決戦!
風が、静かにざわめく。
気配を押し殺しながら、ニルヴァーナたちは布陣していく。
決戦の時は近い。
▲▽▲▽
「──一斉蜂起には一斉蜂起。相手にそのままこの戦法をやり返す」
軍議の開始を、ニルヴァーナはそう告げた。
「この一週間で、カートナの森の戦況は丸裸だ。ハナと坊のメッセージのおかげで、ハナの眷族たちは残存勢力を結集させ、各地で防衛戦を繰り広げている」
テーブルいっぱいに広げたのは、詳細なカートナの森の地図だ。ニルヴァーナとリタの眷族からの情報と、ハナの助言により、かなり精緻なものになっていた。
ニルヴァーナの予定通り、ハナの眷族たちはなるべく合流しつつゲリラ戦法をとり、戦況を硬直させている。
「ダークロウの森から一番近いのは、カートナの森のここ。東南。セルシア池を中心として、およそ120います」
「まずは奇襲を仕掛け、一気に攻めいって合流して救い出す。時間をかけていられないからな。ここは全勢力を注ぐ。スピードが命だぞ。森の地図は頭に叩き込んでおけ」
「「「はっ」」」
「先鋒はカエンタケの部隊に任せる。バックアップは親衛隊で行う。俺も前衛で参戦するから、総指揮は一度リタに任せる」
「はっ」
リタが跪きながら返事をした。
カエンタケに先鋒を任せたのは、アンデッドに対して特化戦力だからだ。今回の起爆剤であり、最主力になる。
カエンタケの部隊は全部で70名。殲滅担当として、最大の突破力を期待していた。
「相手の戦力はおよそ350。主力はゾンビとデスドッグだ。布陣はセルシア池を囲うように半円型だ。俺たちは奴等の背後から一気に突き崩す。それからは側面攻撃へ展開する」
これも先鋒はカエンタケの部隊だ。つまり、敵を背後から切り崩し、側面へ沿うように進路を取って展開していく流れになる。
これは一度に衝突する敵の数を減らすという意味でも効果的だった。
「一方向からだけだと敵が慣れる。親衛隊は俺を先頭に、角度をつけて攻撃を仕掛けるぞ。次に、大地の騎士団第一部隊、小鬼隊は俺の眷族と共に、救援対象の部隊と合流して戦線を押し上げろ」
「はっ」
「ゾンビに対しては機動力を奪ってから対処するのが最善だ。第三部隊、バケモノ猿隊はリタの眷族を率いつつ遠距離攻撃だ。逐一サポートしていくこと。お前たちが戦線維持の要だからな。俺の眷族の展開する罠も存分に活用していけ。頼むぞ」
「はっ」
「次にデスドッグだ。数は少ないが、機動力と瞬間の殺傷能力はゾンビより高い。こいつらを好きにさせると犠牲が増える。無視はできない」
デスドッグの対策は非常に重要だ。
これが機能しなければ、戦闘時間は長引き、不利になる可能性があった。
「これには撹乱と空中からの攻撃で対処する。第二部隊、黒狼隊とビー隊で組んでもらう」
味方となれば、すぐ騎士団へ引き入れる。それが連合騎士団の利点だ。
指揮系統さえ混乱させなければ、よく機能してくれる。今回に関して、兵力は大部分でハナの眷族と使い魔たちに頼っている。
「黒狼隊でデスドッグを誘導、撹乱、解離させ、ビー隊で上空から奇襲を仕掛ける。混乱したら、一気に黒狼隊も襲え」
デスドッグは本能的な部分が強い影響か、咄嗟の対応に混乱する。その少ない隙を穿つ作戦だ。
「確実に仕留めるように。一気に大量のデスドッグを連れ出そうとするなよ」
「はっ。小隊単位で細かく動き、確実な効果を優先します」
肯定を受けて、ニルヴァーナは頷いた。
「坊も手伝うぞ! 坊の眷族も同じように動けるからな!」
「頼んだ。最後に、ハナ。敵方の指揮官に絞って奇襲攻撃を願う」
「敵の拙い指揮系統を更に奪うんだね。いいよ。やってやるさ」
「ド派手にやっていいぞ。味方の士気も上がるだろうからな」
ニルヴァーナが許可するとハナはにやりと笑った。
戦意の昂りか、ハナから蜃気楼が上がる。
「相手には第三ステージの半精霊も多い。一匹にあまり時間はかけるなよ」
「分かってるよ。坊から《加護》を受けて力が戻ってるからね。任せな」
「頼りにしてるぞ」
念押しして、ニルヴァーナは声を張る。
「目標は敵が本格的に動いた時、こちらも対応できるようになっていることだ。とにかく電光石火、次から次に仲間を回収していくぞ!」
「「「おうっ!!」」」
▲▽▲▽
──太陽が、満ちる。
火蓋を落としたのは、ニルヴァーナからだ。
『カートナの森を不正に占領せし愚か者に告ぐ! 我が名は坊! かの偉大なる精霊王の末子である! この神聖なる立場において明言する!』
合図だ。
ニルヴァーナたちは、一斉に動く。
『我は、貴様らを認めない、許さない!』
瞬間、ニルヴァーナたちがアンデッドたちを背後から襲いかかる!
先頭は、ニルヴァーナとカエンタケだ。
「一気に貫く!」
まず前に出たのは、カエンタケだ。刀をすらりと抜き、炎を宿す。周囲の水分を消し去り、熱波を放つ。
たん、と、枝を蹴る。
次の瞬間、一閃。二閃。──五閃。
軌跡しか追えない刀は、ゾンビの頭を切り飛ばしていた。直後、一気に発火する。
「そのまま炸裂するがいい」
気合を籠めてカエンタケは刀を振るう。すると、首のないゾンビがその身を激しく燃焼させながら打ちあがり、弧を描いてゾンビの塊に着弾。
爆散して炎と破壊を撒き散らした。
「豪爆」
痛烈な先制攻撃に、ゾンビが騒ぎ出す。辛うじて保っていただけでしかなかった戦線を崩し、一気にカエンタケへ雪崩れ込む。
声なき奇声の不協和音は、罵声か、怒声か。
どちらにせよ、カエンタケは迎え撃つだけだ。
「総員、突撃だ。食い荒らせ! 我らカエンタケ一族の恐ろしさを味わわせよ!」
号令一下、赤備えの一軍が飛び出し、むしろゾンビへ突っ込んでいく。
全員が、炎を纏っていた。
「おおおおおっ!」
カエンタケを筆頭に、矢のような陣形に対してゾンビが囲いこむをかけるが、ゾンビたちが蒸発していく。
危険を感じたか、指揮官らしき、比較的まともな装備を整えているゾンビが指示を下す。
『回り込め! 背後からも……』
「させると思うか?」
一陣の風と、雷鳴。
森だろうとお構い無しに荒れ狂う閃光が、指揮官の頭を消し飛ばした。
そのまま、緑の軍団がゾンビを横手から喰らっていく。
ニルヴァーナたち、親衛隊だ。
ニルヴァーナが先陣で稲妻を縦横無尽に繰り出してゾンビを間引き、そこに遠距離攻撃で機動力を奪って奇襲の撹乱、そして正面からの突撃。
恐ろしいまでの連携攻撃に、ゾンビたちはなす術がない。
あっという間に、場を混乱に陥れた。
ニルヴァーナは高揚しつつも冷静さは失わない。的確に稲妻を落とし、敵を痺れさせていく攻撃にシフトした。
親衛隊は基本的に遠距離攻撃から機動力の奇襲で撹乱、そして正面からの圧倒という三段構えだ。それでも、カエンタケの特化戦力には劣ってしまう。
それを補うのがニルヴァーナの役目だ。
電撃系は複数の属性を使用するため、どうしても魔力の消費が激しい。随所で魔力を回復させていくが、タイムラグがでる。
少しでも防ぐため、ニルヴァーナは魔法の節約に切り替えた。
《──くる》
気配を覚え、鋭く睨むと、デスドッグの一団が現れた。ぐるる、と威嚇しながら距離を詰めてくる。
刹那だった。
黒狼が唸りをあげつつ横手から乱入、鮮やかに一撃だけを加えて離脱。それだけでデスドッグたちの注意を全て奪った。
吠えあいながら黒狼を追ってデスドッグが走り去っていく。
「ここはお任せを!」
「頼んだぞ、族長!」
短い言葉を交わし、ニルヴァーナは電撃を再び放った。
ニルヴァーナたちの鮮やかな奇襲は、完全に機能していた。
アンデッドどもの戦線をズタズタにし、軍勢の侵入を許す。ニルヴァーナたちの後ろからやってきた完全武装の小鬼隊だ。もちろんリタの眷族やバケモノ猿の一軍もいる。
「よし、突破せよ!」
指示通り、全軍が動く。
カエンタケとニルヴァーナの軍は左へ、アンデッド軍の陣形に沿うように、小鬼隊たちは合流を最優先。
『右翼に敵影! 潜んでいたデスドッグの一群です!』
『黒狼隊、いけるか?』
『左翼にもデスドッグの軍団が多い! 対応は難しいぞ!』
黒狼隊はそこまで多くない。故にカバー範囲は狭かった。
緊迫が走る。
それでもニルヴァーナは慌てない。
『ハーッハハハハ! 坊たちに任せろ!』
坊が乱入し、緋色の猪たちが、右翼から伏兵的に襲ってきたデスドッグの一群に衝突する。
坊が持つ神聖なる朱雀の魔力を浴び、デスドッグたちは浄化、ただの亡き骸になって土へ還っていく。
「もうひとつ特化戦力がいたか。これはいい意味で予想外だったな」
ニルヴァーナは今回、坊の安全のためにサポートを担当させていた。しかし、特化戦力として最前線を任せてもよかったかもしれない。
今さら変更はきかないので、ニルヴァーナはそっと脳内だけで布陣を変更させた。
「さて、戦はこれからだ」
ニルヴァーナは気を引きしめつつ、目の前のゾンビどもを麻痺させる。
相手にも指揮官はいる。そいつがどこまで有能で、どう立て直してくるか。そこが勝負の分れ目になる。
次回の更新は明日予定です。
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