第118話:命令と作戦
黒魔土竜の口内は、外見からは想像もつかないほど整っていた。
魔導障壁が立方体状に展開され、淡い光を放ちながら内部を守っている。
壁面には複数の魔導モニタが浮かび、外の景色が揺らぎながら映し出されていた。
まるで巨大な魔導戦車の操縦席だ。
バックス本体はまだ意識が戻らないまま、ビショップの腕に抱えられていた。
しかし、分体であるコバックはしっかりと状況を把握していた。
ビショップが問いかける。
「バックス、これからどうしたらいい」
コバックは即座に答えた。
「エレン、作戦立てろ。
お前が適任だ」
突然の指名にも、エレンは一瞬も迷わなかった。
「ありがとうございます。
まずは──バックスさん、本体に戻れるなら戻りましょうあなたの全開が必要です」
コバックは頷き、ビショップへ手を伸ばした。
「だな。
ビショップ、それを下ろしてくれ」
ビショップは素直に従い、バックス本体をそっと床へ寝かせた。
その様子を見ていたクラリッサが、思わず声を上げる。
「え! コバックちゃん、消えちゃうの……?」
アメリアも慌てて首を振った。
「かわいいコバックちゃん消えちゃうのやだ!」
コバックは苦笑しながら二人を見た。
「あたりめーだろ、全く……
でも戻らねぇと本体が動けねぇんだよ」
そう言って、気を失ったままのバックス本体へ手を伸ばす。
指先が触れた瞬間──
光が弾けた。
コバックの身体は霧のようにほどけ、
そのまま吸い込まれるように本体へと戻っていく。
アメリアは息を呑んだ。
「……消えた……」
クラリッサは静かに首を振る。
「違うわ。
“帰った”のよ。
本来の姿に」
エレンは魔力の流れを感じ取り、頷いた。
「はい。
魔力が安定しました。
完全にひとつに戻っています」
やがて、バックス本体がゆっくりと目を開けた。
「……ふぅ。
やっぱり本体は落ち着くな」
ビショップは安堵の息を漏らし、微笑んだ。
「戻れてよかったな、バックス」
「おう。
心配かけたな」
エレンはすぐに次の指示を出す。
「アメリアさん、首飾りの方向を確認して下さい」
「オッケー」
アメリアが胸元の首飾りに触れると、
魔導モニタに赤い光の線が投影された。
その線は──
レヴィアス城とはまったく別方向を指していた。
クラリッサが目を細める。
「つまり……光はここじゃなかったってことね」
エレンはモニタを見つめながら、はっきりと言った。
「つまり──目的地はレヴィアス山脈が濃厚です。
整理すると、バックスさん本体の奪還は完了。
後はここにいる生成魔導士を人間に戻せば──
レヴィアス城でのミッションはコンプリートです」
そしてエレンは、ビショップへ向き直った。
「ビショップさん。
この黒魔土竜でレヴィアス城の最上階へ向かって下さい。
僕に考えがあります」
ビショップは目を細め、エレンを見た。
「……分かった。
お前の作戦、乗るぜ」
黒魔土竜は低く唸り、
進路をレヴィアス山脈へと切り替えた。
ズドドドドドドドッ──!
土竜司令室は大きく揺れ、
一行は次なる目的地へと突き進んでいく。




