第96話「お久しぶりです」
──鉱山都市カリオス。
「助けてください! 我々では手に負えない!」
看守の男が俺たちに泣きついてくる。
「ちょっ、落ち着いて! なにが起きたのか説明してくれ!」
俺の足にすがりついてくる看守の肩を掴み、優しく引き剥がす。
「そ、それが……鉱山で強制労働している囚人たちが一斉に暴れだしまして……」
……こえーよ。
「んっ? 今さっき“我々”って言いませんでした?」
俺は男に尋ねる。目の前には、看守らしき男が“一人”助けを求めている。少なくともあと一人足りない。
「か、看守は私とあと二人、中に……必死に抑え込もうとしたのですが、先輩が『助けを呼んでこい!』と……」
俺はリディアを見る。
「リディア……行こう」
「行くって……まさか看守を助けに?」
「当たり前だろ! このまま黙って見過ごせるか!」
「無理よ! アナタが行ってどうにかなるわけないじゃない! 危険よ!」
俺はリディアの制止を聞かず、看守の男に視線を送る。
「あなたは街に救援要請をお願いします。中は……俺たちが引き受けます」
「あ、あ、ありがとうございます……」
看守は立ち上がり、ふらつく足で街へ向かった。
「ユージ! アナタ本当になに考えてるのよ!」
「大丈夫。リディアだっているし、それに……」
俺はポケットから呼笛を取り出す。
──ピィィィィッ!
甲高い笛の音が、峡谷に響き渡る。
「……俺に助ける力は無いかもしれない。だけど、それは助けない理由にはならない」
「ユージ……」
「頼りになる仲間だっているしな!」
「……カッコいいけど……なんか違うのよねぇ」
「うるせぇ! いくぞ!」
「はいはい、まったく……しょうがないわね」
◆
──鉱山都市カリオス、収容者用鉱山。
煌々とはいかないものの、足元と前方を照らすランプが点々と壁に取り付けられている。
壁は採掘の跡なのか所々抉られており、通路は歪な形で伸びていた。
暴動が起きているとは思えないほど、物音は無い。
「……本当に囚人たちが暴れてるのか?」
俺はリディアの後ろに隠れながら、前方をチラチラと確認している。
「ちょっと! さっきまでの勢いはどうしたのよ!? なんでアタシが前なわけ!?」
「俺にはそんな力はないって言っただろ!? ちゃんと聞いてたのか!?」
「大っきい声出さないでよ!」
「お前もだろ!」
さすがにマズイと思い声を落とすも、相変わらず口喧嘩を続ける俺たち。
歪な通路を進んでいると、少し開けた空間が見えてきた。
「なぁ、囚人なんていないんじゃないか?」
「しっ! あそこにいる……」
そこには、ボロボロの布切れのような服を着た二十人ほどの囚人たちと、一人の看守が睨み合っていた。
囚人の一人が、両手の枷を繋ぐ鎖を看守の首にかけ、後ろから取り押さえている。人質を取っているのだろう。
「……ちょっとヤバい状況じゃね?」
「ちょっとじゃないでしょ……どうする? 魔法だと看守さんを巻き込んじゃう」
どうしたもんか……人質を取られてるとなると、下手なことできないぞ……んっ? あの後ろにいるやつ、どっかで見たような……
「おい! その手を離して人質を解放しろ!」
バチバチと電気が走る警棒のような武器を握った看守が、口を開いた。
「放してほしかったら道をあけろ! 無事に逃げおおせたら、返してやるよ」
「くっ! そんな事してもすぐに捕まって罪が重くなるだけだぞ!」
両者譲らない睨み合いが続く中、囚人たちの後ろから一人の男が出てきた。
「どうせすぐに捕まると言うなら、逃がしてくれてもいいじゃないか。それともなにか? 正義のために死ぬか?」
ものすごい見覚えのある男だ……あれは……
「な、なんでここにシルホーク家の貴族が?」
リディアも気付いたみたいだ。あの後、鉱山での強制労働送りになっていたのか……
パリパリだった貴族の服が囚人服に変わり、ずいぶんみすぼらしくなったが、あの嫌味ったらしい笑い方はそのまんまだな。
「おい、お前らコイツを捕まえろ!」
「で、ですがアニキ……コイツ武器持ってますぜ?」
「大丈夫だ……手を出せば人質が死ぬことになる。そんなバカな真似はしない……そうだろう?」
「ぐっ……! 卑怯だぞ……!」
囚人たちに囲まれた看守は、じりじりと追い詰められていく。
「くそっ! リディア! 行くぞ!」
「えっ!? ちょっとユージ!?」
俺はスッと立ち上がり、物陰から姿を現した。
「そこまでだ!」
囚人たちの視線が俺に集まると、現場に緊張が走る。
「あーもう! 無計画で突っ込まないでよ!」
遅れて、リディアも俺の横に立った。
「今、応援もこっちに向かってる! 悪いことは言わない。諦めるんだ! 全員投降しろ!」
一瞬ざわつく囚人たちだったが、シルホーク家の元貴族が一歩前に出ると、全員が黙った。
「おやおや、誰かと思えば英雄様じゃないか。ハートクラン家のお嬢さんも一緒ですか……」
ニヤニヤと憎たらしい笑顔だった元貴族の顔から徐々に笑みが消える。
「……お前たちさえいなければ……今ごろ……!」
「自業自得だろ! それにしても……落ちるとこまで落ちたな。これ以上罪を重ねるな!」
俺の言葉に、元貴族は拳を握りしめる。
「……俺は必ずもう一度這い上がる。おい、お前たち! シルホーク一家の旗揚げだ! コイツらを殺せ!」
「おう! ……ふっへっへっへ……!」
「まったく……人間相手じゃあ加減が難しいのに……!」
リディアが杖先に光を集める。
「おいおい、お嬢さん……人質の存在を忘れてないか? ん?」
元貴族は不気味に微笑む。人質の首にかけられた鎖が、さらに締め上げられていく。
「うっ……ぐっ……! た、たすけ……て……」
ヤバい! ノープランすぎた……!
次話へ続く




