奇策妙計
pv10000突破です。
「…………は?」
ニルヴァーナの爆弾発言に、全員が目を点にさせた。
「せ、精霊王の子を救出?」
カエンタケが言葉を詰まらせながら、ニルヴァーナの言葉を繰り返す。
「そうだ。現状を考え、それがベストだと判断する。魔女を名乗る輩がいて、それを覆すのが大変なのは、魔女という証明が大変だから、というのがあるのだろう?」
「……そうだね。恥ずかしい話、精霊王様の加護を失って、私は力を落としたから。加護の分の力を取り戻すには時間がかかる」
「では、精霊王の子であればどうだ」
「覆すどころか、名乗ることさえ無理だよ」
ハナは即答した。
「精霊王の子は、精霊王から力を受け継いでいる。その神性の力は、とても真似できるものじゃあないね」
「つまりオンリーワンだ。その虎の子さえ確保すれば、名目は生まれるだろう」
「……同時に、向こうは名目を失う、か」
「だが簡単ではないだろう。向こうも確保しているはずだぞ」
「いや、神聖の森にアンデッド系は一切近寄れない。反乱軍の主力はアンデッドだから、早々は侵入できないはずだよ」
カエンタケの反論を、ハナが封じる。
「じゃあ、後ろ楯になるというのは……」
「向こうは防人の魔女を名乗る輩がいるし、我らのような兵士を幾らか捕虜にしているはずだ。なんとかして使者くらいは出すだろうね。連中は、あくまでも私が精霊王の子を擁立する姿勢だからね」
「おしゃべりな微妖精を排除する
徹底ぶりですからね……」
ハナの言葉を、ビーが受け継いだ。
徹底的な情報統制。
それだけ連中は考えて動いている。ただ時間を稼ぐだけでは不利になっていくだけだ。
「それと、しばらくは向こうもゴタゴタするだろう? 連中の蜂起は、そちらの戦力を寸断しつつ混乱させ、本体を一気に叩く、というものだ。だから、各地に散った抵抗勢力ができている。その鎮圧に時間を費やすはずだ」
ニルヴァーナの意見に、ハナが頷く。
相手にそこまでの余裕がないであろう、まさに今こそが、つけこむ隙だ。
「本当に、とんでもないことを言い出すと思えば、理にかなっているとか……お前はどうなっているんだ」
「思いつきは大事なんだ。すぐにでも向かいたいところだぞ」
「それには賛成だが、俺は待機する。もし何かあった場合、俺がいた方がいい。上位指揮者がいるのといないのでは、初動と柔軟性が異なる。加えて、俺はアンデッドと相性がいいからな」
「わかった。じゃあ俺とリタと……」
「私がいくよ」
名乗ったのは他でもない、ハナだった。
凄まじい勢いで魔素を吸収していて、見る間に顔色がよくなっていく。体内で魔力に還元しているのだろう。後数時間もあれば全快するだろう、とニルヴァーナは判断した。
おかげで周囲の魔素濃度は低くなったが。
「私なら精霊王の子──坊と面識あるからね」
「だが、探知はされないのか?」
「心配ないよ。そのために私は魔力を使いきったんだからね。もう探知されないさ。それに……空からいくからね」
ハナは薄く笑った。理解したニルヴァーナもまた、にやりと笑う。
「よし。それじゃあ、実行メンバーは俺とリタ、ハナだ。留守の間はカエンタケ、お前に全権を任せたい。同盟の盟主代理だ」
「分かった」
「リタ、準備をしよう。装備はこっちで用意するが……」
「客人の保護と軍備の早期化案の指示と実行ですね。ずっと思案しておりました」
「さすがだな。頼むぞ」
ニルヴァーナはリタの頭を撫でる。リタは顔を赤くさせつつはにかんだ。
▲▽▲▽
──深夜。
微妖精さえ寝静まる頃、ダークロウの森から一筋の淡い光が上空へ打ち上げられた。
流れ星と見間違えるような軌跡は、言うまでもなくニルヴァーナたちである。
「このまま探知範囲外まで一気に上昇するぞ! そこから空中を移動し、神聖の森の真上まできたら急降下だ」
「そうすることで、敵の感知範囲から逃れるのだな。ははは、素晴らしい!」
「そうだろう! この防人の魔女だけが所有してる、流星のホウキがなければ不可能な荒業だがな!」
ホウキにまたがり、後ろにニルヴァーナとリタを乗せたハナは不敵に笑う。
ニルヴァーナも空高く浮遊するのは初めてだ。かなりの高揚感があった。対するリタは、ニルヴァーナの前で震えていた。
「大胆奔放というか……無茶ですよ、こんなの……あわわ、もう森があんな遠くに」
「リタ、もしかして怖いのか?」
「ここまで高いのは……ちょっと」
「心配するな。もし落ちても助けてやるとも」
「主様っ……!」
頭を撫でながらニルヴァーナがいうと、リタは顔をほころばせた。
「あのねえ。私が万が一にでも落とすと思ってるの?」
「悪かった、そうだな」
「まったく。緊張感あるんだかないんだか」
ハナは呆れたため息をつきつつ、方向を調整する。雲より高い空は、かなり冷える。
息が白くなる寒さの中で、ハナはひたすら目指していく。
「さーて、そろそろだね。いくよ!」
ぼんやり月を眺めていると、ハナはいきなり急降下を開始した。もはや直角降下だ。
唐突にやってくる風圧。
呼吸さえ封じられる中、ぐんぐんと森が近くなってきた。
二つの川に挟まれ、島のようになっていて、うっすらと光っているように見える森。神聖の森だ。
「さぁ! あの森の真ん中、精霊王の遺跡! そこに坊はいるよ!」
「一点突破して救出、そして脱出だな」
「問題は移籍前にいる門番のウッドゴーレムだよ! 坊以外のいうことは聞かないからね。かといって破壊も不可能だよ。木製のくせに鋼鉄より固くて頑丈、火も効かないし、魔力も底無しで再生能力も高い。どうするんだい?」
問われて、ニルヴァーナは笑んでいた。
ハナから話は聞いていて、麒麟の知識にもウッドゴーレムの項目はある。既に対策は練っていた。
ぐ、とスピードが落ちる。
「ウッドゴーレムが気付いたよ!」
「よし、俺が降りる。リタ、打合せ通り。いいな?」
「はっ」
制動による重圧に負けず、ニルヴァーナはホウキから飛び降りる。ホウキは周囲の木々よりも高い位置にあったが、軽い音を立てて着地した。
ウッドゴーレムが、強烈にこちらを睨んでくる。身長は三メートル以上。ニルヴァーナの倍はある。ゴリラをモチーフにしたのか、それに似合う体格は分厚く、強靭だ。
対峙は、僅か。
ゴーレムの両目が紅く光り、警告さえなく襲いかかってくる。
鳥肌さえ立つゴーレムの突進。怯む余裕さえなく、豪腕が振り下ろされた。
ニルヴァーナは、その一撃を片腕で受け止めた。全身の骨が砕けそうな衝撃が駆け抜けるが、平然としていた。
「まだファルムの一撃の方が痛いな」
今のニルヴァーナは、鍛えに鍛え、対ファルム用の堅牢な装甲を筋肉として纏っている。
ファルムに劣るのであれば、ニルヴァーナに通用する道理はない。
ゴーレムは次々と一撃を繰り出してくる。ニルヴァーナはその全てをガードしつつ、距離を詰めた。
「雷神鞭!」
両手に稲妻を迸らせ、電撃の鞭をゴーレムに喰らわせ、爆裂させていく。
全身を炭化させ、その身を崩しながらゴーレムはあお向けに倒れた。だが、数秒とかからずに再生が始まり、ゴーレムは起き上がった。
《やはり、な》
脅威的な再生能力には目もくれず、ニルヴァーナは確信した。
「オオ、オ、オオオ……!」
ミシミシと軋ませながらも、ゴーレムはニルヴァーナへ襲いかかる。
「悪いが、じっくり戦ってる暇はないんでな」
ニルヴァーナはゴーレムに稲妻を叩き込むと同時に地面を踏み抜き、足裏から膨大な根をはる。
そして、一気に周囲から栄養を奪い去り、自分の周囲に巨大な植物を生み出した。
「…………ッッ!?」
ゴーレムの再生が始まらない。
「リタ!」
「はっ!」
動揺するゴーレムに、リタが幾つもの爪を撃ち込む。凶悪な腐食性の毒がたっぷりと染み込んでいる。
それだけではない。再生能力が落ちるよう、幾つもの毒がブレンドされていた。
「今のうちだ、いくぞ」
ジタバタするだけのゴーレムを後にして、ニルヴァーナたちは遺跡へと入り込んだ。
入り口には結界があるが、ハナはあっさりと解除した。何度も出入りしているからこその芸当だろう。
「しかし、あのゴーレムをああも簡単に封じるなんてね」
「タネは簡単だ。ウッドゴーレムの再生能力は大地から供給される魔力と栄養素から成り立っている。だから、局地的にそれを奪っておいて、全身を破壊させたんだ」
「それでも奪えるのは一時的です。神聖の森は特に豊かで、すぐにそれらは補給されますから。だから、断続的な強い腐食性質のある毒をぶちこんで、再生能力を落としたんです」
植物属性だからこそ気付けたことで、また、ファルムとの戦いの経験値があったからこその観点だった。
遺跡の中はひんやりとしているが、そこらじゅうに護衛の魔物が配置されていた。
「この中には私の使い魔が最大数配置されてるんだ。動重騎鎧に、魔女布、骨騎士にスライム、ゴースト。たぶん300は下らないよ」
「そ、そんなに……」
「けど心配は無用だよ。私の使い魔だっていったろ? 私の命令には絶対だよ」
ハナの言う通り、遺跡の中の魔物たちは誰も敵意を見せない。
ハナはホウキに乗って、遺跡の中を真っ直ぐ奥へと突き進んだ。謁見の間を抜けた先の寝室に、精霊王の子はいる。
「坊、坊! 出ておいで、迎えに来たよ!」
寝室の前でハナが声をかけると、寝室のドアは静かに開けられた。
次回の更新は明日の予定です。
応援、よろしくお願いします!




