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23話

 俺と良く似ている。

 きっと俺がゴーストになったときもこうだったんだろう。そしてアイツも色々な感情を、自らの栄養として消化できない人の感情を腹の中に溜めている。そして苦しんでいるんじゃないだろうか?

 やつは一気に間合いを詰め、無駄の少ない動きでタケミカヅチを彷彿とさせる日本刀を振るった。俺はそれをタケミカヅチで受け止める。ぶつかった瞬間の火花と金属音は闇夜では一層目立って見えた。

 上段からの切り下げを受けた俺は、そのまま押しつぶそうとしてくる相手の力を利用し、タケミカヅチを傾け、刃の上で相手の刃を滑らせた。相手の刀はアスファルトと衝突。轟音と共にアスファルトを砕き土煙を上げる。土煙の中、構えた俺は首を切り落とそうとタケミカヅチを振り落とす。

 三度金属の衝突音。

 一撃で仕留められると思って放った一撃は、一瞬のうちに守りへと移ったゴーストによって受けられた。しかし、完全に受けられたわけではなく、軽く弾く程度のことはしている。

「何者だよ、お前」

 呟く声は夜風に攫われる。

 今まで見たゴーストとはまったくの別種であると感じさせられた。ただ攻撃しかしてこない雑魚とも違い、ただダメージを通しにくいナメクジとも違い、しっかりと攻撃し、しっかりと守ってくる。それだけでなく、反応速度も速い。そして何よりの違いが、他のゴーストたちはどこかあやふやな存在感だったが、コイツは違う。はっきりとここにいるのが分かる。はっきりとした輪郭を持ち、はっきりとした存在感で俺たちを威圧する。

 刹那、闇色の瞳が見開かれ双眸に殺意が閃く。

 即座に身構えるが、既に遅し。俺が身構える頃には砂煙を残して背後を取られていた。

「しまっ」

 咄嗟に振り向き、繰り出される一撃をタケミカヅチに当て俺への直撃を防ぐ。が、その一撃によって崩された姿勢を立て直すよりも早く繰り出される連撃をギリギリで防ぐので精一杯。このままでは確実に押し切られ――殺される。

 最早残像がいくつも見える攻撃をギリギリのところで弾いていく。俺の視界に一つ高速で動く物体が写りこむ。そいつはゴーストの背後までやってきた頃で静止し、両手に握ったトンファーで頭を狙う。

 しかし即座に反応したゴーストはしゃがみ、ゆずによる一撃をかわず。すかさず遥からの支援攻撃が加えられたが、これも難なくといった様子でかわし俺たちと距離を取る。

「支援ならわたしたちも出来るから」

 言うゆずの瞳には強い意思が宿っている。

「助かる」

 短く言ってすぐにゴーストへと視線を戻す。

 コイツがどこからやってきたのか、どうやって生まれたのか、それは分からない。まさに神のみぞ知ると言うやつだ。しかし、俺にはアイツが自分の亡霊のように見える。確かあの時もここだった。ここで俺は自分の胸にタケミカヅチを突き立てた。そのときここに取り残してきた俺の亡霊。もし違ったとしても、俺は一人そう思うことにしよう。

 殺せ――

 始まった。向こう側で琴音の戦いも今から幕を開ける。そして俺も新たな戦いが同時進行していく。

 タケミカヅチをもつ右手から順に侵食されていくのが分かる。きっと隣に立つゆずには見えているだろう。そして少し後ろに立つ遥にも。

「おい、大丈夫なんだろうな」

 それを見てか、ゆずと俺の左手側に遥が並んだ。

「大丈夫だ。きっとアイツも頑張ってるから」

 遥は俺を変なものを見る目で見るが、問題ない。俺にしかわからなくとも、アイツは俺の相棒としてここにいて、頑張っている。だから大丈夫。気にする必要なんてまるでない。

「次はこっちの番だ」

 形勢逆転。三対一、いや四対一だ。

 俺は踏み込み、一気に駆け出した。



 怖い――

 もう大丈夫だよ。

 苦しい――

 気付いてあげられなくてごめんね。

 寂しい――

 わたしが一緒にいるよ。

 悲しい――

 我慢しないで泣いていいんだよ。

 

 みんなもう大丈夫。わたしがいる。彼がいる。みんなの思いは全部受け取ったよ。だからゆっくり休んで。



 どこかで誰かが言っている。きっと俺は知っている。どこなのか、誰なのかを。

 徐々に濁り始めていた視界は晴れていき、どんどんクリアになっていく。俺に語りかける声はゆっくりと確実に静まっていっている。

「うそ……」

 ゆずが呟いた。

 打ち合うタケミカヅチがどんどん鮮やかな銀色へとその刀身を塗り替えているのだ。しかし、なにか驚くことがあるだろうか。彼らはみんなそれぞれに心の中に眠るものを溶かした。人間の搾りかす――と我孫子が呼び、ゴーストすらも食わずにいた闇色の感情が晴れていけばそこには闇色なんて残らない。

 一際激しい金属音が響き、俺たちは双方共に距離を置く。

 唖然と立ち尽くしているゆずと遥を尻目に俺は構え向き合う。

 残ったのはお前だけだ。

 月光に彩られ強い輝きを放つタケミカヅチは、いつも以上にやる気を見せているように感じた。きっと俺と同じことを思ったのだろう。

 俺は何も無い空間で一振りした。怒るのは僅かな風きり音と、空気が痺れるような放電。

 今を隙と見たのだろう。ゴーストは再び瞬間移動とも取れるような速さで移動し、今度は俺の正面で刀を振りかざしていた。しかしそれを俺は受け止めるなんてことはしない。流れるように振り下ろされるやつの刀の腹に、俺はタケミカヅチを打ち込んだ。

 金属とは思えない、氷が割れるときにでもしそうなか細い破壊音を残し、闇色に淀む刀は砕けて消えた。

「さようなら。また今度な」

 俺の亡霊に短く言葉を掛け、片手で握ったタケミカヅチを振り下ろす。

というわけで、23話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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