12.変化した雨
――――血が。
――――血が流れる。ドクン……ドクン……ドクンドクンドクンドクン。流れが激しくなる。
熱い……。寒い……。熱い……。寒い……。
肌が傷つき、流血する。涙のように垂れる。
流れすぎて……流れすぎて……そいつは死ぬ。
――――魔法よ。
――――優しくそいつを包み。
――――そして。
――――死ね。
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脆かった絆。
酷い。酷いよ。
怖い、怖い……よ。
――――仲間割れして……友達が死んだ。死ん……だ。
――――死ん……だ? いや。
――――殺したんだ。
……なんでこんなことになっちゃったんだろう。どうして。なぜ。
私はただ――――みんなといっしょに遊んでいたかっただけなのに――――
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――――走る。何処へ行くか定めず、ただ闇雲に走る。
……寒い。また寒くなってきた。からだがとても冷えている。
寒くて、からだが小刻みに震える。寒さで痛みも感じてくる。
……重い。トーカを抱えているからか、とても重い。
重すぎて、手が、腕が、疲れてきた。重さで痛みも感じてくる。
捕まったら殺される可能性もあるからか、幾許かの……いや、尋常ではない緊張感がからだを絞め殺しにかかってくる。
それは、ドキン、ドキン、ズキン、ズキン……といった、激しい痛みを同時に感じる。寒さと重さと緊張感の痛みが合わさりあって、「死んでしまうかもしれない」と思うほど痛い。痛みはまったく鎮まってくれそうにない。
「――――ううっ!」
疲れからか、腕が離れ、抱えていたトーカを落としてしまったのと同時に、私は勢いよく地面に倒れ込んでしまった。
動かなきゃ。動かなきゃ。
……そうは思うが、からだが自由に動かない。余力を振り絞って立とうとするが、手足がピクピクと微かに動く程度で、立てそうにない。
「……あ……あ」
この世界に人気なんてまったく感じないのに……声を出して助けを呼ぼうとする。疲れからなのか、まったく声が出ない。
もう一度「……あ……あ」と、微力ながらも声を出す。
……思考も鈍ってきているみたいだ。
――――『自殺行為』を私は繰り返す。
「――――ああ、そういうことか」
――――トーカ!?
気絶していた、トーカが目を覚ます。
「――――死にたい。……死んじゃおう」
そう言って、地面に頭を強く打ちつける。
ダメだよ!!!!!
ダメだ、ダメだ、ダメ!!!!!
そう言いたいのに、思うように声が出ない、からだが動かない! 止めなきゃ、止めなきゃ!!!
「……あ……あッ!」
ダメだ、ダメなんだよ! つらいからって死に逃げ込もうとするのはダメなんだよ!!! 逃げてばかりでこれは解決しない。逃げて、放棄して……死ぬのなんか、絶対ダメだ!
自殺なんかしたら、私達と会ったこと、私達の思い出、トーカの生き様……全部否定しているようなものじゃないか!!!!!
これから数十年と生きて、大切な思い出をさらにつくって、嬉しいこと、幸せなこと、大好きなこと、いろいろなものをたくさんたくさんつくるはずなのに、それを放棄して自殺するなんて……そんな寂しくて悲しいこと、言わないでよ!!!!! しないでよ!!!!!
「……あ……あッ!」
――――絶対助けてやる。
「……あ……ああッ!!」
――――絶対止めてやる。
「……あ……ああッ……ああッ!!!」
――――絶望の淵に沈んだ貴方を絶対、絶対助ける。
「……あ……ああッ……ああッああッ!!!!」
――――寂しい? つらい? 悲しい? 死にたい? 全部全部……私が、貴方の悲しいこと、つらいこと、寂しいこと、受け止めてあげる。
「……あ……ああッ……ああッああッああッああッああッ!!!!!」
余力以上の力を振り絞り、動く。動く。動け、動け、動け、動け動け動け動け動け動け。
「――――ダメ!!!!!」
声が空間中に鳴り響く。
正気に戻ったのか、打ちつけるのをやめて私の方を向く。
「ダメだよ!!!!!」
私は振り絞って、振り絞って、これでもかと振り絞って声を出す。
「……リー……ル。……う……ん。……そう……だね。そう……だよね」
涙をポロポロと流しながら言う。
……よかった、正気に戻ったみたいだ。
……よかった。
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――――池……か? 池の水はとても澄んでいる。
こっちはやけに暑いな……。見た感じ魚はいないみたいだ。暑いし、浸かってみるか。
――――チャプン。
「――――はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
目を瞑って、開けると、そこにはよく知っている白黒の世界が現れた。
「うわわわわわわわ! どうなってんだ、こりゃあ!!!」
くそ、どういうことだ! 誰かが弄ったのか!?
ドスン、と着地する。
……こんな高さ、ただの人間だったら死んでるぞ。なんで、あんな位置に境界が。
――――これをやったのは誰だ?
……アイツか? ……いや、そんなはずはないと思う。確証はないが。
さて、アイツは何処に行った?
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――――おかしい、おかしいぞ。
湖って、こんなに白かったか!?
「――――おい、オズ! 大変だ!!!」
いつも鍵を開けっ放しにしていたからか、ジャスがガチャンと勢いよく玄関の扉を開ける。
「……なんだ、ジャス。湖の色のことか?」
「……湖の色? なんのことだ? そうじゃない、お前、魔術ロボットのことが村に知れ渡っちまったんだよ!」
「――――ジャス、お前が……言いふらしたのか?」
「なわけあるか!!! ワタシには出所が何処なのかまったくわからねえ」
「……そうか。……まさかとは思うが、アメ、村に……?」
「……お父様、一度たりとも行ってませんよ」
「なら、どうしてだかわからんな……」
今のやり取りでなんとなくわかったが……オズ
、お前は放任主義なのか……。
「……どうすんだ、オズ」
「どうもこうもしない。なんとかなるさ」
「なんとかって……何かあったらどうすんだよ!」
「……それより、湖がなんか白いんだけど、ジャスは何でだか知らない?」
「……さあ? 知らねえよ。……でも、確かに変だな」
「だろ?」
――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
――――地響きが起こる。
「「な、なんだ!!!!?」」
――――グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ。
「――――早く、こっちに」
蹲りながら、テーブルの下に避難する。
地震についての知識も災害時の身の守り方の知識もまったくない俺には、こういったことしか思い浮かばなかった。
――――しばらくすると、揺れは収まった。
「揺れが収まったみたいだな……」
「なんだったんだ、さっきの揺れは。本当に地震……なのか?」
「やっぱり、地震じゃねえよな……。書物で読んだことあるが、ここらあたりじゃあ、地震なんて起きないらしいぞ」
「……だよな、やっぱり」
じゃあ、何故あんなに激しく揺れたのか……。
もしや、この娘の仕業なのではないか。一瞬そんなことを思ってしまったが、オズの家を訪れるうちに、この娘は優しいってわかってしまった。だから、この娘がそんなことをするようには……見えない。
「――――おい、ジャス! 外を見てみろよ!!!」
――――窓の外を見てみると、さっきまで、燦々とした日差しを浴びていた木々や草花、岩や石、空だったりの色がすべて――――白と黒に。
いったい、この世界はどうなっちまってるというんだ!? 俺達は夢でも見ているのか!?
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「――――リール、どうしよう」
「……」
近くにあったボロボロの謎の建物に入って、私達はどうすれば元の世界に戻れるのか考えていた。トーカのお母さんの、あの魔法みたいな何かであれば、元の世界に戻れるのだろうが……。
知っていなさそうだけど、念のためトーカに聞いてみるか。
「トーカ、どうすれば戻れるか、知ってたりする?」
「戻れるか……って、元の世界にってこと?」
「うん」
うーんうーんと悩んでいる。……左手を強く握りしめ、それを右手で包むというトーカの癖が出ていた。
「――――そういえば、アメさんが『時計台の時計が止まっちゃったから、現実の世界との時間がズレて、戻れないのかもしれない』って言っていたような気がする」
「――――やっぱり」
「……やっぱり?」
「いや、なんでもないよ」
そうか、時計台か。この近くの時計台は何処なんだろう。
この世界は意外に狭い。……いや、見た目通り、寂しい世界だから何もない……だから意外でもないか。
で、まあ、それで……そこまで時計台に行くのに時間は掛からないと思う。
「ところで、時計台ってどれくらいあるんだろう?」
「15って言ってたよ」
訂正、結構時間が掛かると思う。
「しばらくは……ここで休憩して、近くの時計台に行こうか」
「そうだね……あれ、アミュは……アミュを何処に……何処にやったの!!!!?」
あ……。ゴメン、トーカ……。ゴメン、ゴメン。私は心中で謝る。
「アミュは……アミュの亡骸は……置いてきた……」
怒るだろうか。怒られても仕方がないかもしれない。
「……そうなんだ。……でも、どっちも抱えるのは無理……だもんね。仕方……ないよ」
トーカは怒ったりはせず、悲しそうな顔をしながら、「仕方ない」と言った。
「ゴメン、ゴメン、ゴメン……!」
私は再び謝った。アミュに。トーカに。
「……謝らなくていいよ。大丈夫、私も、きっと、アミュも、リールのことをちゃんとわかってる。だから、顔を上げて?」
――――私はとても良い友達を持ったと思った。
――――たとえ、貴方が苦しくてつらくてこわくて……死にそうになったとしても、私は何度でも助ける。絶対。
――――私は貴方を忘れない。貴方の温もり、優しさ、言葉、行動。そのすべてを忘れない。
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本当に? 本当に忘れないのぉ~かなぁ~?
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――――悪魔が囁く。とても不快な声で囁く。
――――私は……例え、私がバラバラの肉塊となり、死んでしまったとしても……貴方を忘れない……。絶対に、絶対に……。
――――この謎の世界で……優しい雨が……降る。
12.変化した雨 END




