ、ユッカさん。甘えんぼさんなのね」
口に袖するサクラコ。
「しまった! いつもの癖で!」
顔を赤らめるユクシア。
「本当、お恥ずかしい。子離れも親離れも早くして欲しいですわ」
溜め息をつく女当主。
幸せの家族の図。ふと、父母が恋しくなる。
――お父さま、お母さま。わたくし、一歩前進できたようです。
わたくし、こちらの世界でも、なんとかやっていけそうですわ。きっと、勇者さまが魔王を打ち倒してくれます。
それまでの間、お世話になった方々に少しでも恩返しさせていただければ……。
はしゃぐ父子を眺めながら、紅茶のカップを口に運ぶサクラコ。
こちらの世界の紅茶も、よい香りだった。
* * * *
* * * *
「……と、いう次第で、ユクシア=ユーイステアさんのご結婚は、ご破談になった次第ですの。わたくしが付いていながら……お詫び申し上げますわ」
玉座の前で畏まり、頭をふかぶかと下げるサクラコ。
「よいよい! おもてを上げとくれ。ワシがイジメとるみたいじゃないか。……いやなに。結果オーライじゃ。よくやってくれた」
王さまは楽し気に言った。
「?」
サクラコは首を傾げる。
「さっそくじゃが、また頼みたいことがあっての」
「なんでもお申し付けくださいまし」
「タコワ……ええと、城下から少し離れたところに“タコワ”という隣町があるのじゃ。そこに“あるもの”を取りに行って欲しいのじゃよ」
「あるもの、ですの?」
「そう。その“あるもの”とはズバリ! “勇者の剣の柄”なのじゃ!
勇者どのの剣が折れたあと、どこかへ紛失してしまっていたのじゃが、どうやらその町に流れついたらしくての。
勇者どのは今、適当に代用した武器やら素手やら丸太やらで戦っておるんじゃが、どうもしっくりこんらしい。
元の剣を修理してやりたいのじゃが、それにはその柄が必要なんじゃよ」
「それは大そうな役目ですわ。なぜ、わたくしに?」
素直な疑問。ひとつ仕事を受けたとはいえ、彼女は素性の怪しい異邦人である。
せんのお嬢様的任務とも毛色が違う。
「うむ。柄の流れ着いた先がちと厄介でな。タコワの町長の家なんじゃよ。あの町の創設者にして、ワシの幼馴染みの男なんじゃが……若いころからどうもソリが合わなくての。ワシの送った兵士を追い返しおったんじゃ」
「まあ。王さまのご要請にお背きになるなんて。大それたおかたですわ」
「はっはっは。ヤツはワシの事がキライなんじゃろ。
じゃが、ワシとあの男は長い付き合い。あの男のことはよおく知っておる。
品行方正でお若い娘さんである、サクラコの話ならば、きっと聞き入れてくれるじゃろうと思ってな。わっはっは!」
「王さまがそうおっしゃるのなら、やってみますわ」
「うむ、頼んだぞ。隣町への道中は危険が伴うからの。馬車と護衛の手配をしておくので、明後日の朝まで待っておくれ。今日、明日はゆっくりと休まれるがよいじゃろう」
「はい、かしこまりました」
サクラコは胸を撫で下ろした。
ユクシアにとって悪い結末にはならなかったものの、同時にサクラコの仕事は失敗となった。
せっかく役立てるチャンスを棒に振ったのではないかと心配をしていたのだ。
さいわいにもフランクな国王はそれを笑い飛ばしてくれた。
気持ちを軽くしたサクラコは、翌日、城下町へと繰り出して行く。
そして彼女はまた、奇妙な出会いを果たすこととなるのであった。
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