21話
「わたしは道具だけれど、同時に人でもある」
どこか大人びて聞こえたその言葉は、琴音の声によるものだった。
戻ってきた。
ここが俺の現実だ。
「よし、やるか」
指先一つに至るまできっちりと拘束された状態でどう自由になるか、そんなことはまったく考えていなかったが、正直方法など考えるまでも無いくらいに色々存在している。俺はその中からもっとも楽で手っ取り早い原始的な方法を選ぶ。
俺の足元に落ちているタケミカヅチ。そいつに意識を向けて、いつかのように雷を纏った姿を想像する。そして纏った雷が――
「猛々しく暴れる」
俺の言葉に反応したのか、それとも意思のほうか、どちらかに反応したタケミカヅチがこちらは言葉通り猛々しく暴れだす。鞘に収まっていたタケミカヅチは、鞘を破壊しその漆黒の刀身をあらわにする。あらわになった刀身は怒り狂った獅子の如く雷を辺りへと向け放出し続けた。
ビシッィィィ!
「よし」
轟音に続き焦げ臭い匂いを感じ、俺は思わず声を漏らしてしまう。
何発か打ち出された雷たちの一つが、俺の右手の平の拘束具を破壊した。まさかここまで上手くいくとは思っていなかったが、琴音辺りがやれやれ顔で俺を助けてくれたんだろうと幸運を素直に受け取り、一度タケミカヅチを消す。そしてもう一度出現させる。なぜか鞘まで復活して、次は拘束具の壊れた右手にと出現させた。
俺はタケミカヅチであちらこちらを突き、次々に拘束具を破壊していく。そして残るのは大量のタケミカヅチの弟分たち。体に刺さったそれを一本一本抜いていく。そのたびに伴う激痛は、俺が人間であることの証明だ。
「ああ、くっそ。こんな事するんじゃなかったな」
愚痴りながら抜き終わったカケミカヅチの弟分は俺の代わりに牢に残し、ようやく自由になった体で一振り。
「切れ味、抜群だな」
頬が緩んでしまうほどにあっさりと鉄格子は切断された。
『ウゥゥゥ、囚人脱走。囚人脱走。……』
ここで俺は我孫子が残した鍵の意味を知る。
「先に言っといてくれよ」
気付けば癒えている傷を見て俺は確信した。人ではあっても、単なる人ではないことを。
俺はそれを知るや否や天井を一突き、大穴を開けそこから階を二つほど登り、確実に地上にある階に移動する。
「行こうか。俺たちならやれる」
なぜか人っ子一人いないフロアに違和感を抱きながら、俺は耳を済ませる。我孫子があそこまで言うほどのゴーストだ。きっと戦闘で出される音は大きいに違いない。それにこの体である。多少は耳もよくなっているだろう。
ゴースト交じりの人間、きっとそんなところであるこの体。大いに活用させていただこう。
というわけで、21話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。




