湯狭の夜6
追い討ちを掛ける。
脚を蹴り抜いて、膝を折る男。
もう一発、膝を突いた男の顔の上から拳を振り下ろす。
何かがボクの腕に巻きついた。
「な」
巻きついた何かを睨みつける。
「ちっ」
「あ」
小さい呟きを見逃さなかった。
見れば紐状の何かが巻きついている。
声の主を睨みつける。
誤魔化す様に微笑んでいるが、今はそれ所じゃない。
ボクが目を放した隙に男は距離を取り体勢を整える。
距離を取ろうが、今のボクには関係ない。
「ち、しつこい!」
箒星が男を追いかける。
箒星を打ち払い、迫ってくる男。
後ろに下がって弛みを作る。
弾かれた箒星が光を放ち、空を舞う。
「っとぉ」
箒星が男とボクの間を通り抜け左腕に装着される。
「はぁ、はぁ……」
じっとりと汗が滲む。
「あのさ、コレ外してくれない?」
「え、あ、はい」
しゅるしゅると外れる。
「あの、君は?」
「終わったら教える。邪魔するな」
「あ、はい」
構え直した男と向き合う。
「二対一でも構わんぞ」
「負けた時の言い訳か?」
「俺の強さは身に沁みているだろう」
その一言には、あの時の光景と痛みが心に蘇り、体中が総毛だった。
箒星を飛ばし、力一杯踏み込んで攻める。
お互いの武器が弾きあい、火花が閃く。
箒星を装着し接近戦に持ち込む。
「どうした、飛ばさないのか?」
左手で薙刀を止め、密着した間合いから攻め続ける。
「それだけの強さで持つ訳が無いよな?」
輝きを増す薙刀。 強引に振るう薙刀を体で受け止め、腕を絡める。
その体勢のまま、残った力で箒星を解き放つ。
「まだ、使えるのか!」
これが最後。
これで決める。
ここまでやるのか、こいつは?
もう立っているのも辛い程に疲労が溜まっている筈。
何がこいつを……ってきっかけは俺達か。
気持ちは判らんでもないが、ここで止まる訳にはいかない。
俺は薙刀から手を放し、飛盾を避け、小娘を蹴り飛ばした。
くそ……もう体が動かない。
力比べになっていたのでバランスを崩し、思いっきり壁に叩きつけられた。
ボクと同時に地に落ちる箒星。
「手間取らせてくれる。そっちはどうする?」
「その気があるのなら相手しますが?」
ボクはその会話を遠くなる意識の中で聞いているしかなかった。
「大丈夫?」
目が覚める。
見た事の無い女がボクを見つめている。
「誰?」
「昨日、って言うか夜中に会ったでしょ」
……。あぁ、って!!!
「アイツは!!!」
飛び起きる。
体中が筋肉痛になっている。
「痛たたたたた……」
「あはは……。あれだけ闘れば体中が痛むでしょ」
痛む体を抱きつつ、現状に気付いた。
「ここは?」
「医務室」
「何処のって聞いてるんだけど」
「えーと」
上を向いて考えている女。
「湯狭守備隊本部の医務室だ」
声の方を見ると、ボクを追い駆けていた女が入ってきた。
「誰?」
「まだ、名前言ってなかったね。私は『佳奈』楽軍夕音方面部隊所属、階級は少佐」
微笑みながらこっちに来る女。
「じゃ、その少佐サンはなんでボクを追い駆けてたんだ?」
「理由って言う程の事は無いんだけど」
「理由も無く人を追い回すのか? 暇なんだな」
「負けたからって、八つ当たりしなくてもいいじゃない。ねぇ」
朝の日差しを浴びて、爽やかな顔で腹の立つ事を言いやがる。
「何、勝負する?」
「辛いんでしょう〜」
頬をつんつんされる。
こいつは完全にボクを馬鹿にしている。
「解った。こっち来い」
痛む体を動かしてベッドから降りる。
「まぁまぁ。落ち着いて」
「あ。そうだ、コイツの所為で!」
なお更、痛い目を見せてやら無いと。