Too Drunk To Write 1
今日の精神科の待合室の酷さといったらなかった。隅のソファに腰掛けた、黒いTシャツ黒い短パン、という見るからに異様な風采の小男が裏声で何事か喋っていた。独りで。また、青い作業着姿の初老の男が工具片手に待合室へ頻々と出入りしているのは、どうやら音響設備が故障している様子で、普段は気にも留めないクラシック音楽さえ流れない始末、それだから小男のぎゃあ、とか、ひゃあ、といった呻きとも何ともとれぬ砕かれた日本語が否応なく耳に入って来る。私は見てはいけないものを見てしまったとき特有の、ある種の戸惑いを覚えた。そしてこのまま抗不安薬を服み続けていたら、いずれは我が身もかくの如き末路を辿るのかも知れないといったうら寂しい展望が予見された。
時刻は既に十七時を回っている。予約していたのはその時間だが、精神科に限らず病院で診療時間がずれ込むのは周知のことで、だからその間、小男の創出する奇矯な新言語などに耳を傾けず、往来で煙草でも吸っていればいいものだ。数分前、受付嬢からも「お呼びだし出来るのは一時間ほど後になりそうですねえ……」と申し訳なさそうに言い渡された。が、私はそうしなかった。そう出来ない理由、というか確信があった。仮に私が五分ほど席を外したとしたら、その僅か五分の間に、私の名前が呼び出されるのだろうという確信があった。絶対に。だからこの場から逃げ出すことさえ叶わない。
小男の挙措に触発されたものか、私自身も徐々に落ち着きを失っていった。用もないのに携帯電話を開閉し、周囲の他の患者に視線を走らせたり、壁際に掛けてある週刊誌を手に取り散漫な心持で眺めたりした。




