第一話 夢、星となり、世界を繋ぐ
初投稿です!少し長くなってしまいましたが、よければ読んでみてください。
「あぁ、本当に、醜い世界だ―――」
会社員・朝日名 剣斗は人生に辟易していた。
剣斗はブラック企業勤めで、毎日怒鳴られ、ひたすらタスクをこなす日々を送っていたのであった。
「あっ…そろそろ…帰る時間か」
夜中の23時、ようやく家に帰れる時間になった。会社にはもう、誰もいない。おぼつかない足でトコトコ歩きながら駅に向かう。
「ついでに、コーヒーでも買ってくか」
剣斗は駅の近くにあるコンビニに寄って、コーヒーを買い、それを公園のベンチで飲んだ。
プシュッ
「プハァー……やっぱり美味いな、コーヒーは」
静寂しきった公園で、ただ、コーヒーを飲んで一息つく。そのひとときだけが、思い出したくもない上司の顔、日々のストレス、そして時間の流れを忘れさせてくれる。
「こんな人生じゃダメだ、ダメ……なんだよな」
このままではダメなことは、剣斗が一番よくわかっていた。しかし、現状を打開する最初の一歩が、いつまでも、いつまでも踏み出せないのである。
「はぁ……俺って、本当に……」
「なにができるんだろ」
そのとき、夜空に無数の光の筋が見えた。『ペルセウス座流星群』である。
「わぁ……すげぇ……」
「こんなの、初めて見たな……」
剣斗は大人ながらに、その壮大で、美しい流れ星に心を揺さぶられた。
そして、ふと思った。
(お前たちが、俺のこの、腐ったような人生を変えてくれるのかもな。まあ、そんな都合のいい話はないだろうけど)
この輝く星々が、自分の壊れた心を取り繕ってくれる。その微かな希望を信じて、コーヒーを飲み干し、剣斗は公園を去った。
その後、終電の電車に乗って家に帰った。電車の窓から見た景色は、悲しいほどに静まり返っていた。まるで、剣斗の負の感情をそのまま体言したような、そんな景色であった―――。
剣斗は家に帰るなり、シャワーも浴びずにベッドに入った。早く寝ようと思ったのは、ただ単純に睡眠時間を取りたかったのと、嫌な出来事をなるべく思い出したくないからである。しかし、テレビは見ようと思ってつけたが見る気力もなく、つけっぱなしだった。
『次のニュースです』
(――はぁ…俺なんて、存在していいのかな。よく不安になるんだ。毎日のように、『お前なんていらねえんだよ!』って怒鳴られるし。学生のときだって先生に『あなた、本当に何もできないのね』って鼻で笑われたし。だから――)
(俺は俺のことが嫌いだ)
『十年前の今日、突如として失踪した、八万の人々。その行方は未だに掴めていません』
(せめて、自分に救いのある世界なら……。あぁ、そんなことないよな。だって――)
(この世界は、世の中は、強い人に味方するものだからな…)
『今日、残された家族達による、式典が行われました。そして、家族の方々がインタビューに応じてくれました』
そして、剣斗はつけっぱなしだったテレビの内容に耳を傾ける。
『私たちは、絶対に諦めません。また、あの人の顔を…見たいから』
(諦めろよ)
『涙は流しません。ずっと、前を向き続けます。息子に、弱々しい姿なんて見せられませんから』
(涙流せよ。希望なんて、捨ててしまえよ)
『僕は、絶対、見つけてみせ…』
ピッ
剣斗はテレビの内容に腹が立って、電源を切った。
そして、ハァーっと大きなため息をつく。
「なんで、そんな絶望の淵に立っても、前を向いてられるんだよ」
剣斗の心にあったのは、絶体絶命の状況でも立ち上がれる強さへの嫉妬と、家族達に対する、微々たる哀れみ。
そして――、
自分もいっそ、失踪した人々のように、
「俺も……どっかに、消え去りたいよ……」
という、失踪者を羨む気持ち。
剣斗はベッドの中で泣き喚いた。
枕はほぼ毎日泣いているせいでやけに湿っている。しかし、それを取り替える気力も湧かない。
そして、世の中への愚痴と自分への自虐を吐き捨て、深い深い眠りについた。
「あぁ、本当に…醜い…世界……だ―――」
*************************
「――ん……な、なんだ? 眩しい……」
パチッ
「へ?」
目を覚ますとそこには、現実とは程遠い見知らぬ世界があった。
辺りを見回すと、中世を彷彿とさせる家、風車、お城。また、遠くの方に近未来風の高層ビルやうっすらと空中に浮かぶ列車のようなものが見えた。
街を歩く人々も、獣人、耳が尖ったエルフ、ドラゴンを連れている人など、現実世界ではまず見ない人だらけだ。
「も…、もしかして、これって……」
そのとき、剣斗の脳内に電流が走る!
「異世界転生ってやつぅぅぅ!!?」
剣斗は今までにない程の大きな声で叫んだ。これまでの鬱憤を晴らすかのように。
「なんだあいつ……」
「変な人ねぇ……」
周りの人々にはとても変な目で見られたが、そんなこと気にしないくらい剣斗の目は希望に満ち溢れていた。
「異世界転生ってラノベの世界だけだと思ってたけど、まさか本当に起こり得ることだとは! しかも、この俺が!? 異世界に!? 召喚!?」
「うっひょー!! 胸が躍るぜぇぇ!!」
(なんか着てる服も異世界っぽくなってるしー)
「あっ、そうだ。異世界に来たってことはー……」
剣斗は駆け足でその場を去り、とある場所を探し回った。
「――おっ、あったあった。やっぱこの世界にも噴水ってあるんだな」
剣斗は噴水を探していたのだ。
そして、前屈みで水面を覗き込む。
「おー!! すっげぇぇ!! これが俺!?」
剣斗が見たもの、それは、毎日鏡で見てきた自分の顔……ではなく、とてつもなく整った顔立ち、そして見た目が変わった自分の姿であった。
髪の色が黒から明るい赤に変わっており、目は少し面影があるが、瞳の色が透き通った緑色になっている。
目の下のクマも消え、肌荒れもない、生まれ変わったような自分の姿がそこにあった。
(これだけイケメンなら……女の子にモテること間違いなしだな!)
(そして、ずっとなりたかった、『英雄』になれるかもしれない!)
「ふへへへへ……」
剣斗はいかにもいやらしいことや、希望を思い浮かべてご満悦の表情をした。
「―――あれ? でもちょっと待てよ?」
剣斗は何かに気づき、周りを見渡した。
「……」
(可愛い女の子居なくね!?)
(いやいやいや、なんでヒロインっぽい女の子が一人もいないんだよ! おかしいだろ!)
(普通、異世界に召喚されたら周りに可愛い女の子がいて、「勇者様、どうかお助けを!」みたいな感じで俺に抱きついてくるだろ!)
(あーっ! くそっ! なんか裏切られた感じして腹立つー!)
(――はぁ…、結局、この世界に来ても俺は俺のままなのか……)
剣斗は異世界に来て早々にネガティブな気持ちになってしまった。
またあの頃のように蔑まれるかもしれないーー。
この世界の英雄になれないかもしれないーー。
そんなことがふと頭をよぎった。
しかし――、
(――いや、俺はこの世界に来たばかりだ。知らないことだって、知りたいことだってたくさんある。なら――)
「諦めるにはまだ早いよな!」
剣斗は自分を奮い立たせるようにそう言った。
「もう自分は負けない」そう言い聞かせて次の行動をとる。
「まずは情報収集だな。ここがどんな世界なのか、生きていくには何をすればいいのか、調べないとだからな」
「周りの人達の話し声を聞く限り、言葉は伝わるっぽいけど……」
会話はできるようだが、赤の他人、しかも一般人に情報を聞くといっても、何も知らない可能性が高い。
(…このまま考えてても仕方ない。冒険者ギルドか案内所みないなところがあるかもしれないから探してみるか)
剣斗はギルドや案内所のようなところを探し、そこで情報を得ることにした―――。
「――ん? あそこ、馬車がいっぱいあるな…。商人…でもいるのか?」
街を散策していると、外に馬車がたくさん停まっている建物を発見した。剣斗はその建物に近づいてみる。すると――
「あっ、この看板、バスとかタクシーの時刻表にそっくりだな」
その看板に書かれていたのは、見たことない記号でびっしりと埋められた表であった。おそらく、この記号は数字のようなものなのだろう。
(多分、この地域だと馬車が主な移動手段なんだろうな…。そして、移動手段を有しているってことは街のこともある程度知っている。つまり……、)
(ここで話を聞くのが一番手っ取り早そうだ)
剣斗は有力な情報を持っている人が居ることを信じて、建物に入った。
「ほえー、中はめっちゃ豪華なんだなぁ…」
建物の中は舞踏会の会場を彷彿とさせる造りで、ロビーの天井には自分よりも遥かに大きいシャンデリアが吊るされていた。
「あのー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
剣斗は受付窓口のようなところにいた、いかにも物知りな人に話しかけた。
「はぁぁぁい、お客様ぁぁぁ。この度はどのようなご用件でしょぉぉぉお、か??」
「この、街随一の案内人、『エルメス・バーニエル』になんなりと、お申し付けくださぁぁぁぁい」
「…」
(なにこの人?)
(見た目が物知りっぽいから話しかけたけど、めっちゃ変な口調だし、話しかけた途端にヘンテコダンス踊り始めるし…なんなんだよ、これ)
(――でも、街随一の案内人って言ってたよな。てことはこの人が一番必要な情報を持ってるわけだ…)
(はぁー、煩わしいったらありゃしねぇぜ)
「えーっと、俺、この街のことよく知らないからどんな街だか知りたいんだけど…」
「なぁぁぁぁぁるほど! お客様は引っ越されてこの街にいらしたのですねぇぇぇ」
(引っ越してきた人って勘違いされてるー)
(まあ、いいか…)
「それで、ここってどんな街なんだ?」
「はぁい。この街は、『城塞都市・マラドーラ』という街でして、歴史ある街並み、建築物、文化などがあり、街全体が文化財として保護されていまぁす」
「へぇー、街全部が文化財なんだな…」
「さ・ら・に!」
「えっ…」
「マラドーラの建築物は世界中の全ての建物の基礎になっていると言われていましてねぇ、つまりこの世界の建築技術の結晶がこの街そのものであると言っても過言ではないんですよぉぉ!それに歴史のある飲食店街がとても栄えてまして、料理の味は世界一と言われています。あと、最近『近未来都市・バルチェスター』の発展がものすごい勢いで進んでましてねぇ、他の街では超高層ビルや夜の街に憧れて若者の人口流出が絶えないらしいんですよぉ。し・か・し! この素晴らしい街マラドーラは、なんとここ十年での人工流出者がゼロ! それはこの街の住人が、この街を愛しているという確固たる証拠なのですよぉぉぉ!(超早口)」
「あ…あははー…」
(めっちゃ語るじゃねぇか。どんだけここが好きなんだよ…)
(でも、やっぱりいろんなこと知ってそうだな。よし…)
「じゃあ、あと…」
「フン、フン」
「え?」
次の質問をしようとしたとき、エルメスが手を前に出して何かを要求してきた。
「フン、フン」
「え、ちょっ、なんだよいきなり」
「なんだよって、ほら、あれですよ、あーれ」
「情報提供料」
「…え」
「金取るのかよこれ!!」
「えー、そりゃあもちろん、お客様の知りたい情報をお渡ししたのですから、お金はいただくにに決まってるじゃあないですか」
なんとエルメスは情報提供料を要求してきたのだ。
もちろん、剣斗は一銭も所持していない。
「と、いうわけで情報提供料百三十アンメダ、お支払いくだ…」 ※アンメダ…この世界の通貨
「…あのー、ほんとに申し訳ないんだけど…」
「ん? どうしたのです?」
「実は俺……金持ってないんだよね…」
「へ?」
「い、いや、今は持ってないってだけで…、家にあるから! そう、家に…(言い訳)」
「…」
お金がないと聞いた瞬間、エルメスは黙り込んでしまった。そして、体をプルプルと震わせている。
「だから…」
剣斗が言い訳でその場を取り繕おうとしたそのとき――
「なぁに言ってるんですかあんたぁぁぁ!!」
「ヒェッ」
次の瞬間、エルメスが鬼の形相で剣斗を睨みつけた。
「お金持ってないって、どうかしてるんじゃないですか!? え!? 普通外出するときは財布とか持ち歩くもんでしょ!!」
「だ、だからそれは…」
「それに、私の収入が減ったじゃありませんか!! 私がわざわざあなたに愛想良く接して、有益な情報を教えた、その報酬がないなんて、なんて酷い話なんですかぁぁぁ!!」
もうエルメスは会話が通じないくらい激怒していた。
「なんだなんだ?」
「お母さーん。あそこ、どうしたの?」
エルメスが大きい声で叫んだせいで周りの人の注目がこちらに集まってきた。
(まずいな、めっちゃ目立ってるじゃねぇか…)
(――これって後払いとかできるかな…)
剣斗は僅かな希望を賭けて交渉しようとした。しかし……
「と、とりあえず、明日になったら金払うからさ…」
「警備の人ぉぉぉ!! この人とっ捕まえてくださぁぁぁい!!」
「ギクッ」
エルメスは交渉に聞く耳を持たず、警備員を大声で呼んだ。
(やばいやばいやばい!! 警備の人はやばいって!! せっかく異世界来たのに捕まりたくなんかねぇよ!)
(しょうがない、ここは逃げるしか――)
「――す、すいませんでしたぁぁぁ!!」
剣斗はその場から逃げる選択を選び、猛スピードで入り口へ走った。
「ああっ!! 待ちなさぁぁぁぁぁい!!」
昔から走るのは速かったので、剣斗はなんとか逃げることができた。
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「――はぁ、はぁ」
(なんとか逃げ切れたぜ…)
(有料だったなら先に言ってくれよ…)
(でも、ある程度情報は掴めたな。まだ聞きたいことはあったけど…)
剣斗はエルメスから聞いた情報を頭の中でまとめる。
(まず、この街は『マラドーラ』っていう名前で、飲食店街が有名らしい。そこでバイトとかすれば生活費はやりくりできそうだな)
ブラック企業でマルチタスクを強いられていたため、一瞬で情報を整理した。こんなところでそんな経験が役立つとは剣斗も思わなかっただろう。
(あとは、近未来都市の名前とか…、この街自体が文化財だってことは聞けたけど…、あまり役に立ちそうにないな)
(はぁー、まぁ考えててもしょうがない。その飲食店街とやらを探しつつ、街歩きでもするか)
剣斗は飲食店街を探すことにした。ついでに、街歩きで住むところも見つかるといいのだが……。
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「はぁー、どこだよ、その飲食店街とやらはさぁぁ」
1時間ほど歩き回っただろうか。しかし、それっぽい建物は一つも見当たらない。
「そもそも、この街デカすぎだろー。何キロあるんだよー」
「ぐぅー」
「あー、腹減ったー。なんか食いてぇ」
お腹が空いてきて、剣斗のやる気も失せてきた、まさにそのとき―――
「ちょっと、待ってよぉ!」
どこからか少女の声が聞こえてきた。
「ん? 女の子の声? 一体どこから…」
すると――、
「ひゃっはー! なんだここ! すっげぇぇ!! 俺の知らない世界があったとは驚きだぜ! うおおおおお!!」
「な…」
(なんだあいつ!! 絶対やばいやつじゃねぇか!
!)
前方から一人の男が猛スピードでこちらに向かってきたのだ。
服装はなんと上裸で、眼帯をつけている。そして腰には剣が携えられていた。
(剣を持ってる…まさか殺し屋!?)
剣斗は殺し屋かと思い、とっさに横に倒れ込んだ。
「ひぃぃ、た、助けてぇ!!」
しかし、
「俺は最強!! この世界なら俺は最強だぁ!!」
シュタタタタタ……
その男は叫びながら剣斗には目もくれず、走り去っていった。
「な…、なんだったんだ? あいつ…」
剣斗がしばらく放心していると、
「――はぁ、はぁ…、もう、どこ行ったのよ」
(この声は…)
さっきの声の主と思われる人物があの男を追って走ってきた。
足音がどんどん近づいてくる。
人混みの隙間から姿が見えた。フードを被っている、しかし走っているからか、一瞬だけ鮮やかな空色の髪の毛が見える。
(わぁ……)
人混みの中の晴れ間から見えたその少女の顔は、まるで天使といっても過言ではないほど、愛くるしいものであった。
太陽の光で、より鮮やかに、鮮明に見える空色の髪。
透き通った、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳。
そして、純白のフード付きポンチョを見に纏い、今にも飛んでいきそうな姿は、まさに一匹のツバメのようだった。
そのとき、彼女もこちらの存在に気づいたようだった。
「あっ――」
彼女が剣斗の目の前を通りかかったそのとき、二人は同時に目が合い、同時に声を出した。
その瞬間、一瞬だけ時間が止まったような不思議な感覚に陥った――。
「――あっ、もう! ほんとに面倒なんですからー!」
彼女は一瞬だけ立ち止まったような素振りをしたが、すぐにあの男を追って走り去ってしまった。
「なんだったんだろう…あの子…。すげぇ可愛かったな…」
こんな感覚になったのは初めてだったため、剣斗は少しばかり驚いていた。
「――あっ、そうだった。こんなとこで時間を食ってられない。早く飲食店街を見つけないと」
剣斗は少しの間、あの少女のことを考えていたが、本来の目的を思い出して足を踏み出した。
しかし、自分のことをつけている人物がいることを剣斗は知る由もなかった――。
「――てか、ほんとにどこにあるんだよ…。全然見つからねぇよ…」
依然として一向に飲食店街とやらは発見できない。
(…さすがにこれだけ探して見つからないのはおかしいよな)
剣斗は何かがおかしいことに気がつき始めていた。
(こんだけ探しても見つからないってことは、もしかして裏路地にでもあるのか?)
(まぁしょうがない、当たって砕けろだ。試しに行ってみるか)
大通りや人が多く行き交うところにないということは人通りが少ない場所にあるのでは、と思い、剣斗は裏路地に向かうことにした。
「――お、ここから行けそうだな」
「ぐぬぬぬ…、くっそぉ、めっちゃ狭いなここ」
剣斗は建物の隙間から奥にあるであろう裏路地に入ろうとした。隙間といっても、人一人がギリギリで入れるような隙間だ。
少しずつ、時間をかけて、進んでいく。
「――あっ…あそこ、開けてるな」
しばらく進んでいると、奥に光が差し込み、開けている場所があるのを発見した。
剣斗は必死に手を伸ばす。
「あと…、もう…、少し…!」
ガシッ
「ッ――、っしゃあ、届いたぁ!」
手を限界まで伸ばしてようやく壁の出隅を掴んだ。
その勢いのまま、掴んだ出隅に力を入れて、光の方へ突き進む。
「げ・ん・か・い・と・っ・ぱ・ぁ!!」
剣斗は最後の力を振り絞り、細い細い隙間を通り抜けた。
「う、うわぁ!」
勢いよく通り抜けたため、剣斗は前方へ倒れ込んだ。
「いってて……よし…なんとか抜けられたな……って…これは……」
狭い隙間を通り抜けた先にあったもの、それはまるで理想郷のような、色鮮やかで広大な花園だった。
周りに建物は一切無く、ただ花の絨毯が無限に広がっている。
「わぁ……なんだここ……すごい……綺麗だ」
剣斗はその壮大な光景に瞬時に目を奪われた。
何故、本来裏路地のところにこんな空間があるのかは不明だが、そんなことはどうでもいいくらい心地よい場所だった。
――風が吹いている。
暖かく、優しいそよ風が、包み込むように頬を撫でる――。
上を見上げれば、雲ひとつない青空に一羽の鳥が羽ばたいている――。
気づけば剣斗は花の絨毯に寝転がっていた。
花の絨毯もそよ風に揺られ、剣斗の体を包み込む。
まるでここに来たのを歓迎するかのように――。
匂いがした。三つだ。なぜか懐かしく感じる花の匂い、それと心地よいそよ風の匂い。
そして、『優しさ』の匂い。
忘れかけていた『優しさ』
それを思い出した、そんな気がした。
グスッ
剣斗はいつのまにか涙を流していた。
「あれ? 俺、泣いてる…なんで…」
痛くも、悲しくもない。ただこの空間にいる、それだけで自然と涙が溢れてきた。
(いや、そんなことはどうでもいい。今はただ、このまま、このままで……)
涙を流している理由なんてどうでもよかった。
この空間にこの身を委ねる。それだけで十分だった。
(あぁ…心地いい……ずっと…ここにいたい…な…)
すると、徐々に剣斗の意識が薄れていった。剣斗はそのことには気づかなかった。
「あぁ、なんて…素晴らしい…世界……だ―――」
そう言って、剣斗は微笑み、涙を流しながら眠りについた―――。
*************************
「―――んあ……あれ…? ここは…?」
目が覚めると剣斗は路地裏で寝転がっていた。
「俺、寝てたのかな……すげぇいい夢を見た気がする……」
剣斗はあの花園での出来事を覚えてないようだった。しかし、体からは僅かに花の香りが漂っていた。
「あっ、そういえば、飲食店街を探してるんだったな。早く見つけないと、そろそろ日が暮れる」
「よいしょっと、なんか、寄り道ばっかしてる気がするなー」
剣斗が本来の目的を遂行しようと立ち上がったそのとき――。
トンッ
「ぐはっ」
突如、後ろから何者かに首を叩かれた。
(えっ……な…んだ? だれ…だ?)
自分の首を叩いてきた犯人の顔を確認しようとしたが、足しか見ることが出来なかった。
(まず…い……い、意識……がっ……)
ドサッ
剣斗は突然の出来事に驚く間もないまま、そのまま意識を失った―――。
*************************
「―――んっ……なん…だ…? ここ…?」
剣斗が目を覚ますと、路地裏ではない見知らぬ場所で寝ていた。
近未来的な室内で、部屋の壁に巨大なモニターのようなものがあり、電子音が鳴っている。
そして、目の前に謎の仮面をつけた男が一人立っていた――。
(だ、誰だ?)
剣斗は突然の出来事に困惑したような顔をした。
「ふっ…」
すると、謎の男が微笑み、こう言った。
「ようこそ。お待ちしておりましたよ」
「アサヒ・ツルギ―――」




