表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/39

それぞれの思惑

 ニルヴァーナたちの突然の奇襲。

 それはアンデッド側の方面司令官にも報告がようやくもたらされた。すでに戦線はズタズタにされ、敵軍と残党勢力との合流を許してしまっていた。

 あまりに遅い報告に、司令官は舌打ちした。


「このままでは戦線を齧られる。更に向こうは内側からも押し上げてくるだろう。二方向からの攻撃になる」


 沸騰しそうなくらいの怒りがこみあげてくる。相手は非常に用意をして挑んできているようだ。

 電撃的な攻撃にしても凶悪過ぎる。アンデッドに対する特化戦力も用意されていると思っていい。面白いように屠られているのが証明だ。

 対して、こちらはセルシア池を制圧するためだけの布陣だ。今から陣替えは難しい。

 勢いも戦術も、すべて相手が上回ってきている。これを覆す手段は少ない。


「撤退するか……戦力を集結させて退く。援軍も要請だ。数が揃ったら再び攻撃する!」

「まぁまぁの判断ですね」


 司令官の苦渋の決断を、誉めてから嘲笑ったのは、強大な魔の気配。


「一軍を率いるものとして、君は正しい。だが大局的にみて、正しくない」

「……! 盟主、アリー様!」


 黒い影を纏う、仮面の魔族。

 あの防人の魔女の契約を自ら打ち破った悪魔だ。前にするだけで、その威圧に震える。


 今回の、カートナの森で起こした反乱の王だ。


 黒い外套を纏うアリーは、足音もなく司令官に肉薄する。

 仮面のせいで表情が見えない分、緊張が高まった。


「命からがら逃げ出した愚かな魔女、ハナ。性懲りもなく、陣営を率いて攻めてきた。小賢しいだけあって、色々とやってくれたようだ」


 アリーは、怒っている。

 直感で司令官は悟った。


「まさか精霊王の子まで連れ出してくるとは驚いたけど……所詮は戯れ言。子どもの反乱」

「アリー様?」

「だからこそ、調子に乗らせてはいけないよ。無駄に頑張られても、こちらの犠牲が増えるだけだ。いいことはない」


 司令官の言葉は無視し、アリーは続ける。


「援軍はもうすぐそこだよ。本隊をここまで持ってきておいた。だから君はそのままで戦線を立て直せ。犠牲は厭わない。すぐに補充してやるとも。君を含めてね(・・・・・・)

「……!」

「反論はもちろん受け付けない」

「承知しました……」


 返事をすると、満足したのか、アリーの姿が消える。どっと疲れが押し寄せてきたが、司令官は休む暇などない。

 これから、すぐにでも出向かなければならないからだ。


「殿担当を編成させる。本隊はセルシア池北方の湿地に集結、再編成だ。殿の指揮は俺がとる。再編成には副官のジュノー。お前に任せよう」

『はっ』

「俺が死んでも復活する。それまでの指揮も頼んだぞ」


 覚悟を決めた口調で、司令官は脇にたてかけてあった大剣を持ち出した。


「悪魔がアンデッドに成り果てる、か……それもまた悪くはあるまい。俺の魂は、最初からアリー様のものだ」


 ふっと笑い、司令官は鎧と闇を纏う。


「黒豪のバティ、出陣だ」




 ▲▽▲▽




 戦況が、変化する。

 ニルヴァーナは、敏感に覚った。植物たちや各地からの戦況報告の、微妙な違和感。

 気のせいと断ずるべきか。


 《否。全身を強張らせるこの感覚》


 間違いない。強敵の気配だ。

 ニルヴァーナは直感に従った。ピリピリと昂る中、冷静に頭を回転させる。


 戦況は圧倒的優位だ。


 セルシア池周辺の戦線は半分を掌握し、まだ戦線を荒らしている上に、池の内側からの押し上げが相手を苦しめている。

 後はこのまま押し切るだけだが。


「……順調すぎる。意図的に殿を配置して、再編成しているのか? 黒狼隊、報告を」

『はっ。御主、デスドッグの数が異様に減っております。配置はされておりますが、当初と比べ、駆逐したとはいえ、展開が薄いかと』

「……やはり。リタ」

『情報を集めておりますが、敵軍に意思めいた動きがあります。周囲の索敵も行います』

「頼んだ。小鬼ゴブリン隊」

『戦線の押し上げに問題なく。現在、戦線の再構築中です』


 予定では、このまま北方へ前進し、次の残存勢力へと向かい、そこも解放する。後はその一帯を残存勢力の合流地点にしつつ、中央へ進む手はずだ。

 一定数敵を削り、さらに周囲へ抵抗できる力をもつ勢力を幾つか置くことで、苦しい同時多方面展開を強いる。数の不利はこれで奪う。


 この作戦の肝は進軍速度だ。


 だからこそ、最初が何より肝心だ。

 敵が看破したら、どう動く?

 ニルヴァーナは己にそれを課した。すぐに脳内でシミュレーションが始まり、布陣を描いていく。幸いにも、リタのオペレーションは実に丁寧だった。


「リタ、指揮権を寄越せ」

『おおせのままに』

「……──布陣を切り替えるぞ。カエンタケ、そのまま戦線を食い荒らしつつ、小鬼ゴブリン隊と連携をとれ」

『北方で再編成か?』

「おそらくな。援軍の可能性があるぞ」

『そうなった場合、戦況の硬直化が考えられるな……今のうちに休憩ルーティンへ切り替えておこう』

「上手く回せよ。黒狼隊は全員、親衛隊に合流だ。代わりのバックアップは坊に任せたい」

『よっしゃあ! 任せろ!』

「暴走だけはしてくれるなよ……。ハナ、状況はどうだ?」

『指揮官は20くらい仕留めてるけど、大物はいないね』


 戦線崩壊を大きく助けているのは、ハナの暗躍がある。指揮官を潰すことで、相手方の組織を崩し、情報伝達も遅らせている。


『そろそろ出てきてもいい頃合なんだけど、引込み思案だね』

「おそらく大物は北方に集まっていくはずだ。ハナ、済まないがそっちへ向かってくれ」

『あいよ』


 これでとりあえずの対策はなした。


「リタ、指揮権を返す」

『承知しました。北方の部隊再編は理解できますが……南に何が?』

「もし援軍が駆けつけるとすれば、南から奇襲を仕掛ける。今の布陣では北向きに偏っているからな」


 もちろんそれは、承知の上での断行だ。

 しかし、相手が予定にない機動を見せている以上、その隙は晒せない。


『承知しました。小鬼ゴブリン連合隊の二割をそちらへ差し向けます。あわせて、私もそちらへ』

「助かる」


 杞憂に終わることは、おそらくないだろう。

 ニルヴァーナは眷族を生み出しつつ、南へ向かった。

 どの場所へ布陣していくのがベストなのか、思案していく。罠はそう多く展開できない。地力と地力との衝突になると予想できた。


 《相手がどれだけの戦力でくるか、そこが不明だな》


 親衛隊は柔軟性が高い編成だ。ある程度は対応できる自負があった。

 森に紛れ、うまく戦っていくしかない。


『報告です! セルシア池北方で敵軍に動き! 軍勢が急速に膨れ上がっています! 同じくして、南西より警報! 敵軍と思われます!』


 リタから緊迫の声。


「数は?」

『不明ですが、反応多数!』

「進軍速度は?」

『速いです。こちらに奇襲を仕掛けるつもりかと。種族は不明ですが、アンデッドだけではありません。強靭な魔力も感知しています!』

「混合編成か。ビー隊、上空から観測できるか? 黒狼隊も頼みたい」

『『はっ』』

「迎撃体勢を整えるぞ。各員、布陣だ。展開させた罠を活用して足止めを目的とする」


 ここからは、スピード勝負だった。

 敵の進軍予想を組み立て、迎撃の布陣を展開させる。ニルヴァーナは最前線に立ち、迎え撃つ構えだ。


 《あまり敵に近寄りすぎると、向こうからの援軍の到着に時間がかかる》


 どうあれ、二面作戦の展開は、数の上で不利なこちらにとっていい形ではない。

 放置できなかったからこそ、今回は苦肉の策として選択した。


 《カエンタケたちが敵を撃破するまで、持ちこたえるように展開するのが得策か》


 で、あれば、広範囲に布陣して柔軟性を高めるべきだ。ニルヴァーナは悩みつつ、布陣の指示を下していく。




 ▲▽▲▽




「敵は聡い。おそらく、こっちからの進軍もある程度把握していることだろう」


 暗がりの中、アリーは仮面の奥で笑む。

 あまりに鮮やかな布陣、進軍。駆逐速度。入念に調べ尽くしての行動しかありえない。敵の将は中々のでき具合だ。

 噛みごたえがある、と、余裕を見せる。


「無駄なことだと思い知らせてやろうじゃないか」


 アリーには自信があった。


「総員、攻撃用意!」


 自軍の破壊力を。伊達や酔狂で本隊を編成しているわけではない。選りすぐりの上に、特殊訓練を施した部隊もいる。

 まして、相手は思いもしていないだろう。いきなり敵方の本隊が仕掛けてくるなどと。


「さぁ、無様に泣き叫べ!」


 アリーはその手を、振り下ろした。


次回の更新は明日です。


応援、お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ