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13.努力した雨/選択した雨

「――――そろそろ行こうか」

 リールの顔を見ると、強張った表情をしていた。

「……うん」

 絶対、生きて帰る。

 アミュが、リールが、みんなが繋いでくれた命……決して無駄にしない。


 みんな何か隠していた。


 ――――だから? そんなの関係ない。

 私達は友達だったんだって言えるものがある。

 命の奪い合いみたいな……血腥い状態ではあるけれど、争う理由がなかったのなら、私達はきっと……。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




『13.努力した雨/選択した雨』




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――私達は警戒しながら近くの時計台へと向かう。

 この世界の風景は、もう見慣れてしまっていた。寂しさ、儚さ。そういったものを最初は感じていたが、今はそれらを感じない気がする。だからなのか、それともまったくちがう何かがあったからなのか、私達の行く末を前向きに考えられる……気がする。


 白と黒の世界。白と黒が混ざったりはしないのだろうか。


 2色が混ざれば。


「――――ねえ、リール」

 2色が混ざればどうなるのだろうか。それを問おう。

「……何?」

 やさしく微笑みながら、こちらを向く。でも、少しかたい感じがする。

「白と黒がさぁ、混ざったら何になると思う?」

 白と黒。光と闇。混ざったら。

 混ぜてみたい。それを赤や青や黄なんかの鮮やかな色たちに加えて、より深みを出す。そして、風景を造り出す。どうなんだろう。


「――――謎かけとか冗談……なのかな?」

 クスリと笑いながら、質問を流されてしまった。

「脚とか……痛くない?」

「……? 大丈夫だよ?」

「でも、ずっと動きっぱなしだから」

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だから」

「……そう」

 大丈夫ではないと思う。もう限界はとっくの前にきているのだけど、私を不安にさせまいと、言葉やからだ、心にまで嘘をついているのだと思う。




 ――――近くの時計台に着く。ここの時計台は、お世辞にもきれいだとかそんな言葉を口に出せないほど、ボロボロで古びていた。


 でも。


 ……白と黒しか色がついていない世界で、珍しく他の色がついた、ファンのような謎の物体がくっついている。

 そして、時計台を見ると、色が白と黒だけではなく……茶色……? ココアのような、優しくて甘い、そんな色の時計台だった。


 でも。


 白と黒の風景が延々と続いていたからか、とても鮮やかで、不気味な場所だと思った。

 ふと、時計の方を見る。チッ、チッ、チッ、と秒針が動いている。時計は止まっていない。

「これはちがうってことなの?」

「そうだと思うよ。アメさんと一緒だった時も同じだったから」

 多分。確実性はない。

「別の時計台に行こう」

「そうだね」

 私達は別の時計台を目指す。


「地図があれば探すのも楽なんだけどね」

「地図かぁ。なんか、アドベンチャーとかRPGとか、そういう系のゲームがやりたくなっちゃったなぁ」

 ああ、確かに。なんとなく分かる。

 ナイフとか装備して、初期の町で瓶を割ったり本棚を調べて薬草をゲットしたりとか、ワクワクしたなぁ。これから冒険が始まるのか! って感じで。

 仲間が増えるイベントとか結婚イベントとかラスボスを倒したりとかオマケ要素とかバグ探しとか、楽しかったなぁ。

 無事に帰れたらやろう。

「帰れたら、みんなでやろうよ。協力プレイ」

「うん! やろうやろう!」


 でも、ティビィは……。

「そんなことより、サッカーやろうぜ! そうだ、バスケやろう! バレーもやろう! 試合だー試合だー!」とか言うにちがいない。というか、前に言ってた気がする。

 うーん……。ツッコミどころが多いぃぃ……。


 ――――そんなときにアミュがいたら。


 アミュがいたら?

 いけない、いけない。アミュはいない。死んでしまったんだ。ネガティブになるな、私。頑張れ、私。

 パン、パンと強めに頬を叩く。

「トーカ、大丈夫……?」

 リールが私の方を向き心配する。顔をじっと見つめる。

「へーきへーき! 大丈夫! 少し考え事をしてただけだから」

「何か悩みがあるなら、いつでも私に相談してね?」

「ありがとう。でも、大丈夫!」

 アミュが死んだからって、くよくよしてどうするんだ。アミュだって、そういうのは望んでいないはず。

 私は何があってもめげない、だから安心して優しく見守っていてほしい。そう、笑いながら伝えるんだ。

 友達が泣くの悲しむの……そういうの、嫌なんだ!




「――――あれぇ」

 聞いたことのある声がする。誰だろう。

 私達は声のする方を見る。


「――――え、え……」

 金色に輝く美しい髪に不釣り合いな、傷だらけのからだにボロボロの衣服。




「ア……メ――――」


「――――アメさんだ! あの後どうなったんですか!!! うわー!!!!!」

 私はアメさんの方へ駆け寄ろうとする。

「待って! トーカ!!!」

 左手を強くがっしりと掴まれる。痛い。

「どうしたの?」

「アイツに近づかないで!!!」

 私がいない間に、何かあったのだろうか。明らかに様子がおかしい。

「どうして?」


「――――アイツには殺意がある。アイツは私達を騙してたんだ。アイツは最初から、私達を殺す気だったんだ!!!」

 ……そうかなぁ。だったら、あのときにヴィネは殺されていた可能性が高いと思う。刺す場所が悪かったとかなのかな?

「とりあえず、私がいない間に何があったのか、聞かせてくれない?」

「そんな時間、ないよ! アイツは今にも私達を殺しにかかろうとしているんだよ!?」

 そういって、リールは私の左手を掴んだまま全速力で走る。

「……なんで、なんで、なんで!? あのとき確かに眼球を刺したはず。どうしてあんなに平気そうなの!?」

 ボソリと呟くリールの声が聞こえる。想像しただけで痛々しい。血がねっとりと顔に付着し、肌がぐちょぐちょに溶けているような、そんな光景を想像した。

「待って、リール――――」




 ――――翼が動く。

「……空に……浮いてる!?」

 優しくて軽い音を響かせながら、翼が縦横無尽に動く。

 すごい。思ったように進む。

 でも、何故? 何故、急に翼が?

「ト、トーカ、つ、つらい……」

 左手を掴まれていたからか、リールも浮いていた。

「落ちないように、からだごと私にしがみついて」

「う、うん」

 強くしがみつかれる。

「アメさんは――――」


 下の方を見ると、アメさんがいない。


「――――ッ!?」

 頭から激痛を感じる。痛い、痛い、痛い。

 翼がピタリと動かなくなり、私達は地面に激突する。誰かに殴られるのとは比にならないほど痛い。

「……ほら……私達に殺意がある……って……」

 口から血を吐きながら言う。

「リール!? 口から血が……血が!!!」

「……大丈夫。……逃げよう」

 逃げてばかりでいいのだろうか。

 話し合い……なんて、できる状況じゃない。

 左腕に力を込める。私の炎、力を貸してくれ……!

 左腕から出た燃え盛る炎が、バリアのように私達を包む。

「逃げよう。私達が無事に元の世界に帰ること。それが一番大切だから」

 私達は逃げる。追いつかれないように、翼を広げ全速力で駆け抜ける。

 止まるな、進め。振り向くな、前を向け。

「うおおおぉぉぉ!!!!!」

 駆け抜けろ、駆け抜けろ、駆け抜けろ……!

 今は逃げるとき。戦うときじゃない。話し合うときじゃない。

 速く、速く、もっと速く。景色が見えなくなるほど、速く駆け抜けろ。音のように、光のように、駆け抜けろ。




 ――――逃げることだけを考えていたからか、アメさんは見えなくなっていた。

「……どうして」

 何かが隠れているのに、それがわからず、もどかしい。

 私達を殺そうとする理由。わからない。

 あれは本当に殺意なんだろうか。少しちがう気がする。

 考えていると、目の前にまた別の時計台が見えた。

「時計台があるね」

「そうだね、トーカ。ここの時計が動いてなかったら、それを動かせば私達の世界と繋がるってことでいいんだよね?」

「うん、多分そうだと思う」




 ――――時計台に着く。

「時計は――――」


 秒針がチッ、チッ、とゆっくり動いている。どうやら、ここもちがうようだ。


「――――ここもちがうの!? 本当に、この方法で正しいのかな……」

「わからない。でも、試すしかないよ」

 いつの間にか、私は疑うことを忘れていたのかもしれない。確かに、アメさんが嘘をついている可能性は捨てきれない。

 情報を何から何まで信じたらダメだ。嘘が含まれている可能性もあるのだから。

 嘘を信じてしまうと、裏切られたとき、きっとショックを受けてしまう。

「別の時計台を探そう」

「うん」

 辺りを警戒しながら、慎重に歩を進める。

「痛い……」

 痛みが鎮まりそうにない。さっきのあれは、死ぬかと思うくらい痛かったから、無理もない。

 でも、我慢しなきゃ。




 ――――しばらく歩いていると、見覚えのある建物があった。

「明かり……?」

 この世界で明かりが灯っているのは珍しい。

 明かりが灯っている建物……。その建物は教会のようなものだった。

「ここの建物、教会みたいな雰囲気出してるね」

「そうだね。私はここに入ったことがある。中は何もないよ」

「そうなんだ」

 ということは、こっちの方に進むと公園のようなものがあるはず。

「こっちは行ったことがあるから、あっちに行こうか」

「うん、わかった」

 私達は別の時計台へと急ぐ。


 歩いていると、三叉路に差し掛かる。この辺りは分かれ道が多い。

「どっちに行こうか」

 リールに問う。

「トーカが決めていいよ」

 ……私か。さて、どっちに行こう。

 右か左か。




 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――どっちの道からも、気配を感じる。誰か、いる気がする。

「リール、気配を感じない?」

「……そうかな」

 進む道がちがえば……さっきみたいになってしまうかもしれない。それは避けたい。

「リール、本当に私が決めちゃっていいの?」

「うん、いいよ」

「わかった」




 私が選んだ道を進むとそこには――――


 13.努力した雨/選択した雨 END

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