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11.開始した雨

 



 ――――ここは……?

 白い謎の壁、白い謎の天井、白い謎の建物。そこを出ると上には一面、青い空と白い雲。下には風でそよそよと動く草、そして大地。


 ――――夢……を見ているのかな。


 ――――いいや、ちがう。これは夢じゃない。

 ……ああ、そうか。




 ――――私は死んでしまったんだ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




『11.開始した雨』




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――トーカ、リール。あいつらは無事だろうか。

 ……無事でありますように。


 私は、ただ……願った。元通りのあの日常。

 私は――――あの日常が大好きだった。

 いつも、ティビィが何かやらかすんだ。そして、私達はそれに巻き込まれる。




 ――――でも、今となっては……それが一番恋しい。




 ――――やり直せたら。やり直せたら、私達の関係を変えることができるだろうか。


 ――――無理だ。何をやり直せばいい。何を変えればいい。




 ――――ポロ、ポロ。

 この世界も崩れていく。ポロ、ポロ、ポロポロ、ポロポロ。パズルのピースがポロポロ、ポロポロと落ちていくように……。

 記憶もゆっくりとあたたかに溶けていく。サラ、サラ、サラサラ、サラサラ。浜辺の砂がサラサラ、サラサラと吹いていくように。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――グラグラグラ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――暑い。暑い暑い暑い暑い!

 暇だ。暇だ暇だ暇だ暇だ!

 暇だから。暇だから、今日もみんなであの森に行こう。小さい頃から私達の遊び場だった、あの森に。

 そう思った私は、ティビィ、リール、ヴィネ、アミュ、シピス。友達である5人にメールを送る。


『いつもの、あの場所で遊ぼう。今から。持ち物はなんか適当に』


 ――――チリーン、チリーンと鐘は鳴る。


 ――――ミーン、ミーンとセミは鳴く。

 7月下旬のとてもとても暑い夏真っ盛りの日――――




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――グラグラグラ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――どうして。

 謎の色をして禍々しいオーラを放ち、かなりの大きさはある何かがそこにはあった。

 これは……書物で見たことがある。これは……こっちの世界とあっちの世界との繋ぎ目だと思う。

 どうして、こんなものが。いったい、誰がこんなものを。塞がなきゃ。

 それについて詳しく書いてある書物を無人の図書館から取ってくる。それを読みながら、塞ぐのは初めてではあるが、魔法を使って繋ぎ目を塞ごうとする。

 ……いや、やめておこう。

 ……。涙の滴が落ちる。




 ――――涙が……止まらない。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――グラグラグラ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――今日もミーンミーンとセミが鳴く。暑い。そして暇だ。

 暇だから森に行こう。

 小さい頃から私達の遊び場だった、あの森に。


 早速、友達にメールを送った。

 どうやら、みんな予定がないらしい。

「じゃあ、みんなで森に行こう。今すぐ。持ち物はなんか適当に」私はメールを送り、仕度をする。

 小さめのリュックの中に飲み物やお菓子などを詰める。

 そのリュックを背負う。見た目よりも幾分か重く感じられる。

 玄関前まで移動して、動きやすい運動靴を履く。


「――――おばあちゃん、行ってきます」

 私はそう言って玄関の扉を開け、家を出る。外もやっぱり暑い。




 ――――ミーン、ミーンといったミンミンゼミの鳴き声がそこら中に響き渡っているような気がした。




 トコトコと歩く。

 暑いから、途中で立ち止まり、飲み物を飲む。ついでにタオルで汗を拭く。

 陰がある道の端に避ける。涼しい……。少し休憩して、また歩を進める。

 歩いていると道中に奇抜な建物があった。それは、ボロボロで古びた感じ……だけど、赤や青、黄、緑、紫、橙を基調とした鮮やかな色の建物。

 さらに歩いていると、この辺りでは、珍しい謎の花がたくさん咲いていた。白黒でとても……禍々しい……謎の花。




 ――――こわい。でも……美しい。




 歩いていたら……森に着いた。遊び場まではもうすぐだ。

 ……遊び場に近づくと、既に人がいた。きっと、ティビィ達だ。

 手を振りながら「おーい!」と言って、近づく。


「言い出しっぺが遅いじゃんか~」と、ティビィはニヤニヤと笑いながら言う。休憩しすぎたかな。

「トーカ、私達が早すぎて驚いたぁ?」と、リールはクスリと笑いながら言う。

「全速力で走らせるのはやめてほしいわ」と、ヴィネは呆れた口調で言う。なるほど、だから早かったのか。

「まあまあ、いいじゃないか」と、アミュは困った感じで言う。

「ティビィ、大好きヨ……!」

 シピス……。

 と、いうか。そう。みんなとすれ違わなかったような気がする。不思議には思わなかったが、聞かなかった。


 ――――なかよし6人組。

 ときには喧嘩もした。でも、私達はなかよしだから。

 なかよしだから――――すぐに仲直りした。


「お菓子持ってきたからみんなで食べよ――――」




 ――――グラグラグラ、グラグラグラ、グラグラグラ。グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ。




 ――――こわい、こわい!


「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」


 謎の空間に少しずつ飲み込まれていく。

 力を振り絞ってどうにか抜け出そうと試みるが、まったく効果がない。むしろ、余計に飲み込まれていると言ってもいいくらいだ。

 徐々に私達は声を発することもできなくなり、私達はその空間に飲み込まれた。




 ――――目を覚ますと、眼前には白くてパズルのような大きな部屋……というよりも、空間が広がっていた。


「この辺になんかボタン的なものとかないのかな」と、アミュは言う。アミュの表情が曇ってみえる。


「……」

 ティビィの様子が……様子が……おかしい。


「ぁ……」

 リールの目は……暗い暗い底のような……目をしていた。


「この先に道が……あるっぽいわね……」

 ヴィネは何故だか平常運転だ。


「その道が……罠って可能性も考えなさいよ」

 シピスは冷静だった。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――私はリールの手を取り、ヴィネが見つけた道を進む。

 ヴィネが……先頭。次にアミュ、その次に……シピスとティビィ。一番後ろが私とリール。




 ――――何か音が聞こえる。

 力強くて重い感じの不気味な音。

 後ろを振り返るが別に何か変化があったわけではない。

 怖いから、私はとても慎重に歩を進める。


 ――――グサリッ、という音とともに、顔に何かが付着する。

「……あ、あ……うわぁぁぁ! 腕が!! 腕から血が!!!」

 ヴィネの右腕を見ると、ポタポタと血が垂れている。

 右手で顔を触る。そして、触った手を見ると……紅い……紅い血が付着していた。

「止まらない……止まらない! 痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


 …………………………。


「……大丈夫……大丈夫……だよ」

 私は止血しようとする。

「ヴィネ、大丈夫か!!!」

 ティビィの叫びが、この謎の空間中に響く。

「ヴィネ……大丈夫……?」

「ダメ……リール……とてつもなく痛い!!!」




「――――ねえ……やめなよそういうの――――聞いててイライラする」




 ――――やめなよ、そういうの。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――おい、ティビィ!!! やめろって!!!!!」

「うるさい、アミュ!!! 止めるんじゃねえ!!!!!」

 ティビィはリールを……殴ろうとする。それをアミュは止める。からだごとティビィにしがみつき、止める。


「――――くだらない。私は……もう、帰るよ。さよなら」

「……ヴィネ! ちょっと、待ってよ!」

「……トーカ、さよなら」

「ちょっと! ヴィネ!」

 なんで、なんでよ! なんでなの!

 ……なんで、どうして、なぜ!?

 原因はいったい何……。

「うっわぁ……だるぅ……かぁーえろ!」

「ちょ、ちょっと、シピス!」

 右腕を掴む。左手で掴むがそれを振り払われてしまう。

「……じゃあ……ね」


 ――――シピスを追いかけようとするが、それよりも何があったか聞かなきゃ。

 私はリールのもとに駆け寄る。

「――――リール! いったい何があったの!?」

「……」

 リールは答えなかった。

「アミュ、アミュは――――」


「私は……知らない」

 即答された。


「――――クッソ、クッソ!!!!! こいつは! こいつは!!!!! うがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「やめろ、ティビィ!」

 必死で止めようとする。

「やめて、ティビィ!」

 私も必死にティビィを抑えつける。強い。痛い。




 ――――大丈夫、大丈夫、なんとか……なる。




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ――――トーカと、アミュの亡骸を抱えて逃げることはできるだろうか?


 ――――無理だ。辛うじてトーカを抱えて逃げれるかもしれない。……でも、アミュの亡骸まで抱えて逃げるなんて……!

「……ゴメン、アミュ」




 ――――私は最低な人間だと思う。私は最低な人間だ。

 ……私は……私は、アミュの亡骸をその場に残し……逃げてしまった。本当に最低な人間だと思う。

 ……ゴメン、アミュ。私は何度もアミュに謝った。




 ――――私は……逃げたのだ。大切だった友達の亡骸を置き去りにし……逃げたのだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ――――ねえ、どうして私を置いていったの?

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ――――ちがう! 私は……私は置いていきたかったわけじゃ……。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ――――ねえ、どうして? どうして? 『君』は平気で裏切ったりするんだね。

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ――――消えろ……偽者。消えてくれよ……偽者!!!


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ――――あの娘を助けて……恩返しのつもりなんだ……。なんだ……偽善かぁー……。

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ――――黙れ。黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!


 黙れよ……。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ――――君は偽善者を嫌っていたみたいだけど、なんだ君も――――偽善者なんじゃないか。結局は……君も同類なんだよ。

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ――――ちがう。消えろ……消えてよ!!! お前みたいな悪霊……消えてしまえ!!!!!


 ……消えてしまえばいいのに。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ――――嫌だね。君が死ぬまで一生纏わりつづける。君が犯した罪を……罰で裁くのは……当然でしょう? だから、君の罰はこれ。


 ――――死ぬまで一生君を離さないよ?

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ――――嫌だ嫌だ!

 耳を手で塞いでも聞こえてくるこの不快な声。吐きそうだ。気持ち悪い。

 頭を地面に叩きつけても聞こえてくるこの忌々しい声。泣きそうだ。気持ち悪い。

 からだを黒い何かで傷つけても聞こえてくる不気味な声。死にそうだ。気持ち悪い。


 消えろ……消えてしまえ!!!!!




 ~~~~~~~~~~~~~~~




「――――トーカ、リール。……二人が無事でありますように」




 ~~~~~~~~~~~~~~~




 ……! 今の……声は……。




 不気味で忌々しくて不快な声は……その、優しい声でかき消され……。




 ――――ああ、ほんものだ。


 本当のアミュの声が……聞こえたような気がした――――


 11.開始した雨 END

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