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設定メモへと堕ちた何か  作者: ヌヌヌ木
第一章 新芽と残火編
22/45

18.5話幕間 それぞれの戦い



「ーーうし、この辺でいいだろ」



 サテラに肉体を譲渡したラインとハルトが戦闘を始めた場所から数キロ離れた岩場地帯で、ジャージを着た黒髪黒瞳の青年ーーレンが呟きながら着陸する。

 するとレンの腕の中に抱かれている何者かがモゾモゾと動き始める。腕に抱き抱えるものなど、懐いている野良猫ぐらいだろうが、それは流暢に喋った。



「……あの、レンくん。降ろして下さい……」


「あ、やべ。すまんミク。あったかいから忘れてた」


「触りたいなら後で存分に触らせてあげますから、今は戦いにだけ集中しましょう。……最大限の警戒を」



 レンに顔を合わせる白髪赤瞳のその少女は、ゴブリンと人の混血魔族(ハーフ)、ミクスタ・ラーザ。彼女はライン一行の最古参メンバー……といってもそれぞれの差は1週間程度しか無いが、最古参である。

 あとレンの恋人(仮)でもあるが、それは別の話。


 彼女は想いを寄せるレンにお姫様抱っこの形で運ばれたことによってその緑の肌を真っ赤にし、しかしレンの胸板にツノの生えた額を押し付けている。

 そんな照れ隠しにレンは苦笑いし、足下に気を付けさせながら地面に着地させる。



「ーー鬼ごっこは終わりですか?やっとボクの力を振るえる機会が来たわけですね?全く、面倒なヤツらです」



 そんなアツアツのリア充2人に冷水のような冷たい声をかけるのは、巨大な海蛇の頭に乗るオレンジ髪の青年ーー勇者ハルトの一員、キョウヤ・スギモトだ。


 巨大海蛇(シーサーペント)はかつて[国家破壊級]に認定されていた魔物であり、古の戦士たちが奮戦した結果、滅ぼすことに成功した強さを誇る。

 その分厚く硬い青銀に輝く光を反射する鱗、口の中に無数に生える獲物の肉を引き裂く長い牙、陸でも活動可能な汎用性、表面装甲の頑強さ、獲物を捉えて離さない赤く光り輝く目。

 そんな圧倒的なスペックを持つ魔物が、現召喚獣である巨大海蛇(シーサーペント)であり、それはキョウヤを頭に乗せながらレンとミクスタを見比べて先にどちらを食そうかを迷っている様子である。



「ーー行くぜミク。先逝ったらすまん、許してくれ」


「今はまだ死にませんし、どうせ死ぬなら私はレンくんと一緒に死にます。本気で、勝ちにいきますよ」


「……ああ!アイツ諸共刺身にしてやろうぜ!!」



 2人はあまり多くは語らず、その手に短剣と拳銃を持ち、戦闘態勢へと移る。

 最強クラスの敵を相手に呑気に話している時間と余裕はないからであり、レンとミクスタからすれば自分達の生死を賭けた戦いとなるからである。


 2人の命は、2人だけしか守れない。生き残る為に。

 ーーラインと共に、生き延びる為に。



「仕方ありませんね。『召喚獣使役』!万物を喰らい尽くせ、『巨大海蛇(シーサーペント)』!!」



 それに応じたキョウヤが怪物から飛び降りた後に命令を叫びながら指パッチンすると、巨大海蛇はその巨体を大地に叩きつけながら、大きく咆哮する。

 その咆哮は大気をも震わせ、レンとミクスタの鼓膜に鳴り響き2人の鼓膜にかなりのダメージが入った。

 しかし2人はその威嚇に怯むことはなく、なおも巨大な敵へと立ち向かう勇気を見せている。


 そして咆哮を終えた海蛇は岩場に潜らず、大地を破壊しながらレンとミクスタを一口に食そうと迫り来る。

 圧倒的な質量による破壊攻撃。まともに喰らえば絶命は免れないが、いかんせんその動きは雑かつ隙だらけなので目視してからの回避は不可能ではない。



「分かれましょうレンくん!まとまると危険です!」


「うっし分かった!ミク、気をつけろよ!!」



 それは2人も重々承知であり、ミクスタはレンに分かれることを提案し、それを了承したレンが応じた瞬間から2人は二手に分かれ、2人は大きく跳躍し、海蛇の物量攻撃を間一髪で回避する。

 そのまま2人は高台へと逃げ、レンは海蛇の右側、ミクスタは左側を陣取る。


 突撃を躱わされた海蛇は体勢を大きく崩し、地面を抉りながら岩場に激突し、その衝撃で少し動きが止まるも直ぐにその重い頭を持ち上げながら、周りに陣取っているレンとミクスタを順に見比べていく。

 どちらがより美味か。

 それだけが、知性の無い魔物として死んだシーサーペントにとって大事なことである。



「先手必勝で行くぞ!『強攻撃』!!」



 迷いを見せている海蛇を見たレンがその状況を好機と捉え、短刀を手元で回しながら軽々と飛びかかる。

 あまりにも大きすぎる相手に対して突っ込むというあり得ない行為であるが、逆に捉えればシーサーペントも自身の巨大な体をまともに操れる訳ではない。


 ーーしかし、彼は[国家破壊級]を舐めていた。


 [国家破壊級]に認定されている生物はその文字通り『単騎又は対象の一族のみで大国を攻め滅ぼせる』ほどの力を秘めている存在である。

 《勇者》や《魔王》などは単騎で世界を滅ぼせる存在として[世界破壊級]に登録されている中、その一つ下の危険度に登録されているのが、『海の悪魔』の二つ名を持つ巨大海蛇(シーサーペント)である。



『ーーガギャァァァァァァァァ!!』


「おわっ!?そりゃそうだよな…『影分身』!」



 飛びかかるレンを察知したシーサーペントはその巨体を一気に動かしてレンを見つけようとし、その過程でシーサーペントの周りの岩場をその強靭な筋肉と剛強な鱗を持つ尾が払い砕く。

 飛来する石飛礫を回避する為に、ミクスタは跳躍して移動し、既に空中にいたレンは砕かれた石飛礫をすんでのところで体を捻り回避し、目の前の怪物への認識をすぐに訂正する。


 コイツは舐めたら死ぬ、と。


 そしてすぐに影分身を発動させると、案の定シーサーペントは分身に意識が取られて、一瞬で本物のレンを見失う。その隙に本体のレンは距離を取った。



「こっちも忘れてもらっては困ります!はあっ!」



 そんなシーサーペントに対して声をかけながら動き回るのはミクスタであり、ゴブリン族特有の素早さを活かしながら駆け回り手に握る拳銃を発砲する。

 しかし当たり前ながら強靭な鱗を持つシーサーペントには効果が薄く、大半が鱗によって跳弾し、運良く鱗の隙間に入った鉛玉も巨体を持つシーサーペントにとってはかすり傷でしかない。



「ーーですよね。ついに、コレの出番が来ましたか」



 そう言ってミクスタはまだ弾がある銃を背に持つバッグに放り込み、そして彼女はバッグを振り払うように投げ捨てた。そしてその中にあった黒色のケースと赤いケースを取り出し、何かを持って腕を引き抜く。


 その中からは銃口の長く、巨大な銃ーーライフルが姿を現した。

 明らかにバッグには入らない見た目をしているが、そこはミクスタの父が開発した武器の収納技術によって可能にしている。

 そのライフルはまだ少女のミクスタが使うには大きく、長い黒塗りの砲身を出し、黒光りする鉄の筒が顔を覗かせる。


 彼女はそのままライフル銃に赤のケースを開いて中にあった赤く光り輝く銃弾を取り出し、ライフルに込める。

 そしてミクスタは一言叫び、引き金に指をかける。



「離れてレンくん!撃つから!」


「うっしゃ、分かった!」


「逃がしませんよ!巨大海蛇(シーサーペント)!周りの奴らは偽物だ、1人だけ逃げたヤツを追いなさい!」



 その瞬間、大量のレンの中から1人だけ、後ろに退いていくレンがいた。この状況で退くのはどう考えても本体ーー本物のレンだけだろう。

 それを理解する脳はシーサーペントにはなかったが、先程から高みの見物を決め込んでいたキョウヤにはすぐ分かり、急いでシーサーペントに命令して1人のレンを追わせる。


(ーー逃がすか!シーサーペント、ヤツをぶっ殺せ!)


 それを止めようと分身の群れが立ち塞がるも、シーサーペントの巨体に弾き飛ばされたことにより壁として機能しなくなる。

 分身なので本体へのダメージは無いが、『シーサーペントの足止め』としては役に立たなかった。



(だがコレでいい!俺にとっちゃあ最適な状態だぜ!)



 だがそれこそか、レンの真の狙いだった。

 レンが逃げ回る過程でシーサーペントは周りにある岩場に激突しながら砕いていき、その際砕かれた石飛礫がレンに飛来し、レンはギリギリで回避していく。


(怖え恐え恐え恐え恐え恐え恐え恐えーー!だけど退けねえんだよ!ミクに誓ったんだ、死ぬまではお前だけを見るって!だから動け、逃げ回れ!)


 レンは怖くないわけではない。赤い目をギラギラ輝かせながら岩場を破壊しながらこちらに迫ってくるサカナ型の化け物を前にして、最初に浮かび上がったのは恐怖心である。

 だがその気持ちに何とかフタをして、虚勢を張りながらシーサーペントの攻撃を回避していく。


 だがそれももう終わる。コレで終わりだろう。



「ーーほい時間稼ぎ終了!ミク、ぶちかませ!」


「ーー堕ちろッ!!」



 瞬間、火薬が爆発した爆発音が岩場に響き渡る。そして空気を裂く鋭い音がミクスタ、レン、そしてキョウヤの


 しかしシーサーペントはその音に耳を貸すことなくレンをなおも狙い続け、岩場を破壊しながらレンを呑み込もうとその無数の牙が生える大口を開く。


 そしてその口をさらに押し、ついにレンを飲み込むまでに至ーーー、



        ※ ※ ※




「ーー【神】サマよ!俺のスキル『模倣(コピー)』さ、一回使い切りにしてくれ!その代わりとして、『俺がコピーしたスキルをさらに重複コピーできる』と『一回一回のスキルの火力や強化幅を目一杯底上げ』の二つを叶えたりできるか!?」


【ーーー『対価』として設定するならば可能です】


「分かった!頼んだ!!」


【ーー了承されました。召喚者名:カワノカミ・レンのスキル『模倣(コピー)』の効果が『スキルの無限使用』から『一度きり使い切り』へと変更されました。それを『対価』とし、スキルの効果として新たに『模倣したスキルをさらに重複模倣を可能にする』と『使い捨ての能力の効果を底上げ』を獲得しました】



        ※ ※ ※



「ーーシャアァオラァァ!!」



 レンは歓喜の声で咆哮し、早速解禁された『コピーのコピー』能力を利用してラインの『能力増強(エンハンスメント)』を複数コピーした。

 しかし負担が無いわけではなく、いきなりの多用で頭痛が起きる。だが、これでいい。一撃で決める。


 レンは底上げされたであろう能力増強を何重にも使用し、それを腕全てに込める。ラインのものとは比べ物にならないパワーを得たレンは、その右手を握り、それを迫り来るシーサーペントにぶつける。



「喰らえサカナ野郎!『崩壊衝撃(ガラガラドン)』!!」



 その一撃を脳天にまともに浴びたシーサーペントは頭の骨を砕かれるだけでなく、その巨体に張り巡らされていた青い鱗が粉々にされ、肉諸共剥がれ落ちる痛みによって絶叫した。血が大量に噴出する肉体をよじらせながら暴れ回り、辺りに被害をもたらしていく。

 しかし海蛇が暴れ回ったことによってレンはその尾に叩き落とされ、スキルが焼き切れたことでほぼ生身同然のレンの体は岩壁に叩きつけられてしまった。



「……痛…ッてえ……」



 のたうちまわった後にシーサーペントは砕かれた頭を持ち上げてレンをその赤い目で睨む。

 その赤目は分かりにくいが血走っており、先程に比べて明らかに怒り狂っている。シーサーペントは最早、レンを食べることに拘っておらず、とにかくレンを殺すことしか、その矮小な頭になかった。



『ーーーギャァァア"ア"ア"ア"ア"!!』



 シーサーペントが怒りの咆哮をあげ、岩壁に叩きつけられているレンを殺そうとその牙だらけの大口を開け、レンの身体を噛み砕き自身の養分へと変えてやろうとしている。食欲でしか動かない怪物が感情を抱くことは珍しいことであり、こんな怪物にすら傷つけられたことによって湧き上がる怒りはあるのだ。



「ダメだ巨大海蛇(シーサーペント)!ボクの元へと戻れ!早く戻れって言ってるだろうが!お前はボクの下僕だろ!?だったらボクを守る為にその命を使えよ!ボクの言うことが聞けないのかァ"!!」



 それを急いで静止し、自身を守らせようとするキョウヤだったが、怒り狂ったシーサーペントは彼の制御下から外れたことによって暴走する。そんな自身の下僕に腹を立てたキョウヤも同じように怒り狂い、今までの丁寧な態度が一変し、歯を剥き出しにして唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。

 今までもその言葉遣いにしては大して敬意や丁寧さが欠けていたキョウヤだったが今回は更に顕著になっており、その染めたオレンジが抜けかけた黒い髪が乱れることも躊躇わずに振り回し、頭をガリガリと掻きむしっている。さらに爪を噛み始め、思い切り引きちぎったことによって自身の指に血が滲むことすらも躊躇わずに怒りに任せて行動している。


 普段は丁寧さで自身に蓋をしているがそれは全くの偽りのハリボテであり、彼の外面のみの一面である。

 自身が召喚した召喚獣に戦わせ自身は何もせずに無力な相手を蹂躙するにも関わらず、ふとしたことですぐに感情に任せて行動するゲスの極み。


 それが、キョウヤ・スギモトという人間である。


 キョウヤの所持する特権『超獣召喚(サモンマスター)』の効果、『この世界から存在が消失した魔物や幻獣などを蘇らせ使役することができる』という能力により、召喚獣たちを使役することが可能である。

 しかしその能力にも制限はあり、『使役対象が暴走すると制御下から外れる』ということである。


 しかしキョウヤ自身はそれを知らない。というよりはこの異世界に召喚された時に【神】から与えられた特権の強さに浮かれた結果、その能力に課された制限を聞き逃していたのである。

 

 怒り狂うキョウヤと同じように怒り狂いながらレンを捕食しようと迫り来るシーサーペント。

 ソレは身体をうねらせ、真下でぐったりとしているレンを捕食しようと、牙だらけの大口を開けーー、



 ーー瞬間、シーサーペントの横腹にミクスタが放った赤い銃弾が突き刺さる。

 その弾は硬い鱗が剥がれただけでなく、先程サクラが掻っ捌いた傷が残っている横腹の肌肉に深く深く突き刺さり、遂に外皮を突き破り内臓にまで達した。


 そしてシーサーペントの体内から轟音と衝撃が響き渡り、ソレの口と傷口から大量の鮮血やら内臓やらが飛び散った。それだけでなく、穴という穴から黒煙が溢れ出してくる。

 先程再生したサクラに捌かれた腹の傷も再度破れて大量出血し、シーサーペントの体の中から全ての体液がこれでもかと絞り出される。


 これはミクスタが自作した『魔石弾』であり、特に生物への効力が高いとされている火の魔石を用いた代物である。

 シーサーペントは本来有利な属性の攻撃にも関わらず、その身を内から焼かれる痛みと苦しみを味わい続ける。再生しようにも傷口が焼かれて再生できず、既にシーサーペントが息絶えることは決定事項だ。



「……そんなバカな…巨大海蛇(シーサーペント)がこんなヤツらに…」



 まさか負けると思っていなかったキョウヤは膝から崩れ落ち、頭を抱える。こうなったらもう『アレ』を使うしかない。こんなヤツら相手に最強の手札を使うことになるのは癪であるが、仕方ない。


 キョウヤは割り切って、『アレ』を使おうとーー、



「俺の腕が真っ赤に燃える!!唸れ、俺のうちに秘められた豪速球を生み出す(タマ)よ!!俺の一ヶ月陸上部にいた時の砲丸投げ最高記録は10メートル越えの県大会出場確定ケタじゃうぉらぁぁぁ!!」



 その時、訳の分からない前置きと共に何かがキョウヤの目の前に飛来してきた。


 レンが投げたのはラインから託された高純度の火の魔石であり、本来はこんな使い方をするものではないが、レンはキョウヤへの最後の一撃を決めようとした。



「はぁ!?『(フェ)ーーー」



 この先からは聞き取れない。


 その後に中規模の魔力爆発が発生したからである。その爆発は人1人を消し飛ばすには十分過ぎるほどの、ラインから託された高純度の火の魔石を使ったものだった。

 それに巻き込まれたレンは大地を転がり、またしても岩壁の下側に頭をぶつけた。そしてそれをスコープ越しに見たミクスタはすぐにライフルを収納し、レンの下へと駆け出す。




                 ▽▲▽▲▽▲▽▲



 ラインとハルトが岩場地帯の中心、ミクスタ&レンとキョウヤが東側、サクラとマシュー&タケルが西側でそれぞれ戦闘を開始し、その関係上、ゲイルとフェルシュは岩場地帯の南側へとテレポートする。



「やだぁ、こんな土臭いところなんてぇ。可愛いアタシに相応しくないわぁ。……まぁ、ここがアンタの墓ってことでいいのぉ?このくらいの要望なら聞いてあげるわぁ。寛大で謙虚なアタシに感謝してよねぇ!」



 金髪の少女が口を開く。その透き通った甲高い声に反して、その口から紡がれる言葉はどれもこれも毒を含んでいるか自己中心的な発言ばかりである。

 しかしそれを悪びれる様子すら見せず、金髪の少女ーー『フェルシュ・ダンクシン』は、なおも罵詈雑言を吐き続ける。可愛らしい容姿と豊満な肉体に似合わぬ姿だが、こちらはキョウヤと違い最初から本性を曝け出している。その分悪辣さはキョウヤよりは下であるが、こちらは純粋な正真正銘のクズの極みである。


 そんな罵詈雑言を浴びせられる紺髪黄瞳の好青年風のエルフーー『ゲイル・レーラン』は、フェルシュの根本も何もない戯言を黙って聞き流す。


 そんなゲイルを見て苛立つフェルシュはさらに暴言を浴びせていくも、一度シカトを決め込んだゲイルの耳にはそれは届かず、聞き流されてしまう。どんどん暴言の内容が幼稚になっていき、ペースだけが早くなるも、全くの無駄であった。

 遂に怒りの沸点が爆発したフェルシュは唾を飛ばしながら、戦いに関係ない、ゲイルの人格すらも否定していく。しかしゲイル当人は明らかな心理的余裕を見せ、魔力溢れ出す魔導書を軽く読み始めている。



「ーーアンタうっざいのよ!!さっきからアタシが話してあげているってのに!それを無視して!?しかもそんなボロ本読み始めるなんて頭おかしいんじゃないのぉ!?アタシは《賢女》様よ!?世界を救う英雄となる男、ハルト君の魔法使い兼恋人よぉ!そんなアタシが話してあげたのに無視するなんてぇぇ!ギィィ!もういいわよ、殺す!アンタをぶっ殺してやる!ぐちゃぐちゃにしてぶっ殺す!!火で炙って水に沈めて身体中に電気流して風で切り刻んで土で埋め立てて光で焼き尽くしてその顔ズタボロにして目玉くり抜いて鼻削ぎ落として口縫い合わせて脊髄引っこ抜いて四肢もぎ取って腹掻っ捌いて腸引き摺り出して内臓ぐちゃぐちゃにして肉ミンチにして骨粉になるまで叩き潰して髪ひっぺ剥がしてブタのエサにでもしてやる!!アンタだけじゃないわ、仲間全員だってそうしてやる!ライン・シクサルもレンもゴブリンのブス女もあのババアも!!アンタの大切な人全部全部全部ーー」


「ーー少々、おイタが過ぎますよ。《賢女》さん」



 罵詈雑言を吐き続けるフェルシュの頬を、鋭い痛みが掠めた。フェルシュがその部分に触れると、大量の血が掌にべったりと付着していた。

 痛み自体は大したことないが、自分よりも弱い者に傷を付けられたことへの屈辱が、フェルシュの精神をこれでもかと蝕み続ける。


 今の圧縮具合に、この利便性。そして濡れた感覚。

 その最終結論により、少なくとも二番目に強力だが魔力消費も著しい「ギルガ」、下手すれば最も強力だが最も魔力を消費する「テラザ」の、水魔法「ウォーサ」だと、フェルシュは予想した。


 がーーー、



「今のはただのウォーサです。水魔法は扱いが簡単な反面、使用者の技量が求められる、奥行きのある魔法でもあるんですよ。ーー貴女ほどの魔力の持ち主様なら、もちろん可能ですよね?」


「……可愛いアタシの白い肌を傷つけて生きて帰れると思わないでよ?それに、そんな簡単なこと出来るに決まってるでしょ?魔力量も何もかも、アンタはアタシよ下なのよぉ!ーーギルガ・ウォーサ!!」



 フェルシュを攻撃した魔法の説明を淡々と語り出すゲイルに対して、攻撃された張本人のフェルシュは額に青筋を立てながらそれを聞く。

 まんまと挑発に乗ったフェルシュは軽く詠唱し、自身の周りに大量の水の刃を生成した。それらを全てゲイルに向ける彼女の顔は卑しくニヤけており、明らかに様子が変わった。その表情からは怒りよりも嘲笑の感情が強く、その雰囲気はゲイルを更に引き締める。



「できたわよぉ。後はアンタをコレで斬り刻むだけ」


「ーー流石です。圧倒的な魔力量に見合った量のウォーサ、しかも最高精度のテラザですか。120年培った魔力を持つ私ですら及ばない、まさに賢女の二つ名に相応しい魔力量と才能の持ち主です。………しかし」


「ーーー?何よ?」


「貴女の魔法は質が弱い。私には勝てませんよ」



 ーーそう、ゲイルは微笑みながら断言した。


 フェルシュではゲイルの魔法には勝てないと。圧倒的な魔力を誇る少女に対して、長年の経験から培った知識から「量だけではダメ」ということをはっきりと述べたのだ。

 しかし、それはチカラ以外の話。チカラこそが正義であり、力無き者は蹂躙されるだけである。フェルシュにとってはそれが家訓であり、彼女が生まれた時から父に教えられていたことである。


 ーーこの世には、『勝者』と『敗者』しかいない。

 いくら表面をキレイに取り繕うと、勝負には勝ち負けが出るものなのだ。その厳しい生存競争を勝ち残った者こそが、真の強者かつ勝者である。


 自分は勝者、敵は敗者。


 それは自分がこの世に生まれ落ちた時から決められた理。生まれてから敗北を知らない彼女にとって、敗北の経験とは弱者の証だという考えが脳に染みつき、今更、修正は不可能である。


 自分を崇め奉るなら見逃してやっても良かったが、エルフの男はそれを蹴っただけでなく、あろうことかフェルシュの玉肌に傷をつけた。と言っても所詮はかすり傷、治療魔法で簡単に治せる。

 だが一度傷つけられたプライドは戻ることはない。一度刻まれたら最後、そのヒビは一生自身の心に付き纏い、振り払うことができない。



 ゲイル・レーランはフェルシュ・ダンクシンのプライドを引き裂くだけに飽き足らず、土足で踏み躙る行為と同等のことを行った。絶対的な勝者であるフェルシュに対して、その愚行は万死に値する。



「死ね!!ギルガ・ウォーサ!!」


「魔法のお指導の時間ですよ!メガナ・ビリカ!!」



 最初に静寂を破ったのはフェルシュだった。彼女は水の刃を全て、ゲイルに向けて放つ。語気は荒くなっているものの、その心には安らぎと一つの信念だけが宿っていた。


 ーー殺気。「敵を殺す」という強き意思。



 それを感知したゲイルは自身の周りに電属性の魔力玉を展開し、全て手元の魔導書に注ぎ込む。魔導書には凄まじい電属性魔力が迸っており、しかしながらその魔力は、彼の特権『神格頭脳(トートゲヒルン)』の効果による緻密な調整の下、暴走無しで解き放たれた。


 爆発的な魔力を秘めた魔導書から電属性魔法を放ち、フェルシュが放った無数の水刃に水分子を伝って電力を全てに流し込む。そして内部から起爆させ、電気分解によって水の刃を水素と酸素に分解させる。



 圧倒的な魔力の『質』を誇るゲイルと、圧倒的な魔力の『量』を誇るフェルシュの、2人だけの魔法使いの戦いが始まった。


 培った知識と魔力を有する青年エルフと、若くしながらの天才少女。2人の守るべきモノ(仲間とプライド)の為の戦いが、今始まった。



                 ▽▲▽▲▽▲▽▲



 ーーーーーーーーー。


 ーーー数分後。



 岩場地帯は見るも無惨な姿へと成り果てていた。

 南側の岩場地帯は既に、魔力の暴走によりさまざまな異常が発生している。それほどまでに大気中に含まれる魔力が乱れ、嵐の如く吹き荒れていた。


 至る所が燃え、大地が凍りつき、土が崩れるほどにまで沈水し、地面や岩にすら電流が迸り、大地が抉れ、土埃を巻き上げるつむじ風が発生している。

 基本属性の火、水、電、地、風の5つに加えて、派生魔法である氷属性を含めた合計6つの跡が至る所に残っており、この場で起きている、魔法戦の激しさを物語っていた。


 フェルシュが放った火属性魔法メガナ・フレバは、ゲイルが手元に据えるギルガ・ダクラに吸い込まれていき、文字通り消失する。

 それに対してフェルシュは盛大な舌打ちをし、今度は風魔法の極地、テラザ・フーマを解き放つも、ゲイルはメガナ・ヒューヤを応用した巨大な氷のドームを作成し、フェルシュの放った暴風をガードする。


 ゲイルはそれだけではなく、張った氷ドームから氷柱を放ち始め、防戦一方のこの状況の打開を試みる。一発だけ氷柱がフェルシュの腕を掠め、そこから出血し出すものの、彼女の腕の傷は即時回復し、大暴風を止めることはない。



「いい加減にしなさいよブス!アンタの魔法をどれだけ凌げば気が済むのよ!?アンタもう100回は撃ってるわよねぇ!?いい加減にアタシに殺されてよぉ!」


「お断りします。私にはまだ目的と守るべきものがあるのです。既に悟りを開かれている貴女にとっては小さき理由かも知れませんが、私にとってはこの命よりも大切なことなのです。この軽い命でそれが叶うなら、私の命など安いものですよ」



 しかし動かない状況に痺れを切らしたフェルシュが氷のドームに隠れているゲイルに怒鳴り散らし、戦いとは全く関係ない罵詈雑言を浴びせまくる。だがゲイルの心はドームを形成する氷のように冷静で、そんな軽い挑発に乗るようなことは無かった。

 元々問題アリだらけだった孤児達を学校の生徒として迎え入れていた彼からすればフェルシュの挑発は乗るだけの価値が無い。そう判断し、聞き流しているのだ。


 だが悪意の権化フェルシュは、ゲイルが発した「目的の為なら命も惜しくない」という言葉に食いつき、これをゲイルを挑発する為のエサにしようとする。



「ーーーへえ。だったら今すぐ………!」


「残念ながらそれもあるお婆さんに諭されてしまいましてね。今の私には命を捨てる勇気が無くなってしまったんですよ。120年生きてきて、これほどまでに死にたくないと思ったのは里を追放された時以来です」



 ーーは?


 フェルシュは内心、そう思ってしまうのだった。


 先程の発言からの矛盾までが早すぎる。あまりにも早く矛盾を起こしたゲイルの発言に、一瞬キョトンとしてしまい、一瞬だけ風の密度・威力が弱くなる。

 その瞬間にゲイルは氷のドームを解除し、それを魔力へと分解・再構築していく。それは巨大な氷柱の槍を放つ魔法、メガナ・ヒューヤとなり、フェルシュ目掛けて無数に飛び出した。


 フェルシュは魔法を中断し、絶対障壁(バリア)を展開する。


 本来絶対障壁(バリア)は、ハルトの放ったような能力(スキル)を付与した攻撃を受けると破壊されるのだが、フェルシュは「防御対象を自分だけに絞る」を『対価』として「破壊不可能」という効果を付与している。

 文字通りの効果であり、防御体制に入ったフェルシュは『無敵』と化す。この障壁(バリア)はハルトの『森羅断裂(オールキル)』ですら破壊不可能であり、この存在こそが彼女の強さを物語っている。


 しかしその代わり、耐久力に全振りする為に魔力を大量に消費するだけでなく、意識を集中させる必要があるので、他の攻撃魔法との併用は不可能である。



「アンタがどれだけアタシを倒そうとしても、アタシの『絶対障壁(バリア)』は破れない。それにたとえアンタが時間を稼ごうとしても、アタシのほうが魔力量は上。残念だったわねぇ!アンタはどう足掻いてもアタシには勝てないのよぉ!アッハハハハハ!!」



 しかし『悪意』は止まらない。フェルシュは勝ち誇ったかのように高らかに叫ぶ。普通に考えれば、魔力量で勝っているフェルシュが自身よりも魔力量が劣っているゲイルに負けるはずが無いのだ。


 技術を度外視すれば。



「ーー貴女は強い。それでこの魔法の扱い、素晴らしいです。あと数年経験を積めば、私を遥かに凌ぐ素晴らしい魔法使いへと成れるでしょう。どうです、私のもとで魔法を鍛えてみるのはどうでしょうか?」



 そんなゲイルの発言に、フェルシュは呆然とする。


 生まれながらの勝者である自分に上からで物を言うとは、甚だ図々しい男だ。イライラするフェルシュは歯を食いしばり、口の中に血の味が広がる。

 しかし深呼吸をしたことにより心の平穏を取り戻した彼女は口元を歪ませ、高らかな声色でゲイルに叫ぶ。



「ハッ!見逃して欲しいならはっきりそう言ったらどうなのぉ?上からを装ってるけど、結局はアンタは死にたくないから、アタシに対して命乞いしてるんでしょ、言わなくてもすぐに分かるわよぉ」


「ーーーーーー」


「だけど残念だったわねぇ!アタシの発言を無視しただけでなくアタシの玉肌に傷をつけるなんてぇ、万死に値する行い!どう足掻いてもアンタは終わりよ。好きな死に方を選ばせてあげるわぁ。火炙りにされたい?水で窒息させられたい?氷柱で串刺しにされたい?感電死したい?土で圧死させられたい?風の刃でズタズタにされたい?好きなの選ばせてあげるぅ」



 一方的な勝利宣言をし、ゲラゲラと笑うフェルシュ。その可憐な顔は悪意で歪み、《七罪悪魔》『サテラ』の100万倍は悪魔らしい笑いを浮かべる。

 あまりの感情の昂りからかは分からないが、身体中がビクビクと痙攣しているだけでなく、口からは涎が引き、目は白目を剥きかけている。要は絶頂しているのだ。性的興奮からではなく、自分を散々虚仮にした忌まわしき敵を自分の手で殺すことができる快感から、彼女は世界一の快感を得る。


 かの第10代魔王『リシュ・エバム』に比べると流石に劣るが、彼に並ぶ可能性のある異常性癖を持つ女。それが、フェルシュ・ダンクシンである。



「ーーー。では、選びます」



 勝ち誇るフェルシュに、ゲイルは一声かける。



「へぇ、もう死に方を選んだのぉ?随分と決断が早いわねぇ。まあいいわ。好きな死に方を選びなさぁーー」


「では、丁重にお断りさせて貰いますね」



 それだけ言って、ゲイルは自身の魔力を全開放し、新たな魔法を『生成』する。右手に火属性、左手に風属性の魔力を纏いながら、両手を合わせ始めた。

 魔法は本来7つ、派生したりしたものを合わせれば9はあるが、それでも9つまでしかないのだ。普及しているのは水属性からの派生の氷属性と土属性からの派生の毒属性であり、それ以外は全くない。



 ーーしかし、一部の実力者は『魔法の融合』が可能であり、世界に無い『新たな属性』を生成させられることができるのだ。

 一属性を極めるのに短くても100年かかると言われている魔法を、合成させることなど不可能に等しい。


 しかしゲイルは天才だった。彼の特権『神格頭脳(トートゲヒルン)』により50年で全ての魔法をマスターしたゲイルは、それらの合成も可能としていた。



「ーーマナフュージョン。本来は一つしか撃てない魔力攻撃を少し弄って、新たな属性として既存の魔法を掛け合わせる術です。その極致を、お見せしましょう」


「な、何よ?そんなの、アタシのバリアで……」



 ゲイルの手から溢れ出す強大な魔力はなおも膨張し続け、右手には魔導書も添えながら『新たな魔法』をこの世へと顕現させる。

 フェルシュは見栄を張っているがその声は震えており、明らかに様子の変わったゲイルを見て、疑念と不安が心に染みついてくる。今この場において最も抱いてはいけない感情を、彼女は抱いてしまった。心に侵食してきてしまった。



 彼女の心に、一つの隙ができた。



「ーー焼き尽くせ、テラザ・フレバ×(クロス)フーマ!!」



 その瞬間に、ゲイルの手から解き放たれた火と風の魔力が原始レベルでの『融合』を果たし、新たな属性へと変貌する。風属性特有の風の刃と火属性特有の敵を焼く能力が掛け合わさり、フェルシュの絶対障壁(バリア)ですら防御しきれない熱を持つ巨大な炎の渦を生成する。

 それは一瞬でフェルシュを呑み込み、呼吸器官を炙られる苦痛を味わう。フェルシュのバリアは『攻撃』は防げるが、窒息を防ぐために『空気』自体は、外と同じものが提供されるゆえに、ダメージを負う。


 しかし、それで終わる《賢女》ではない。フェルシュは炎の暴風に被弾覚悟でバリアを解除し、その瞬間に水属性の極大魔法テラザ・ウォーサを使用し、ゲイルの放った炎の渦を消し飛ばした。

 だが一瞬とはいえバリアを解除した代償は大きく、フェルシュの白く柔らかい肌には火傷の痕が残り、それが至る所にくっきりと残っているのだ。


 そんなことをされて、フェルシュが黙っているわけがない。仮に火傷を負わされてなくても、ダメージがある時点で彼女の怒りのピークは絶頂に達している。

 それにプラスされて自慢の可憐な顔、豊満な体全てに火傷を負わせられる。何より、自分の体を傷つけられたことによってプライドに泥を塗られ、人生で味わったことのない激情が、彼女の思考を全て奪った。



「ゲホッ…アンタ……ゲホッ…絶対に許さない!……ゲホッ…絶対ぶっ殺す!!死ね、テラザ・グラナ!!」



 ブチ切れたフェルシュは怒りのままに唾を飛ばしながら叫び、極大魔法を再度唱え、岩場地帯のほぼ全ての大地をひっくり返す勢いでゲイルへと解き放つ。

 圧倒的な破壊力を秘めた土石流は、土埃と岩を撒き散らしながらゲイルへと降りかかり、至るものを土塊へと還そうとする。


 しかしーー、



「ーーテラザ・ビリカ×(クロス)ヒューヤ!!」



 ゲイルは空間に左手を翳して一撃で凍らせ、しかもその氷には大量のスパークが張り巡らされており、明らかに触れたらマズイことが分かる。

 それはフェルシュも認知し、彼女は火属性の極大魔法テラザ・フレバを放ち、巨大な火球が直撃した氷のウェーブは即座に氷解し、大水が撒き散らされる。

 氷が溶けたことで撒き散らされる水滴により体が濡れる不快感に歯軋りし、フェルシュはもう一発フルパワーの火球をゲイルに向けて発射しようとした。


 下手に感情を剥き出しにし、ムキになったのがいけなかった。なぜならあの氷には、迸る電気がーー、



「それを待っていました!テラザ・ビリカ!!」



 ゲイルがそう叫ぶと、フェルシュの周りにある水の中で迸っていた電流がフェルシュの元へと伸び、彼女がバリアを展開する暇もなく激しく感電させる。

 フェルシュには強力な魔法抵抗(レジスト)があるのでダメージは減らされているが、身体中に電流が駆け巡る痛みと痺れまでは防ぐことができないのだ。



「きゃあぁああああああ!!……が、ぎぃ……!」



 彼女は耐える素振りを見せるも遂に限界に達し、膝から崩れ落ちる。その顔は無様にも白目を剥き、上を向いて動かない顔は呆け、口の端から泡を噴きながら舌が垂れ下がっている不細工な状態だった。


(今だ!今しかない!戦いを最も平和的に終わらせるにはこの一瞬を逃せば方法が無くなる!)


 しかしゲイルはまだ終わらない。彼はフェルシュの元に駆け出し、魔導書を再度左手で持ちながらフェルシュに迫る。ーー彼が、この戦いを終わらせるために。


 しかしすんでのところでフェルシュが意識を取り戻してしまい、ゲイルの左手にあった魔導書が魔力弾で弾き飛ばされてしまう。すぐさま追撃で火魔法フレバを放たれ、ゲイルの魔導書は焼失した。

 フェルシュはボロボロの体を回復させながらも高らかに勝ち誇り、ゲイルを煽り散らす。



「残念だったわねぇ!最後に油断するからそうなるのよぉ!!アッハハアンタは終わりよ!!死ねーー」


「『魔法禁止(アンチマジック)』。チェックメイト、です」


「………へ?」



 だが、ゲイルはなおも魔法が使えた。


 しかもゲイルは使えなかったはずの『魔法禁止(アンチマジック)』を完璧に使用し、フェルシュの魔力を縛る。

 この特権には色々と効果があるものの、全て魔力に関することなので、魔法を撃つ際に必要となる根本の魔力が縛られてしまっては意味がないのである。



「何とかアドリブで出来て良かったです」



 ゲイルは額の汗をポケットにあるハンカチで拭い、自身の乱れた紺色の髪を気持ち程度に整えていく。

 ーー魔導書は、ただのフェイクだったのだ。

 フェルシュは最初から最後まで騙されていたのだ。


 そんな様子を見て、フェルシュは怒りで死にそうになっていた。今の彼女はゲイルの何気ない動作一つ一つがフェルシュ自身を虚仮にした態度に見え、呆然とゲイルを見つめるだけでも苛立つのだ。



 腹立たしい。腹立たしい。腹立たしい。


 腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしいーー、



「殺す」



 フェルシュとの魔法勝負に、ゲイルは勝利した。


 あくまで、勝負では。

 戦いという名の試合ではーー。






どうも、ヌヌヌ木です。

魔法に関してお知らせがありまして、私事で大変申し訳ないのですが、名前の考案が面倒だという結論に達し、名前を各属性・段階ごとに統一させていただきます。

具体的なものは、下部に記します。

火属性 フレバ

水属性 ウォーサ

電属性 ビリカ

地属性 グラナ

風属性 フーマ

氷属性 ヒューヤ

毒属性 アシッダ

光属性 シャイア

闇属性 ダクラ

段階

ノーマル→キロア→メガナ→ギルガ→テラザ

とさせていただきます。補足として、パニッシュメントは魔法ではなく、魔力を介した一般技に近いので、シャイアはパニッシュメントとは関係ありません。

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