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騎士団

 ──ニルヴァーナがダークロウの森の統治をはじめて、一週間。ダークロウの森は、魔素間欠泉に代わる花のおかげで満たされ、魔物たちは活性化していた。

 小鬼ゴブリンの繁殖も順調で、三ヶ月後には新たな兵隊が完成する。すでにリタが教育プログラムを構築し、また、ニルヴァーナが自ら作った武器や防具を与えることで強化することになっていた。

 もちろん、黒狼やバケモノ猿にもニルヴァーナは強化を施している。


 あまりに急速で変化をはじめたせいで、一時的に食料危機を迎えそうだったが、ランタンの森からの援助で乗りきった。


 だが永遠に頼れない。食料確保のため、その類いの家畜化や栽培もニルヴァーナは開始していく。森の更なる効率的運営である。

 これはランタンの森とも結託し、結果としてランタンの森の勢力も増大し、支配領域がさらに広がった。


 今まで、森からもたらされる恵みが全てだった常識が、塗り替えられた瞬間だった。


 すべては鬼への復讐のため。

 王として、ニルヴァーナは邁進していく。

 一方で、ニルヴァーナの噂はおしゃべり好きな微妖精ピクシーたちによって森へ広められていた。


 ──新進気鋭、亡き精霊王が残した最後の王の資格者。


 だが、大物のほとんどがニルヴァーナを軽視した。ニルヴァーナがまだまだ若い精霊だからだ。また、革新的な効率的運営に関しては広められなかったせいもある。

 だが、何より、彼らは自分の周囲の情勢把握とより堅牢な統治のため奔走しており、耳を貸す余裕がなかった。


 あちこちで、戦争が起こっているのだ。


 森に火の手があがることも珍しくない。そんな動乱の中の影に潜む形で、ニルヴァーナは影響力を拡大化させていった。


「……──騎士団の結成?」


 夜、魔素を放つ花の群の中で休んでいたニルヴァーナは、リタからの提案を受けていた。

 カエンタケから施される剣術指南のおかげで全身はくたくただったが、ニルヴァーナはさっと身を起こした。


「はい。領地運営は現状、うまくいってますが、国防の点からして充分ではありません」

「それは俺も思っているぞ」


 だからこそ、早期警戒、早期対応のシステムを採用している。また、ニルヴァーナは敢えてフリーになることで──もちろん指示は逐一だすし、報告も常にきいている──、即応できるようにも配慮している。

 参謀に任されたリタも分かっていることだ。


「現状、ダークロウの森とランタンの森は急速に成長しています」


 森の豊かさもそうだが、ランタンの森でいえば、兵隊の急増があげられる。

 これはタマの努力で兵隊が倍になったのと、カエンタケがとうとう眷族を持ったことが大きい。同盟国のこの強化はうれしいもので、互いにとって後ろ楯になれる。


「しかし、軍備の編成はまだです」

「そうだな」


 今は国力増強のため、族長に命令を下し、全力で対処しているからだ。


「私の目では、国力は一定水準に達したものと考えられます。そこで、軍としての専門部隊──騎士団の結成を具申します」

「なるほど、専属か」


 ニルヴァーナは納得する。

 軍事対応特化部隊は、常に訓練を施せる点で優位だ。練度はそのまま強靭な戦力になる。


「はい。これには、カエンタケ様も賛同してくださっています」

「合同騎士団か」

「はい」


 むむ、とニルヴァーナは顎を撫でて思いとどまる。

 合同騎士団、共有騎士団と変換しても構わない。だからこそ、弊害がある。具体的にはタマとニルヴァーナだ。

 タマとニルヴァーナは(女)王であり、最後の砦。騎士団を作れば護衛という任が発生する。そうなると、人員が別々に割かれてしまう。二人は今、遠い。


 ハッキリと効率が悪い。


 しかし、カエンタケの眷族は戦力として魅力的に違いなく、練度の上昇も見こめる。リタもその点からしてカエンタケに打診したのだろう。

 ニルヴァーナは思案する。

 本能的に工夫が必要だと判断し、どうするべきかのアイデアをひねる。


「よし、そうするのであれば、本拠地を明確に定めよう。禁裏の設立だ」


 ニルヴァーナは、そう手を打った。

 森の主は、基本的に定住しない。タマでさえ、危険な国境以外は動き回っている。家を持たない精霊らしい行動だ。

 あの精霊王でさえ、晩年を迎えるまでは各地を練り歩いていたという。


 ニルヴァーナはそこにメスを入れた。


 場所は、ランタンの森とダークロウの森の国境上でも中心部。つまり最奥。

 防衛の点からも優位だ。

 早速ニルヴァーナは提案しつつ、めぼしい場所を決めて移動、環境を整えていく。その間に、リタが持ってきたアイデアに工夫を重ねていった。


「騎士団を目的別に分けよう。そして合同騎士団はあくまで一つにするぞ。その方が、有事の際は小回りが利く。よって、合同騎士団改め、親衛騎士団を結成する」

「親衛騎士団、ですか」

「そうだ。我らの中でも選りすぐりの連中で結成するんだ。普段は護衛しつつ、有事の際は切札の精鋭部隊として動いてもらうスペシャリストたちだな」

「では、団長はどうなさいますか?」

「カエンタケ以外に適任はいないだろう」


 ニルヴァーナはもうそこまで決めていた。一応、副団長としてリタも指名しておく。


「早速選別を開始していくように。それと、我らの独自の騎士団も作るぞ。部隊編成もする」

「はっ」

小鬼ゴブリンと俺の眷族を中心とした主力部隊、黒狼を中心とした遊撃部隊、バケモノ猿を中心とした工作部隊、リタの眷族を中心とした遠隔攻撃部隊だ。こっちも最初は選別方式でいこう。部隊長はそのまま族長に兼任させよう」


 編成としては悪くない構成だ。


「素晴らしいと思います。それならば、より士気を高めるため、名称が必要かと思いますが」

「名称……か」

「にりゅー!」


 思案すると、背中に衝撃がやってきた。タマだ。ニルヴァーナはそのままおんぶする。

 ふ、と、柔らかな土の匂いがした。


「タマ。早速きてくれたか、すまんな」

「ううん、いいんだよー! だって、おうちつくるんでしょ?」

「うむ。ちょうどいい大木群があったからな」


 ニルヴァーナはタマを背負ったまま見上げる。サイクロプスでさえ易々と隠せる太い幹に、見上げても先が見えない高さ。

 マキシマムセコイアという巨樹だ。

 枝の一つとっても、大型の熊でも軽々と歩けるだろう。ニルヴァーナは、そんな木々の、枝の密度が高い所に足場を組み、小さい小屋をいくつも建造していた。

 枝同士は吊り橋で移動するようになっていて、高低差もある。


「すごーい!」

「まるでアスレチックみたいだな」


 背後からやってきたのは、カエンタケだった。タマの護衛でついてきていたようだ。

 ニルヴァーナとリタは手をあげて軽く挨拶すると、カエンタケも応じた。


「あ、そこらの足元にはバッチリ罠を仕掛けてあるから気を付けろよ?」

「ぬかりないというか、なんというか……」

「ここは禁裏みたいなところだからな」


 ニルヴァーナの先導で、木にのぼる。

 梯子か、木の幹に接着させた簡易階段かのどちらかだ。

 そこは、ニルヴァーナ、リタ、カエンタケ、タマの住居と会議室、応接室、執務室、訓練室、研究室、資料室などが建造されていた。

 木造のコテージに近く、大きさもまちまちだが、住みやすいように工夫がなされていた。麒麟の知識にあった、人間社会の住居をおおいに参考としている。

 人間などほとんど入ってこない、大森林出身であるタマやカエンタケからすれば、かなり珍しい。


「なるほどな。定住という考えか」

「こうする方が防衛の点からも楽だしな。まだできたてだが、どんどん防御力をあげていくぞ。色々と試したい」

「要塞にでもするつもりか?」

「いずれはな」


 もちろん、それが使われないことを祈るばかりだが。


「こうすれば、連絡もしやすいしな」

「しかし、いつもここにいるわけでもないだろう?」


 カエンタケは疑問を口にした。

 以前であれば、動物の声をはじめとした森の気配で感づけていた。それは支配領域が狭かったからで、ニルヴァーナの場合は、眷族による索敵も可能になっている。


「これを使おうと思っている。さっきできたばかりではあるがな」


 ニルヴァーナは懐から種子を取り出した。よく見なければみえないほど小さい。


「これは……? ぺんぺん草か?」

「うむ。品種改良して、通信アンテナ代わりになるようにした。こうすれば、より早く、正確に情報伝達ができる」

「……通信アンテナ?」

「要するに、念話テレパスが広範囲、高精度で可能となる増幅器みたいなものだ」


 首をかしげるカエンタケに、ニルヴァーナは補足した。

 論より証拠と、ニルヴァーナは頭に種を植えつけ、魔力を注ぎ込んで成長させる。そこを通じ、タマとカエンタケへ同時に念話テレパスを送った。


「わっ、すごい」

「雑音もひどいし、音量も安定しないが……確かに聞こえたぞ」


 厳密に、ニルヴァーナが使ったのは念話テレパスではない。念話テレパスは非常に高度な魔法だからだ。

 元々、ニルヴァーナは多数の植物と根を絡めあわせ、糸電話のように情報網を展開していた。今回はその応用である。


 ニルヴァーナは地面に描きながら解説する。


 まず用意するのは、レーダーの役割を果たす植物だ。

 その植物と根を介して、指向性のある魔力を放つ植物が異常を受信すると、それらに応じた魔力波動……メッセージを放つ。更にそれを伝達させるため、送受信する植物を随所に用意し、高速で伝播させるというものだ。


 分かりやすくいえば、スマホの通信技術である。


 ニルヴァーナの頭のぺんぺん草は、それを受信し、かつ、魔力を放てるようになっている。維持には少量の血液を要するので、肉体を保有する第二ステージ以上にしか使えないが。


「すごいな……これを運用すれば、どこよりも情報が早く手にはいる」

「情報伝達が難しい戦場でも自在に使えるからな。有利に立てるぞ」

「とんでもないな……」


 価値に気づいたカエンタケは驚愕する。


「すぐにでも広めよう」

「ああ。あ、そうだ。話はかわるが、騎士団結成の話なんだがな。名称が必要なんだ。何かないか?」

「え、じゃあぺんぺん」


 カエンタケが即答すると、空気が凍りついた。


「ぺんぺん騎士団……?」

「違う意味で士気に影響しそうですが」

「お兄ちゃん、それはない」

「タマまで否定した!」

「っていうか、ぺんぺんは、にりゅヴァーナの名前だもん」

「ん? しれっと噛んだ上に謎のアダ名だな?」

「え、いーじゃん。かわいいよ! ぺんぺん!」

「なんでしょう、明後日の方向に話がいきそうですね」


 リタの予言通り、話題はとことん離れていった。

 結局、騎士団は連合騎士団と無難な名前に落ち着いた。


 そんなやり取りから、一週間。


 事態は急変する。





新シリーズスタートです。

次回の更新は明日予定です。


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