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設定メモへと堕ちた何か  作者: ヌヌヌ木
第二章 友好の第一歩編
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26話 『前倒し決戦』

※兵士の数が多過ぎたので修正しました。申し訳ありません。

 10万→3万



 ーーー《三大魔王獣》が一角、『死龍』の襲来。

 その一言は、場を混乱させるのには十分過ぎた。



 死龍の襲来に混乱して自暴自棄になる大臣達をリダが一喝。彼女は大臣達に今自分達がすべきことを語りかけ、まだ抗いようがあることを示唆する。すると絶望感溢れていた大臣達の顔色が少しだけだが良くなっていくが、場の空気は重いままだ。



「ーー兵を集めよ。何人が動ける?」


「今すぐでは一万が限界かと……あと1日猶予があれば、累計三万を超える兵が集まると思われます!」


「ならば取り掛かれ!今すぐだ!!」



 ーー太平大国ルクサスへの、死龍襲来。これは人間史に残る、大きな戦になるだろう。

 それが例え、勝ちでも負けでも。



 ……さて、どうしたものか。

 ラインは思考を巡らせ、今自分達がどうするべきかを考え始める。正直、ここで魔石を売っぱらって逃げることも一瞬だけ考えたが、流石に非人道的すぎると思ったのでやめた。

 だけどルクサスに魔界の保護を断られた以上、ライン達がわざわざこの国に残って死龍に蹂躙される理由や恩は無いし、別にここで民間人として逃げてもリダは文句を言わないだろう。特にサクラはリーヴと手を組むことなどしたくないだろうし、今なら逃げてもーー。



「ーー戦いましょう。ラインさん」



 バタバタする大広間に、1人の女の声が響く。

 その声の方を向くと、そこには緑肌白髪赤瞳の女子ことミクスタ・ラーザが、ラインの黒瞳と目を合わせて言い放った。その目にはひと曇りの迷いも無く、固い決意が込められていた。


 いや、別にしてもいいのよ?だけどーー、



「……みんな。ルクサスに加担するということは、死龍との戦いで死ぬ可能性が高いということなんだよ?僕はもう今更だから別にいいんだけど、みんなはまだ色んな生き方を選択できる。それなら僕だけがーー」



 そう言うと、サクラがラインのおでこをデコピンしてきた。とんでもないダメージが頭に行ったが、脳震盪はギリギリ起こしていなさそうだったのでサクラのほうを見ると、彼女はその美形をラインの顔に近づけて耳打ちしてきた。



(「ライン君。ここで死龍の討伐に協力すればルクサスに貸しを作ることができる。正直あの化け物は私が本気で戦っても勝てるか怪しいけど、万が一に賭けてみるのも良いんじゃないかな?勝てば確実に魔界の安泰は保証してくれるだろう。……まあ、そうじゃなくても私が強硬手段に出るから安心してくれ」)



 とのこと。

 最後の一文だけは余計だが、確かにサクラやレン、ミクスタの意見にも十分聞き入れる理由はあるし、ラインとしてもそっちのほうが良いと思う。ゲイルだけはまだ何も言わなかったがすぐに決意を固めたようで、「私は既に貴方に自分の命を預けてます。何なりと使って下さい」と言ってくれた。

 彼は悩んでいたのではなく、この3日というタイムリミットで自分達が行える準備を整理していたようである。


 ーーーそうなれば、結論は一つ。



「ーーみんな。この国と僕の為に死ねる?」


「死にませんよ。生きて故郷に帰りましょう」


「人生初の彼女と付き合ってまだ2週間ぐらいしか経ってないのに死に別れしたかねぇよ。足掻いてやる」


「……行こうか」


「私はある程度これからすべきことをまとめたので、皆さんはそれに従って下さい。…では」



 よし。行くか。


 そう決意して、周りに指示を出しているロリ賢王ことリダの小さな肩を優しく叩く。周りの兵士がラインに槍やら剣やらを向けるも、それを最強ジジイことリーヴが嗜め、それを受けた騎士達は武器を仕舞う。


「なんじゃ、貴様らはこの国に巻き込まれることは無い。今すぐ馬を手配するから他国へと逃げろ」



 リダはそう言ってきた。こんな忙しい時まで人を気遣うのは流石賢王と言わざるを得ない。

 だがそれをラインは首を横に振ることで断り、その反応を訝しむリダやリーヴに対して、決意と共に口を開く。



「……あの!僕達も戦う!というか戦わせて!!」



「何……?貴様ら正気か?我は貴様の申し出を蹴ったのだぞ。貴様らには我らに味方する恩は無いだろう」



 そう言われたので、小さく頷いて続きを話す。

 ……恩着せがましい、傲慢で強欲な要求を。



「いや、()()恩が無い。まあ腕を治してもらったことは個人的に恩なんだけど…。僕達が出せるのは、かつて人を脅かした『三大魔王獣』の一角を堕としたという栄誉と、魔王獣を倒す為のここ5人の戦力だけ。正直、死龍を倒すにはこれだけじゃ足りないかも知れない。……だけど、絶対に役立って見せる」


「……400年安泰を守ってきたこの国の全てを賭けた戦いの目前で、かつて我が国を崩壊寸前にまで追いやった魔族が意見し、それを信頼しろと?」


「そう!とりあえず僕達が今、出して欲しいのはそれだよ!『信頼』が大事なんだろ?だったらこの戦いだけでもいいから、一度だけ僕達を信じてくれない?」



 そう言い切ると、剣呑な気配を纏っていたリダの小さな身体から力が抜けただけでなく、その幼い幼女の顔を「はぁ?」とでも言いたげな怪訝そうな顔に変え、ラインの黒瞳をまじまじと見つめる。

 彼女の赤瞳は疑問と詮索の二つをしており、しかしこちらが一つも嘘を言ってないことを見抜いた後は少し呆れているような瞳の色に変わった。そして小さくため息を吐き、ラインの首に再度光の輪を括り付ける。

 それを見たミクスタとレンは焦るが、ラインが手で下手な抵抗をしないようにして欲しいことを伝えると、すぐに手を引いた。サクラとゲイルは一切動かず、最初からラインのことを信じ切ってくれていたようだ。


 そしてリダは再度、ラインに問う。



「ーー魔王の息子、ライン・シクサルよ。貴様は見ず知らずのこの国に己の命を賭けるなどという戯言をのうのうとほざき、その上で我に協力してやると傲慢にも申したな?……それが何を意味するか、よく分かった上での発現だと。そう解釈するが、良いか?」


「うん。今だけはあなたに僕達の命を預ける。いや、僕達だけじゃない。この国の命運をアンタに託す。僕だって死にたくないからね」



 首を絞められる圧迫感に負けずに、言い切った。


 するとリダはラインの首に巻き付けていた光の輪を解き、黙り込む。ここまで建前もへったくれも無いギブ&テイクは珍しいだろう。テイクが不確定要素で、しかもギブがめちゃくちゃ分かりやすいからである。


 最悪、リダの逆鱗に触れる可能性もある。

 それを多少覚悟しながら、ラインは黙って待つ。



「ぷっ」



 ーーーぷ?何それ?



「ふはははっ!そうか、貴様は今の脅しに屈さず、傲慢にも我に対して言い切ったのか!いいだろう。貴様らの命、このリダ・サーヴィアが預かろう!!」



 その瞬間、リダが爆笑し始めた。

 彼女はそのロリボディに似合わぬ、豪胆なおっさんみたいな笑い方で高らかに笑い、彼女が笑った顔を見たことがなかったライン達は驚愕する。

 ……と思っていたのだが、よく見ると周りの大臣達も驚いた顔をしており、彼らもリダの笑い顔を見たことが無かったようだった。唯一長い付き合いであるリーヴですら、かなり意外そうな顔をしていた。



「そんなに!?めっちゃキャラ変わってない!?」


「ふはっ。いや、貴様のその理屈抜きの豪胆な言い分が珍しくての。貴様はどうやら勇気のない弱者でもなく蛮勇で見栄を張る愚か者でもなく、真の勇気を持った者らしい。爺がよく言っておることだが、あながち的外れな意味ではないようだな」


「あ、ああ、そう……良かったね?」



 非常に愉快そうなリダを遠回しに嗜めると、リダはその破顔した表情を一瞬でキュッと引き戻した。表情がコロコロ変わってついていけない。


 するとリダは動いていた騎士達を呼び止め、周りの大臣達を静かにさせるよう命令しに行かせた。

 騎士達が大臣達を静かにさせると、自身達を取り囲むようになっている椅子に着席している大臣達に向かって、その幼女声に覇気を込めながら言い放った。



「貴様ら。掌を返すような真似をすることは承知の上だが、我はこの者を信用してみようと思っている。裏切るような真似はさせぬが、そもそもこの者はその気は無いらしい。だから貴様らも信じてくれないか」



 リダがライン達との協力を発表した際、特に目立った反論をする者はいなかった。幾つか少量の不満点はあるかもしれないが、それを考慮しても死龍からルクサスを守れるのなら、という考えの者が多かった。


 ある1人以外は。

 やはりというべきか、もちろんギルリヌだ。



「ーーは?いや、待って下さいリダ様!世界の敵として聖教会や天使様達から敵意を向けられている魔族如きに貴女様とあろう者が魔族に屈するのですか!?」


「……やっぱり貴様かギルリヌ。貴様は考え方が極端過ぎるのだ。ゼロか百、どちらかでしか物を考えられない者はいつか己を死に追いやるぞ?冷静になれ」


「そんな!?魔族と手を組むなど、そもそも諸外国が認めるかどうか分からない賭けに乗るなど貴女様らしくない愚行!私は貴女様とこの国を思って……」


「ーーもうよい。退がれ」



 リダと総大臣はレスバを繰り広げていたが、明らかに分が悪くなった総大臣は先程発したことと大体同じような内容ばかりを繰り返し、感情論でリダを説得しようとしている。

 しかし低俗な感情論如きで高麗な考えを有するリダを説得することはできず、それを何度も繰り返しすぎた為か、遂には退出を言い渡された。


 呆然とする総大臣に対し、リダは冷たく、しかし的確な意見と理由を言い渡す。



「ーー貴様、我と爺が来る前にこの者……ライン・シクサルに対して傲慢不遜な態度を取ったらしいな?」


「な、何故それを?……まさかジャンヌ、貴様!?」


「此度は被害は無かったが、もしラインが去っていれば先程の兵は助からなかったであろう。それに、あの者を治せた此奴なら、確実に役に立つ。利用するという面では貴様の意見も決して的外れではない」


「だったらーー」


「貴様は形に拘り過ぎる余り、現状が見えておらんのだ。遺憾だが、我々の力だけではあの怪物に勝てるか怪しい。あの怪物は、まさに《疫災》なのだからな」


「ーーふざけるな」


 

 的確に屁理屈を潰されていく総大臣ことギルリヌは、なんだかんだリダの正論を紛らわしていたが、その紛らわし方はこれまた屁理屈という、なんともみっともなく見苦しいやり方である。

 そして遂に完全論破されたギルリヌは憤り、唐突に逆ギレして机を台パンしてきた。

 どうやら彼は反論できなかったり自分の思い通りにならなかった場合は逆ギレしてくるらしく、ライン達からしたら2度目の台パンを自国の国王であるリダにまでやらかしたのだ。

 流石に酷すぎる蛮行を見た他の大臣達の反応は様々であり、ため息を吐いて呆れる者、控えめながらもギルリヌを止めようとしている者、無言だがギルリヌの行動を支援しているらしき者など色々いた。


 そんな周りが見えていないギルリヌはその小太りのおっさんボディをわなわなと震わせ、リダの下へと詰め寄って胸ぐらを掴まんと言わんばかりに大声で怒鳴り散らして威嚇する。



「……俺はな!国民のことなど知ったこっちゃ無い!何が死龍の迎撃だ、ふざけるな!あんな化け物を正面から相手するような愚王だったとは、見損なった!!」


「ーーー」


「これはお前のような小娘にこの国を任せようとした俺達、ひいてはコイツを推薦したリーヴの過失!ゆえにこの俺、トーフイ・ギルリヌは、今この場で宣言する!」



 ギルリヌはリダが一切の反論をしないことを良いことに調子に乗り、唾を吐き散らしながら理屈も何もない文句ばかりを垂れ流す。

 そして愚の骨頂を極めたギルリヌは遂にこの大広間にいる大臣達を仕切ろうと動き出し始めた。相変わらず唾を飛ばしながらその黄色い歯を剥き出しにし、ライン達のほうを指差して大声で叫ぶ。



「このデタラメと虚言塗れの下等な魔族に屈さぬ強い心を持つ者は、どうか俺に着いてきて欲しい!既にリダ王は魔族に屈する売女と化した!そのような愚王に殉職したくない者は、俺に着いてこい!」



 ーーーそう、身勝手にも言い放った。

 オイオイオイ、死んだわアイツ。


 30人の大臣達のうち数人は、ギルリヌの戯言に共感したのか、はたまた保身の為かは知らないが、ギルリヌに着いていこうとしているらしい。

 だがどう考えてもコレは、リダによる戦う気の無い愚か者の選別である。その思惑に気づかない愚かなギルリヌを始めとした大臣数人は、これから厳しい処罰が待っているだろう。



「……言いたいことは言えたか?愚物共」



 と、案の定リダが冷酷な声で威圧し返した。

 もはや親と子レベルで歳が離れているのだが、年齢では測れないその気迫に気圧されたギルリヌ達は怯むものの、何とか平常心をヘタクソに装って反論する。

 だが全てリダにより聞き流され、彼女はライン達の方向を向いて口パクで何らかを伝えた。それはラインには分からなかったが、ゲイルとサクラだけは聞き取れたようで、ゲイルはラインに前に出る許可を求めてきたので頷いて許可すると、彼は一礼した後に一歩歩み出て、周りの大臣達に読み聞かせるように話し始めた。

 うるさかったギルリヌ達もリダの光の輪により首を絞められ、強制的に黙らされる。



「ーーでは、此度の計画を私、ゲイル・レーランから提案させて頂きます。今回の目的は、ルクサスの防衛と『死龍』の討伐が主となりますが、死龍がルクサスに襲来するまでの猶予は約3日。何より戦いの前に貴重な足となる馬を避難に割くのは大変危険であり不利となります」



 ゲイルはまず、大臣達に現状を確認し、彼らが聞きながら頷いているのを確認した後、また口を開く。



「そこで私から提案したいのは、防衛戦をするのではなく、こちらから死龍に攻め込みに行くことです。要は、死龍の『討伐』を主にするということです。そうですね…『前倒し決戦』とでも言いましょうか」


「……ほう。『前倒し決戦』とな?」


「そ、それはどのような作戦なのですかな?それをすれば、我々は…いや、この国は助かるのですか!?」


「ぬほほ。まあ待て、最後まで聞こうではないか」



 ゲイルの提案、『前倒し決戦』の案に皆は興味津々の様子で食いついている。ギルリヌが鼻で笑っているものの、彼を支持しようとしている者達ですら聞き入っているのだから無駄な足掻きであろう。

 少しだけ大広間がざわつくも、リーヴが皆を嗜めたことにより静かになり、ゲイルは口を開いて話し出す。



「では先ず、皆さんに用意して頂きたいものが幾つかありますので、ここで挙げていきます。先ずは兵と足となる馬。死龍との決戦は()()()では行わないので、どうしても足となる馬が必要不可欠となります。しかし物資の移動は私が転送魔法で容易に可能ですので、そちらの心配はありません」


「おお!移動に関しては心配要らないと。そういう認識でいいのか?」


「はい、それで構いません。しかし余程の激戦になった場合、私の魔力が足りなくなる可能性も考えられますので、何名かは転送魔法を使える魔導士の皆さんも来てもらっても宜しいでしょうか?」


「リダ様!此度は提案を呑みましょう!」


「言われずともだ。魔導部隊の派遣させ、転送魔法の負荷を減らす為にも先導させろ。前倒しとなるならば2日後に死龍が来ると推察される場所がいいだろう」


「大変助かります。そして、2日後に死龍が襲来する場所もある程度推察しており、恐らくナーミミ村とルクサス本土にある『ナーミミ湖畔地帯』が舞台となるでしょう。足場の悪い場所なので、死龍の毒魔法の対策としても今回は火属性魔法と光属性魔法を中心に使用することになりますね」


「そこまで予測しておられたのか貴殿は…」


「いや、だがこれならばいけるかも知れぬぞ!」


「物資は任せろ!その代わり戦闘と運搬は頼むぞ!」



 どうやら話は綺麗にまとまりそうだ。

 にしてもゲイル、教職をしているだけあって人に説明するのが上手すぎる。ラインからしたら色々分からないことはあったが、「死龍を倒すのは、3日後にルクサスでではなく、2日後に『ナーミミ湖畔地帯』という場所で行う」ことは分かった。

 これだけ把握できていれば大丈夫だろう。



「ーーバカ共が」



 だが唯一異論を唱える馬鹿野郎がまだ残っていた。総大臣ことギルリヌだ。

 彼に媚びる愚かな数人の大臣達は未だにオドオドしており、リダの下に戻ろうか今更迷っているようだった。だがリダは先程、既に大臣達の選別を完了しているだろうし、身勝手に逃げ出そうとしたギルリヌ含めた彼らに未来は無いだろう。



「それを信じる根拠はあるか!?ただでさえ人の性の捌け口に使われる精霊人(エルフ)風情が、その古くさい知識と常識で人のことを理解したつもりか?亜人が世間で肩身が狭いのは承知の上だろう?なぜ貴様はそれを弁えて話すことができないのだ!?」


「私は120歳ですよ。そこまで歳は取っていません」


「なら尚更だ!俺と70年程しか違わない若僧が偉そうな口を聞くんじゃ無い!転送魔法を使えるならば丁度いい、まずは俺達をサンセーラ辺りにでも送れ!!これは総大臣としての絶対命令だ!!」



 ……もう黙ってくれないかな、このデブこどおじ。マジでうるさい。せっかく話が綺麗にまとまりかけたのにその流れを見事にぶった斬ってくれたよ本当に。



「………黙れ。『支配者(ルーラー)』」



 ーーと、そんなギルリヌにキレたのはまさかのリダであり、彼女は自らの特権で作り出したその光の輪でギルリヌの贅肉がどっぷりと蓄えられた太い首を絞めあげ、それによりギルリヌの肥えた体が空中に持ち上げられる。己の太い足をバタつかせて抵抗するギルリヌだが、既に地面を離れているので全くの無意味だ。

 しかしギルリヌの真っ赤な顔が少しずつ青ざめていき、それに連れて暴れるのも弱くなっていく。


 …待て、これ以上したら死なんかコイツ?

 それは不味い。それに、自分達やリダ達がすべきことはこんなしょうもない事じゃないはずだ。


 そう思って、冷酷な赤瞳をギルリヌに向けているリダの肩を叩き、「今はやめとこう。それに、今回の戦いで勝てれば後でどれだけでも処罰を考えられるさ」とアドバイスし、リダを少し嗜めた。



「……すまない。部下共に冷静さを求めた第一人者がこの有様だ。どうやら我も冷静さを欠いていたようだ。貴様らにも謝らせてくれ。申し訳ない」



 リダは静かに己の白金赤色(プラチナレッド)の長ロールした髪が鮮やかに生える頭を下げて謝罪した。ギルリヌ以外の大臣達はすぐさまリダを許し、深々と頭を下げているリダの頭を上げさせる。

 そして頭を上げたリダは、未だに地面に這い蹲り激しく咳き込んでいるギルリヌに歩み寄り、今度は冷静に適切な判決を下した。



「ーーギルリヌ。そして此奴に(くみ)した者よ。貴様らは此度の戦いには連れて行かぬ。貴様らはこの国に残り、我々が敗北した場合の万が一に備えて国民の避難準備を整えておけ」


「……偉そうに言いやがって、愚王風情が」


「此度は我も度が過ぎた、申し訳ない。だが貴様もライン・シクサルを始めとしたこの空間に居る者の気分と空気を悪くしたことは肝に銘じておけ。…去れ」



 リダがそう言うと、ギルリヌは悪態を吐きながら、フラフラとした足取りで去っていき、それに釣られてギルリヌに付くことを決めた数人の大臣もリダとリーヴに目線で去るように促され、去って行った。

 それにより今度こそ邪魔者がいなくなった大広間にはゲイルの提案に反対派の者は誰一人としていない。



「ーー貴様ら!!各々死ぬ気で取り掛かれ!!」


「「「はっ!!!!」」」


「猶予は2日だ!!…まさか出来ぬ者は居るのか?」


「「「いえ、十分でございます!!」」」


「ならば今すぐ始めるぞ!!決戦の刻は近い!!」



 そうリダが場を盛り上げると、大臣達も釣られてテンションが高くなっていく。そんなこと言ってるラインもテンションが高くなっているのではあるのだが。

 そして最後の一声をかけると、大臣達は一気に動き始め、人が忙しなく往来し始めた。



「…では、私達も行きましょうか。ラインさん」



 ゲイルがそう声をかけてきたので、頷いて返事を返した後、サクラやレンミクなどと合流して準備を始める。あとこの時、ジャンヌに手錠を外してもらった。重くて腕が死にそうだったのでとても助かった。


 ーーさて、僕達も何かやれることは無いだろうか。



                 ▽▲▽▲▽▲▽▲



「…ダメだ…ライン・シクサルを追放できなかった…だが死龍との戦いで死ねばそれで御の字だ!!」


「俺は……クソッ!リダが死龍に勝てるとは到底思えなかったが、ライン・シクサルを加えたら分からん……万が一が発生でもしたら……俺は()()()に殺されてしまう……っ!!」




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